90 / 103
八十九話 修羅場のはじまり
しおりを挟む
龍彦くんたら、昨日は随分と激しかった。既に付き合っているのに口説いてくるのだから、見も心もドロドロに溶けてしまうかと思ったわ。
昨日の行為を思い出しながら、今日のデートのために待ち合わせ場所に向かう。勢いあまって三十分ほど早く到着したけれど、そんなことは些末なことね。
遅れることに比べれば、待機する時間は気にもならない。なんなら昨日のことを思い出して悦に浸っていれば、大した時間にならないわ。
「あれ、繭奈?」
待ち合わせ場所の目印にしている看板の前に立っていると、誰かが声をかけてきた。話しかけてきたのは、見覚えのない男の子。
でも、私の下の名前を呼んできたことから、おそらく知人ではあると思う。しかし、相手の顔を見ても誰かは分からなかった。
「申し訳ないけれど、どなただったかしら?」
「忘れた?棚田だよ、棚田 翔」
「あっ……」
そう言われて気が付いた。彼は確か、小学校を卒業するまで一緒だった幼馴染だ。中学生になってからは引っ越したようで、ずっと会っていなかった。
龍彦くんと蓮くん以外では、唯一気が置けない相手だろう。元気そうで安心。
「翔くん、覚えているわ。元気そうでなによりね」
「思い出してくれたみたいでよかった。繭奈も元気そうで、俺も嬉しいよ」
彼はそう言ってニッコリと笑った。以前は人気者だったと記憶しているけれど、今もそうなのかしら?雰囲気を見るに楽しくやっていそうではある。
「そう。今日はお友達と?」
「あぁ、遊びにな。アイツらももう少しで来るだろうから、その間に喋ろうぜ」
彼の言葉に、私はコクリと頷いた。あんまり昨日のことを思い出していると、さすがにデートができる状態じゃなくなってしまう。即ホテルコースでは風情がないわね、悪くないけど。
それに、久しぶりに会った幼馴染との会話は存外悪くないもので、自然と頬が緩んだことが分かる。
「そっちはどうよ、楽しくやってる?」
「もちろん。楽しすぎて堪らないわ」
龍彦くんのおかげで、日々が楽しくて仕方ない。彼のような恋人に恵まれて、私は幸せ者ね。
そんなことを考えているからか、気付かないうちに笑顔になっていたようだ。それを見た翔くんが、ふふっと吹き出すように笑った。
「その表情、本当に楽しいんだね。すごいニヤニヤしてるよ」
「そうね。最近は幸せを痛感してるから」
「幸せか……良いことだな。前はずっと俺と一緒だったのに、すっかり変わっちゃって」
「成長したのよ」
たしかに、あの時の私はずっと彼の隣にいた気がする。ひとりっ子だった私にとって。頼れる兄のような存在だったから。
懐かしいことを言う彼の表情は、ほんの少し寂しそうに見えた。
「昔は、俺と結婚するとか言ってたのにな」
「そんな昔のことよく覚えてるわね」
「当たり前だろ、忘れるわけないじゃないか。繭奈はずっと、俺の妹みたいなもんだったからな」
とても懐かしい思い出。よくある幼馴染の将来の約束というやつだろう。
幼稚園の時から一緒だった彼は、本当に仲の良い友達であり隣人であり、兄でもあった。そしてそれは、彼も同じだったみたい。
そんな彼だからこそ、私の大切な人を紹介したい。仲良くして欲しいと思う。
でもそれは、なんとなく残酷なことのような気がした。
そう考えていると、向こうから龍彦くんがやってきていた。途中で合流したのか、隣には冬夏の姿もある。
しかし何故か、二人のその表情はどことなく硬く見えた。
そんな二人に手を振ろうとしたところで、いきなりグッと肩を抱かれた。相手は翔くんで、彼の目は龍彦くんに向かっていた。
驚きのあまりなにも言えない私の元に、険しい表情の龍彦くんがつかつかと詰め寄るように歩いてくる。
間違いなく誤解されている。
「俺の彼女になにか用?」
「用?用もクソもあるかよ」
翔くんは薄ら笑い、龍彦くんに挑発的な物言いをした。そもそも、なぜ翔くんが私を彼女だと?意味が分からない。
「ナンパなら他所行ってもらえるかな?迷惑なんだ」
「迷惑だぁ?こっちゃ待ち合わせしてんだよ。ナンパしてんのはお前だろ、ベタベタ触れてんな」
今まで見たことのないほどに怒気を孕ませた声で、龍彦くんは翔くんを睨みつける。というか、私はいつまでこの人に抱かれてないといけないのだろうか。
「ちょっ、翔くん?やめ──」
「大丈夫だよ繭奈。俺が守ってやるから」
「「「は?」」」
なにやら盛大に勘違いをしている翔くんは、なにやらかっこつけたように歯を見せた。そんな彼に、龍彦くんだけでなく私も冬夏も理解できなかった。
