滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

４９４：ネネルド村奇譚、浮力改竄と双月

　チャキンッ――――仕込しこみ錫杖がたなを収おさめ、ガチリと鍵を掛けとじる。
　湖みずうみが裂けさけ、岩礁がんしょうがあらわになった。
　巨木きょぼくの根が、もっと巨大きょだいな蛸足たこあしのように横よこたわっている。
　蛸壺たこつぼが底まで落ちていくひゅるるるるるっ――ごっわわわわわぁぁぁぁん！

　よし。湖みずうみをかち割ってやった・・・・・・・・ぜ！
　神域しんいきの川かわでやったときは、おにぎりが投げ返した・・・・・錫杖しゃくじょうを――
　二の型・・・で真っ向こうから、撃ち返かえした……水中すいちゅうで。
　今回こんかいは普通ふつうに水面すいめんを斬り――滅した・・・だけだ。

　下手へたにおにぎりに手伝てつだわせると、被害ひがいが出そうだし――
　星神ほしがみのＳＰスキルポイントで、鬼族並オーガなみの膂力りょりょくを手に入れた今いまの体からだだ。
　それは一人ひとりでも、容易たやすかった。

　ずっざざざざざざぁぁぁぁっ――――両側りょうがわが滝たきのように落ち込んでいた水面すいめんが解ほつれていく。
　やがてゆっくりと大量たいりょうの水みずが、どっぱぁぁんと傾なだれ込んだ。

「あわわわっ!?」
　蛸之助たこのすけから返かえしてもらった丸盆まるぼんがすっぽ抜けて、足場あしばをなくした――どぽぉぉん♪
　おれは今日何度目きょうなんどめかわからないが、湖みずうみへ落ちる。

「ごぼがへっ――すっ、吸い込まれちまわぁっ！」
　泳およげるスキルがあっても、この勢いきおいには負けちまいそうだ。
　おれは必死ひっしに丸盆まるぼんへ飛びつき、しがみ付いた。

　とおくから――――トンテンカンコンテテカカココン！
　木を叩たたくような音おとが、近ちかづいてくる。
　それは――「桟橋さんばし――がばごへ!?」

　工房長ノヴァドと、ネネルド村むらの若わかい衆しゅうと、おにぎりが――
　歩あるく速はやさで桟橋さんばしを、ぐーんと延ばして来てやがる。
　湖中心みずうみちゅうしんの巨木きょぼくから湖畔きしの中間あいだあたりまで、歩あるいて行けるようになった。

「みゃにゃぎゃぁー♪・」
　桟橋さんばしの先端さきに屈かがみこみ、すっと黄緑色きみどりいろの手を差しだす猫の魔物シシガニャン。
　なんだぜ、おにぎりのくせに頼たのもしいな。

　その肉球ぷにぷにがついた、手をつかむ――するん。
　引っ張り上げてくれるのかと思おもいきや――するぅん。
　おにぎりはおれが引く手に引かれ、全まったく抵抗ていこうなしに湖面こっちへ落ちてきた。
　ぽちゃん♪
　シシガニャン共どもの夏毛なつげは死ぬほど水みずを弾はじくから、沈しずめようったって沈しずみゃぁしないが。

「にゃんみゃやぁー♪・」
　なんだその、「おにぎりに、任まかせるんだもの♪」みたいな顔つら。
　水面すいめんに四つん這いになった、猫の魔物おにぎりが――流ながされていく。
　へっぴり腰ごしのまま、クルクルと回まわるさまは――とても直視出来ちょくしできん。

「あはははっはっ――――きゃぁっ♪」
　あんな面白おもしろい姿すがた、白眼鏡かのじょには見せられないと思おもったら――
　すでに見られてた。
　体からだをくの字に折り曲げた勢いで・・・・・・・・――ざぶん、本日二度目ほんじつにどめの入水にゅうすい。
　手に大おおきな柔布タオルを抱かかえていたから、おれを助たすけに来てくれたんだろう。

「ひっひひひひひひひひひぃぃん？」
　ひっくり返かえった子馬こうままで、流ながれて来やがった。
「ぷはははっ――!?」
　もう笑わらうしかねぇ。
　こうして不意ふいを突かれりゃ、坊主おれですら我慢がまんできん。

「みゃにゃぎゃあー？・」
　ぽきゅむんと、尻しりにぶつかった子馬こうまを見つめ返かえす猫の魔物おにぎり。
　蛸塩たこしおの関係かんけいか元もとから沈しずまねぇ夏毛どもやつらが、ますます水面すいめんを跳ねる。

「あはははははっ――――辛からっ!?　塩しおっ辛からっ――――けっほこほん！」
　まえに聞いたんだが彼女リオの笑い上戸あれは、傍はたから見るほどには楽たのしくなくて――兎に角かく、つらいらしい。
　苦くるしいやら疲つかれるやら、長引ながびけば肩かたがつって戻もどらなくなる上うえに、筋肉痛きんにくつうになるやらでな。
　そういう種類なまえの、地獄じごくなんじゃなかろうか。

「しょっぱいっ！　あわわぶくぶくぶく……でもなんかぁ、お出汁だしが出てる!?　わぷっぶくぶく！」
　出汁だしとか言ってる場合ばあいかっ！
　女神御神体かみさんまで、落っこちたぜ！

　バッシャン――どぼぉん♪
　バッシャン――どぼぉん♪
　落ちた勢いきおいいで、浮き沈しずみを繰りかえしてやがる。
　かろうじて水みずに浮いてくれたのは、助たすかった。

