636 / 744
5:大森林観測村VSガムラン町
636:御神体修復作戦、はじめての御使い
しおりを挟む
「ばかやろぅめ! おれたちまで吹っ飛ばす奴が、あるかぁ――!」
頭の上、とおくの地面に体格の良い鬼族の娘が、膝を突いている。
抱きかかえられた長物――それは鬼族の娘程の長さの、魔銃。
ガキッ、ガシャッ――――捨てられた丸の殻が、光と消えた。
魔銃に抱きつくような姿勢で、銃を操るのは大柄と比べると、相当に小柄な少女。
「「「「きゃきゃぁ――――!?」」」」
「「「「「ぅわぁああっ――――!?」」」」」
いけねっ、級友たちを助けねぇと――迅雷なしだと、いろいろ後手に回っちまう!
おれたちを吹っ飛ばした奴らに気を取られていた、おれの目の前に――ぽっきゅぽこぉーん♪
面白い音を立てて、飛び込んできたのは――
『シガミー・ガムラン』――腹に書かれた使用者の名前。
『11』――背中に書かれた学級の名簿番号。
女子生徒用の躑躅色の、猫の魔物風。
くるくると舞う、強化服特撃型改11番の体。
ぽきゅぎゅむんと、おれの体をやさしく抱きしめた!
そういやさっき、強化服の群れを呼んだっけ!
「「ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくな……るかも――――!」」
おれたちが使う練習用魔法杖。
二刀流のリオレイニア。
重力軽減の魔法か――助かった!
おれをつかんだ11番が――ぽっきゅむごろろぉん♪
地に落ちたとき、それ以外の18匹が、スタリと着地した。
ふぉん♪
『シガミー>ひでえ! おれも、ちゃんと助けろやぁ!』
ふぉん♪
『ルガレイニア>申し訳ありません。他の生徒たちを優先しました、ヴヴウヴヴ♪』
背を向けた〝17番〟の強化服。
その頭の上から、ふわりと降り立つ給仕服。
ふわさりっ――――相変わらず小さくて薄っぺらい褌を、巻いてやがる。
ぶわさっ――あわてて押さえた、その顔には恥じらいと共に――
この所、見てなかった〝ルガ蜂〟みてぇな眼鏡が張り付いてた。
銅掛かった白金で細工も細やかな、魔眼殺し。
あの眼鏡は、装着者の好きな形に、変わるようにしてやった。
猪の魔物と戦うのに、気を高ぶらせたから……また出てきちまったのか?
「こ、こほん。や、ヤーベルト先生、現在この村は結界に覆われていて脱出不可能ですっ! まだ全容をつかむには至っていないのですが、どうお考えですか――ヴヴヴヴヴッ?」
ついさっき〝森域結界の構造をちょっとだけ、つかめたとか言ってたが――
どずずずむぅぅぅぅんっ!
とおくに、猪の魔物が落ちた音がした。
「で、出られない!? な、ならマナキャンセラーや対魔王結界のような、空間作用系スキルと思われるが――君が理解出来ない物に、私のような一介の教師がたちうち出来るはずもないだろう!?」
両目を手で隠し、リオレイニアから顔を逸らす男性教師。
あー、そういうことか。
ルガ蜂顔の眼鏡は……男性教師に褌を見られた、照れ隠しだったらしいぜ。
二人がさっき言ってたことを、合わせて考えりゃ――
決まった範囲の中で、魔法を使えなくするか――
決まった範囲から、外に出た魔法を消し飛ばす――
その違いはあれど、魔法を消すことに違いは無い――
そういうことだよな……人が出られん仕組みは、わからんけど。
「11番、降ろしてくれや」
ぽいと捨てられたおれが、地面に降りると――
腰に差してあった迅雷が、カランと落ちた。
あぶねぇ――ぱしん!
猪の魔物が開けた蔦の解れから、そこそこの高さがある本当の地面に、落ちちまうところだったぜ!
ふぉん♪
『ヒント>404NotFound』
迅雷をつかんだら、ヒントが何かを伝えてきた。
シシガニャンの群れ……に囲まれてるから、少しだけ案内が復活したぽい。
どの道、何のことやらわからんが――いや、こいつぁ、見たことがあるぞ?
ふぉん♪
『シガミー>茅野姫よお、この案内の文字は、そっちでも見えてるか?』
ふぉん♪
『ホシガミー>はい。〝404NotFound〟ですよね?』
ふぉん♪
『シガミー>こいつ前にも、見たことがあるんだが、どうにも思い出せん』
ふぉん♪
『ホシガミー>それなら覚えていますよ。ログを拝見しましたので、クスクス?』
ふぉん♪
『シガミー>本当かっ!?』
ふぉん♪
『ホシガミー>詠唱暗室装置を作動した魔導学院区画で迅雷さんが、女神像ネットワークから切り離されたときに、同様のダイアログ表示されました。クスクスクス♪』
なるほど。ってぇこたぁ――
「村から出られねぇのわぁ、リオがぶっ壊しちまった、あのでかい魔法具と同じようなことになってるからなんだな?」
ソレを知ったところで、おれにはどうしようもねぇ訳だが。
「シガミー、その件は他言無用と、お願いしたはずですが――――ヴヴヴヴウヴヴッ♪」
やべぇ、また声に出してた。
蜂を怒らしちまったぜ!
「ぶっ壊した――?」
特撃型改に抱えられながら、首を曲げる生意気な子供。
「大きな魔法具――あっ!」
同じく抱えられていた、物怖じしない子供が――
自分の口を、両手で塞いだ。
わいわいわい、ぽきゅぽきゅむ♪
子供らを抱えた強化服どもが、ひしめき合って――超うぜぇ!
「あ、まさーか……マナキャンセラーを壊したのーって!?」
男性教師の口元が、盛大に引きつった。
§
五百乃大角と迅雷たちが壊れたのは、ジューク村長の魔法具箱に――
何度か立て続けに、格納されたからなんじゃねぇーかなーと思うんだが――
女神像の背中の箱が無けりゃ、直せんことに変わりはなく。
そんなことを考えてたら――「小猿わさぁー、このお人形が欲しいのぉ? 子供みたいだね?」
また二股角の娘に、抱きつかれた。
「おれぁ、子供だから人形が欲しくても構わねぇんだぜ。あとおれは小猿じゃねぇー、シガミーだ――――ごつごつ痛ぇな?」
角じゃねぇ、何だかわからん硬ぇ物を、ぐいぐいと押しつけて来やがる。
ん、この丸い感触わぁ――!?
「五百乃大角じゃんかっ!? これっ、どっから持ってきた!?」
迷子娘が押しつけてきたのは、まさかの根菜さまだった。
括った紐が、すっぽ抜けたら困るから強く引っ張れず――
回収、出来ずにいたのに――
御神体さまを引ったくり――ボロボロに裂けた蔦の道を、すててってと駆けていく。
「こらまて、返――」
ヴォゥッ――すたたたたたたったったた♪
看板があった先、森域結界の境目を越えて――――「ここからー♪」
ご丁寧に、御神体が嵌まってた窪みに、元通りにぎゅっと押し込み――
大きく手を振った。
「さ、流石は森の主の幼体ですね――ヴヴヴヴッ♪」
瞳は見えない眼鏡越しに、目を丸くする――蜂女。
「ちょっとジューク、あなたいつあの子に、新しい芸を教えたのですの?」
「知らないよ、前にフカフ村に森域結界を張られたときには、ファロコだって出られなかっただろう?」
おれを囓りたがる獣ぎみな娘ファロコは、森の主の森域結界を物ともせずに、村の入り口を通ることが出来た。
「あーっ、ごっめーん♪ 落っことしちゃったぁー!」
まったくよう、次から次へと落ち着かねぇなぁ!
§
「じゃぁ、とりあえずは――こんなもんか?」
おれは五百乃大角と迅雷を、迅雷式隠れ蓑製の頭陀袋に詰め込む。
これで持ち運びが、しやすくなるだろうぜ。
「これを森の外の隣村に、届ければ良いのかい……良いのかのぅ?」
生えてない顎髭を、ふわさりと撫でる、ジューク村長。
「ああ、そうだぜ!」
入り口近くの休憩スペースに、陣取ったおれたちは――
どうやって彼女に〝おつかい〟をして貰うかの、算段を始めたのだが――
「じゃぁ、ファロコが行って来るっ!」
そう宣言するなり、二股角の娘が――「にゅぎりゅぎ♪」
と『Θ』を微かに浮かべ、脇目も振らずに走り出した。
ぅぬぅ? レイド村まで行けりゃぁ、頭陀袋の中の手紙をレイド村村長が読んで――
女神像の背中の箱に放り込んでくれるだろうから……たぶん、上手いこと直るだろうがぁ。
「肝心の根菜と棒を、落としていくんじゃねぇやぁー!」
頭陀袋の口を、固く縛っとくんだったぜ!
そのとき、何を思ったか――
「みゃにゃぎゃあぁー♪」
「ひっひひひぃぃん?」
おにぎり騎馬が、颯爽と村を飛び出していく!
ぶぎゅりゅりっと、蛸之助の鳴き声|(?)みたいな音を立てて――
おにぎりが森域結界に、はじき返された!
「なるほど、勢いを付けて結界領域外へ突入した場合。勢いが増して、まるで跳ね返ったように見えるのですね――ヴヴヴヴヴッ?」
「ふぅむ、興味深いですーね?」
そんな場合か。
「御使いさまー!?」
おにぎりの頑丈さは、皆が知るところだから――
おにぎりを気遣うのは、神官女性くらいだ。
休憩所を遙かに飛び越えた、おにぎりがぽきゅりと地に落ち――
「むにゃんぎゃにゃやーぁ?」と鳴いた。
なんて言ってるかわからんが、困惑していることは間違いないだろう。
「ひっひひひぃぃぃぃん?」
その顔のない顔が見つめる先――
こちらを振り返る、黄緑色の馬と目が合った。
困惑の表情は、おれの表情を真似しているのか?
ちなみに、天ぷら号に取り付けた全天球レンズには、瞼を取り付けた。
まだ閉じることは出来ないが、その角度を変えることを、天ぷら号は覚えたようだ。
村の外へ駆け抜けた、巫山戯た色の馬が――
ぽっきゅりぽっきゅらら? と、困惑の並足をした。
その巫山戯た爪音に肩を、震わせた少女が――
ヴッ――長銃を取り出し、しっかりと抱えた。
「そうだった、お前はラプトル王女の肝入りだった!」
五百乃大角どもが使う神々の、演算単位。
それを持たない天ぷら号は、おにぎりと違って――
まだ物扱いってわけか!
おれは新しい頭陀袋に、根菜と棒を放り込み――
近くに居た極所作業用汎用強化服特撃型改1番に、持たせてやった。
「天ぷら号はファロコを、一番は天ぷら号に付いていけ!」
おれはすでに見えなくなった、二股角娘を指さし――
号令を掛けた!
「ひっひひひぃぃぃぃぃんっ――――?」
黄緑色の馬が、まるで駿馬のように嘶き――
目をつり上げ、ぽっきゅらぽきゅららと向きを変え――
ファロコの後を追った。
そして、ぞろぞろと一列になり、村を飛び出していく特撃型改たち。
ぽきゅずぼんっ、ぽきゅごろむん♪
蔓が裂け空いた穴に落ちる17番。
その後の三匹分が、隊列から取り残された。
頭の上、とおくの地面に体格の良い鬼族の娘が、膝を突いている。
抱きかかえられた長物――それは鬼族の娘程の長さの、魔銃。
ガキッ、ガシャッ――――捨てられた丸の殻が、光と消えた。
魔銃に抱きつくような姿勢で、銃を操るのは大柄と比べると、相当に小柄な少女。
「「「「きゃきゃぁ――――!?」」」」
「「「「「ぅわぁああっ――――!?」」」」」
いけねっ、級友たちを助けねぇと――迅雷なしだと、いろいろ後手に回っちまう!