ん?じゃないのよ、やめろっつってんの話聞けや。勘違い男がよ。
昨日の行為を思い出しながら、今日のデートのために待ち合わせ場所に向かう。勢いあまって三十分ほど早く到着したけれど、そんなことは些末なことね。
遅れることに比べれば、待機する時間は気にもならない。なんなら昨日のことを思い出して悦に浸っていれば、大した時間にならないわ。
「あれ、繭奈?」
待ち合わせ場所の目印にしている看板の前に立っていると、誰かが声をかけてきた。話しかけてきたのは、見覚えのない男の子。
でも、私の下の名前を呼んできたことから、おそらく知人ではあると思う。しかし、相手の顔を見ても誰かは分からなかった。
「申し訳ないけれど、どなただったかしら?」
「忘れた?棚田だよ、棚田 翔」
「あっ……」
そう言われて気が付いた。彼は確か、小学校を卒業するまで一緒だった幼馴染だ。中学生になってからは引っ越したようで、ずっと会っていなかった。
龍彦くんと蓮くん以外では、唯一気が置けない相手だろう。元気そうで安心。
「翔くん、覚えているわ。元気そうでなによりね」
「思い出してくれたみたいでよかった。繭奈も元気そうで、俺も嬉しいよ」
彼はそう言ってニッコリと笑った。以前は人気者だったと記憶しているけれど、今もそうなのかしら?雰囲気を見るに楽しくやっていそうではある。
「そう。今日はお友達と?」
「あぁ、遊びにな。アイツらももう少しで来るだろうから、その間に喋ろうぜ」
彼の言葉に、私はコクリと頷いた。あんまり昨日のことを思い出していると、さすがにデートができる状態じゃなくなってしまう。即ホテルコースでは風情がないわね、悪くないけど。
それに、久しぶりに会った幼馴染との会話は存外悪くないもので、自然と頬が緩んだことが分かる。
「そっちはどうよ、楽しくやってる?」
「もちろん。楽しすぎて堪らないわ」
龍彦くんのおかげで、日々が楽しくて仕方ない。彼のような恋人に恵まれて、私は幸せ者ね。
そんなことを考えているからか、気付かないうちに笑顔になっていたようだ。それを見た翔くんが、ふふっと吹き出すように笑った。
「その表情、本当に楽しいんだね。すごいニヤニヤしてるよ」
「そうね。最近は幸せを痛感してるから」
「幸せか……良いことだな。前はずっと俺と一緒だったのに、すっかり変わっちゃって」
「成長したのよ」
たしかに、あの時の私はずっと彼の隣にいた気がする。ひとりっ子だった私にとって。頼れる兄のような存在だったから。
懐かしいことを言う彼の表情は、ほんの少し寂しそうに見えた。
「昔は、俺と結婚するとか言ってたのにな」
「そんな昔のことよく覚えてるわね」
「当たり前だろ、忘れるわけないじゃないか。繭奈はずっと、俺の妹みたいなもんだったからな」
とても懐かしい思い出。よくある幼馴染の将来の約束というやつだろう。
幼稚園の時から一緒だった彼は、本当に仲の良い友達であり隣人であり、兄でもあった。そしてそれは、彼も同じだったみたい。
そんな彼だからこそ、私の大切な人を紹介したい。仲良くして欲しいと思う。
でもそれは、なんとなく残酷なことのような気がした。
そう考えていると、向こうから龍彦くんがやってきていた。途中で合流したのか、隣には冬夏の姿もある。
しかし何故か、二人のその表情はどことなく硬く見えた。
そんな二人に手を振ろうとしたところで、いきなりグッと肩を抱かれた。相手は翔くんで、彼の目は龍彦くんに向かっていた。
驚きのあまりなにも言えない私の元に、険しい表情の龍彦くんがつかつかと詰め寄るように歩いてくる。
間違いなく誤解されている。
「俺の彼女になにか用?」
「用?用もクソもあるかよ」
翔くんは薄ら笑い、龍彦くんに挑発的な物言いをした。そもそも、なぜ翔くんが私を彼女だと?意味が分からない。
「ナンパなら他所行ってもらえるかな?迷惑なんだ」
「迷惑だぁ?こっちゃ待ち合わせしてんだよ。ナンパしてんのはお前だろ、ベタベタ触れてんな」
今まで見たことのないほどに怒気を孕ませた声で、龍彦くんは翔くんを睨みつける。というか、私はいつまでこの人に抱かれてないといけないのだろうか。
「ちょっ、翔くん?やめ──」
「大丈夫だよ繭奈。俺が守ってやるから」
「「「は?」」」
なにやら盛大に勘違いをしている翔くんは、なにやらかっこつけたように歯を見せた。そんな彼に、龍彦くんだけでなく私も冬夏も理解できなかった。
ん?じゃないのよ、やめろっつってんの話聞けや。勘違い男がよ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる