90 / 97
八十九話 修羅場のはじまり
しおりを挟む
龍彦くんたら、昨日は随分と激しかった。既に付き合っているのに口説いてくるのだから、見も心もドロドロに溶けてしまうかと思ったわ。
昨日の行為を思い出しながら、今日のデートのために待ち合わせ場所に向かう。勢いあまって三十分ほど早く到着したけれど、そんなことは些末なことね。
遅れることに比べれば、待機する時間は気にもならない。なんなら昨日のことを思い出して悦に浸っていれば、大した時間にならないわ。
「あれ、繭奈?」
待ち合わせ場所の目印にしている看板の前に立っていると、誰かが声をかけてきた。話しかけてきたのは、見覚えのない男の子。
でも、私の下の名前を呼んできたことから、おそらく知人ではあると思う。しかし、相手の顔を見ても誰かは分からなかった。
「申し訳ないけれど、どなただったかしら?」
「忘れた?棚田だよ、棚田 翔」
「あっ……」
そう言われて気が付いた。彼は確か、小学校を卒業するまで一緒だった幼馴染だ。中学生になってからは引っ越したようで、ずっと会っていなかった。
龍彦くんと蓮くん以外では、唯一気が置けない相手だろう。元気そうで安心。
「翔くん、覚えているわ。元気そうでなによりね」
「思い出してくれたみたいでよかった。繭奈も元気そうで、俺も嬉しいよ」
彼はそう言ってニッコリと笑った。以前は人気者だったと記憶しているけれど、今もそうなのかしら?雰囲気を見るに楽しくやっていそうではある。
「そう。今日はお友達と?」
「あぁ、遊びにな。アイツらももう少しで来るだろうから、その間に喋ろうぜ」
彼の言葉に、私はコクリと頷いた。あんまり昨日のことを思い出していると、さすがにデートができる状態じゃなくなってしまう。即ホテルコースでは風情がないわね、悪くないけど。
それに、久しぶりに会った幼馴染との会話は存外悪くないもので、自然と頬が緩んだことが分かる。
「そっちはどうよ、楽しくやってる?」
「もちろん。楽しすぎて堪らないわ」
龍彦くんのおかげで、日々が楽しくて仕方ない。彼のような恋人に恵まれて、私は幸せ者ね。
そんなことを考えているからか、気付かないうちに笑顔になっていたようだ。それを見た翔くんが、ふふっと吹き出すように笑った。
「その表情、本当に楽しいんだね。すごいニヤニヤしてるよ」
「そうね。最近は幸せを痛感してるから」
「幸せか……良いことだな。前はずっと俺と一緒だったのに、すっかり変わっちゃって」
「成長したのよ」
たしかに、あの時の私はずっと彼の隣にいた気がする。ひとりっ子だった私にとって。頼れる兄のような存在だったから。
懐かしいことを言う彼の表情は、ほんの少し寂しそうに見えた。
「昔は、俺と結婚するとか言ってたのにな」
「そんな昔のことよく覚えてるわね」
「当たり前だろ、忘れるわけないじゃないか。繭奈はずっと、俺の妹みたいなもんだったからな」
とても懐かしい思い出。よくある幼馴染の将来の約束というやつだろう。
幼稚園の時から一緒だった彼は、本当に仲の良い友達であり隣人であり、兄でもあった。そしてそれは、彼も同じだったみたい。
そんな彼だからこそ、私の大切な人を紹介したい。仲良くして欲しいと思う。
でもそれは、なんとなく残酷なことのような気がした。
そう考えていると、向こうから龍彦くんがやってきていた。途中で合流したのか、隣には冬夏の姿もある。
しかし何故か、二人のその表情はどことなく硬く見えた。
そんな二人に手を振ろうとしたところで、いきなりグッと肩を抱かれた。相手は翔くんで、彼の目は龍彦くんに向かっていた。
驚きのあまりなにも言えない私の元に、険しい表情の龍彦くんがつかつかと詰め寄るように歩いてくる。
間違いなく誤解されている。
「俺の彼女になにか用?」
「用?用もクソもあるかよ」
翔くんは薄ら笑い、龍彦くんに挑発的な物言いをした。そもそも、なぜ翔くんが私を彼女だと?意味か分からない。
「ナンパなら他所行ってもらえるかな?迷惑なんだ」
「迷惑だぁ?こっちゃ待ち合わせしてんだよ。ナンパしてんのはお前だろ、ベタベタ触れてんな」
今まで見たことのないほどに怒気を孕ませた声で、龍彦くんは翔くんを睨みつける。というか、私はいつまでこの人に抱かれてないといけないのだろうか。
「ちょっ、翔くん?やめ──」
「大丈夫だよ繭奈。俺が守ってやるから」
「「「は?」」」
なにやら盛大に勘違いをしている翔くんは、なにやらかっこつけたように歯を見せた。そんな彼に、龍彦くんだけでなく私も冬夏も理解できなかった。
ん?じゃないのよ、やめろっつってんの話聞けや。勘違い男がよ。
昨日の行為を思い出しながら、今日のデートのために待ち合わせ場所に向かう。勢いあまって三十分ほど早く到着したけれど、そんなことは些末なことね。
遅れることに比べれば、待機する時間は気にもならない。なんなら昨日のことを思い出して悦に浸っていれば、大した時間にならないわ。
「あれ、繭奈?」
待ち合わせ場所の目印にしている看板の前に立っていると、誰かが声をかけてきた。話しかけてきたのは、見覚えのない男の子。
でも、私の下の名前を呼んできたことから、おそらく知人ではあると思う。しかし、相手の顔を見ても誰かは分からなかった。
「申し訳ないけれど、どなただったかしら?」
「忘れた?棚田だよ、棚田 翔」
「あっ……」
そう言われて気が付いた。彼は確か、小学校を卒業するまで一緒だった幼馴染だ。中学生になってからは引っ越したようで、ずっと会っていなかった。
龍彦くんと蓮くん以外では、唯一気が置けない相手だろう。元気そうで安心。
「翔くん、覚えているわ。元気そうでなによりね」
「思い出してくれたみたいでよかった。繭奈も元気そうで、俺も嬉しいよ」
彼はそう言ってニッコリと笑った。以前は人気者だったと記憶しているけれど、今もそうなのかしら?雰囲気を見るに楽しくやっていそうではある。
「そう。今日はお友達と?」
「あぁ、遊びにな。アイツらももう少しで来るだろうから、その間に喋ろうぜ」
彼の言葉に、私はコクリと頷いた。あんまり昨日のことを思い出していると、さすがにデートができる状態じゃなくなってしまう。即ホテルコースでは風情がないわね、悪くないけど。
それに、久しぶりに会った幼馴染との会話は存外悪くないもので、自然と頬が緩んだことが分かる。
「そっちはどうよ、楽しくやってる?」
「もちろん。楽しすぎて堪らないわ」
龍彦くんのおかげで、日々が楽しくて仕方ない。彼のような恋人に恵まれて、私は幸せ者ね。
そんなことを考えているからか、気付かないうちに笑顔になっていたようだ。それを見た翔くんが、ふふっと吹き出すように笑った。
「その表情、本当に楽しいんだね。すごいニヤニヤしてるよ」
「そうね。最近は幸せを痛感してるから」
「幸せか……良いことだな。前はずっと俺と一緒だったのに、すっかり変わっちゃって」
「成長したのよ」
たしかに、あの時の私はずっと彼の隣にいた気がする。ひとりっ子だった私にとって。頼れる兄のような存在だったから。
懐かしいことを言う彼の表情は、ほんの少し寂しそうに見えた。
「昔は、俺と結婚するとか言ってたのにな」
「そんな昔のことよく覚えてるわね」
「当たり前だろ、忘れるわけないじゃないか。繭奈はずっと、俺の妹みたいなもんだったからな」
とても懐かしい思い出。よくある幼馴染の将来の約束というやつだろう。
幼稚園の時から一緒だった彼は、本当に仲の良い友達であり隣人であり、兄でもあった。そしてそれは、彼も同じだったみたい。
そんな彼だからこそ、私の大切な人を紹介したい。仲良くして欲しいと思う。
でもそれは、なんとなく残酷なことのような気がした。
そう考えていると、向こうから龍彦くんがやってきていた。途中で合流したのか、隣には冬夏の姿もある。
しかし何故か、二人のその表情はどことなく硬く見えた。
そんな二人に手を振ろうとしたところで、いきなりグッと肩を抱かれた。相手は翔くんで、彼の目は龍彦くんに向かっていた。
驚きのあまりなにも言えない私の元に、険しい表情の龍彦くんがつかつかと詰め寄るように歩いてくる。
間違いなく誤解されている。
「俺の彼女になにか用?」
「用?用もクソもあるかよ」
翔くんは薄ら笑い、龍彦くんに挑発的な物言いをした。そもそも、なぜ翔くんが私を彼女だと?意味か分からない。
「ナンパなら他所行ってもらえるかな?迷惑なんだ」
「迷惑だぁ?こっちゃ待ち合わせしてんだよ。ナンパしてんのはお前だろ、ベタベタ触れてんな」
今まで見たことのないほどに怒気を孕ませた声で、龍彦くんは翔くんを睨みつける。というか、私はいつまでこの人に抱かれてないといけないのだろうか。
「ちょっ、翔くん?やめ──」
「大丈夫だよ繭奈。俺が守ってやるから」
「「「は?」」」
なにやら盛大に勘違いをしている翔くんは、なにやらかっこつけたように歯を見せた。そんな彼に、龍彦くんだけでなく私も冬夏も理解できなかった。
ん?じゃないのよ、やめろっつってんの話聞けや。勘違い男がよ。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる