滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

５０９：ギ術開発部研究所、閃雷石とわからん話

「あのさ、ルガさん？」
　小ちいさな魔法杖まほうつえを仕舞しまう、冒険者仲間パーティーメンバーに声こえを掛ける。

「ルガさん？　リオと呼……んでは、覆面ふくめんの意味いみがありませんね。わかりました、以後いごルガとお呼び下ください」
　軽かるく腰こしを落としてみせる、神々こうごうしい……蜂はちのお化け？
　そう考かんがえると、あの初心者用魔法杖ちいさなつえは――
　彼女ルガさんに持たせると、さながら蜂はちの毒針どくばりだな。

「で、さっきの名乗なのり……でもねぇ、茶番ちゃばんは何なんだぜ？」
　ここに居る大人おとなたちに、問うてみる。

「それはですね、戦たたかいのまえに名乗なのりを上げると同時どうじに――」
　驚おどろいたぜ。さっきのは本当ほんとうに、いくさ前まえの名乗り・・・だったらしい。
　一騎討いっきうちや小競こぜり合いならいざ知らず、いくさ場で、ああも目立めだつことを良くやるもんだぜ。

「――上空じょうくうへ設置せっちされた魔法まほうを解除かいじょするための、雷系魔法かみなりけいまほうを放はなつのですが――」
　おい、設置魔法せっちまほうてのは聞いたことがねぇぞ。

　ふぉん♪
『＞イオノファラーから開示された攻略本の範囲中に、大規模戦闘用に開発された滞空する魔法具を使った罠が確認出来ました』
　空飛そらとぶ魔法具わな？　そいつぁやべえな。
　ひとまず名乗かみなりが必要ひつようだってのは、わかったが。

「――その行使こうしに必要ひつような特殊とくしゅな魔石ませきが、少すこし値が張るのですわ」
　カパリと狐面めんを持ち上げ話はなす、赤いのリカルル。
　魔物境界線ガムラン、つまり人類じんるいの矢面やおもての町まち。
　そこの領主りょうしゅの娘むすめが、央都おうとの最大戦力さいだいせんりょくを蹴散けちらした。
　それなのに、それを問題もんだいにしてるやつがいねぇ。

「値が張る？」
　おれは赤あかい甲冑かっちゅうを見つめる。
　作つくってやった便利べんりなベルト型がたの甲冑入れしゅうのうまほうぐは、ちゃんと使つかえてるみたいだ。

「そうですわ。私わたくしの剣けんにも一応付いちおうついていますのよ？」
　そう言って豪奢ごうしゃな剣けんの柄頭つかがしらを、カチャリと開ひらく。
　そこから取りだしたのは、小ちいさな丸棒まるぼう。
　金きんピカで、青あおい斑点はんてんがある――金属きんぞくか？
　どうもそれが、さっきの雷かみなりの元もとになるらしい。

　あの豪奢ごうしゃな剣けんは聖剣せいけんをぶった切った物ものを打ち直なおした偽物にせものだが、柄つかの部分ぶぶんは元もとのままだろうから――
　雷なみなりを撃つ習慣しゅうかんは、相当そうとうな昔むかしから有ったってことになる。

「私わたくしの魔法杖まほうつえには付いていませんが、上空じょうくうへ雷かみなりを放はなつのに〝ライトニングストーン〟をひとつ使用しようします」
　蜂の魔神ルガさんが、説明せつめいしてくれる。
　ふぉん♪
『ヒント＞ライトニングストーン／閃雷石。詳細不明』
　何なにも、わからんのか？

「央都おうとの市場価格しじょうかかくで１０パケタするから節約せつやくのために、略式りゃくしきの家族割り・・・・雷魔法かみなりまほうを使つかったんだニャァ」
　猫ねこの顔かおを両手りょうてで押さえる顧問氏こもんし。
　１０パケタって言うと――１５万円まんえん!?
　串揚くしあげで言うなら、１，０００本ぼんにもなる。

　価値かちとしちゃ、そうだな……そいつが六個ろっこでネネルド村むらの、〝虹色の魔石ぎらぎらしたでかいの〟と同おなじくらいか。
　たしかに普通ふつうなら、おいそれと使つかえやしねぇが――
　いくさ場でそれをケチると、死ぬからなぁ。

「誠まことにお恥ずかしい話はなしですが、われわれ魔導騎士団まどうきしだんは万年金欠団まんねんきんけつだんと呼ばれて久ひさしく……」
　目を逸らす秘書ひしょ。
　逸らした先さきには、ソコソコ豪奢ごうしゃでしゃらあしゃらしたドレス姿すがた。

　見つめられた第一王女だいいちおうじょさまが――ソレはソレは流暢りゅうちょうに口笛くちぶえを吹き、そっぽを向いた・・・・・・・。
　ゴーレム開発かいはつ資金しきんがらみの話はなしか？
　けど王女おうじょの扱あつかう素材そざいは、魔王城近まおうじょうちかくでゴーレムに狩らせてたよな？

　ふぉん♪
『＞ひょっとしたら、その辺の事情が今回の〝王政不要論〟へ繋がっているのかも知れません』
　そうかもなぁ。

「ふぅぅん？　ま、魔導騎士団まどうきしだんてぇのわぁ随分ずいぶんと、情なさけねぇ集団しゅうだんだな？」
　思おもったところを、遠慮無えんりょなく言っておく。

「「「「「面目めんぼくない」ニャァ」を」ですじゃ」かぎりです」
　その場に残のこった魔導騎士団まどうきしだん関係者かんけいしゃたちが、一斉いっせいに恐縮きょうしゅくした。

　　　§

　魔導騎士団詰まどうきしだんつめ所しょは央都おうとで一番高いちばんたかい塔とうの、一階いっかいにあった。
　そして、やっぱり逗留とうりゅうするための小さい城しゅくはくしせつが立ち並ならんでいて――
　敷地しきちの大部分だいぶぶんは訓練場くんれんじょうで、併設へいせつされた巨大きょだいな倉庫そうこが外はずれに何個なんこか建っている。

　やや作つくりの良い会議室かいぎしつへ通とおされた。
　集あつまったのは、おれ、リオ……ルガさん、リカルル、ニゲル、ノヴァド、エクレア。
　そしてラプトルとサウルースの、王族おうぞくご兄妹きょうだい。
　あと付いてきちまった、レイダとビビビーに、おにぎりに天てんぷら号ごうとゲイルも居るな。
　ミャッドにマルチヴィル、師団長しだんちょうのケッピンと――
　ご老体ろうたい、童わらし、顔かおの長ながい獣人じゅうじん。
　それにお偉方えらがたを守まもる、護衛ごえいが数名すうめい。

　２０人にんを越えて、そこそこの人員じんいんになった。
　央都おうとの騒乱そうらんを鎮しずめるには、頼たよりないけど。

「では、どうしようか。ウチの兵隊・・・・・がシガミーに歯が立たない・・・・・・のは実証済じっしょうずみだし、ドコまで行っても単純たんじゅんな話はなしになっちゃうけどニャァ？」
　猫ねこの額ひたいを叩たたき、悩なやんでみせる顧問氏こもんし。
　央都おうとにおける最大戦力さいだいせんりょく、魔導騎士団まどうきしだんの戦力不足せんりょくぶそくには――同情どうじょうするが。

「「どうしようか」はねぇだろうが。お前まえさんが連れて来たんだし、「簡単かんたんな話はなし」でもなくねぇかぁ――！」
　おれは机つくえを、トンと叩たたいた。

　その時とき、わさわさわさわさ。
　微かすかな音おとを立てて、そーっと近ちかづいてきたのは――
　モサモサの布人間ぬのにんげんたち。

　でた。でたぞ迅雷ジンライ。モサモサ神官しんかんだ！

　体中からだじゅうにお札ふだのような物ものを、上うえから下したまでビッシリと貼りつけた連中やつら。
　初はじめて央都こっちに来たときに、手合てあわせした。
　あいつらは以外いがいと厄介やっかいだったが、今日きょうは赤いのリカルルと白いのルガさんと安物ニゲルが居る。

　わらわら、わらららら――カチャ、コトン。
　もさもさもっ、さもさもさ――カチャカチャ、コトトン。
　その、もっささ、ささぁーとした、寄っては引くような動うごき。
　蹴散けちらすことは容易たやすくても、やっぱり虚きょを突かれる。

　そいつらが「どうぞ」と、茶ちゃを出してくれた。
「お？　悪わりぃな」
　猪蟹屋ししがにやの頭巾ずきんは口元くちもとをぎゅっと持ち上げると、飲み食いが出来できる。
　伸縮自在しんしゅくじざいで、刃を通さない・・・・・・。
　こんな代物しろものが、おれが居た日の本にあったら――
　いくさの勝敗しょうはいがすべて、塗り替えられた・・・・・・・ことだろう。

　ぽこ――こぉん♪
「あらぁ、おいしそーな……お紅茶こうちゃかしらぁん？・」
　おれは頭あたまの上うえに顕現けんげんした、女神御神体めがみごしんたいを、がしりとつかんで――
　机つくえの上うえに解き放はなつ。

「ずずずずぅー、ぷはぁ♪　おいしい！・」
「本当ほんとうですね」
「にゃみゃぎにゃあぁー♪・」
「ヴィヴィー、ゲイル、おいしーね♪」
「ほんとね、レイダ♪」
「我ワレは猪蟹屋シシガニヤの渋シブい茶チャの方ホウが、好コノみだが」
「がっはははっ♪　まぁ、好き好きだなっ！」
「うまい♪　二号店にごうてんでも出したいかも」
「ひっひひぃん？」
「この茶葉ちゃばはどこで、仕入しいれたんだい？」
「みなさん、お茶ちゃはお静しずかに嗜たしなむ物ものでしてよ」
「わいわいわいわいわわわい」
「がやがやがややややがやが」
　騒々そうぞうしい……なんか人ひとが増えてね？

「ふぅー、うまい茶ちゃだな。それで……単純な話・・・・てのわ、何なんだぜ？」
　おれはとおくから聞こえてくる、央都おうとの惨状さんじょうに思おもいをはせる。
　各地領主かくちりょうしゅの逗留部隊とうりゅうぶたいが、ひしめき合うような――
　いくさ場へ向かう、行軍こうぐんの音おと。
　そんなのを聞かされたら、こちとら武者震むしゃぶるいが出ちまう。

　ミャッドが何なにを言ってやがるのか、わかるか？
　ふぉん♪
『＞現在我々が置かれている立場というのが、シガミーが考えたことでほぼ全てということを示唆しているのでは？』
　迅雷おまえまで、わっかっらんことをっ言うんじゃねぇやい！

「どー考かんがえても一筋縄ひとすじなわじゃぁ、いかんだろぉーがぁ!?」
　祭り事・・・てのは、勝ちゃぁ良いってもんでもねぇ。
　それでもたしかに、いくさで負けるよりゃ良いんだが。

「ふぅ――カチャ♪」
　カップを置く、赤あかいの。
「この世界せかいを脅おびやかす魔王軍まおうぐんや変異種バリアントを、倒たおすこと――」
　彼女リカルルが甲冑かっちゅうの下したに着ているのは、多少派手たしょうはでだが豪奢ごうしゃなドレスでは無い。

「ふぅ――カチャ♪　それに勝まさる優先順ゆうせんじゅんは、ありません」
　蜂の魔神ルガレイニアが着ているのは、猪蟹屋ししがにや標準装備ひょうじゅんそうび。

「ふぅ――カチャ♪　魔物境界線まものきょうかいせんガムランの戦力せんりょくは、央都おうとのそれとは別物べつものです。なので私わたくしのゴーレム開発かいはつは急務きゅうむとされているのですらぁん！」
　第一王女殿下ラプトルの格好かっこうが、いつの間に着替きがえたのか――
　作業着姿さぎょうぎすがたになっていた。

「ふふるぅーん♪　すすぅー！」
　優雅ゆうがに紅茶こうちゃをすする、第一王子殿下サウルース。
　魔導騎士団まどうきしだんは、お前まえさまが率ひきいているんじゃ無いのか？
　それが用なし・・・と言われているのに、随分ずいぶんと余裕よゆうがあるな？

「ずずずーぅ？」
　おれは茶ちゃをすする。
　モサモサ神官しんかんが出してくれた、茶ちゃはうまいが――
　ミャッドが言ってることが、理解出来わからん。

　迅雷ジンライの説明せつめいも、要領ようりょうを得んなら――
　轟雷ごうらいを着るしかねぇかぁ。
　着りゃぁ、頓知とんちも働はたらくだろう。