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5:大森林観測村VSガムラン町
679:イイスタァ・エッグ孵る
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「いまだ行方不明のシガミーさんたちには、気の毒ですが――ひとまずは安心しました。クスクスクス♪」
ストトトトッ、ストトトトトットットン♪
まだ幼さの残るメイドによって刻まれていく、大森林産の葉野菜。
それはまるで巨大な若芽のようで、折り重なる葉が瑞々しい断片を見せる。
「はい。イオノファラーさまが、いずこかへ助けに行かれたということは、無事ではあるのでしょうし――コココン♪」
手にすっぽりと収まる大きさの卵を片手で、ぱかぱかぱっかと割っていく――
白金の眼鏡を掛けたメイド。その涼しげな口元は、ほころんでいる。
「それに今回の成りゆきは、この世界にとっては幸運だったのかも知れませんわ、プークス♪」
コン、コトン。器を取り替え――
ストトトトッ、ストトトトトットットン♪
別の野菜を切り始める、星神茅野姫。
「そうですね、イオノファラーさまの食い意地……食への探求は、凄まじいものがありますので」
がたん、ぺたたん。
取り出した半身の魚へ手際よく、切り込みを入れていく眼鏡侍女リオレイニア。
「シガミーが前に……ひそひそ……ミノタウロースを夢で見て、うなされてた事があったよ?」
イースターエッグを見る、生意気そう……利発そうな少女。
「じゃあ、あのまま……ひそひそ……イースターエッグのそばに居たら……ミノタウロースが出てきてたかも、知れないんだね?」
イースターエッグを見る、物怖じしなさそう……天真爛漫そうな少女。
「いいえ、この場に居たとしても、シガミーちゃんはきっと、内なる〝つののはえたまもの〟に打ち勝ってましたわ♪」
イースターエッグを見る、長髪を飾り紐で止めた少女。
「ねぇ、ヴィヴィーちゃん?」
「なぁに、レイダちゃん?」
顔を見合わせた少女たちは、観測村の子供らと同じ――
寸胴な服を着ていた。
「ビステッカちゃんの中でシガミーの人気が、爆上がり中の件について、ひと言どうぞ」
「うーん。なにか悪い物でも、食べたんじゃないのかな?」
などと言い合う、級友たちの背後から――
「ビステッカちゃんは厨房ダンジョンで、何度も助けられたって言ってたから――きっとシガミーちゃんを、騎士さまのように思っているんじゃないかな♪ きゃはぁー♡」
眼鏡を掛けた少女が、現れた。
その目には♡が、浮かんでいる。
「シガミーの場合は騎士っていうよりは、〝ござる〟だよね」
「そうだね、ござるだよね」
「ござる?」
♡の目をした少女が、目をぱちくりとさせた。
§
「カヤノヒメさま。こちらの下ごしらえは、済みましたが――」
卵や調味料に浸された、切った肉に魚。
「こちらも、ちょうど終わりましたわ、くすくす♪」
巨大な鉄鍋や半球状の器にこんもりと、切った野菜が盛られている。
「ぎるるるぅぃ、ににるぎぃぃ♪」
そんな鳴き声に、大卵が入った木箱を一斉に見た。
木箱に詰められた大卵を、抱えた少女が――
それはそれは楽しげに、鳴き声を上げている。
「ジューク、ファロコは何と?」
調理台横から声を掛けたのは、見目麗しの淑女。
〝けいこくのまもの〟と謳われ、絵本にまでされた彼女が――
調理台に突っ伏して、暇そうにしている。
「もうすぐ孵るってさ、卵が」
木箱の側で、角の生えた少女を見守っていた――
男性が、そう返事をしたら――
ヴォオォゥンッ♪
『ファロコ・ファローモ・ジオサイト/累計
■■■■■■■■■□99%』
二股角の生えた少女の頭上に輝く、何かの枠が――
ほぼ、満杯になった。
「ちょっと! 一大事じゃ有りませんのっ――痛った!?」
慌てふためき、調理台の足に膝をぶつける淑女。
「どうしたんだい、ロットリンデ? 別に、ファロコの弟妹が生まれるからって、何もすることはないだろ?」
木箱に収まる少女の、ほつれ毛を指先で――ちょいと直してやる男性。