おれたちを吹っ飛ばした奴らに気を取られていた、おれの目の前に――ぽっきゅぽこぉーん♪
面白い音を立てて、飛び込んできたのは――
『シガミー・ガムラン』――腹に書かれた使用者の名前。
『11』――背中に書かれた学級の名簿番号。
女子生徒用の躑躅色の、猫の魔物風。
くるくると舞う、強化服特撃型改11番の体。
ぽきゅぎゅむんと、おれの体をやさしく抱きしめた!
そういやさっき、強化服の群れを呼んだっけ!
「「ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくな……るかも――――!」」
おれたちが使う練習用魔法杖。
二刀流のリオレイニア。
重力軽減の魔法か――助かった!
おれをつかんだ11番が――ぽっきゅむごろろぉん♪
地に落ちたとき、それ以外の18匹が、スタリと着地した。
ふぉん♪
『シガミー>ひでえ! おれも、ちゃんと助けろやぁ!』
ふぉん♪
『ルガレイニア>申し訳ありません。他の生徒たちを優先しました、ヴヴウヴヴ♪』
背を向けた〝17番〟の強化服。
その頭の上から、ふわりと降り立つ給仕服。
ふわさりっ――――相変わらず小さくて薄っぺらい褌を、巻いてやがる。
ぶわさっ――あわてて押さえた、その顔には恥じらいと共に――
この所、見てなかった〝ルガ蜂〟みてぇな眼鏡が張り付いてた。
銅掛かった白金で細工も細やかな、魔眼殺し。
あの眼鏡は、装着者の好きな形に、変わるようにしてやった。
猪の魔物と戦うのに、気を高ぶらせたから……また出てきちまったのか?
「こ、こほん。や、ヤーベルト先生、現在この村は結界に覆われていて脱出不可能ですっ! まだ全容をつかむには至っていないのですが、どうお考えですか――ヴヴヴヴヴッ?」
ついさっき〝森域結界の構造をちょっとだけ、つかめたとか言ってたが――
どずずずむぅぅぅぅんっ!
とおくに、猪の魔物が落ちた音がした。
「で、出られない!? な、ならマナキャンセラーや対魔王結界のような、空間作用系スキルと思われるが――君が理解出来ない物に、私のような一介の教師がたちうち出来るはずもないだろう!?」
両目を手で隠し、リオレイニアから顔を逸らす男性教師。
あー、そういうことか。
ルガ蜂顔の眼鏡は……男性教師に褌を見られた、照れ隠しだったらしいぜ。
二人がさっき言ってたことを、合わせて考えりゃ――
決まった範囲の中で、魔法を使えなくするか――
決まった範囲から、外に出た魔法を消し飛ばす――
その違いはあれど、魔法を消すことに違いは無い――
そういうことだよな……人が出られん仕組みは、わからんけど。
「11番、降ろしてくれや」
ぽいと捨てられたおれが、地面に降りると――
腰に差してあった迅雷が、カランと落ちた。
あぶねぇ――ぱしん!
猪の魔物が開けた蔦の解れから、そこそこの高さがある本当の地面に、落ちちまうところだったぜ!
ふぉん♪
『ヒント>404NotFound』
迅雷をつかんだら、ヒントが何かを伝えてきた。
シシガニャンの群れ……に囲まれてるから、少しだけ案内が復活したぽい。
どの道、何のことやらわからんが――いや、こいつぁ、見たことがあるぞ?
