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八十四話 母たちの会話
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娘である繭奈が、どこの馬の骨とも知れぬ男の子と交際をしている。そのことを知った私は、昨晩から頭を抱えていた。仕事中にもかかわらず上の空になってばかりで、これではいけないと頭を振って思考を払う。
しかし、なかなか心のざわつきは落ち着きを見せなかった。
変な子に引っ掛かっていたらどうしよう。そんな悩みは尽きないままで、舞智くんの言葉も飲み込めずに、仕事中も同僚から心配される始末。
「大丈夫?白雪さん」
「蔵真さん……そうね、あんまり大丈夫とは言えないわ」
休憩中に声をかけてきたのは、同僚である蔵真さん。先ほどからの私の様子を見たのだろう。
彼女はコーヒーの入ったマグカップを片手に、私の向かい側の椅子に座る。
「白雪さんがそんなに悩むなんて、もしかして娘さんのこと?」
「えぇ。どうやら恋人ができたみたいなんだけど、そのことが心配で心配で……」
蔵真さんも私も、互いに子供がいることは把握している。部署は違うものの、他の同僚たちと子供談義を楽しんでいることがきっかけで話すようになった。
だからなのか、私が繭奈のことで悩んでいることを察したようだ。
私はここそとばかりに、胸に抱えた悩みを話す。少しでも吐き出さないと、不安に押し潰されてしまいそうだから。
「へぇ……あれ?白雪さんの娘さんって、夏休み前から交際をされてなかった?」
「え?」
私の話を聞いた蔵真さんが、なにかを思い出すような仕草をして、なにやら心当たりがあるのか確認をとってきた。
突然のことに困惑したけれど、昨日の舞智くんとの会話を思い出して首肯する。
「ずっと聞こうと思っててタイミングを逃してたから今更になっちゃったけど、白雪さんの娘さんって繭奈ちゃんでしょ?」
「え、そうだけど……蔵真さんって、繭奈と会ったことがあるの?」
蔵真さんから語られた内容に、思わず顔を上げて目を見開き尋ねる。もしかして……と、ひとつの可能性が頭によぎった。
「うん。うちの子が夏休み前に、繭奈ちゃんと遊んでてね。偶然顔を合わせたから挨拶したんだけど、最近は白雪さんと喋るタイミングがなかったじゃない?」
「あ、っあー……そうね」
想定していなかった展開に、上手く言葉が紡げない。蔵真さんの言う通り、この一ヶ月二ヶ月の間彼女との勤務時間がズレていたことで、同じく休憩時間もズレていた。
そのため、こうして時間を取れなかったのだ。
「だから、そのことについてなかなか話せなくてね。それでその時にうちの龍彦が、繭奈ちゃんのことを彼女だよって言ってたの。話すのが遅れてごめんなさいね」
「いっいえ、大丈夫。でもそうだったの、蔵真さんのね……実はうちの旦那も、龍彦くんと会ったみたいなの。随分と気に入っていたわ」
繭奈の相手が蔵真さんの息子さんだったと知り、思わずスッと心が軽くなる。彼女の子供なら、たしかに安心かもしれない。
「ふふ、そうなの?それは嬉しいわね。私も、繭奈ちゃんはすごく良い子だと思ったわ。すごく仲良しみたいだったし、私としては応援したいけど、白雪さんはやっぱり心配?」
「心配ではあったけど、蔵真さんの子なら安心よ。おかげでだいぶ気が楽になったもの」
部署違いとはいえ、蔵真さんは同じ会社の人間だ。彼女の評価だって聞いている。
仕事ができることは知っているし、人としても信頼を置かれていることも知っている。以前話したときにも、彼女の龍彦くんへの愛情はちゃんと知っているし、家庭環境もそうかけ離れて悪いということもないだろう。
ヤンチャしているような子だったらさすがに嫌だったけど、そんな様子でもなさそうだし、また今度繭奈に言って、龍彦くんにご挨拶させてもらおうかしら。
「それなら良かった。もし嫌って言われたらどうしようかと思っちゃった。やっぱり、相手の子がどんな人か分からないと、親としては心配よね。とくに女の子なら尚更」
「そうなのよ。いつだって異性絡みの物騒な話はなくならないでしょ?だから、うちの子がもしそういうのに巻き込まれたらって心配だったのよ」
学歴や成績で人は測れないけれど、それでも一定の成績は修められる人でないと、信頼はできないだろうという考えがあった。もちろんそれが絶対ではないだろうけど、相手のことが分からないのなら、少しでも成績が高くあってほしいと思っていた。