「そうですわね、産湯とタオルの準備なら――レーニ……リオレイニア~ァ」
慌てる淑女とは反対側。
やはり調理台に、暇そうに突っ伏していた派手な淑女が――
侍女に確認した。
「はい、お嬢さま。こちらに、用意してございます」
配膳用の、高さのある手押し車。
その上に置かれたたらいからは、微かに湯気が立ち上っている。
下の棚には毛布やタオルが、きっちりと揃えて置かれていた。
「こらっ、ジューク! 馬鹿をお言いでないよ!」
腕組みの恰幅の良い女性。背中には大きな木さじ。
「まさぁかぁー、あの子が旧フカフ村に来たときのことをー、忘れちゃったのかしらー、ジュークゥー?」
ゆるく編み込まれた長髪が、豪華絢爛な体に纏わり付く。
木さじが娘、三つ編みが母。
コッヘル母娘の目が、三角に吊り上がった。
「あー、あぁっ!? 〝宿屋・ヴィフテーキ食堂〟を――まっぷたつに、しちゃったんだっけ?」
男性の口元が、引きつる。
なにか、ばつが悪いことを思い出したらしい。
「「「「「「宿屋を、まっぷたつ!?」」」」」」
その言葉の異様さに、首を傾げる者たち。
「宿屋なのに、食堂?」
ひとり、みんなとは反対側へ首を傾ける、利発そうな少女。
彼女は生意気な顔で、そんな余計なことを口にした。
「ふーぅ! どーするんですの、ジューク村長?」
腰に手。やれやれ顔のロットリンデ。
悪逆令嬢や吸血鬼と、恐れられるだけでは飽き足らず――
ついには〝けいこくのまもの〟とまで呼ばれた、彼女が――
大卵の入った木箱を見つめて、思案に暮れている。
「カヤノヒメさま、つかぬ事をお聴きしますけれど――森の主の子供って、そんなにやばいのですの?」
真っ赤なドレスの悪漢令嬢が――僅かに色めき立つ。
宿屋を真っ二つにする子供に、興味津々である。
「クスクスクス♪ そうですねぇ、錫杖を手にしたシガミーさん相手に短剣で、手を切り飛ばすほどには腕が、立ちましたわ?」
幼さの残るメイドが、令嬢を見もせずに――
そんな事実を述べた。
それを大口を開けて見つめる、細身な体つきのメイド。
そんな面白そうなことを、言わずには居られないメイドと――
そんな厄介事を、どうして今この場で言ったのかと――
抗議の目を向けるメイド。
悪漢令嬢の瞳に一瞬宿る、月の光。
あちらこちらで視線が、絡み合う中――ピキパキ!
ヒビが入る音。
ガッシャァァアアアンッ!
大卵が入った木箱から、飛び散る卵の殻。
その勢いで、木箱の外へ転がり落ちる――
森の主の子供、ファロコ。
ガサワサササッ――――!!!
大卵を壊して中から現れたのは、大きな毛玉だった。
「「「「「「「「「「「ぎゃっ――怖っ!」」」」」」」」」」」
逃げ惑う村人や、ガムラン並びに央都勢。
「フン! 毛が生えているなら、屁でもありませんわ♪」
そう言って悪漢令嬢が、一歩前に出れば――
〝成長した毛玉〟であるファロコが、すかさず立ちふさがる。
「ギュギギギッ――――!!!」
待ちに待った姉妹を、派手なドレスの悪漢から、守ろうとしているのだ。
その声が耳(どこが耳だかはわからないが)に届いたのか――
「ぎぎぎぎぎゅ?」
毛玉が鳴き声を上げた!
「「「「「「「「「「「「ぅぎゃぁぁあぁぁぁっ――――!?」」」」」」」」」」」」
逃げまどう人々。
その中には「毛が生えているなら屁でもない」と豪語した、悪漢ご令嬢もいたが。
いくら毛が生えていても、どっちが前でうしろかわからない――
そんな生き物に恐れを抱くのも、無理からぬことではある。
「ぎゃっぁぁあっ、な、鳴いたゅ!?」
一人逃げ遅れた、眼鏡の少女。
腰を抜かしたのか、ジタバタと地を這うばかりで――
まるで生まれたての、子鹿のようだった。
たまたま目の前に居た、子鹿のような生き物。
それに意識が向けられたのは、至極当然だったと思われる。
がさがさざざっ――――♪
とんでもない素早さで、木箱から這い出た大きな毛玉。
それに眼鏡の少女が――――がしり!
脚をつかまれた。
「きぃゃ――――ぶくぶくぅ!」
あわれ、卒倒した眼鏡少女は――ズザザザザァァッ!!!!
