滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

５３６：旧カピパラポテパケギウス領ザンクネリキキマギバネロベネグラムタタラディッシュ新町、町内紛争勃発

「な、何なにかね貴様きさまらは!?」
　がやがやどやどや！
「あとから出てきて物ものを申もうすでないわ！」
　ガチャガチャガチャガチャチャ！

　一通ひととおりざわつきを見せた後あとで、次第しだいに気勢きせいを上げていく古ふるめかしい連中れんちゅうが――ズザッ！
　手にした小旗こばたを、槍やりのように構かまえた。
　ばか、敵対行動・・・・と見なされるぞ？

「こぉーん♪　誰だあれえに物ものを言っておられるのかしらぁ――えっと、ここはなんて言ったかしら？」
　コツリ――一歩いっぽ、いや半歩前はんぽまえに出た、赤あかい鉄靴てつくつが止まる。

　スッ――赤あかい甲冑姿かっちゅうすがたの背後はいごに傅かしづく、白しろい給仕服姿きゅうじふくすがた。
　何なにかの書類しょるいを、ぺらりと捲めくった。

「ツツィア子爵領近ししゃくりょうちかくの、トリュフ橋近ばしちかくの町まちです。正式せいしきな地名ちめいは、旧きゅうカピパラポテパケギウス領りょうザンクネリキキマギバネロベネグラムタタラディッシュ新町しんちょうになります」
　すげぇ、初見しょけんで言い淀よどみすらしねぇ。

「ほほう、我が領地りょうちを田舎いなかとなじるか、小娘こむすめどもうぉっほんおっふぉん！」
　ガッシャリッ、ガッシャリッ！
　一歩いっぽまえへ出る、とんでもなく傾かぶいた甲冑かっちゅう。
　上下左右じょうげさゆうで色違いろちがい。兜かぶとも真ん中なかで、紫むらさきと青あおに分かれてやがる。

　ヴウウヴヴヴゥウゥウゥゥヴ――――♪
　何なにかを堪こらえているのか、肩かたをすくめ蜂はちのように震ふるえる、給仕服姿しろいやつ。
　その顔かおには、蜂はちの目のような物ものが張り付いていた。

　離はなれて見ればそれは、人の大きさの蜂・・・・・・・に見えなくもなく――
「「ひいいいぃぃぃぃっ!?」」
　騎士きしの何人なんにんかを、怯おびえさせた。
　靴底くつぞこが床ゆかに跳ねて――ゴカカカカカカカカッ！

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
　フッカ嬢じょうの怯おびえた声こえが聞こえる。
　やめてやれ、蜂の魔物ルガレイニア。
　こうなるから央都むこうへ、置いてきたのによ。

「はぁ？　ラスクトール山さんが見えるここが、田舎いなかぁですってぇ!?　ケェーッタケタケタ、ケケタァッ♪」
　兜かぶとを跳ね上げ、中なかの白面はくめんも額ひたいへ押し上げた、ご令嬢れいじょうが――
　その高貴こうきな顔かおでツツィア子爵ししゃくさまとやらを、煽あおり立てる。

「片かたっ腹はらっ痛いたいっですわっ♪」
　猫ねこを護衛ごえいニゲル青年せいねんに預あずけ――腰こしに両手りょうて。
　おい。姫さんリカルルわぁ、何なんで威張いばってやがるんだぜ？
　ふぉん♪
『＞央都からの距離を都会度の指針とするなら、最東端であるガムラン町は最大級に田舎であると、豪語しているのではないかと』

「まあ何なんでもよい。良く聞けいっ！」
「そこに有る長大ちょうだいなアダマンタイト鉱石こうせきはっ、大陸全土たいりくぜんどを揺るがすほどの物ものぉーっ！」
「うぉっほほほん♪　おいそれと下々しもじもの者ものに渡わたすわけにはいかぁぁん！」
　建前たてまえだか本音ほんねだかが、漏れ出てきたぞ？

「ふぅ、た、確たしかにここ、旧きゅうカピパラポテパケギウス領りょうザンクネリキキマギバネロベネグラムタタ・・ラディッシュ新町内しんちょうないで採れた発掘物はっくつぶつに関かんしては、ツツィア子爵家ししゃくけが優先的ゆうせんてきに買い取れることになっておりますが、旧きゅうカピパラポテパケギウス領りょうザンクネリキキマギバネロベネグラムタタ・・ラディッシュ新町しんちょう町長ちょうちょうに買い取り打診だしんの優先権ゆうせんけんがあり、その裁定さいていには４８時間じかんの猶予ゆうよがございます――――ヴヴヴヴヴウウヴヴヴヴッ♪」

　さすがは蜂女ルガさんだがぁ――「おい、それ止めてやれや」
　フッカが怯おびえるからよぉ。

「……はい……はい？　ご用ようは何なんでしょうか、リオレイニアさん？」
　なぜか少女しょうじょメイド・タターが、元上司もとじょうしであるルガレイニアへ駆け寄った。

「ぅぬぅ？　そこの小間使こまづかい。今いま、何なんと申もうした？」
　史上二例目しじょうにれいめらしい長ながさを誇ほこる、超希少特選鉱石アダマンタイト。
　それを前まえにして、そんな些末さまつなメイドの名ことを騎士きしの一人ひとりが気にしだした。

　ざわざわざわざわわ、ガッチャガッチャガッチャチャチャチャッ！
　「おい、その名は――」「辺境へんきょう――」「何なん……だと――」
　何なにやら会話かいわが飛び交い、慌あわてる騎士きしたち。

「その、全身ぜんしんを血塗ちぬられたような甲冑かっちゅう！」
「その、横柄おうへいな態度たいど！」
「そしてその、天てんを穿うがつ狐きつねの耳みみ――ま、まさかっ!?」
　伝播でんぱするのは、狐きつねの正体・・か。

「ぎぃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――ル、ルリーロさまがぁ――でーたーぞぎゅぽ!?」
　スッパァァァァン――――！
　ツツィア子爵ししゃくたちを、さて置き――
　驚嘆きょうたんの声こえを上げた、ミギアーフ・モソモソ。
　それを窘たしなめたのは、クロウリンデ・モソモソ。

　――――ォゥンォンォン！
　まるで火縄ひなわのような残響ざんきょうに、モソモソ邸ていは静しずまりかえった。

「ぐっ、っぷぐひゅひぃ♪　ま、まさか〝扇杖おうじょうの炎鬼えんき〟と出くわすとは――一生いっしょうの不覚ふかくっ！」
　くの字に折れ曲がり――ぽとりと地に墜ちる、等身大とうしんだいの蜂女はちおんな。

「お、お初はつにお目にかかります、ルリーロさま。いえ魔導騎士団まどうきしだん総大将そうだいしょうさま！」
　跪ひざまずく扇杖の炎鬼クロウリンデ。

「んぅ――？　〝扇杖おうじょうの炎鬼えんき〟――昔むかし、レーニ……ルーガレから聞いたことがあったような？」
　赤あかい甲冑姿かっちゅうすがたが尋たずねようにも、白しろい給仕服メイドの蜂女ルーガレは、すでに事切こときれている。
　手足てあしをひくつかせ、転ころがる様さまは――本当ほんとうに死んだ蜂はちのようだ。

「いえそんな、いまは一線いっせんを退しりぞいておりますので――ぅあなた！　いつまで、ひっくり返かえっているのです！　ルリーロさまの御前ごぜんですよ!?」
　パッシパッシパパシィン♪
　尻しりを叩たたかれコロンと起き上がり――再ふたたび這いつくばるおっさん。

「いえその――ということは、まさかこちらは――かの有名ゆうめいな〝針刺《はりさ》し男おとこ!?」
　甲冑姿あかいのが、這いつくばる痩せこけた男おとこを――繁々しげしげと見つめる。
「決けっして有名ゆうめいなどではございませんが、針刺はりさし男おとこニードラーにございます。ルリーロさま――キリッ」

「あれ？　ぅっひょぽろぉーんとか言わなくなっちまったぞ？」
　フッカ母ははが、叩たたきすぎたんじゃね？

「最後さいごにお会いしたのは、もう２０年ねんも前まえになりましょうか。大変たいへんお懐なつかしゅうございます――キリッ」
　さっきまでの姿すがたが嘘うそのよう。
　背筋せすじが伸び、おどおどした様子ようすはみじんもなく

「おっさんが――まともになっちまったぞ!?」
　フッカには悪わりぃが、超気色ちょうきしょくわりぃ！

「ちょっと、超ちょうイケおじじゃないのさ。まるで興味きょうみは無いけど……どーしたの急きゅうに、良い面構つらがまえになっちゃってさっ？・」
　やい、丸茸まるきのこやーい。
　お貴族きぞくさまの話はなしに――〝首くび〟を突っ込むなってんだぜ。

「「「「「〝蒼焔そうえんの……亡霊姫おばけひめ〟!?」」」」」
　ツツィア子爵ししゃくと騎士きしたちが畏怖いふの念ねんからか、二つ名あざなをつぶやいた。

「聞いて驚おどろきなさぁいな――私わたくしの名は、リカルル・リ・コントゥル！　コントゥル辺境伯家へんきょうはくけ次期当主じきとうしゅにして、コントゥル辺境伯家へんきょうはくけ名代みょうだいルリーロ・イナリィ・コントゥルの娘むすめですわっ♪」
　ばちぃーん♪
　目に虫むし……じゃなかった、見得みえを切りやがった。

　――――とすん♡
　なんだぜ今いまの音おとぁ？
　振り返かえればニゲルの奴やつが、ひっくり返かえってた。

　――――どごずずぅん！
　モソモソ家の応接室おうせつしつに亀裂きれつが入はいり――
　ニゲルが、くの字に折れ曲がり――
　安物やすものの剣帯けんたいが切れ――ゴガンッ！
　まるで勇者ゆうしゃを待つ聖剣せいけんのように、しっかりと床ゆかに突き刺さった。

「ふっぎゃぁー!?」
　お猫ねこさまが四つ足あしで、逃げ惑まどう。

　なんだアレ、どうなった？
　ふぉん♪
『＞子細わかりかねますが、現を抜かしたニゲル青年のスキルが誤作動を起こしたようです』

「まったくもう。私わたくしをあんな規格外きかくがいの化け物ものと、一緒いっしょにしないでくださるかしらっ！」
　そうだなー。
　妖弧ルリーロと比くらべりゃ姫さんルカルルは、かわいいもんだぜ。

「「「「「「「娘むすめ――？」」」」」」」
　平伏へいふくしたまま首くびをかしげるモソモソ夫妻ふさいと、ツツィア子爵関係者ししゃくかんけいしゃたち。

「むぅ――？」
「では――？」
「まさかっ――!?」
「魔物境界線ガムランの――!?」
「「「「「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――!?」」」」」
　ヒヒィン、ガララッララララッ――――♪
　来たときと同おなじように迅速じんそくな、引き際ぎわ。

「「「「「聖剣切りヴォルトカッターだぁー！」」」」」
　古ふるめかしい甲冑かっちゅうの連中れんちゅうが、逃げていった。

「はははっ。奥方おくがたさまよか、恐おそれられてやんの」
　よく考えたら姫さんリカルルは、抜けない聖剣せいけんをぶち折る・・・・ような奴やつだったぜ。