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別に君のことなんて覚えてないよ
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「誠に誠に申し訳ありません」
ある夏の日受話器に耳をつけながら俺はできる限りの笑顔を崩さないで対応した。
別にこの笑顔自体にはあまり意味はない。
だが人生を通してうわべの笑顔を続けるための訓練としてはこういうのも最適なのかもしれない。
俺は噓つきの笑顔で人生を塗り続けてきた。
でもそんな僕ですら、いやそんな僕だからこそ今死にたい気持ちになっていた。
別に嘘つきな自分が嫌になったという事ではない、それなら僕は戦国時代の侍より簡単に自害しなくてはならない。
母親が死んだのだ。
別に最愛の母が死んでしまったと自信を持って言えるほど仲睦まじいわけではない。
だがこんな仮面をつけた生活をしてきたせいで、社会人になってまで慰めてくれる人はいなかった。
人生の中でかなり大きいであろうイベントに誰も立ち会ってくれないのはさすがに悲しかった。
この日、業務が終わりいつも使っている駅に向かい電車を待っているとちょうど電車のチャイムが鳴った瞬間後ろには上司の姿があることに気づいた、その時僕は自分の顔が笑顔ではないことを反射的に感じ後退りしてしまった。
案の定鉄に飛ばされた。うすれ行く意識の中ちょうどいいと思ってしまった。
・・・・・・
・・・・・・
僕は生きていた、
ここはどこだろう病院にしては暖かすぎる色のベッドだった。
「だいじょうぶですか?」
何だろうこの声はぼやけた意識のなかで、声の宿主を探すとそこには少女がいた。
ただの少女ではないあまりに似ていたので逆に思い出すのに時間がかかったが、童話に出てくる赤ずきんそのもののような見た目の少女だった。
ハロウィンまで寝ていたのかと思ってしまった。
「申し訳ありません。」
いつもの営業スマイルでそういうと
「なんてことはないです、きれいなお顔が無事でよかったです。」
きれいなお顔?笑顔がうまかったということだろうか
「ところでお名前は?」
『ナディアです」
「はあ」
きらきらということなのだろうか?
「私をどこでみつけたのですか?」キマヅクならないように続けざまに聞くと
「いや昨日朝起きてみると、玄関前に倒れていたんです」
どういうことだろう夢なのかこれは
そんなことを考えていると、深い眠りついていて気づかなかったのだが、尿意を催していた。
「お手洗いお借りしてもよろしいですか?」
「はい」
お手洗いに行くと鏡があり何気なくその中を覗くと、信じれないほど美麗な女性が立っていた。
たとえるなら肌は雪兎のように白く鼻はリアス海岸のようにくっきりしていた。尚且つ口元はリップもしてないのに、太陽が割れたみたいに光っていた。
ほっぺをつねると痛みが頬の赤と共に咲いた。
わかった俺は転生している。
慣れない用を済ませ自分自身が心霊にでもなってしまったような衝撃を用と共に流し、気持ちを落ち着かせ寝かしつけられていた寝室に戻り少女にいろいろと聞いてみる事とした、
「ここら辺で君以外に住んでいる人はいるのかい、」
「ここらへんは集落になっているので多くはないが人はいます、その様子だと周辺の地理にはあまり詳しくないようですね、良かったらでいいのですがこの後は村を案内いたしましょう」
「いいのかい、申し訳ないボ、私には何も対価を支払うことができない」
「別に恩を売ろうとしているわけではないのです。むしろ貴方のことを知りたいという気持ちのほうが強いのです。これは私からの対価と思ってもらっていいです。」
純な笑顔でそういった。
僕の偽りの笑顔と違い裏も表もきれいな笑顔だった。
屈託がない、
「この家では一人暮らしかい?」少女に聞くには配慮が足りない質問かとも思ったが、今の僕ならば聞いても問題ないだろうとも思った。
