滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

５７４：龍撃の学院、大森林観測村と傾国のススメ

「閣下かっかにおかれましては、ご機嫌麗ごきげんうるわしく存ぞんじ上げます。私わたくし、ガムラン町ちょうにて食事処しょくじどころを営いとなむトゥナ・コッヘルと申もうします。以後いごお見知みしりおき――を？」
　片足かたあしを引き、服ふくの裾すそを持ち上げる。
　まるでリオレイニアのような、完璧かんぺきな所作しょさ。

　軽かるく腰こしを落とし、腰こしの長ながめの短剣たんけんに手を掛ける――あれ？

「ひぃぃぃぃ――!?」
　女将おかみさんの迫力はくりょｐくに上級貴族じょうきゅうきぞくたちが、とうとう背筋せすじを伸ばした。
　央都おうとで相当幅そうとうはばを利かせてる化け狐ルリーロより、その娘リカルルより――
　宮廷渡世人おかみさんの方ほうが、恐おそろしかったらしい。
　気持きもちは、よーくわかるぞ。

「迅雷ジンライクーン。黒板こくばんに大陸全土たいりくぜんどの地図ちずをさぁー、表示ひょうじしてくれるぅーゥケケッケケケケケッ？・」
　白目それもう必要ひつようねぇだろ、やめろや。
　おれはおにぎりが抱かかえる台座だいざから、女神像代めがみぞうがわりの丸茸まるきのこだか根菜こんさいだかを――カシャリと引っこ抜いた。

「みゃぎゃにゃん？・」
「ひひひっひぃん？」
　御役御免おやくごめんになった黄緑色きみどりいろどもが、ぽきゅぽきゅぽっきゅららと逃げていく。

　黒板こくばんに映うつし出された地図ちずを見た。
　大山脈だいさんみゃくや大河たいがや大渓谷だいけいこく。
　そんなので二分にぶんされる、トッカータ大陸たいりく。
　向かって右側みぎがわに位置いちする、魔物境界線まものきょうかいせん。
　魔王まおうの勢力圏せいりょくけん……であった上側・・と、行き来出来きできる唯一ゆいいつの場所ばしょ。
　その地を守まもるように、『◎――ガムラン町』と書かれた超女神像ちょうめがみぞうアイコンが、点滅てんめつしていた。

　ぴこーん♪
　もう一ひとつ点滅てんめつしている場所ばしょがある。

　それはガムラン町ちょうと央都おうとの間あいだ、やや上側寄うえがわより。
　山脈さんみゃくの切れ目に位置いちするのは、『・――フカフ村』。
　アイコンは文字もじよりも小ちいさく、村むらの規模きぼを表あらわしている。

　そのずっと下したに見えるのが、女神像めがみぞうネットワーク最端さいたんである――
　『。――レイド村』だ。

　件くだんの大森林だいしんりん観測所かんそくじょは、フカフ村むらの少すこし上うえ。
　大森林だいしんりん観測村かんそくむらは、その更さらにずっと上うえにあるらしい。
　つまり央都おうとラスクトール自治領じちりょう、いや……ラスクトール王国おうこくに属さない・・・・大森林だいしんりん観測村かんそくむらというのは。
　魔物境界線まものきょうかいせんに隣接りんせつするフカフ村むらから見ても、相当そうとうな森もりの奥地おくちで――

「それだけの苦労くろうをして何なんでまたこんな、魔物境界線まものきょうかいせんの綻ほころびみたいな所ところに、村むらなんか立てたんだぜ？」
　っていうか結局建けっきょくたてたのは村むらで、国くにじゃねぇしな。
　いろいろと訳わけがわからんから、説明せつめいしろや？

　ふぉん♪
『＞王族が王国全土の一部を経営し、その国土の外に又別勢力の自治領が存在している。そう考えれば良いのでは？』
　つまり魔王まおうって生き物ものが魔王城まおうじょうを建てて、勝手かってに生活せいかつしてたのと……変わらんのか？
　ふぉん♪
『＞語弊がありますが、概ねそうかと』

　それってよぉ……魔王並にやっかいなの・・・・・・・・・・が、陣取じんどってるってこったろぉ？
　ふぉん♪
『＞はい。嫌な予感しかしません』

「ソッ草そうの一大産地いちだいさんちをウチの実家じっかが、ぜーんぶ買い占めるのに色々いろいろあってね」
　口元くちもとを歪ゆがめる女将おかみさん。彼女かのじょのこんな煮え切らない表情かおは初はじめてだ。

「僧草そうそう？　草くさ……薬草やくそうか何なにかか？」
　草くさの名を聞きゃ、大体だいたいの生息地せいそくちの特徴とくちょうや薬効成分やっこうせいぶんの概略がいりゃくが脳裏のうりに浮かぶ筈はずだが――
　何なにも思おもい浮かんでこねぇ？
　ってこたぁ、少すくなくとも薬草じゃねぇ・・・・・・らしい。