大きな毛玉に引きずられ、さらわれたのであった。
ストトトトッ、ストトトトトットットン♪
まだ幼さの残るメイドによって刻まれていく、大森林産の葉野菜。
それはまるで巨大な若芽のようで、折り重なる葉が瑞々しい断片を見せる。
「はい。イオノファラーさまが、いずこかへ助けに行かれたということは、無事ではあるのでしょうし――コココン♪」
手にすっぽりと収まる大きさの卵を片手で、ぱかぱかぱっかと割っていく――
白金の眼鏡を掛けたメイド。その涼しげな口元は、ほころんでいる。
「それに今回の成りゆきは、この世界にとっては幸運だったのかも知れませんわ、プークス♪」
コン、コトン。器を取り替え――
ストトトトッ、ストトトトトットットン♪
別の野菜を切り始める、星神茅野姫。
「そうですね、イオノファラーさまの食い意地……食への探求は、凄まじいものがありますので」
がたん、ぺたたん。
取り出した半身の魚へ手際よく、切り込みを入れていく眼鏡侍女リオレイニア。
「シガミーが前に……ひそひそ……ミノタウロースを夢で見て、うなされてた事があったよ?」
イースターエッグを見る、生意気そう……利発そうな少女。
「じゃあ、あのまま……ひそひそ……イースターエッグのそばに居たら……ミノタウロースが出てきてたかも、知れないんだね?」
イースターエッグを見る、物怖じしなさそう……天真爛漫そうな少女。
「いいえ、この場に居たとしても、シガミーちゃんはきっと、内なる〝つののはえたまもの〟に打ち勝ってましたわ♪」
イースターエッグを見る、長髪を飾り紐で止めた少女。
「ねぇ、ヴィヴィーちゃん?」
「なぁに、レイダちゃん?」
顔を見合わせた少女たちは、観測村の子供らと同じ――
寸胴な服を着ていた。
「ビステッカちゃんの中でシガミーの人気が、爆上がり中の件について、ひと言どうぞ」
「うーん。なにか悪い物でも、食べたんじゃないのかな?」
などと言い合う、級友たちの背後から――
「ビステッカちゃんは厨房ダンジョンで、何度も助けられたって言ってたから――きっとシガミーちゃんを、騎士さまのように思っているんじゃないかな♪ きゃはぁー♡」
眼鏡を掛けた少女が、現れた。
その目には♡が、浮かんでいる。
「シガミーの場合は騎士っていうよりは、〝ござる〟だよね」
「そうだね、ござるだよね」
「ござる?」
♡の目をした少女が、目をぱちくりとさせた。
§
「カヤノヒメさま。こちらの下ごしらえは、済みましたが――」
卵や調味料に浸された、切った肉に魚。
「こちらも、ちょうど終わりましたわ、くすくす♪」
巨大な鉄鍋や半球状の器にこんもりと、切った野菜が盛られている。
「ぎるるるぅぃ、ににるぎぃぃ♪」
そんな鳴き声に、大卵が入った木箱を一斉に見た。
木箱に詰められた大卵を、抱えた少女が――
それはそれは楽しげに、鳴き声を上げている。
「ジューク、ファロコは何と?」
調理台横から声を掛けたのは、見目麗しの淑女。
〝けいこくのまもの〟と謳われ、絵本にまでされた彼女が――
調理台に突っ伏して、暇そうにしている。
「もうすぐ孵るってさ、卵が」
木箱の側で、角の生えた少女を見守っていた――
男性が、そう返事をしたら――
ヴォオォゥンッ♪
『ファロコ・ファローモ・ジオサイト/累計
■■■■■■■■■□99%』
二股角の生えた少女の頭上に輝く、何かの枠が――
ほぼ、満杯になった。
「ちょっと! 一大事じゃ有りませんのっ――痛った!?」
慌てふためき、調理台の足に膝をぶつける淑女。
「どうしたんだい、ロットリンデ? 別に、ファロコの弟妹が生まれるからって、何もすることはないだろ?」
木箱に収まる少女の、ほつれ毛を指先で――ちょいと直してやる男性。
「そうですわね、産湯とタオルの準備なら――レーニ……リオレイニア~ァ」
慌てる淑女とは反対側。
やはり調理台に、暇そうに突っ伏していた派手な淑女が――
侍女に確認した。
「はい、お嬢さま。こちらに、用意してございます」
配膳用の、高さのある手押し車。
その上に置かれたたらいからは、微かに湯気が立ち上っている。
下の棚には毛布やタオルが、きっちりと揃えて置かれていた。
「こらっ、ジューク! 馬鹿をお言いでないよ!」
腕組みの恰幅の良い女性。背中には大きな木さじ。
「まさぁかぁー、あの子が旧フカフ村に来たときのことをー、忘れちゃったのかしらー、ジュークゥー?」
ゆるく編み込まれた長髪が、豪華絢爛な体に纏わり付く。
木さじが娘、三つ編みが母。
コッヘル母娘の目が、三角に吊り上がった。
「あー、あぁっ!? 〝宿屋・ヴィフテーキ食堂〟を――まっぷたつに、しちゃったんだっけ?」
男性の口元が、引きつる。
なにか、ばつが悪いことを思い出したらしい。
「「「「「「宿屋を、まっぷたつ!?」」」」」」
その言葉の異様さに、首を傾げる者たち。
「宿屋なのに、食堂?」
ひとり、みんなとは反対側へ首を傾ける、利発そうな少女。
彼女は生意気な顔で、そんな余計なことを口にした。
「ふーぅ! どーするんですの、ジューク村長?」
腰に手。やれやれ顔のロットリンデ。
悪逆令嬢や吸血鬼と、恐れられるだけでは飽き足らず――
ついには〝けいこくのまもの〟とまで呼ばれた、彼女が――
大卵の入った木箱を見つめて、思案に暮れている。
「カヤノヒメさま、つかぬ事をお聴きしますけれど――森の主の子供って、そんなにやばいのですの?」
真っ赤なドレスの悪漢令嬢が――僅かに色めき立つ。
宿屋を真っ二つにする子供に、興味津々である。
「クスクスクス♪ そうですねぇ、錫杖を手にしたシガミーさん相手に短剣で、手を切り飛ばすほどには腕が、立ちましたわ?」
幼さの残るメイドが、令嬢を見もせずに――
そんな事実を述べた。
それを大口を開けて見つめる、細身な体つきのメイド。
そんな面白そうなことを、言わずには居られないメイドと――
そんな厄介事を、どうして今この場で言ったのかと――
抗議の目を向けるメイド。
悪漢令嬢の瞳に一瞬宿る、月の光。
あちらこちらで視線が、絡み合う中――ピキパキ!
ヒビが入る音。
ガッシャァァアアアンッ!
大卵が入った木箱から、飛び散る卵の殻。
その勢いで、木箱の外へ転がり落ちる――
森の主の子供、ファロコ。
ガサワサササッ――――!!!
大卵を壊して中から現れたのは、大きな毛玉だった。
「「「「「「「「「「「ぎゃっ――怖っ!」」」」」」」」」」」
逃げ惑う村人や、ガムラン並びに央都勢。
「フン! 毛が生えているなら、屁でもありませんわ♪」
そう言って悪漢令嬢が、一歩前に出れば――
〝成長した毛玉〟であるファロコが、すかさず立ちふさがる。
「ギュギギギッ――――!!!」
待ちに待った姉妹を、派手なドレスの悪漢から、守ろうとしているのだ。
その声が耳(どこが耳だかはわからないが)に届いたのか――
「ぎぎぎぎぎゅ?」
毛玉が鳴き声を上げた!
「「「「「「「「「「「「ぅぎゃぁぁあぁぁぁっ――――!?」」」」」」」」」」」」
逃げまどう人々。
その中には「毛が生えているなら屁でもない」と豪語した、悪漢ご令嬢もいたが。
いくら毛が生えていても、どっちが前でうしろかわからない――
そんな生き物に恐れを抱くのも、無理からぬことではある。
「ぎゃっぁぁあっ、な、鳴いたゅ!?」
一人逃げ遅れた、眼鏡の少女。
腰を抜かしたのか、ジタバタと地を這うばかりで――
まるで生まれたての、子鹿のようだった。
たまたま目の前に居た、子鹿のような生き物。
それに意識が向けられたのは、至極当然だったと思われる。
がさがさざざっ――――♪
とんでもない素早さで、木箱から這い出た大きな毛玉。
それに眼鏡の少女が――――がしり!
脚をつかまれた。
「きぃゃ――――ぶくぶくぅ!」
あわれ、卒倒した眼鏡少女は――ズザザザザァァッ!!!!
大きな毛玉に引きずられ、さらわれたのであった。
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