クールで一途な白雪さん

SAKADO

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九十三話 大嫌い

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 告美つぐみから語られる想いの数々。ずっと思い詰めていたであろう彼女に向けて、俺からかけられる言葉はなにもない。

「今さらそんな優しく突き放されたって、どうすればいいのか分からないよ。龍彦たつひこくんにとって私はただの友達なんだろうけど、私はそうじゃないんだよ?ずっと悩んでたんだよ?もっとたくさん遊びたかったし文化祭だって一緒に回りたかった。やりたいことだってたくさんあったけど、どんな顔すればいいのかだってなにも分からなかった」

 涙声で語られる告美つぐみの胸中に、返す言葉も頷くことも、目を逸らすことだっねなかった。勢いの強くなっていくソレを、俺は黙って受け入れていた。
 彼女の目からは、ポロポロと涙がこぼれていく。こんなにも傷付けてしまっていたのだと、自分の犯していた罪を自覚する。

「それなのに龍彦たつひこくんは、白雪しらゆきさんとも笹山ささやまさんと仲良くしてた。それを私がどんな気持ちで見てたか分かる?」

「っ……」

 告美つぐみの想いを前提に考えれば、俺のしたことは良くなかっただろう。それが分かるからこそなにも返すことができない。

「なんでなにも言わないの!なんか言ってよ!」

「……ごめん」

 気の利いた返しなど俺にはできるはずもなく、告美つぐみの悲痛な声をただ謝罪のみで受け止めることしかできない。なんの意味もないそんな言葉を、彼女は求めていないことを知っている。
 そんな情けない俺が見るに堪えなかったのか、告美つぐみは勢い良く立ち上がって、涙を乱暴に拭ぐってなにかを言おうと口を歪める。

 彼女の泣いた姿を見ているのが辛かった俺は、その罪から目を逸らすように小さく俯いてしまった。

「っ……!」

 告美つぐみは小さく声を出して、駆け出していった。もう俺の顔だって見たくないだろう。
 ふと、その走り去る背中に目を向けると、彼女はこちらを振り向いて力一杯に叫んだ。

龍彦たつひこくんなんて、大っ嫌い!」

 告美つぐみの心の叫びは、悲鳴にも似た拒絶の叫びとして放たれる。うるさいはずの木々のさざめきの中でも、その声だけはやけにハッキリと耳に残った。

龍彦たつひこくん」

 告美つぐみの走った方とは別のところから、繭奈まゆなが俺の名を呼んだ。そちらを見ると、そこには冬夏とうかと申し訳なさそうにした麗凪れなもいる。

「ごめんなさいね、どうしても気になって」

「しかし春波はるばちゃん、大っ嫌いときましたかー」

 謝る麗凪れなと、苦笑いしながら俺の肩に手を置く冬夏とうか繭奈まゆなはなにも言わず、俺の背中を撫でてくれている。

「刺されなかっただけマシだろ、申し訳ない気持ちでいっぱいだ」

「そうは言っても、要因を作ったのは私たちよ。あなたに文句を言うのは筋違いだと思う。さて、とりあえず告美あのこを追いかけてくるわね。きっと後悔してるだろうから」

 麗凪れなはそう言って、告美つぐみがの方へと走っていった。果たして、彼女が告美つぐみに追い付けるだろうか?

「私たちは、いつもみたいにしてましょ」

「そうだよ。龍彦たつひこってば、顔色悪いよ」

「そう、だな」

 二人に支えられながら、俺たちは家の方に向かう。今はとてもしんどい気分だし、身も心もしっかり休めるとしよう。


 ────────────


 私が彼に投げた言葉を、頭の中で繰り返す。天邪鬼すぎるソレに、今になって後悔してしまう。
 激情のままに走ったことで息を切らし、苦しさのままに服の胸辺りをギュッと握りしめる。

 大嫌い?そんなわけない。好きに決まってる。

 欲しいと思っているものが手に入らないから、癇癪を起こしてしまった。これはただの駄々こねだ。

 でも、今さらなにを悔いても遅い。きっと嫌われてしまった。自分から問題を作ったにも関わらず、悲しさのあまり八つ当たりのようなこともして。
 龍彦たつひこくんの立場に立ってみれば、最低極まりない話だ。でも今更なかったことにはできない。
 足取り重く、できることもないので家に向かう。端から見れば、今の私はまさにトボトボといった様子だろう。

告美つぐみ

 そんな私に後ろから声をかけたのは、友人である麗凪れなだ。走ってきたのか肩で息をしている。

「どうしたの、麗凪れな?」

「どうしたもこうしたもないでしょ。そんな顔して」

 荒い呼吸で麗凪れなが告げる。そういえば、泣いてたんだっけ。
 龍彦たつひこくんの前でみっともなく叫んで、あんなことまで言って。

「なにもなくてそんな顔しないでしょ?話くらいは聞くわよ」

 麗凪れなは私の肩に手を置いて微笑んだ。そんな友人に、私は吐き出すように泣き言をこぼす。

「……どうしよう。私、龍彦たつひこくんに嫌われちゃった。大嫌いなんて言っちゃった……ほんとは大好きなのに、大好きなのにいぃ……!」

 叫ぶように、吹き出すように本当の想いが出てくる。泣き崩れそうになる私を、麗凪れなは背中を撫でて支えてくれた。

「そっか、じゃあ明日ちゃんと謝らないとね。龍彦たつひこくんに」

「でも、でもぉ……」

 あんなことをした私の言葉を、果たして龍彦たつひこくんは聞いてくれるのだろうか。
 きっと、嫌がられるに決まってる。

「なんだかんだ、龍彦たつひこくんなら聞いてくれるでしょ。それとも告美つぐみは、龍彦たつひこくんがそんな冷たい人だと思う?」

「思わないけど、でも酷いことをしたのは私だし……」

 きっと無理だと、そう思えて仕方がない。もし拒絶されたら、嫌がられたとしたら。
 私はきっと、立ち直れないほどに落ち込むだろう。

 明日、龍彦たつひこくんと顔を合わせるのが怖い。
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