少し間が開いた後窓を見て頭巾をかぶり直し「父がいます。この村では英雄とまで言われている自慢の父です」星満点のきれいな空を新月みたいに澄んだ目で見ながら言った。
「そうか」納得するように言った。
「この父にしてこの娘ありといった感じかな」
「ええ」自信満々に大福のような笑顔で言った
「ところで今は何時くらいなんだろう」部屋には時計がなかったので思わず口に出した。
「七時くらいかと、」
「なるほどこれは早いとこ案内してもらったほうがよさそうだね、」表情だけの笑顔でそう言うと
僕たちはランプを消し、西洋風玄関から家を出た。
外から見てみると意外と小さな木造民家だった。
少し歩くとトイレットペーパーを半分に割ったような丘がありそこを越えたら、数件の木製の民家が並んでおり、RPGの隠れ里のような雰囲気を感じた。
それ以外には廃れた井戸と腐った犬小屋くらいしかない。
中央にある砂利道を歩きながらそこら辺の民家に住んでいる人の名前をさらっと紹介してもらい突き当りにある他よりも少し大きな家の前まで来た。
「ここは村の長の家です、挨拶をしていきましょう。」
こんな小さな集落とはいえ、そこを統べるものに会うというのはどうも緊張する。
中に入ると円形状のテーブルに椅子が五六個並べられており、簡易的な会議室のような作りとなっていた。
「マクノンさん!」
明朗快活に比較的大きな声でかつ野蛮でないくらいに少女は声を上げた。
奥から所謂おじいさんがゆるりと来た。
自分を見るや否や別に警戒には値しないと感じたのか、
「どちらだそのお方は」
と鷹揚に言った。
「私にもまだあまりわかっていないのです。」
自分にしては珍しく今の気持ちを正直に伝えた。
「そうか」淡々としていた、警戒はしていないがよそ者にそこまでの関心がないともとれると思った。
少し間が開いて村長は、少女に向き直り、
「君の父は大丈夫かい?」
「はい命に別条はないそうです。」
「そうか、それは良かった」
「君の父は怪我でもしたのかい?」空気を紡ぐみたいに聞いてみた。
「はい狼に襲われたのです」
「お前さんの父は紛れもない英雄だ」憐れむように村長は言ったと思うと独り言のようにまた自分に確認させるように昔話を始めた。
「あるとき村の近くに大きな狼があらわれた、そのせいで村民ともどもはずっとおびえていて狩りにも山菜取りに行くにも警戒しながら生活していた、案の定そのオオカミが村まで降りてきたんだ。そしてナディア襲おうとした、大方よく働くまじめな子だったもので山で見かける機会も多かったんだろう。そして悲鳴を聞いて駆け付けたお前の父が傷を代償に狼を倒し村に安泰をもたらしたのだな、悲劇の英雄ともいえる。」自分のことを自慢するみたいに言っていた。
それに対して僕の悪い癖でもある。愛想笑いが出てしまった。
だが、村長はその笑顔に対して混じりけのないしわくちゃな笑顔で返してきた。
顔が違うとここまで違うものなのかと感動を覚えた。
大抵目上の人というのはこちらが仮面をつけた笑いをしてもそれを超える分厚い仮面をつけた笑いで返してくるものだ。
それから少し世間話をし挨拶をすましてから、村長宅を後にした。機械のように受け答えをしていたのであまり内容は覚えていない。どうでもいいものだった気がする。
少し歩いて先ほどの丘のあたりで、僕は意を決して言った
「逃げようかここから」静寂が流れた
「えどういうこと、、、」いつも通り優しい顔だったが声が上ずっていた
僕は彼女とは一切目を合わせず淡々と語った、また作り物の顔をしてしまうと思ったからだ。
「最初の違和感は案内したいと言ってくれた時、ふつう夜に近場とはいえ女二人で外に出ようとするのは少し不用心だ。
次は君が僕のことを知りたいと言ってくれた時だ、その時は素直にうれしいと感じたがそのあとも君は僕からの質問に答えるだけで僕に関して質問しようとしなかった。このことからまるで急いで何かから逃げようとしているみたいに僕は感じた。
加えて君は僕がこの家に住んでいる人を訪ねた時窓を確認した正確には窓に映っている自分をそして頭巾をかぶり直した。
その時までなぜ家の中で迄フードをかぶっているんだろうと不思議に思っていた。
だが僕はこの時一つの仮説にたどり着いた君が父親から虐待を受けているのではないかという、その形跡を隠そうとして夜の窓に映る自分を見たのではないかと推測した。
まだ確信はなかった。
フードに関してはこの世界ではそういう文化なのかもしれないし、いち早く僕を案内したいのかとも思った。
だがあの老人の話で確信に変わった。まともな親だったなら、オオカミが出るような山にこんな少女を働きに行かせるか?僕だったらこんなメンコイ子は行かせない
そして次の言葉で僕の推理はあらかた完成した。
なぜオオカミは山の中で君を襲わず、わざわざ村に降りてきて君を襲おうとしたのか
冷静に考えたら意味が分からない。
村民に見られてもいいことなんか狼からしてみたら何もない。人間を食ってしまう狼ならなおさらだ。
警戒されて人が山に来なくなるし自分の身を危険にさらすことにもなる。
つまり山から下りなければならない理由が必要だったのだ。
悲鳴を上げた君を守るという。
つまり、悲劇の英雄はオオカミだった。
大方君は山に入るうちに、オオカミと仲良くなった君の優しさならば動物と仲良くなるのも不思議じゃない。
そして言わずとも何となく感づいたのだろう君の異常に、動物は人間が思う以上に賢い。
それで悲鳴を聞いたオオカミが助けに入るもあえなく偽りの英雄に殺された。」
僕の考えの説明を終えて少女を見るとうつむいていた。
かけていい言葉が見つからずに少女の重すぎる沈黙を飲み込んでいると、全く自分とは違うはずで自分なんかより明らかな理不尽に覆われているはずなのに、なのに母が死んでだれにもその悲しみを打ち明けられないでいた自分とか重ね合わせてしまった。その時なぜか自然と心が口を動かした。
「たぶん僕には君のことを救ってやる力もなければ、君の親父を倒す武力もない、だけどこんな僕でも話し相手くらいだったら務まると思う、こんなときですら受け身になってしまう自分が恥ずかしいな、話す言葉もうまくまとめれないけど
要は「逃げればいいじゃないか」僕だってここへは逃げてきたみたいなもんなんだ。正直十年たったら君のことなんて皆忘れている。
君もみんなも君の父親だって一部品に過ぎない、そんな奴らのことをいつまでも覚えておくことはない僕のことも嫌いになったら忘れていい、どうせたかが部品なら少しでも、ほんの少しでも健気に自分の与えられた境遇で頑張るのも大事かもしんないだけど、部品だって逃げてもいいじゃん正直僕らの代わりなんてどこにでもいるよ,だって僕らはたかが一部品に過ぎないんだから、一緒に大家出しよう。」自分で言って、実に現代人的で最低で怠惰な言葉のオンパレードだと思った。
彼女顔を徐に上げると、ひとりぼっちのイルカが家族を呼ぶみたいに、叫んだんだ僕に向かって、
「うるさいんだよばか!なにもんなのあなた!何が「これは僕の推理だ」だよ、かっこつけないでほしいなほんと。
人の触れてほしくないところを無断で土足で踏み荒らして、その上逃げようって誘ったと思ったら、君の代わりはどこにでもいるよってあなた最低だよ、
あなた綺麗だけど恋愛とか苦手だよ多分、もうわからないわからないんだけど」
少し涙目になっていた、彼女のつやリンゴみたいにきれいな赤い目がより光った。
「最初は散歩気分でもいいんだよ、帰りたくなったら帰ってもいいし」
「あなたこんな大事なこと提案しといて、それはないよ!」彼女に冷静さが少し戻った。
しばらく考えたふりをした後彼女は
「なんかあなた一人じゃ心配だしついていきます。私も旅に同行します。」
