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1章・プロローグ

1話

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「ねぇさまぁぁぁぁ!!しなないでぇぇぇ!!うわぁぁぁぁん!!!!」

耳元で爆音で鳴り響く妹の泣き声に、寝ぼけた頭が覚醒する。
「、、、ロゼ?私を殺さないで?」
ゆっくりと目を開ければ、ボロ泣きの妹の姿が映る。
「ねぇ様!!起きたの!?わたし、おかぁさまを呼んできます!!!」
大きな瞳をさらに大きく見開き、私の起床を確認すると椅子から転がり落ちるように降り、部屋を飛び出して行った。

「へっ、あ、ロゼ!、、、ドレスの裾をたくしあげて走ってはいけません!!」
と叫んだものの、もう気づかない所まで行ってしまったのだろう。
相変わらず元気な妹ねと苦笑しながら先程まで見ていた夢の記憶を手繰り寄せる。

私は前世、ただのゲームオタクだった。
あ、仕事はしてましたよ。
OLで、そこそこ地位のあるしっかりとした社会人をやってました。
それで、休日は大体ゲームに費やしてたんです。
ゲームは基本RPGとかアクションゲームとかそういうもの。
たまに妹と弟から「これやって!!」と来るゲームも少々。
そしてその中には“乙女ゲーム”もあったり、、、
あとは、姉ともう1人の弟から流れてくるラノベ系の小説を読むことが多かった。

そんなゲーム+‪α 三昧な日々を送ってた訳ですが。
ある日会社の後輩が「これ、自分で書いた本なんですけど、先輩って的確なアドバイスたくさんくれるんで人助けだと思って読んで感想ください!」

と、言って渡された本が「乙女ゲームのモブに転生して気づいたら逆ハーに!?」というタイトル。

なんで私?と思わなくもないけど、とりあえず受けとって読んだ。
内容は、まぁ、、、いっぱい出回ってるし、ありふれてはいたけども。
“乙女ゲーム”の部分がオリジナルじゃなくて弟妹からせがまれて攻略したゲームの1つを、そのまま使っていた。
え、それいいの?色々大丈夫?引っかからない?

なんて思いながら通勤時間に読み進めてました。
えぇ、通勤時間に。

、、、お察しでしょうか。
電車の脱線事故で無事帰らぬ人になりました。

よく見る、真っ白な世界、そしてテーブルと椅子。
テーブルの上にはちゃっかりとティーセットが用意されていた。
椅子をすすめられ、腰掛けましたよ。
そしておなじみ
『申し訳ないのだけど、手違いで貴方は亡くなってしまったの。』
綺麗な女神様がでてきてそう告げるのもベタですもんね。
『、、、いいかしら?話を続けても。』
「あ、はい。すみません、、、えっと転生ですよね?」
『えぇそうよ~最近の子達は物分りが早くてありがたいわね~!』
今どき沢山流行ってますから、、、

ニコニコとしながら女神は説明を続ける。
『えぇっとね、私が貴方を転生をさせる理由としてはズバリ!』
「ズバリ?」
しれっと転生は確定のよう。

『最近、悪役令嬢とかモブちゃんとかそういう人たちがスポットライト浴びてばっかりだと思わない!?』
「、、、へ?」
『私ね、地球の読み物が大好きで沢山呼んでるのよ!』
あ、あなたの読んでた本も網羅してるわよ、とドヤ顔の女神。
「えっと、それが私の転生とどう繋がるんですか?」
『うふ、だからね王道のストーリーを作ろうと思ったの!』
「王道、、、ですか。」
『そうよ!まぁ、今どきの“王道”は沢山あるからこの表現はちょっと間違ってるかしら?』
そんなことはいいのよ!とにかくね!といいながらずずいっと顔を寄せてくる女神。
『貴方にはモブちゃんがヒロインになるのを防いできて欲しいの!その小説とかの内容はあなたが知っている物にするから!』
「どうせ死んじゃったんで、全然いいですけど、、、女神様、すっごく私情ですね?」
『うふふ、ごめんなさいね?でも、そうでもしてなきゃこの仕事が途方もなく辛いのよ~』
何億という魂を捌くのって集中力がすごく必要だからかしらね~!とニコニコしながらサラっと尋常じゃない数を示す女神。

「、、、そう、なんですね」
どこの世界でも、どんな人物(いや神だから人じゃないけど)でもブラックな職場ってあるんだなぁと、お疲れ様です、の意味も込めて女神を見つめていたら。

『ふふ、心配してくれてるのかしら?ありがとうね~!さて、有無を言わせない感じになってしまったのだけど、もう転生させる準備は整ってるの。さぁ、覚悟はいいかしら?』
「えっ!ちょっ、もう!?」

急に足元に現れるブラックホール。
人語を話せなくなり、そのまま落ちる私
ニコニコと手を振る女神

待ってください女神様、せめて、せめて、、、!!

