実録~泥棒遊興伝~

FMげんちゃん

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第1章

旭川刑務所満期出所

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 ━━服役中も二つのことしか考えていなかった。一つは、どうやってパパラッチをやるか━━

 オレは、前刑の旭川刑務所を令和2年5月6日に刑期満了で満期出所した。このときの罪名も窃盗、及び、盗品等保管で、刑期は2年2ヶ月であった。このときすでに4度目の服役だった。それでも、中に入っている間も出たらパパラッチをやることを考えていた。
 出所の日、地元の後輩が旭川刑務所まで迎えに来てくれた。この後輩は、地元で雀荘と闇スロ店経営、それとウナギの稚魚の密漁を主な収入源にしていて、十代からの付き合いだった。後輩と一緒に埼玉まで戻り、その後、オレは実家に帰るつもりでいたが、

「闇スロ店にベッドがあるから、そこで寝泊まりしててもいいっすよ!」

 と後輩が言うので、オレはそのまま闇スロ店に行くことにした。
 正業につくつもりはなかったし、出所してしばらくはダラダラとゆっくり過ごすつもりでいたから、ここで寝泊まりしながら毎日プラプラすることにした。闇スロ店は日中誰も居ないので、昼間はプラプラしながらも、その実、パパラッチの下見だけはしっかりしていた。オレは服役前にもパパラッチをしており、それだけでもかなりの稼ぎを得ていた。だから服役中にも出たらまたパパラッチをやろうと考えていたのだ。
 だが、パパラッチを始めるのはそう簡単なことではない。まず、人手が必要だ。パパラッチという泥棒の性質上、万引きや空き巣のように、ポケットやバッグに入るものを盗む訳ではなく非常に重く大量の物を盗み出すことになり、なかなか独りではできない。
 次に、盗んだ物を運ぶ車も必須だ。当然、乗用車のようなものではなくそれだけの荷物が積める車でなくてはならない。よく使っていたのは軽バンだ。軽の方が小回りも利き、狭いところも入っていける。軽トラでは、積んだ物を縛ったり、走行中からの落下や周りの目もあり、あまり使わなかった。逆にトラックのような大きな車になると量は沢山積めるが、使い勝手が悪かった。また、目立つような傷や凹みがあるもの、珍しいカラーのものは避けていた。それらは、たとえナンバーを隠していたとしてもそれらが特徴となって特定される危険があるからだ。
 出所したばかりのオレには、このどれもなかった。車は安いものを探し出さなければならないが、人手に関しては当てがあった。シオミという地元の同級生でこのとき服役していた事件の共犯者であり、捕まる前は一緒にパパラッチもやっていた初代メンバーでもあった。
 ちなみに、旭川刑務所に行くことになった事件でシオミも逮捕されたが、全て不起訴処分となった。このことも後々詳しく話そうと思うが、逮捕される前にシオミから、

「服役中の面倒見はするから罪を背負ってくれないか」

 と相談された。オレは、二つ返事でそのことを了承した。オレはすでに前科があり実刑は免れないと分かっていたし、仲間をかばうことに躊躇ちゅうちょはなかったからだ。庇ったところで罪が極端に重くなる訳でもないし。
 そうしてこのときの共犯者シオミは、不起訴処分となり釈放され、オレは全ての事件を認め2年2ヶ月の実刑判決となったのだ。釈放されたシオミは、拘置所に居たオレの元に数度面会に来たし、服役中も手紙のやり取りは数回あった。しかし、約束していた服役中の面倒見はほとんどなかった。それでも、オレは何かが欲しくて庇ったという訳ではなかったから、最初のうちはそれほど恨む気持ちも湧いてはこなかった。出たらまた一緒にパパラッチをすればいいやと考えていた。
 だが、刑務所を出所してみると状況が一変していた。シオミは結婚していて一児のパパになっていたのである。そのため、

「もう悪いことができない」

 そう言い、オレとも付き合うことも難しいということだった。これにはオレも肩透かしを食らった気分だった。しかし、本人がそう言うのであれば仕方がない。仲間なのだから仲間の思いを尊重したいとそのときは考えていた。
 だが、そのあとシオミを相手に恐喝・詐欺・逮捕監禁事件を起こすことになる。その話は後述するとしよう。

 パパラッチを再開させるうまい算段が思いつかぬまま出所からあっという間に3ヶ月程経過した。その間、たまに兄貴分のシノギを手伝うこともあったが、基本毎日ブラブラしながら、パパラッチの下見だけはしていた。いいはあるのだが、現状では始めるのが難しかった。
 ある日、オレが寝泊まりしている闇スロ店に誰が呼んだのか旧友が集まった。出所してからも今まで親交のあった仲間達とはなかなか会えていなかったから、久しぶりの再会に酒を飲みながらの思い出話に大いに盛り上がった。過去に一緒にシノギをした者、今も悪いことをしている者、現在は真面目に働いて生活している者様々だが、沢山の仲間が久しぶりに集まったのだ。
 その中に、現在は結婚して真面目に働いているが、以前は一緒に悪いことでシノギをしていた幼なじみの「サル」という者も来ていた。

 サルとはもちろん動物の猿ではない。あだ名がサルというのだ。なぜそんなあだ名がついたのかは知らないが、出会った時には皆からサルと呼ばれていた。
 このサルとは、十代の頃に共通の友人を通して知り合ったのだが、出会った時から妙に馬が合い誰よりも仲良くなった。いつも一緒に行動をするようになり、自ずと一緒に悪さをするようになった。コイツとの共犯事件で逮捕されたのも一度や二度ではない。
 お互いそんな過去がある仲だから、オレはふとサルをパパラッチに誘ってみようという気になった。実は、サルも過去に6年間刑務所に服役していた過去があり、出所後は結婚し3歳になる娘もいた。犯罪からは足を洗い、嫁の尻に敷かれながらも正業に就き真面目に生活していた。
 それでも、金も遊びも好きな男だったから、誘い方によっては必ず話に乗ってくると踏んでいた。しかし、いきなり誘ってもビビって話には乗ってこないだろう。まずはサルと飲みに行き親交を深めていくことにした。後日改めて飲みに行く約束をして、その日はそれで解散となった。
 数日後、早速サルと飲みに出かけた。お互い刑務所に出たり入ったりの繰り返しですれ違いになり、こうして酒を酌み交わすのも実に10年振りのことだった。この会えなかった期間の埋め合わせをするかのように酌み交わし、実は、サルの生活ぶりを探るためでもあった。
 懐かしさに話も盛り上がり思い出話から自然と近況報告となっていった。
 結婚してからのサルは、サイディング屋で職人をしながら悪さをせず、いいパパをしていたようだ。しかし、仕事は日当1万円と給料は安く、来年には娘を幼稚園に入れなくてはならなくて、金が無くて大変だという話をしていた。結婚してからは生活もあるから遊びにも行けず、小遣いも少ないと嘆いていた。実際こうして飲みに出たのも久しぶりのことだという。
 サルが乗っていた車もオレが捕まる前から乗っていたポンコツの初代bBを未だに乗っていて、車を乗り換えるほどの余裕も今はないらしい。
 それでいてサルは多趣味な人間で、 釣り・バイク・車・酒・女・ギャンブルとどれも金のかかりそうなものが好きだったのだ。しかし、それも今じゃ何一つ満足にできていないとのことだった。貧しい生活とは言わないが、プライベートが充実しているとはとても言い難い。
 オレが聞きたかったのはそういう話だ。それが知れただけでも大収穫だ。サルも元々は根っからの遊び人で、そのところをくすぐってやれば必ずオレの話にも興味が湧いてくるだろうと思っていた。
 その後もサルとは頻繁に会うようになり、飯を食いに行ったり、飲みにもよく誘った。

「嫁と子供がいるからあまり出歩けない」

 サルはそう言いながらも、奢ってやるから来いというと、どこにでも必ず出てきた。嫁と子供がいるからというより、遊ぶ金がないというのが実情のようだった。そういうところを見て、サルの懐具合と本当のところを推し量っていたのだ。

(こいつなら誘えば話に乗っかってくるな)

 オレはそう確信した。
 その後も頻繁に飲みに誘い、酒を呑んではお金を出すのはいつもオレの方だった。オレは、出てきたばかりでこれといって収入源がある訳でもなかったから正直キツかったが、そんな顔は見せずどんどん遊びに誘った。飯に始まり、スナックや時にはキャバクラなどにも連れていった。本来は自分の生活費に使うお金だったのだが、これもサルに忘れてしまった遊び心を思い出して貰うための投資と思ってどんどんお金を使った。
 サルの方も、オレが働いていないことは知っていて、なのにどうしてこんなに羽振りがいいのか少し気にはなってるようだったが、特に訊かれることもなく、

「なんかいいシノギでもあるの?」

 みたいなことは訊かれたが、オレは、

「べつにこれといってないな~」

 というようにわざと誤魔化すような言い方をしてサルの気持ちを推し量っていた。もし、金稼ぎに興味があれば奴の方から必ず訊いてくるからだ。
 サルは、ふーんというように少し気にはなっているようだったが、探ってくるようなことはなかった。
 だが、その頃から飲みに行くと、

「もっと金があったらなぁ」
 とか
「なんかいいシノギねぇ~かなぁ~」

 などとサルは言うようになった。オレは、そろそろパパラッチについて切り出してもいいかと思い、

「そんなに金が欲しけりゃ、ちょっとした小遣い稼ぎならあるけどやってみる?」

 と、まるで連れションでも誘うかのような軽いノリで誘ってみた。あまり改まった話し方だと、サルも警戒してしまうので何気ないいつも通りの軽いジョークといった感じで話を切り出した。サルも結婚もしていたし子供がいたから、「もう悪いことはしたくない」と断られる可能性もある。だから、ここでサルの反応を見てみるつもりで軽く話したのだ。
 しかし以外にも、

「なになに?どんな話?」

 と、断るどころか前のめりに話を訊いてきた。これならパパラッチについて話しても問題ないと確信し、

「多少ヤバいことだが、まあ逮捕パクられることはない」

 オレは、そう前置きをしてパパラッチについて話し始めた。

「建設現場や解体屋の置き場などから、銅や真鍮を横取りして売っぱらうのさ」

 そんな簡単な説明だったが、サルも元々泥棒経験者だったし、以前解体屋などで働いていた経験もあり、そのような物が金になることも知っていて、すぐに何をしようとしているかは理解できたようだった。

「でも、そんな簡単に盗めるものなの?それにそう都合のいい置き場など簡単に見つかるかなぁ?」

 このときはまだサルは、パパラッチがいい稼ぎになる実感は湧いていなかった。

「それならやるやらないは別にして、1回一緒にどんなところか見に行ってみようぜ。見てみれば楽勝なのは分かるし、ヤバいと思えば帰ればいいんだし」

 百聞は一見にしかずだ。一度パパラッチを経験すれば簡単なことは分かるし、サルは一度やってしまえば、その後はタガが外れたようにやり始め歯止めが効かなくなるだろうというのも分かっていた。
 今日はとりあえず話までとして、後日一緒に行く約束をしてその日は解散となった。
 出てからなかなかができずにいたが、サルの登場により念願のパパラッチがようやく始動することになりそうだった。
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