その時、少し鼻をすすった気がした
言おうかとも思ったが怒られそうなので言わなかった。
ある夏の日受話器に耳をつけながら俺はできる限りの笑顔を崩さないで対応した。
別にこの笑顔自体にはあまり意味はない。
だが人生を通してうわべの笑顔を続けるための訓練としてはこういうのも最適なのかもしれない。
俺は噓つきの笑顔で人生を塗り続けてきた。
でもそんな僕ですら、いやそんな僕だからこそ今死にたい気持ちになっていた。
別に嘘つきな自分が嫌になったという事ではない、それなら僕は戦国時代の侍より簡単に自害しなくてはならない。
母親が死んだのだ。
別に最愛の母が死んでしまったと自信を持って言えるほど仲睦まじいわけではない。
だがこんな仮面をつけた生活をしてきたせいで、社会人になってまで慰めてくれる人はいなかった。
人生の中でかなり大きいであろうイベントに誰も立ち会ってくれないのはさすがに悲しかった。
この日、業務が終わりいつも使っている駅に向かい電車を待っているとちょうど電車のチャイムが鳴った瞬間後ろには上司の姿があることに気づいた、その時僕は自分の顔が笑顔ではないことを反射的に感じ後退りしてしまった。
案の定鉄に飛ばされた。うすれ行く意識の中ちょうどいいと思ってしまった。
・・・・・・
・・・・・・
僕は生きていた、
ここはどこだろう病院にしては暖かすぎる色のベッドだった。
「だいじょうぶですか?」
何だろうこの声はぼやけた意識のなかで、声の宿主を探すとそこには少女がいた。
ただの少女ではないあまりに似ていたので逆に思い出すのに時間がかかったが、童話に出てくる赤ずきんそのもののような見た目の少女だった。
ハロウィンまで寝ていたのかと思ってしまった。
「申し訳ありません。」
いつもの営業スマイルでそういうと
「なんてことはないです、きれいなお顔が無事でよかったです。」
きれいなお顔?笑顔がうまかったということだろうか
「ところでお名前は?」
『ナディアです」
「はあ」
きらきらということなのだろうか?
「私をどこでみつけたのですか?」キマヅクならないように続けざまに聞くと
「いや昨日朝起きてみると、玄関前に倒れていたんです」
どういうことだろう夢なのかこれは
そんなことを考えていると、深い眠りついていて気づかなかったのだが、尿意を催していた。
「お手洗いお借りしてもよろしいですか?」
「はい」
お手洗いに行くと鏡があり何気なくその中を覗くと、信じれないほど美麗な女性が立っていた。
たとえるなら肌は雪兎のように白く鼻はリアス海岸のようにくっきりしていた。尚且つ口元はリップもしてないのに、太陽が割れたみたいに光っていた。
ほっぺをつねると痛みが頬の赤と共に咲いた。
わかった俺は転生している。
慣れない用を済ませ自分自身が心霊にでもなってしまったような衝撃を用と共に流し、気持ちを落ち着かせ寝かしつけられていた寝室に戻り少女にいろいろと聞いてみる事とした、
「ここら辺で君以外に住んでいる人はいるのかい、」
「ここらへんは集落になっているので多くはないが人はいます、その様子だと周辺の地理にはあまり詳しくないようですね、良かったらでいいのですがこの後は村を案内いたしましょう」
「いいのかい、申し訳ないボ、私には何も対価を支払うことができない」
「別に恩を売ろうとしているわけではないのです。むしろ貴方のことを知りたいという気持ちのほうが強いのです。これは私からの対価と思ってもらっていいです。」
純な笑顔でそういった。
僕の偽りの笑顔と違い裏も表もきれいな笑顔だった。
屈託がない、
「この家では一人暮らしかい?」少女に聞くには配慮が足りない質問かとも思ったが、今の僕ならば聞いても問題ないだろうとも思った。
少し間が開いた後窓を見て頭巾をかぶり直し「父がいます。この村では英雄とまで言われている自慢の父です」星満点のきれいな空を新月みたいに澄んだ目で見ながら言った。
「そうか」納得するように言った。
「この父にしてこの娘ありといった感じかな」
「ええ」自信満々に大福のような笑顔で言った
「ところで今は何時くらいなんだろう」部屋には時計がなかったので思わず口に出した。
「七時くらいかと、」
「なるほどこれは早いとこ案内してもらったほうがよさそうだね、」表情だけの笑顔でそう言うと
僕たちはランプを消し、西洋風玄関から家を出た。
外から見てみると意外と小さな木造民家だった。
少し歩くとトイレットペーパーを半分に割ったような丘がありそこを越えたら、数件の木製の民家が並んでおり、RPGの隠れ里のような雰囲気を感じた。
それ以外には廃れた井戸と腐った犬小屋くらいしかない。
中央にある砂利道を歩きながらそこら辺の民家に住んでいる人の名前をさらっと紹介してもらい突き当りにある他よりも少し大きな家の前まで来た。
「ここは村の長の家です、挨拶をしていきましょう。」
こんな小さな集落とはいえ、そこを統べるものに会うというのはどうも緊張する。
中に入ると円形状のテーブルに椅子が五六個並べられており、簡易的な会議室のような作りとなっていた。
「マクノンさん!」
明朗快活に比較的大きな声でかつ野蛮でないくらいに少女は声を上げた。
奥から所謂おじいさんがゆるりと来た。
自分を見るや否や別に警戒には値しないと感じたのか、
「どちらだそのお方は」
と鷹揚に言った。
「私にもまだあまりわかっていないのです。」
自分にしては珍しく今の気持ちを正直に伝えた。
「そうか」淡々としていた、警戒はしていないがよそ者にそこまでの関心がないともとれると思った。
少し間が開いて村長は、少女に向き直り、
「君の父は大丈夫かい?」
「はい命に別条はないそうです。」
「そうか、それは良かった」
「君の父は怪我でもしたのかい?」空気を紡ぐみたいに聞いてみた。
「はい狼に襲われたのです」
「お前さんの父は紛れもない英雄だ」憐れむように村長は言ったと思うと独り言のようにまた自分に確認させるように昔話を始めた。
「あるとき村の近くに大きな狼があらわれた、そのせいで村民ともどもはずっとおびえていて狩りにも山菜取りに行くにも警戒しながら生活していた、案の定そのオオカミが村まで降りてきたんだ。そしてナディア襲おうとした、大方よく働くまじめな子だったもので山で見かける機会も多かったんだろう。そして悲鳴を聞いて駆け付けたお前の父が傷を代償に狼を倒し村に安泰をもたらしたのだな、悲劇の英雄ともいえる。」自分のことを自慢するみたいに言っていた。
それに対して僕の悪い癖でもある。愛想笑いが出てしまった。
だが、村長はその笑顔に対して混じりけのないしわくちゃな笑顔で返してきた。
顔が違うとここまで違うものなのかと感動を覚えた。
大抵目上の人というのはこちらが仮面をつけた笑いをしてもそれを超える分厚い仮面をつけた笑いで返してくるものだ。
それから少し世間話をし挨拶をすましてから、村長宅を後にした。機械のように受け答えをしていたのであまり内容は覚えていない。どうでもいいものだった気がする。
少し歩いて先ほどの丘のあたりで、僕は意を決して言った
「逃げようかここから」静寂が流れた
「えどういうこと、、、」いつも通り優しい顔だったが声が上ずっていた
僕は彼女とは一切目を合わせず淡々と語った、また作り物の顔をしてしまうと思ったからだ。
「最初の違和感は案内したいと言ってくれた時、ふつう夜に近場とはいえ女二人で外に出ようとするのは少し不用心だ。
次は君が僕のことを知りたいと言ってくれた時だ、その時は素直にうれしいと感じたがそのあとも君は僕からの質問に答えるだけで僕に関して質問しようとしなかった。このことからまるで急いで何かから逃げようとしているみたいに僕は感じた。
加えて君は僕がこの家に住んでいる人を訪ねた時窓を確認した正確には窓に映っている自分をそして頭巾をかぶり直した。
その時までなぜ家の中で迄フードをかぶっているんだろうと不思議に思っていた。
だが僕はこの時一つの仮説にたどり着いた君が父親から虐待を受けているのではないかという、その形跡を隠そうとして夜の窓に映る自分を見たのではないかと推測した。
まだ確信はなかった。
フードに関してはこの世界ではそういう文化なのかもしれないし、いち早く僕を案内したいのかとも思った。
だがあの老人の話で確信に変わった。まともな親だったなら、オオカミが出るような山にこんな少女を働きに行かせるか?僕だったらこんなメンコイ子は行かせない
そして次の言葉で僕の推理はあらかた完成した。
なぜオオカミは山の中で君を襲わず、わざわざ村に降りてきて君を襲おうとしたのか
冷静に考えたら意味が分からない。
村民に見られてもいいことなんか狼からしてみたら何もない。人間を食ってしまう狼ならなおさらだ。
警戒されて人が山に来なくなるし自分の身を危険にさらすことにもなる。
つまり山から下りなければならない理由が必要だったのだ。
悲鳴を上げた君を守るという。
つまり、悲劇の英雄はオオカミだった。
大方君は山に入るうちに、オオカミと仲良くなった君の優しさならば動物と仲良くなるのも不思議じゃない。
そして言わずとも何となく感づいたのだろう君の異常に、動物は人間が思う以上に賢い。
それで悲鳴を聞いたオオカミが助けに入るもあえなく偽りの英雄に殺された。」
僕の考えの説明を終えて少女を見るとうつむいていた。
かけていい言葉が見つからずに少女の重すぎる沈黙を飲み込んでいると、全く自分とは違うはずで自分なんかより明らかな理不尽に覆われているはずなのに、なのに母が死んでだれにもその悲しみを打ち明けられないでいた自分とか重ね合わせてしまった。その時なぜか自然と心が口を動かした。
「たぶん僕には君のことを救ってやる力もなければ、君の親父を倒す武力もない、だけどこんな僕でも話し相手くらいだったら務まると思う、こんなときですら受け身になってしまう自分が恥ずかしいな、話す言葉もうまくまとめれないけど
要は「逃げればいいじゃないか」僕だってここへは逃げてきたみたいなもんなんだ。正直十年たったら君のことなんて皆忘れている。
君もみんなも君の父親だって一部品に過ぎない、そんな奴らのことをいつまでも覚えておくことはない僕のことも嫌いになったら忘れていい、どうせたかが部品なら少しでも、ほんの少しでも健気に自分の与えられた境遇で頑張るのも大事かもしんないだけど、部品だって逃げてもいいじゃん正直僕らの代わりなんてどこにでもいるよ,だって僕らはたかが一部品に過ぎないんだから、一緒に大家出しよう。」自分で言って、実に現代人的で最低で怠惰な言葉のオンパレードだと思った。
彼女顔を徐に上げると、ひとりぼっちのイルカが家族を呼ぶみたいに、叫んだんだ僕に向かって、
「うるさいんだよばか!なにもんなのあなた!何が「これは僕の推理だ」だよ、かっこつけないでほしいなほんと。
人の触れてほしくないところを無断で土足で踏み荒らして、その上逃げようって誘ったと思ったら、君の代わりはどこにでもいるよってあなた最低だよ、
あなた綺麗だけど恋愛とか苦手だよ多分、もうわからないわからないんだけど」
少し涙目になっていた、彼女のつやリンゴみたいにきれいな赤い目がより光った。
「最初は散歩気分でもいいんだよ、帰りたくなったら帰ってもいいし」
「あなたこんな大事なこと提案しといて、それはないよ!」彼女に冷静さが少し戻った。
しばらく考えたふりをした後彼女は
「なんかあなた一人じゃ心配だしついていきます。私も旅に同行します。」
その時、少し鼻をすすった気がした
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