ふぉん♪
『シガミー>茅野姫よお、この案内の文字は、そっちでも見えてるか?』
ふぉん♪
『ホシガミー>はい。〝404NotFound〟ですよね?』
ふぉん♪
『シガミー>こいつ前にも、見たことがあるんだが、どうにも思い出せん』
ふぉん♪
『ホシガミー>それなら覚えていますよ。ログを拝見しましたので、クスクス?』
ふぉん♪
『シガミー>本当かっ!?』
ふぉん♪
『ホシガミー>詠唱暗室装置を作動した魔導学院区画で迅雷さんが、女神像ネットワークから切り離されたときに、同様のダイアログ表示されました。クスクスクス♪』
なるほど。ってぇこたぁ――
「村から出られねぇのわぁ、リオがぶっ壊しちまった、あのでかい魔法具と同じようなことになってるからなんだな?」
ソレを知ったところで、おれにはどうしようもねぇ訳だが。
「シガミー、その件は他言無用と、お願いしたはずですが――――ヴヴヴヴウヴヴッ♪」
やべぇ、また声に出してた。
蜂を怒らしちまったぜ!
「ぶっ壊した――?」
特撃型改に抱えられながら、首を曲げる生意気な子供。
「大きな魔法具――あっ!」
同じく抱えられていた、物怖じしない子供が――
自分の口を、両手で塞いだ。
わいわいわい、ぽきゅぽきゅむ♪
子供らを抱えた強化服どもが、ひしめき合って――超うぜぇ!
「あ、まさーか……マナキャンセラーを壊したのーって!?」
男性教師の口元が、盛大に引きつった。
§
五百乃大角と迅雷たちが壊れたのは、ジューク村長の魔法具箱に――
何度か立て続けに、格納されたからなんじゃねぇーかなーと思うんだが――
女神像の背中の箱が無けりゃ、直せんことに変わりはなく。
そんなことを考えてたら――「小猿わさぁー、このお人形が欲しいのぉ? 子供みたいだね?」
また二股角の娘に、抱きつかれた。
「おれぁ、子供だから人形が欲しくても構わねぇんだぜ。あとおれは小猿じゃねぇー、シガミーだ――――ごつごつ痛ぇな?」
角じゃねぇ、何だかわからん硬ぇ物を、ぐいぐいと押しつけて来やがる。
ん、この丸い感触わぁ――!?
「五百乃大角じゃんかっ!? これっ、どっから持ってきた!?」
迷子娘が押しつけてきたのは、まさかの根菜さまだった。
括った紐が、すっぽ抜けたら困るから強く引っ張れず――
回収、出来ずにいたのに――
御神体さまを引ったくり――ボロボロに裂けた蔦の道を、すててってと駆けていく。
「こらまて、返――」
ヴォゥッ――すたたたたたたったったた♪
看板があった先、森域結界の境目を越えて――――「ここからー♪」
ご丁寧に、御神体が嵌まってた窪みに、元通りにぎゅっと押し込み――
大きく手を振った。
「さ、流石は森の主の幼体ですね――ヴヴヴヴッ♪」
瞳は見えない眼鏡越しに、目を丸くする――蜂女。
「ちょっとジューク、あなたいつあの子に、新しい芸を教えたのですの?」
「知らないよ、前にフカフ村に森域結界を張られたときには、ファロコだって出られなかっただろう?」
おれを囓りたがる獣ぎみな娘ファロコは、森の主の森域結界を物ともせずに、村の入り口を通ることが出来た。
「あーっ、ごっめーん♪ 落っことしちゃったぁー!」
まったくよう、次から次へと落ち着かねぇなぁ!