けれど、そんな心配は不要だと分かった今、繭奈にはひどいことを言ってしまったと後悔する。帰ったらちゃんと謝ろう。
あぁもう、外野の私がこんなに取り乱して、みっともない……
しかし、なかなか心のざわつきは落ち着きを見せなかった。
変な子に引っ掛かっていたらどうしよう。そんな悩みは尽きないままで、舞智くんの言葉も飲み込めずに、仕事中も同僚から心配される始末。
「大丈夫?白雪さん」
「蔵真さん……そうね、あんまり大丈夫とは言えないわ」
休憩中に声をかけてきたのは、同僚である蔵真さん。先ほどからの私の様子を見たのだろう。
彼女はコーヒーの入ったマグカップを片手に、私の向かい側の椅子に座る。
「白雪さんがそんなに悩むなんて、もしかして娘さんのこと?」
「えぇ。どうやら恋人ができたみたいなんだけど、そのことが心配で心配で……」
蔵真さんも私も、互いに子供がいることは把握している。部署は違うものの、他の同僚たちと子供談義を楽しんでいることがきっかけで話すようになった。
だからなのか、私が繭奈のことで悩んでいることを察したようだ。
私はここそとばかりに、胸に抱えた悩みを話す。少しでも吐き出さないと、不安に押し潰されてしまいそうだから。
「へぇ……あれ?白雪さんの娘さんって、夏休み前から交際をされてなかった?」
「え?」
私の話を聞いた蔵真さんが、なにかを思い出すような仕草をして、なにやら心当たりがあるのか確認をとってきた。
突然のことに困惑したけれど、昨日の舞智くんとの会話を思い出して首肯する。
「ずっと聞こうと思っててタイミングを逃してたから今更になっちゃったけど、白雪さんの娘さんって繭奈ちゃんでしょ?」
「え、そうだけど……蔵真さんって、繭奈と会ったことがあるの?」
蔵真さんから語られた内容に、思わず顔を上げて目を見開き尋ねる。もしかして……と、ひとつの可能性が頭によぎった。
「うん。うちの子が夏休み前に、繭奈ちゃんと遊んでてね。偶然顔を合わせたから挨拶したんだけど、最近は白雪さんと喋るタイミングがなかったじゃない?」
「あ、っあー……そうね」
想定していなかった展開に、上手く言葉が紡げない。蔵真さんの言う通り、この一ヶ月二ヶ月の間彼女との勤務時間がズレていたことで、同じく休憩時間もズレていた。
そのため、こうして時間を取れなかったのだ。
「だから、そのことについてなかなか話せなくてね。それでその時にうちの龍彦が、繭奈ちゃんのことを彼女だよって言ってたの。話すのが遅れてごめんなさいね」
「いっいえ、大丈夫。でもそうだったの、蔵真さんのね……実はうちの旦那も、龍彦くんと会ったみたいなの。随分と気に入っていたわ」
繭奈の相手が蔵真さんの息子さんだったと知り、思わずスッと心が軽くなる。彼女の子供なら、たしかに安心かもしれない。
「ふふ、そうなの?それは嬉しいわね。私も、繭奈ちゃんはすごく良い子だと思ったわ。すごく仲良しみたいだったし、私としては応援したいけど、白雪さんはやっぱり心配?」
「心配ではあったけど、蔵真さんの子なら安心よ。おかげでだいぶ気が楽になったもの」
部署違いとはいえ、蔵真さんは同じ会社の人間だ。彼女の評価だって聞いている。
仕事ができることは知っているし、人としても信頼を置かれていることも知っている。以前話したときにも、彼女の龍彦くんへの愛情はちゃんと知っているし、家庭環境もそうかけ離れて悪いということもないだろう。
ヤンチャしているような子だったらさすがに嫌だったけど、そんな様子でもなさそうだし、また今度繭奈に言って、龍彦くんにご挨拶させてもらおうかしら。
「それなら良かった。もし嫌って言われたらどうしようかと思っちゃった。やっぱり、相手の子がどんな人か分からないと、親としては心配よね。とくに女の子なら尚更」
「そうなのよ。いつだって異性絡みの物騒な話はなくならないでしょ?だから、うちの子がもしそういうのに巻き込まれたらって心配だったのよ」
学歴や成績で人は測れないけれど、それでも一定の成績は修められる人でないと、信頼はできないだろうという考えがあった。もちろんそれが絶対ではないだろうけど、相手のことが分からないのなら、少しでも成績が高くあってほしいと思っていた。
けれど、そんな心配は不要だと分かった今、繭奈にはひどいことを言ってしまったと後悔する。帰ったらちゃんと謝ろう。
あぁもう、外野の私がこんなに取り乱して、みっともない……
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