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5:大森林観測村VSガムラン町
726:吠えろ魔銃オルタネーター、三つ星と魔山椒と
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「ふぅぅぅい、このでかさは異常だ。見てるだけで気が、とおくならぁ――ニャァ♪」
こちらに背を向け横たわる、エリアボス〝殲滅のビッグモクブート〟
「(変異種、完全に停止。気絶しているようです)」
あの巨体で転けたら、気ぃくらい失うわなぁ。
魔弾が砕いた、三つの巨大な岩石。
その下に堆積していた土砂や、木の根が吹き飛ばされ――
背丈も大分、縮まったが、それでもなお――
視界を埋め尽くす、見渡す限りの背中。
「こりゃぁ、まるで……星曼荼羅のようだな?――ニャァ♪」
現れたのは渦を描く、筆書きの紋様みたいな――
浮き出た毛皮の柄は、子供のソレよりも特徴的だった。
「ヴヴヴヴヴッ――――?」
蜂女ルガレイニアが鳴き声を上げ、女将さんへ蜂の眼を向けた。
「どうしたんだい、リオレイニア……あぁ? こりゃひょっとして――よっと」
轟雷の掌から飛び降りだ女将さんが、商会長を受け止め、そっと地面に降ろした。
「母さ……商会長、何かわかるかい?」
「ふむふむ、なるほどーぉ?」
ぺらぺらと、紙の大きさが区々で不格好な本を捲る、コッヘル商会長。
「そうね-、術式は基本的な物だけど、魔術詠唱の効果を……とてつもなく高めているわよぅ」
元宮廷魔導師である商会長さまが、そんなことを言う。
「(どうやらエリアボスの柄には、古代魔法――方陣結界のような効果があるようです)」
あの毛皮の模様には、機能があるらしい。
「それ自体は、ささやかな効果しか持たないけどー、魔方陣の大きさがとてつもないので――ひとつの渦巻きにつき……倍くらいの威力に強化され……るかしらぁ?」
その腕力に反して長閑な、商会長の顔が――ひどく、青ざめてやがる。
「倍って言うとぉ……渦は三つだから――8倍にもなるのか!?――ニャァ♪」
8倍って言ったら、どんなに弱い魔法でも、そこそこの威力になるだろ!?
「今すぐ、絞めちまおうぜ――ニャァ♪」
ガッキュゥゥゥゥゥンッ――――!
轟雷が太刀の柄に、手を延ばすと――
「グゲゲッゲッ? くけけぇ-♪」
どったどどった、どどったたったっ!
駆け寄る恐竜モドキ、怪我が無くて何よりだが――
その兜の奥に煌めく一つ目が、ギラリと光を放つ。
「お待ちなさいな、シガミー料理長。急いては事おぉ、し豚汁わよ♪」
誰が料理長だ。おれぁ料理番だぞ。
勝手に長を付けるんじゃねぇやぃ、猪蟹屋筆頭味見役め。
「何だと? また動き出されたら、厄介だろうがぁ?――ニャァ♪」
その身動きだけで、おれたちはひっくり返るぞ?
「その件ですが、エリアボスにして変異種化したモクブートは、自重に耐えきれず、脚を6本中4本、折っているようです」
蜂の魔神が、人の言葉で報告してくれた。
「かわいそうだが、もう起き上がるのは無理だな、ガハハハハッ♪」
工房長が巨大な金槌を――ドズズゥン!
足下に放り出した。
なら問題わぁ……ねぇーのか?
ふむ。本当にタターが一人で、倒しちまいやがった。
「なら良いが、魔法……か何かを吐かんとも限らなくね?――ニャァ♪」
この世界には、石や火を吐く狼なんかも居るしな。
「へっへーんだ! ブヒブヒ言うしか能の無い、猪の魔獣ちゃんがぁー自分に支援魔法を掛けた所でー、まぁ・るぅ・でぇー、脅威にーなぁらぁなぁいぃ件、ワロス♪」
ペラペララと喋り、ぺらぺららと何かを捲る気配。
ふぉん♪
『>>攻略本記載の、モクブート調理法を確認しているようです』
「こいつの調理法だぁ? だから、そんなのわぁ、仕留めてからで良いじゃねぇーか!――ニャァ♪」
轟雷は腕組みをし、横たわってなお、空を埋め尽くすほどの巨体を見上げた。
気絶してるウチに、絞めてやるのが仏性ってもんだ。
「はい、ははぁーい♪ モクブート調理のご用命でしたらぁー、我が〝コッヘル商会〟――いいえ、〝宿屋ヴィフテーキ食堂〟まで是非とも、ご相談をー♪」
「そいつぁー良いねぇ♪ そうしたら、コレだけの図体だし、沢山の〝魔山椒〟が要るさねぇ?」
俄に色めき立つ、コッヘル商会勢。
「ウケケケケッ――ご安心おぉ♪」
ヴォヴォヴォヴォヴォヴォゥゥゥゥゥンッ――――へちり♪
何処からともなく飛んでくる、浮かぶ球さま。
指をパチリと上手には鳴らせなかった、美の女神の映像。
「踏み潰される前に、命がけで採ってきたのい」
立体映像へ向かって、スッと差し出される――小さな手。
魔術師姿の子供が、取り出したのは――
革ベルトにネジ止めされた、板状の魔法具。
猪蟹屋謹製、売られている製品の中では、一番大きな収納魔法具。
アレなら相当沢山の魔山椒が、詰められたことだろう。
「(さっきどっか行ってたのは、魔山椒を採りに行ってたんだな?)」
「(はい、そのようです。射撃諸元算定に、第四師団長の予知魔法を利用したのではと思っていましたが――魔山椒の群生地を占わせていた可能性があります)」
ちっ、そういうことか。
まあ良いぜ。
こと飯に関しちゃぁ、美の女神さまに最大限の便宜を図ってやるのは――
吝かでは無いからな。
なんせ、本気の五百乃大角に狙い撃ちされたら――
轟雷を着たおれや迅雷でも、逃げ果せるとは思えん。
そもそも美の女神さまが、飯がらみで癇癪を起こしたら――
この来世の地ごと、おれたちはお陀仏だ。
せめてエリアボスにして変異種の、あの大口を、今のうちに縛っておくか。
唱えた詠唱魔術が8倍になるってのわぁ、どう考えても頂けねぇ。
少なくとも口を開けねぇようにしときゃぁ、石や火を吐かれることはねぇだろうよ。
§
「ザザザッ――シガミー、本当に良いんだね?」
鬼娘が確認する。
「ああ、やってくれやぁ! もうこっちは変異種を、ふん縛ったからなぁ!――ニャァ♪」
巨大蟹をどうにか出来るなら、1342パケタも安いもんだぜ!
ただ総額で――幾らになったかは、気になる。
ふぉふぉふぉん♪
『>>未精算弾薬累計金額は、3,742パケタの大台に乗りました』
そんなに、いったかー。
ずっと物入りで、そこそこ厳しかった懐不合が、壊滅的になった。
こりゃぁ、変異種討伐の特別報奨金をあてにしても、足りんかもしれんぞ?
「良きわよ。弾代わぁ、あたくしさまが全額、持ってあげますよぇーん♪」
ふぉふぉ――ぽこん♪
『イオノ>ウケケケケケケケケッ♪ 岩山のような猪肉|(ジビエ)、つまり無限ビフテキに、無限ぼたん鍋! はかどるっ、超はかどりますわっ♪ あたくしさまの〝おかわり〟が!』
やい、梅干しさまよ。
えらく上機嫌だが、〝捕らぬ狸の皮算用〟なんて言葉も――
【地球大百科事典】にわぁ、載っとるぞ。
大丈夫かぁ?