「なぁにそれぇ、聞いたこと無いわよぉー？　女将おかみさんっ、一体全体いったいぜんたいどういうことかしらっ!?・」
　女将おかみさんの口くちぶりから、僧草それが値の張る――つまり旨いもの・・・・がらみと気づいた丸茸御神体まるきのこさまが――

「さぁ、耳みみを揃そろえて白状はくじょうなさいな。悪わるいようには致いたしませんからぁ――フフハヒッ、ウケケケッ♪・」
　何処どこまでも話はなしを、脱線だっせんさせていく。

　　　§

「大森林だいしんりんか。魔物境界線まものきょうかいせんの影かげに隠かくれて、気づかなかったけど――たしか強つよい魔物まものが時々出ときどきでるって聞いたことあるわ♡」
　現在げんざいレベル上げのために強つよい魔物まものを切望せつぼうする、鬼族オーガの麗人れいじんオルコトリアが――
「もー、まるで恋こいする乙女おとめのような顔かおを、するんじゃ有りませんわよ？」
　同僚どうりょうのミス魔物境界線ガムランから、突っ込まれている。

「あまりにも不便ふべんなところにあるから商売しょうばいにしようにも、なかなか出来できなかったんだけど――」
　女将おかみさんが、お猫さまロォグと茅野姫ホシガミ――そしておれを、むぎゅりと抱き寄せた。

「そうさね――上級貴族じょうきゅうきぞくさまなら〝ソッ茶ちゃ〟くらい、嗜たしなんだことが有るのではございませんか？」
　背筋せすじを伸ばした、上級貴族じょうきゅうきぞくの頭領閣下とうりょうかっかが――こくりと頷うなづく。

「おーぃ、女将おかみー！」
　戸口とぐちから声こえを掛けてきたのは、無愛想ぶあいそうな男おとこ。
「あれ？　門番もんばんのおっちゃんじゃんか？」
　彼かれは、おれの恩人おんじんである。
　近ちかくに居た、おれが駆け寄ると――

「シガミーか。これを女将おかみに渡わたせ」
　そう言うと。おっちゃんは来た道みちを、帰かえって行ってしまった。

　手渡てわたされたのは、小ちいさな紙包かみづつみ。
　それほど上手じょうずでは無いが、味あじのある絵が描えがかれていた。

　何なにかの草くさを食む、大角おおつのの鹿しかの絵――か？
　それを見るなり、駆け寄る上流貴族じょうりゅうきぞくたち。
「小娘こむすめよ、それを良く見せてくれぬか!?」
　食い物だと気づいた御神体さまいおのはらが、ガシリとつかんで離はなしやがらねぇ――

　どうなってる？
　場の空気くうきが変わったぞ、何なんだぜこの袋ふくろわぁ!?

「ウチの人・・・・が持ってきた、そいつが件くだんの〝ソッ草そう〟さね♪」
　うちの人ひと？
「ソッソウ……聞いたことありませんでしてよ？」
　高貴こうきな顔かおと狐耳きつねみみが、茶ちゃの専門家せんもんかへ向けられる。

「私わたくしも聞いたことがありません。よほど希少きしょぷな茶葉ちゃばと、お見受みうけします」
　茶ちゃと言えば彼女かのじょ、リオレイニアの独壇場どくだんじょうだ。
「私わたくしも聞いたことが、ありませんららぁぁん？」
　王族おうぞくが聞いたことすらないだとぉ？

「それは、ひとたび市場しじょうに出回でまわれば、小国しょうこくなど傾かたむきかねないという――」
　女将おかみさんがひょいとつまみ上げた、その袋ふくろ。
　しがみ付く御神体さまいおのはら。
「意地汚いじきたねぇが過ぎるぞ、お前まえさまよぉ」
　ふぉん♪
『＞美の女神とは』

「央都重鎮おうとじゅうちんのお歴々れきれきにも色々いろいろご意見いけんも御座ございましょうが、それはこのお茶ちゃを反故にしてまで・・・・・・・、することですかぃ？」
　女将おかみさんのその一声ひとことを聞いたご令嬢リカルルが又また、新あたらしい看板かんばんを書き始はじめた。

『大森林観測村との、貿易協定についての協議会』
　門番もんばんのおっちゃんが持ってきてくれた紙包かみづつみは、相当そうとうやべぇ代物らしい・・・・・・・・。
　ふぉん♪
『＞政治的な軋轢は解消されないまでも、ひとまずは緩和されたとみて良いのでは』

「しかし驚おどろきましたねぇ！」
「全まったくだぜ、ガハハハッ！」
「びっくりしたよ！」
　ガムラン勢ぜいが、騒さわぎ始はじめる。

「「「「「「「「「「「――女将おかみさんに、旦那さんが居たなんて・・・・・・・・・・っ！」」」」」」」」」」」
　そっちか。確たしかに驚おどろいたけどな。