クールで一途な白雪さん

SAKADO

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八十六話 いじられ繭奈

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 中学時代の出会いから交際が始まるまでの話が繭奈まゆなの口から語られて、唯那ゆうなさんがこちらを見て呟いた。

龍彦たつひこくん、迷惑じゃなかった?」

 濁流のような勢いで語られた繭奈まゆなの話を聞いた後、唯那ゆうなさんが申し訳なさそうに尋ねてきた。ところどころ鼻息すごかったもんね。

「迷惑ではなかったですけど、正直だいぶ困りましたね」

「もう、龍彦たつひこくん」

 俺の本音に、隣に座っている繭奈まゆなが身を寄せて抗議の意を示す。かわいい。
 そんな俺たちを見て、唯那ゆうなさんはふふっと優しく微笑んだ。

「仲が良さそうで良かった。それにしても、龍彦たつひこくんも大変だったのね。盗みのでっち上げをされたのに、繭奈まゆなからがっかりされるだなんて」

「ほんとに意味分かりませんよね。普通盗られたら嫌がるだろうに」

 唯那ゆうなさんが言ったのは、やっぱりというか、中学時代のペンのくだりであった。面倒な話だしバカみたいだから、あんまりコスられたくないんだけどな。
 繭奈まゆなはあろうことか "龍彦たつひこくんが盗っていたらと想像してたから、違うと知って少しがっかりした "と言ったのである。
 これにはさすがに、唯那ゆうなさんもドン引きであった

「仕方ないじゃない、好きだったんだから!」

「あれでも、それってきっかけじゃなかった?」

「そうよね?」

 弁明にもならない繭奈まゆなの言い分に、俺と唯那ゆうなさんが疑問を抱く。ペンやらなんやらのくだりは、あくまで彼女が俺に興味を持つきっかけだったはず。あれれーおかしいぞー?

 首を傾げる俺たちに、繭奈まゆなはムスッとむくれてしまった。かわいすぎる。

「そんなの、がっかりしたのは思い出したあとに決まってるじゃない。二人して意地悪ばっかり、やめてよね」

「あら、拗ねちゃったわね」

「かわいいなおい」

 ご機嫌斜めといった繭奈まゆなを見て、からかうように言った唯那ゆうなさん。対する俺は、思わず本音を漏らす。
 すると、それを聞いた繭奈まゆながバッと勢い良くこちらを見て、ギュッと腕に抱きついてくる。唯那ゆうなさんの前で恥ずかしくないんか?俺は恥ずい。
 それにしても、機嫌直るの早いな。

「もうすっかりくびったけね。さて、若い二人は部屋にでも行って、好きなだけイチャイチャしてなさい」

「はいママ!」

 嬉しそうな唯那ゆうなさんに、繭奈まゆなが良い返事で俺の腕を掴んで立ち上がる。相変わらず勢いが凄まじい彼女であるが、親としてはどう思っているのか、随分と楽しそうに眺めている。

 そんね唯那ゆうなさんに会釈をして、俺は繭奈まゆなの部屋へと連れていかれるのであった。


 そしてここは彼女の部屋である。二人で並びベッドに腰を下ろすと、繭奈まゆなが開口一番に、とんでもないことを言い出した。

「よし、脱ぎなさい」

「いきなりなに言ってんだバカタレ」

 部屋に入って早々なにを言っているのか、繭奈まゆなの頭は随分とピンク色のようだ。彼女の目は相変わらず鋭いままで、しかしどことなく柔和な気もする。
 半分本気といったところか。

「だって龍彦たつひこくんったら、マっお母さんと一緒になってからかってくるんだもの。やられっぱなしじゃ気が済まないわ」

 そう言いながら、繭奈まゆなは俺の膝の上に乗っかってくる。その両手は俺の肩に添えられており、今にも口付けをされてしまいそうだ。

「そうかそうか、かわいい奴だな繭奈まゆなは。それはそうと、別に無理してお母さん呼びしなくても良いと思うけど」

「ぅっ……だって、恥ずかしいし」

 俺の指摘に、繭奈まゆなが恥ずかしそうに顔を逸らして力なく答える。頬もほんのり朱に染まっており、それはそれは中々の破壊力であった。かわいすぎて叫びたい。

「さっきだって、ガッツリママ呼びしてたじゃん。俺の前では、素の繭奈まゆなが見たいな」

「んぐっ……そんなこと言われたら、無下にできないじゃない」

 なんだかんだ言いつつ、要望には応えてくれそうだ。


 さすがに大人のいる近くで、なにやらをするわけにはいかない。そのため、繭奈まゆなは不服そうだが行為は保留になった。
 その代わり、彼女には随分とあれこれされてしまった。マークとか付いてねぇだろうな。

「もうこんな時間だし、送っていこうか」

「お願いします。舞智まさとさん」

 すでに夜七時を過ぎて、とうに日の暮れた時間。舞智まさとさんが仕事を終えて帰宅し、少し話をした後送ってもらうことになった。

 学校を終えてからこちらに来たので、時間の経過が些か早く感じてしまう。そもそも夜までの時間が短いだけなのだが。

「本当は一緒に夜ご飯でもと思ったけど、そちらのお家でも用意があるでしょうし、また今度にしましょう」

「ありがとうございます。楽しみです」

 玄関にて、唯那ゆうなさんと別れのご挨拶だ。繭奈まゆな俺の隣におり、舞智まさとさんはドアを開けて待ってくれている。あまり待たせてもよくないだろう。

「是非また遊びに来てね。気を付けて」

「はい、また来ます」

 優しく微笑んだ唯那ゆうなさんとの挨拶を、繭奈まゆな舞智まさとさんは温かく見守ってくれていた。
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