「せめてあのお茶だけ飲まさせて欲しかったなぁぁぁぁ!!」
と、目の前に用意されてあった紅茶に思いを馳せる。
だって、あのお茶すっごくいい香りしたんだもん。絶対高級茶葉だよ。社長が飲んでた、、、気がする。

という今考えるとどうでもいいこと叫びながら落ちてきて、この世界に転生しました。はい。


結果として女神の言うヒロインは“乙女ゲームでヒロインとして紹介される悪役令嬢“ナヴィリア・アスタロン”という非常にややこしいものだった。

小説そのもののヒロインだったらモブなんだし難しく考えないでストーリーガン無視で魔法の世界を堪能できたのに、、、!!
と、自身の役回りを理解して崩れ落ちた時に思いました。


何はともあれ、今回は神様と話した時の記憶が戻ったんだなぁと、振り返る。
悪役令嬢、、、ねぇ。
この小説のヒロインはモブという立ち位置だったけど行く先々で乙女ゲームのイベントに鉢合わせ、ヒロインよりも目立ってしまい攻略対象者達に目をつけられ、気づいたら溺愛状態に。
それで、それに嫉妬した乙女ゲームのヒロインが小説のヒロインを亡き者にしようとして失敗し、牢屋に閉じ込められる。

その時に「いつか絶対復讐してやる!」なんて叫ぶものだから小説ヒロインの取り巻き攻略対象者が暗殺者を、、差し、向けて、それで、、、

「、、、殺されるんだもんなぁ~私」
「あら大変、ナヴィ?誰に殺されるのかしら?すぐにでもそのもの達をつぶ、、、貴方に近寄れないようにしなくては行けないわね。」

私が叫んだのと同時に、物騒な言葉を口にしながら母が部屋に入ってきた。
、、、母よ。小脇に抱えてるのは妹ですか?

「お母様」
「だいじょうぶよおかぁ様!わたしがねぇ様のかみのけいっぽんにふれさせませんわ!!」
「、、、ありがとうロゼ、ロゼが守ってくれるなら安心ね。」

でも、、、とりあえず母から下ろしてもらいなさい。
締まるものも締まらないから。

「へへ、だいすきなねぇ様を守れるならわたしはねずのばんでもへっちゃらです!」
「うん、睡眠はちゃんと取ろうね」
成長期は大事だからね。
「はい!ねぇ様がそうおっしゃるならねずのばんはやめます!!」

ふんす、と息巻く小脇に抱えられた妹。
あらあら家の末っ子ちゃんは頼もしいわね、とニコニコしながら娘を小脇に抱える母。

私はその光景を過去の記憶で何度も見てる為、諦めてスルーしながら母親に問う。
「お母様、家庭教師の方はどうなされましたか?」
「ロゼが貴方に突撃して気絶させてしまったから、授業はできないと思っていつも通り・・・・・馬車で送り届けてる所よ。」

あら、ちょうどその馬車が帰ってきたわね。
と窓の外を覗きながらそう答えられた。

いつも申し訳ない、、、先生。
まぁ、うちの妹は元気いっぱいなゴリ、、、パワフルっ子だから。
、、、何回か前に気絶させられた辺りから徐々に私の前世の記憶が戻ってきたのだけれど。

初めての記憶が戻ってきた時は妹のギャン泣きで目が覚めてすぐ、この体の持ち主“ナヴィリア・アスタロン”の記憶と前世の記憶が混ざり大混乱しながらとりあえず口に出したのは「わかった!あの紅茶の名前!!あれだ!ロン○フェルトのだわ!!」

あれ100gで2000円超えるんだよね
と、この国で誰も知りえない高級な紅茶メーカーの名前を叫び。
結果、頭の処理が追いつかずオーバーヒートで高熱を出しそのままパタンと倒れ、寝込んだ。

そして、姉が自分の抱擁ハグ(※殺人級)で倒れ起きたと思ったら急に紅茶の名前を叫んで気絶した。といった事柄は3歳・・だった妹には随分とショックだったらしく。
叫んだ紅茶の名前はこの世界には存在しないのだが数打ちゃ当たる精神で片っ端から紅茶を買ってきたらしく。
起きたら部屋埋まるんじゃないかってくらいに紅茶葉で埋まってた。
、、、今やっと3分の1が飲み終わった所でして。
毎日お腹を壊してます。えぇ、トイレと仲が良く。


まぁそんなことは置いといて。
前回までに蘇ったり、すり合わせたりして整理出来た記憶では私の前世が誰だったのか、とかナヴィリアがどんな人物か、とか身辺的なものと、この国、セルペンス王国について、というもの。

説明をしていくと、セルペンス王国はこの世界では土地が豊かで貿易も盛んな為、裕福で。
魔の森と隣接してるため自然と強い軍事力を持つようになった大国、との事。

そして私の家は“辺境伯”で魔の森と隣接してる領土を持ち、魔獣によって領民に被害が及ぶ前に討伐をする、いわゆる国境警備に近い役割を担っている。

あ、魔の森というのはそのまんま。
魔獣が産まれ、住み暮らしている森。
時折、外に出てくるのでそれを討伐してる。

とサラッと言うがその魔獣が恐ろしく強い。
記憶が戻ってから父に連れられた討伐に初参加した時はほんとに死ぬかと思った。

皆さん想像つきますか?
空飛びながら赤い光線撒き散らして更に畳み掛けるように氷の矢の雨を降り注ぐ3mはゆうに超える巨体の熊って。
それでもまだ魔の森では弱い個体だって言うんだから。

、、、戦えるかぁぁぁ!!!!

少し前までラブアンドピースな平和主義の国民だったんだよ!!勘弁してよ!!!

って怯えながら、そういえば熊は熊でもあの赤いシャツ着た黄色い熊は蜂蜜好きだったなってどうでもいいこと考えながらとりあえず適当に魔法放ったら、とんでもなく巨大で、蜂蜜入ってそうな陶器の壺が無数に上空から降り注いできた。

熊、圧死。
、、、え?(困惑)

なんて、呆然としてられる訳もなく。
大慌てで駆けつけた父に「今すぐ消せ!!!」と危機迫った顔で言われ、ワタワタしながら直ぐに壺は消したものの。
無詠唱でしかもなんでか陶器の壺(※しかも蜂蜜入ってそうな壺)を降らせたためその場に居合わせた人達には口止めしたが、なにぶん巨大だった為近くの村にはあの壺が見えてたらしい。
魔獣の森では壺が降るらしいぞ!とちょっと噂された。

でもまぁそこまでは良かった。

けど、、、ね?
やっぱり、、、私って、ゲームオタクだったものですから。
あんなに自由にできるなら、さ。
、、、極めたくなっちゃうじゃないですか、魔法。

ということで。
研究しまくって極めた無詠唱魔法でたった1人無双しながら嬉々として魔獣の群れに突っ込んでく狂人ただのアホとして領民には認識された。
「討伐の時以外は賢くて大人しい、優しいお嬢様なんだけどねぇ、、、」とのこと。やかましいわ。

ちなみに研究した、というか編み出した魔法は、火魔法なら温度を限界まで上げて青色にした方が威力上がるよね?って高温にする方法だったり。

水魔法から発展して氷魔法にする時、真空の方が凍るの速いし魔力の節約になるんじゃない?ってそもそも真空にする方法だったり。

土魔法で街の防護壁を強化できないかなって思って、鉄筋埋め込んだコンクリート壁作ったり。


、、、我に返ってやり過ぎたなって反省はしてます。あ、いえ、後悔はしてません。魔法って素晴らしい(心酔)

といったふうに魔法に傾倒してたら
「辺境伯家の長女は最強であるかもしれないがちょっとズレてる」
というなんともまぁ不名誉にねじ曲がった・・・・・・噂が王都にまで届いていた。

そして何故か国王の耳に届いたらしい。

えっ?アスタロンのとこの娘ってそんなの?は?炎が青くなる?氷魔法が真空?こんくりーと?なにそれ?

、、、うん!さすが親友の娘だね!革命的じゃないか!
え?既に何人かの貴族が誘拐未遂?暗殺者差し向けて返り討ちにあってる?
、、、ちょいちょい、連れてきて!色々話さなきゃヤバそう!!

ということで召喚されました。


次回、王都です。
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