滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

５：大森林観測村ＶＳガムラン町

７１５：ファローモからの依頼、ギルドで承りますわ

「ふう、まったくもって事態じたいがつかめませんけれど、ご依頼いらいということでしたら冒険者ぼうけんしゃギルドが間あいだに入はいっても、よろしくてよ？」
　ガムラン町随一ちょうずいいちの悪漢ごろつき……じゃなくて、ご令嬢兼れいじょうけん受付嬢うけつけじょうが――
　一枚いちまいの紙切かみきれれを懐ふところから、ぺらりと取り出した。

　覇気はきの無い青年せいねんが、真っ赤になった顔かおを背そむけ――
　王女殿下おうじょでんかが、杓子しゃくしを振り回まわし――
　眼鏡の女リオレイニアが、下敷きいたぺらと鉄筆ペンを取り出した。

　ここは〝大森林だいしんりん観測村《かんそくむら》④ファローモのお宿やど｜（仮かり）〟内ない、女神像めがみぞうの間兼まけん、臨時りんじギルド出張所しゅっちょうじょ。
　つまり、女神像めがみぞうが有る地下通路部屋ちかつうろべやに、椅子いすと机つくえを並ならべただけの場所ばしょだ。

「あっ、ちょっと――!?」
　紙かみを後うしろから、ひょいと掠かすめ取るのは、名物めいぶつ受付嬢うけつけじょうオルコトリア。
　ガムラン姫リカルルともども、わざわざ受付嬢の制服しごとぎに着替きがえている。

『冒険依頼書／冒険者ギルドガムラン町支部
　　　　　　／受付担当者：リカルル・Ｒ・Ｋ■』
　冒険依頼書かみぺらには受付嬢リカルルの署名なまえが既すでに書き込まれていて、コントゥル家の紋章印しるしまで押してあった。

「では私わたくしが代筆だいひつさせていただきますね――お名前なまえをうかがっても？」
　静しずかな物腰ものごし。近頃ちかごろは〝ギルドの建物たてものを壊こわす方ほう〟として有名ゆうめいだが――
　元々此奴もともとオルコは、仕事しごとが出来できて分別ふんべつもあり、体格ガタイが良くて顔つらまで良い。
　おれやレイダに狩りの仕方しかたを教おしえてくれたりと、心根こころねも優やさしいとくれば――
　正まさに名物めいぶつ受付嬢うけつけじょうと呼ばれるに、相応ふさわしいだろう。

　ふぉん♪
『＞＞有り余る怪力と天狗に対する執着と、〝上空からの攻撃に過剰に反応すること〟を除けば、至って優秀なギルド職員です。冒険者としての名声も〝聖剣切りの閃光〟へ所属したこともあり、上々のようですし』
　うん、全部ぜんぶひっくるめても……オルコは良い奴やつだ。

　跳ねっ返りリカルルのお目付役・・・・として小言こごとを言いつつ、書類仕事しょるいしごとなんかを変わってやる所ところは、ガムラン町ちょうで何度なんどか見かけた。
　けどひょっとしたら、こうして受付仕事うけつけしごとを買って出たのには――
　先さきの狙撃そげきに対たいしての、謝罪しゃざいのつもりも有るのかも知れない。

「私＠たくしの名は――ファローモのファローモです」
　名乗なのる森もりの主ぬし。
「ぎゅぎぎぎぃ？」
　鳴く森の主その、第二子だいにし。
「そーだよ、ぎゅぎぎーだよ♪」
　妹いもうとを膝ひざに乗せ、かわいがる様子ようすの第一子ファロコ。

「そろそろ、放はなして欲しいなぁ――シガミーちゃぁん!?」
　だれがシガミーちゃんか。
　妹いもうとさまに袖口そでぐちをつかまれ、身動みうごき出来できない様子ようすのレトラ嬢じょう。
　また取っ捕つかまったのか……ふぅ。
　こんなのわぁ、どっかで見たことがあるぜ。

　ふぉん♪
『＞＞タター・ネネルドの手に纏わり付く、天ぷら号の尻尾のようです』
　そう、ソレだぜ。

　仕方しがたがねぇから、椅子いすを取り出して――ヴッ♪
　ストンと座すわらせてやった。

　下手へたに近ちかづくと森の主ファローモの娘むすめたちに、おれまで取っ捕つかまりかねねぇから――
　グルッと回まわり込んで、机テーブルから距離まあいを取り――リオレイニアの背中うしろに隠かくれる。

「ファローモノファローモ……ええと？　ファローモって言うのは種族名しゅぞくめいよね？」
　「どういう綴つづりかしら？」と、受付仕事うけつけしごとの初しょっぱなから躓つまづく鬼娘オルコ。
　整ととのった顔かおに困惑こんわくの表情いろが浮かび、その目が泳およぐ。

「それどこかで、聞いたことありましてよ？」
　首くびを傾かたむけ思案しあんする悪逆令嬢ロットリンデ。
「ほらジュークが見た景色けしきをっ、ピクトグラムに描えがいてっ、商会長しょうかいちょうたちがっ――」
　隣となりに立つジューク村長そんちょうを、肘ひじで小突こづく大申女ばかぢから。

「痛いたい、痛いたいっ！　そっ、それなら覚おぼえてるよ。たしかココに入れたまま――」
　村長ジュークが脇腹わきばらを押さえながら、腰こしに縛しばり付けた頭陀袋ずだぶくろを、ちょいと開けた。
　魔法具箱ジュークボックスの縁へりから引き抜かれたのは、ボロボロになった紙かみ。
「お寄越よこしなさいなっ！」
　それを奪うばったロットリンデが、机つくえの上うえに広ひろげる。

「「「「「「「「「なんだなんだ？」」」」――ららぁん？」」」」」
　興味きょうみのなさそうな森の主ファローモたちと、身動みうごききが取れないレトラ以外いがい。
　全員ぜんいんで、二枚並にまいならべた紙かみぺらの、ボロボロの方ほうを覗のぞき込んだ。

『私はファローモ成体です。
　私の子供がフカフ村に療養しに行きます。
　私の子供に何かあったらフカフ村まで、
　また迎えに行くことになるでしょう……私が
　かしこ』
　その文面ぶんめんを鬼の娘オルコが、ざっと読み上げた。

「何なんだぜ、そいつぁ？」「手紙てがみのようですが？」
　首くびを傾かしげる、おれたち。

「こりゃ、あの時ときの――」
　そんな女将おかみさんの声こえが、すぐ隣となりから聞こえた。
「知ってるのか？」
　おれはリオレイニアの尻しりを押し、テーブルに歩あゆみ寄る。

「詳くわしくはわからないけど、たしか森の主ファローモの、ご神託・・・さね」
　ご神託しんたく……そういやウチの女神様いおのはらは何処どこだ？
　ふぉん♪
『＞＞茅野姫と一緒に、厨房へ行くと言っていました』
　まだ食い足りんのか、彼奴あいつわぁ。

「ふふん小猿こざる、聞いて驚おどろきなさいな。ジュークは何なんと、神獣しんじゅう森の主ファローモの言葉ことばを人ひとの言葉ことばにして書き写せますのよ・・・・・・・・……そうでしたわよね？」
　胸むねを反そらせ威張いばる悪逆令嬢ロットリンデが、村長そんちょうを振り返かえる。
　神獣しんじゅうと呼ばれるくらいなら、ご神託・・・くらい寄越よこすこともあるだろうが――

「ファローモ・・・・・の言葉ことばと言われてもな。普通ふつうに話はなしが出来できてるじゃぁねぇかよ？」
　大人おとなしく椅子いすに座すわる、森の主ファローモの群れ・・を見た。
「はイ。現状げんジょうにオいて７３パーセントノ正確性せいかクせいヲ持ッて、音声おンせいにヨる意思疎通いしソつうが図ハかレています・」
　だろぉ、迅雷ジンライもこう言ってるぞ？

「は＠い、娘むすめを通つうじて人ひとの言葉ことばを覚おぼえました。いまではこうして直じかに、話はなせていますね」
　『＠もよう』が入はいった着流きながししの珍妙ちんみょうな女おんなが、まるで――
　人ひとごとのような口くちぶりで、そう説明せつめいした。

　娘を通じて・・・・・ってのは、恐おそらくあの――
　おれが瞼まぶたの裏うらで〝ファロコと出くわした〟ときの事ことを、言ってるんだろう。
　丁度ちょうど、おれたちで言うところの、画面モニタの中なかの梅干うめぼし大だい。
　ふぉん♪
『＞＞はい。私のファイリングシステムや、女神像ネットワークを介した一行表示に似た長距離間通信を、〝森域〟や〝樹界〟というファクターを持つファローモたちは有していると思われ』
　うむ、そういう……ことだな……完全かんぜんにはわからん。

「ティーナさん……商会長しょうかいちょうが言うには、〝詠唱魔法まほうを方陣結界ピクトグラムに翻訳ほんやくする能力のうりょく〟らしいよ。使つかい道みちは殆ほとんどないけどさ」
　村長ジュークがボロボロの紙かみを、大事だいじそうに仕舞しまい込んだ。

「呼・ん・だーぁ？」
　ボバボーンとした体からだつき。
　とても、ひ孫・・が居そうな歳としには見えない、女将おかみさんの母親ははおや。
　大森林このばにおいて、実質最高じっしつさいこう権力者けんりょくしゃらしい――
　コッヘル商会しょうかい商会長しょうかいちょうさまが、のほへーんと姿すがたを現あらわした。