クールで一途な白雪さん

SAKADO

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九十五話 感極まって

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「おはよう龍彦たつひこくん」

「おはよ」

 教室に入ってすぐに元気よく挨拶したのは、もちろん告美つぐみであった。その溌剌とした様子に周囲の連中の数人はこちらに目を向ける。

「おはよう龍彦たつひこくん」

「おはよう」

 そんな告美つぐみを見てクスッと笑っていた麗凪れなも、こちらに挨拶をしてくる。すっかり立て直した告美つぐみにホッとする。

「おいっす龍彦たつひこ

「おはよー」

「おう」

 席について荷物を机にしまう俺のもとに、しげるがやってきて挨拶をしてきた。右手を上げる彼にこちらを上げて返す。その隣から挨拶をしてきたのは、彼の恋人である貝崎かいさき

 今更だが、彼女ともやることはヤったんだよな。今考えるとあり得ない話だ。スワッピングなぞあれっきりだ、二度とやらんぞ。

「仲直りした?」

「うん。龍彦たつひこくんとはこれからも、ラブラブ友達として一緒ってことなったよ」

「聞き捨てならねぇことが聞こえたな今」

 貝崎かいさきの耳打ちに、告美つぐみがアホなことを言いよった。なんだラブラブ友達って、恋人という概念ことばを知らない小学生が考えたようなネーミングセンスしてるぞ。

「小学生か告美おまえは」

龍彦たつひこおはよぅ!」

 アホなことを言った告美つぐみにツッコミを入れ、間髪を容れずに冬夏とうかが登校してきた。それを利用してか告美つぐみは聞こえないフリで誤魔化して、挨拶を返している。
 そんな彼女に視線を送るも無視なので、とりあえず俺も挨拶を返す。

「おはよう」

「あーあ、龍彦たつひこの家が近かったら一緒に来れるのにぃ。学校ここまでお預けとか、いい加減寂しいってのー」

「それは運が悪かったと思うしか」

「うーん。こうなったら、これから龍彦たつひこの家に住もうかな。ねぇいいでしょ?」

 どう考えても冗談なのだが、そんな冬夏とうかの言葉に周囲の男子連中がどよっとした。彼女のノリならこんなもんなんだけどな。
 そして、いつも通りの流れで彼女は俺の首に手を回して体重をかけてくる。ナニかが柔らかいね、むにゅっ じゃねぇのよ心地いいわチクショウ。

「アホ抜かせ、それなら繭奈まゆなが良い」

「それならアタシも混ぜてよ」

「恥ずかしいことばかり言うのはやめなさい」

 俺に絡んでいる冬夏とうかにピシャリと言ったのは、当然ながら繭奈まゆなである。かわいい。
 白雪しらゆきモードの彼女は、態度はクールだが言葉はデレ成分多めだ。俺に対してはね。

「うるさいなぁ。いつも一緒にいるアンタに言われたくねーっての」

「……ふっ」

「ぐぬぬっ、余裕なツラしおってからに……!」

 俺を挟んで繰り広げられる、繭奈まゆな冬夏とうかの漫才。そんな様子を見てしげるが苦笑いしている。

「なんか、大変そうってより楽しそうだな」

「まぁ、退屈しないのは間違ってない」

 二人のことは好きなので、俺としては嬉しい気持ちでいっぱいだ。とはいえ、どうしてこうなったのかという思いがあるにはあるが、わざわざ言うのは野暮ってものだろう。

 繭奈まゆな冬夏とうかに挟まれながら、そんなことを考える朝であった。



 そうして下校の時間を迎え、告美つぐみたちと別れて家に向かう。なんとか持ち直した俺や告美つぐみたちとの関係に、繭奈まゆなたちも微笑ましく見てくれていた。

「ようやく、お互いの気持ちが伝わったって感じね。春波はるばさんたちも、これで報われない想いを続けることもないし、龍彦たつひこくんも気を遣わなくていいし、一段落かしら」

「気を遣っていたかは微妙だけどな」

 あれだけ教室でベタベタしていたのだから、ぶっちゃけ今まで通りという方が正しいだろう。

「そう考えると申し訳ないよ、ホントに。もっと早くに気付いていれば良かったんだけどな」

「あら?知っててやってるんじゃなかったの?」

 俺の言葉に、繭奈まゆなが首を傾げてきた。知っててやっているとしたら、ただの嫌味なやつではないか。

「まさか、知らないに決まってるじゃないか。好かれてたなんて思わなかったしな」

「えっ、龍彦たつひこくん、もしかして忘れてたの?祭りの時話したじゃない、春波はるばさんたちがあなたを好きだって」

 繭奈まゆなにそう言われ、思わず足を止めてしまう。彼女の言葉を元に、夏祭りの時の記憶を呼び起こす。

「…………そっそういえば、そうだったような?」

 目を見開いた繭奈まゆなの言葉に、俺は冷や汗をかきながら首を傾げる。

 最近は繭奈まゆな冬夏とうかがいたので、完全にそちらに心を奪われていたのだ。二人が好きすぎてすっかり抜け落ちていた。

 そもそも、告美つぐみ麗凪れなも友達としての感覚が強すぎるんだもん。なんて、言い訳にもならないことを考える。

「っはぁー呆れた。そんな大問題を忘れるって、間抜けなんたか剛胆なんだか分かんないわ」

 すっかり呆れた冬夏とうかが肩を竦めて、掌を空に向け首を振る。いわゆるジェスチャーというやつだ。

「まぁ仕方ないわよ、あの後は色々と思い出深いことばかりだったもの。三人でヤるようにもなったわけだし、状況が大きく変わりすぎたんだから」

「まぁたしかに。そういえば最初は、アタシも龍彦たつひこに嫌なこと言って繭奈まゆなに怒られたもんね。忘れてたけど」

「でしょう?今の私たちの関係が大事すぎて、他のことがどんどん滲んでいっちゃう。私も龍彦たつひこくんのこと以外は、割と忘れてたりするもの」

 そんな繭奈まゆなのフォローに、冬夏とうかが たしかにと返す。二学期が始まってからも、繭奈まゆながだる絡みされてたしなぁ。
 そうでなくてもスワッピングとか、冬夏とうかも交えてとかあったんだ。もう訳が分からないよ。

 それだから仕方ない!みたいにする気はないが、事実は事実である。そう考えると、二人との関係はとても大きいものになっていたみたいだ。

「やっぱり……」

 そこまで言って口が止まる。そんな俺に、二人が名前を呼んでこちらを見た。

「……大好きなんだよな。繭奈まゆな冬夏とうかも」

 心の底から溢れてきた言葉。感情は満足に言い表せず、でも間違いではなかった。
 そんな感嘆交じりに言った俺に、二人は段々と顔を紅潮させていく。

「たっ龍彦たつひこってばなに言って──」

「おっほやべっ濡れたわ」

 照れながら俺の肩を叩く冬夏とうかだったが、対する繭奈まゆなが情緒もへったくれもないことを言い出した。
 絶句である。

「あー、繭奈まゆな?さすがにそれは引く」

「えっなに言ってるの冬夏とうか。私はただ感極まっただけよ」

「それにしたって台無しが過ぎる。んで、鼻血出てるぞ」

 無理のある言い訳を並べる繭奈まゆなから出た鼻血を、ポケットティッシュで拭う。いくらなんでも、感極まって汚い声とか発言とは恐れ入る。
 いったい何処が濡れるというのか。

「んむむ……そうかしら?私も大好きって言ったのに」

「濡れるつったろ」

 本気か嘘か分からない繭奈まゆなの言い分に、冬夏とうかがバシッとツッコんだ。
 しかし、繭奈まゆなはポカンとしている。

「もしかして、本音が飛び出てきたんじゃねぇのか?そんな感じする」

「かもしれないわね」

「っかぁーアンタらは!やっぱりアタシがいないとダメだね!」

 一番の常識人である冬夏とうかが、そう言って俺たちの手を掴んでいつもの道を先導していく。なんだかんだ、すっかり染まっている彼女に、同じようなものじゃないかと、思わず笑ってしまう今日この頃であった。
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