ーーー
グテーズ・デュ・シシガニヤ/食に関する品質管理を請け負う〝料理評価者〟のこと。ここでは〝猪蟹屋筆頭味見役〟のこと。美の女神イオノファラーが担当する役職のひとつ。
魔山椒/マジック・ペッパーと呼ばれる、やや高級な香辛料。非力な者が採取すると、怪我をすることもある。
ジビエ/鴨や鹿や猪などの野鳥獣。またはその肉のこと。
捕らぬ狸の皮算用/取れてもいない獲物の、売買計画を立てること。
こちらに背を向け横たわる、エリアボス〝殲滅のビッグモクブート〟
「(変異種、完全に停止。気絶しているようです)」
あの巨体で転けたら、気ぃくらい失うわなぁ。
魔弾が砕いた、三つの巨大な岩石。
その下に堆積していた土砂や、木の根が吹き飛ばされ――
背丈も大分、縮まったが、それでもなお――
視界を埋め尽くす、見渡す限りの背中。
「こりゃぁ、まるで……星曼荼羅のようだな?――ニャァ♪」
現れたのは渦を描く、筆書きの紋様みたいな――
浮き出た毛皮の柄は、子供のソレよりも特徴的だった。
「ヴヴヴヴヴッ――――?」
蜂女ルガレイニアが鳴き声を上げ、女将さんへ蜂の眼を向けた。
「どうしたんだい、リオレイニア……あぁ? こりゃひょっとして――よっと」
轟雷の掌から飛び降りだ女将さんが、商会長を受け止め、そっと地面に降ろした。
「母さ……商会長、何かわかるかい?」
「ふむふむ、なるほどーぉ?」
ぺらぺらと、紙の大きさが区々で不格好な本を捲る、コッヘル商会長。
「そうね-、術式は基本的な物だけど、魔術詠唱の効果を……とてつもなく高めているわよぅ」
元宮廷魔導師である商会長さまが、そんなことを言う。
「(どうやらエリアボスの柄には、古代魔法――方陣結界のような効果があるようです)」
あの毛皮の模様には、機能があるらしい。
「それ自体は、ささやかな効果しか持たないけどー、魔方陣の大きさがとてつもないので――ひとつの渦巻きにつき……倍くらいの威力に強化され……るかしらぁ?」
その腕力に反して長閑な、商会長の顔が――ひどく、青ざめてやがる。
「倍って言うとぉ……渦は三つだから――8倍にもなるのか!?――ニャァ♪」
8倍って言ったら、どんなに弱い魔法でも、そこそこの威力になるだろ!?
「今すぐ、絞めちまおうぜ――ニャァ♪」
ガッキュゥゥゥゥゥンッ――――!
轟雷が太刀の柄に、手を延ばすと――
「グゲゲッゲッ? くけけぇ-♪」
どったどどった、どどったたったっ!
駆け寄る恐竜モドキ、怪我が無くて何よりだが――
その兜の奥に煌めく一つ目が、ギラリと光を放つ。
「お待ちなさいな、シガミー料理長。急いては事おぉ、し豚汁わよ♪」
誰が料理長だ。おれぁ料理番だぞ。
勝手に長を付けるんじゃねぇやぃ、猪蟹屋筆頭味見役め。
「何だと? また動き出されたら、厄介だろうがぁ?――ニャァ♪」
その身動きだけで、おれたちはひっくり返るぞ?
「その件ですが、エリアボスにして変異種化したモクブートは、自重に耐えきれず、脚を6本中4本、折っているようです」
蜂の魔神が、人の言葉で報告してくれた。
「かわいそうだが、もう起き上がるのは無理だな、ガハハハハッ♪」
工房長が巨大な金槌を――ドズズゥン!
足下に放り出した。
なら問題わぁ……ねぇーのか?
ふむ。本当にタターが一人で、倒しちまいやがった。
「なら良いが、魔法……か何かを吐かんとも限らなくね?――ニャァ♪」
この世界には、石や火を吐く狼なんかも居るしな。
「へっへーんだ! ブヒブヒ言うしか能の無い、猪の魔獣ちゃんがぁー自分に支援魔法を掛けた所でー、まぁ・るぅ・でぇー、脅威にーなぁらぁなぁいぃ件、ワロス♪」
ペラペララと喋り、ぺらぺららと何かを捲る気配。
ふぉん♪
『>>攻略本記載の、モクブート調理法を確認しているようです』
「こいつの調理法だぁ? だから、そんなのわぁ、仕留めてからで良いじゃねぇーか!――ニャァ♪」
轟雷は腕組みをし、横たわってなお、空を埋め尽くすほどの巨体を見上げた。
気絶してるウチに、絞めてやるのが仏性ってもんだ。
「はい、ははぁーい♪ モクブート調理のご用命でしたらぁー、我が〝コッヘル商会〟――いいえ、〝宿屋ヴィフテーキ食堂〟まで是非とも、ご相談をー♪」
「そいつぁー良いねぇ♪ そうしたら、コレだけの図体だし、沢山の〝魔山椒〟が要るさねぇ?」
俄に色めき立つ、コッヘル商会勢。
「ウケケケケッ――ご安心おぉ♪」
ヴォヴォヴォヴォヴォヴォゥゥゥゥゥンッ――――へちり♪
何処からともなく飛んでくる、浮かぶ球さま。
指をパチリと上手には鳴らせなかった、美の女神の映像。
「踏み潰される前に、命がけで採ってきたのい」
立体映像へ向かって、スッと差し出される――小さな手。
魔術師姿の子供が、取り出したのは――
革ベルトにネジ止めされた、板状の魔法具。
猪蟹屋謹製、売られている製品の中では、一番大きな収納魔法具。
アレなら相当沢山の魔山椒が、詰められたことだろう。
「(さっきどっか行ってたのは、魔山椒を採りに行ってたんだな?)」
「(はい、そのようです。射撃諸元算定に、第四師団長の予知魔法を利用したのではと思っていましたが――魔山椒の群生地を占わせていた可能性があります)」
ちっ、そういうことか。
まあ良いぜ。
こと飯に関しちゃぁ、美の女神さまに最大限の便宜を図ってやるのは――
吝かでは無いからな。
なんせ、本気の五百乃大角に狙い撃ちされたら――
轟雷を着たおれや迅雷でも、逃げ果せるとは思えん。
そもそも美の女神さまが、飯がらみで癇癪を起こしたら――
この来世の地ごと、おれたちはお陀仏だ。
せめてエリアボスにして変異種の、あの大口を、今のうちに縛っておくか。
唱えた詠唱魔術が8倍になるってのわぁ、どう考えても頂けねぇ。
少なくとも口を開けねぇようにしときゃぁ、石や火を吐かれることはねぇだろうよ。
§
「ザザザッ――シガミー、本当に良いんだね?」
鬼娘が確認する。
「ああ、やってくれやぁ! もうこっちは変異種を、ふん縛ったからなぁ!――ニャァ♪」
巨大蟹をどうにか出来るなら、1342パケタも安いもんだぜ!
ただ総額で――幾らになったかは、気になる。
ふぉふぉふぉん♪
『>>未精算弾薬累計金額は、3,742パケタの大台に乗りました』
そんなに、いったかー。
ずっと物入りで、そこそこ厳しかった懐不合が、壊滅的になった。
こりゃぁ、変異種討伐の特別報奨金をあてにしても、足りんかもしれんぞ?
「良きわよ。弾代わぁ、あたくしさまが全額、持ってあげますよぇーん♪」
ふぉふぉ――ぽこん♪
『イオノ>ウケケケケケケケケッ♪ 岩山のような猪肉|(ジビエ)、つまり無限ビフテキに、無限ぼたん鍋! はかどるっ、超はかどりますわっ♪ あたくしさまの〝おかわり〟が!』
やい、梅干しさまよ。
えらく上機嫌だが、〝捕らぬ狸の皮算用〟なんて言葉も――
【地球大百科事典】にわぁ、載っとるぞ。
大丈夫かぁ?
ーーー
グテーズ・デュ・シシガニヤ/食に関する品質管理を請け負う〝料理評価者〟のこと。ここでは〝猪蟹屋筆頭味見役〟のこと。美の女神イオノファラーが担当する役職のひとつ。
魔山椒/マジック・ペッパーと呼ばれる、やや高級な香辛料。非力な者が採取すると、怪我をすることもある。
ジビエ/鴨や鹿や猪などの野鳥獣。またはその肉のこと。
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