　おれは丸盆まるぼんを抱かかえて、桟橋さんばしから手を放はなした。
　五百乃大角いおのはらをひっつかみ、水底みなそこから立ちのぼる泡・・・・・・を避ける。
　桟橋さんばしがぶくぶくと、泡あわに飲まれて落ちていく――「戻もどれぇぇぇぇぇぇっ！」
　工房長ノヴァドの怒声どせい。巨木きょぼくへ引き返かえす村人むらびとたち。
　ちっ、これじゃおれも桟橋さんばしに戻もどれん！

　ぼぅごぅぉぉぉわわわぁん――――金属質きんぞくしつな水音みずおと。
　突き上げられた蛸壺たこつぼが、水面を突き破る・・・・・・・！
　巨大きょだいな水柱みずばしらは――――ドゴッパァァァァァァァン♪
　また大おおきく、湖面こめんを削けずり取った！

　おれと御神体いおのはら。
　蛸壺たこつぼに張りついて、作業中さぎょうちゅうだった迅雷ジンライ。
　白眼鏡リオレイニアにおにぎりと、あと天てんぷら号ごう。
　湖面こめんに浮いてた奴やつらが全員ぜんいん、上空じょうくうへ吹っ飛ばされた。

　あぶねぇっ、壺つぼの直撃ちょくげきを喰らってたら――
　桟橋さんばしみたいに細切れに・・・・、されてた所ところだぜ！

「迅雷ジンライ、おにぎりっ！　あと天てんぷら号ごうもっ、死んでもリオを守まもれぇっ！」
　号令一発ごうれいいっぱつ。一瞬見いっしゅんみえた給仕服きゅうじふく。
　近ちかくに猫ねこも馬うまもいたから、どうにか無事ぶじでいてくれっ！

　ヴッ――――ブワッサバササササッ！
　迅雷ジンライ式隠しきかくれ蓑みので、風かぜをつかむ！

　気づけば辺あたりはいつのまにか、月明つきあかりに照らされていて――
　フッ――その光ひかりを遮さえぎる、巨大きょだいな影かげ。
　肩越かたごしに見上みあげれば、蛸壺それは凄すさまじい勢いきおいで上うえへすっ飛んでいく！
　その高たかさは、轟雷おれが巨木きょぼくに突き刺さった所ところに届とどきそうなほどで。

　おれは桟橋の根元みんなのところへ、ブワサと降りたった。
　皆みんなが見上みあげている。
　おれも振り返かえり、月夜つきよに浮かぶ丸い影それを見あげた。

　ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ――いつまでも落ちてこねぇ！

　強化服１０号改シシガニャンを着たおれが、瀕死ひんしの重傷じゅうしょうを負わされた程ほどの高たかさ。
　落ちた衝撃しょうげきで、「割れちまうんじゃね？」と思おもったが――

　クワララララララララララァァァァァァァァッン♪
　まだ波打なみうつ湖面こめんに落ちる蛸壺たこつぼ！
　飛び上がったときと比くらべれば、衝撃しょうげきは小ちいさい。
　それでも耳みみを劈つんざく衝撃しょうげきに、全員ぜんいんが倒たおれた。

「無事ぶジ、完成かんせイしまシた・」
　ヴォォォォオォォォゥゥゥン♪
　唸うなる金属棒ジンライ。

「まるで無事ぶじじゃねーだろがぁっ！」
　波なみと風かぜと衝撃音しょうげきおんで、おれたち全員ぜんいんずたぼろだ。

　ひっくり返かえり、沈しずんでいく壺つぼ。
「ぷっぎゅりゅりゅりゅっ――♪」
　迅雷ジンライの指示通しじどおりに避難ひなんしていた蛸之助たこのすけが、壺つぼを追って湖みずうみへ沈しずんでいく。

「シガミー、ご無事ぶじですか？」
　涼すずやかな声こえが、聞こえた。

「はぁはぁ――リオは？　無事ぶじだな」
　紅月ウェレと蒼月ルィノ。
　双月そうげつの紫むらさきがかった月影つきかげを背に、舞い降りる・・・・・。

　ヴォォォォォォッゥゥゥン♪
　丸盆まるぼんと比くらべたら、１０倍近ばいちかい大おおきさ。
　その光景こうけいは語かたり草ぐさとなり――
　やがて詠唱魔法具プロマイドの新作図案しんさくずあんに採用さいようされる。

「にゃみゃぎゃぁー♪・」
「ひひひひひひひひぃぃぃぃんっ？」
　おまえらぁ、「守まもれ」って言っただろうが！
　逆ぎゃくに守まもられてどうする。

　パッシャァァァァンッ――――♪
　湖面こめんへ着水ちゃくすいしたのは、丸まるい蓋ふた。
　その上うえに颯爽さっそうと立つのは、やたらと大おおきな子馬こうま。
　それに跨またがる、ガムラン随一ずいいちの（隠かくれ）モテ女おんなは――
　猫の魔物おにぎりを、まるでお姫ひめさまのように抱きかかえ――
　白金はっきんの棒ぼうをクルンと振るった。

　ぼぼぼぼぼっふぁふぁっふぁふぁふぁふぁふぁふぁっさぁぁぁぁっ――――♪
　びしょ濡れだったあたり一面いちめんが、一瞬いっしゅんで乾かわく。

「塩水しおみずの上うえじゃ、魔法杖まほうつえは使つかえねぇんじゃなかったか？」
　花はなまで舞ってやがるし。
　けど、ふぁぁーふ♪
　ひとまず無事ぶじで良かっ――――すやぁ♪

「ちょっシガミー、何寝なにねてんのっ!?　タコパ、タコパの開催かいさいぃ・――」
　うるせぇ。おれぁ疲つかれ――すやぁ♪
　すややぁ――すややややぁ♪