§
「じゃぁ、とりあえずは――こんなもんか?」
おれは五百乃大角と迅雷を、迅雷式隠れ蓑製の頭陀袋に詰め込む。
これで持ち運びが、しやすくなるだろうぜ。
「これを森の外の隣村に、届ければ良いのかい……良いのかのぅ?」
生えてない顎髭を、ふわさりと撫でる、ジューク村長。
「ああ、そうだぜ!」
入り口近くの休憩スペースに、陣取ったおれたちは――
どうやって彼女に〝おつかい〟をして貰うかの、算段を始めたのだが――
「じゃぁ、ファロコが行って来るっ!」
そう宣言するなり、二股角の娘が――「にゅぎりゅぎ♪」
と『Θ』を微かに浮かべ、脇目も振らずに走り出した。
ぅぬぅ? レイド村まで行けりゃぁ、頭陀袋の中の手紙をレイド村村長が読んで――
女神像の背中の箱に放り込んでくれるだろうから……たぶん、上手いこと直るだろうがぁ。
「肝心の根菜と棒を、落としていくんじゃねぇやぁー!」
頭陀袋の口を、固く縛っとくんだったぜ!
そのとき、何を思ったか――
「みゃにゃぎゃあぁー♪」
「ひっひひひぃぃん?」
おにぎり騎馬が、颯爽と村を飛び出していく!
ぶぎゅりゅりっと、蛸之助の鳴き声|(?)みたいな音を立てて――
おにぎりが森域結界に、はじき返された!
「なるほど、勢いを付けて結界領域外へ突入した場合。勢いが増して、まるで跳ね返ったように見えるのですね――ヴヴヴヴヴッ?」
「ふぅむ、興味深いですーね?」
そんな場合か。
「御使いさまー!?」
おにぎりの頑丈さは、皆が知るところだから――
おにぎりを気遣うのは、神官女性くらいだ。
休憩所を遙かに飛び越えた、おにぎりがぽきゅりと地に落ち――
「むにゃんぎゃにゃやーぁ?」と鳴いた。
なんて言ってるかわからんが、困惑していることは間違いないだろう。
「ひっひひひぃぃぃぃん?」
その顔のない顔が見つめる先――
こちらを振り返る、黄緑色の馬と目が合った。
困惑の表情は、おれの表情を真似しているのか?
ちなみに、天ぷら号に取り付けた全天球レンズには、瞼を取り付けた。
まだ閉じることは出来ないが、その角度を変えることを、天ぷら号は覚えたようだ。
村の外へ駆け抜けた、巫山戯た色の馬が――
ぽっきゅりぽっきゅらら? と、困惑の並足をした。
その巫山戯た爪音に肩を、震わせた少女が――
ヴッ――長銃を取り出し、しっかりと抱えた。
「そうだった、お前はラプトル王女の肝入りだった!」
五百乃大角どもが使う神々の、演算単位。
それを持たない天ぷら号は、おにぎりと違って――
まだ物扱いってわけか!
おれは新しい頭陀袋に、根菜と棒を放り込み――
近くに居た極所作業用汎用強化服特撃型改1番に、持たせてやった。
「天ぷら号はファロコを、一番は天ぷら号に付いていけ!」
おれはすでに見えなくなった、二股角娘を指さし――
号令を掛けた!
「ひっひひひぃぃぃぃぃんっ――――?」
黄緑色の馬が、まるで駿馬のように嘶き――
目をつり上げ、ぽっきゅらぽきゅららと向きを変え――
ファロコの後を追った。
そして、ぞろぞろと一列になり、村を飛び出していく特撃型改たち。
ぽきゅずぼんっ、ぽきゅごろむん♪
蔓が裂け空いた穴に落ちる17番。
その後の三匹分が、隊列から取り残された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
『悪魔クロとやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は秘密の力で人間の頂点を狙う』
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました
月神世一
ファンタジー
「命を捨てて勝つな。生きて勝て」
50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する!
海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。
再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は――
「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」
途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。
子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。
規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。
「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」
坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。
呼び出すのは、自衛隊の補給物資。
高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。
魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。
これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる