月の国

ホムラ

文字の大きさ
28 / 127

㉘渡辺リュウタ

しおりを挟む
おかしいな。あいつ。また来ている

コーラルは、今、ラーラ姫のそっくりさんが、バイトに行ったのをカメラで撮影し終わったところだった。
カメラを仕舞って、ふとマンションを見た。

あれ?

マンションの前にあいつが立っている。

キョロキョロしている。

誰かを探しているみたいだ。

真上を見たり、こちらをみたり、右を見たり、左を見たりしている。

誰を待っているんだろう。

そして、こちらを見た。

目が合ったような気がした。

いや、そんなはずはない。

こんなところ、見えてるはずがない。

ここは、カメムシ引越センターの巨大ビルだ。

俺が、ここから、見ているなんて分かるわけがない。

非力な人間で、何のスキルも持たないあの男だ。

ここに俺がいるのが分かる訳がない。。。

いくら視力がよくても、人間には、見えないはずだ。

この距離だ。

あいつは、こちらをじっと見ている。

手を振っている。
手招きもしている。

嘘だろ。

「こっちへこい」とサインペンで書かれている紙を取り出して、俺に向かって見せている。

なるほどね。俺を探してたわけね。

我を忘れて、カッとなってしまった。

地球人相手に何してんだと思ったのは、自分が、一瞬で、マンションの隣の道路の歩道まで、瞬間的に移動してしまった後だった。

あいつは、まだ、紙を持って、引越センターのビルを見ていた。

今、周りに誰もいないのは、幸いだった。

やはり引っ越しセンターのビルに戻ろうかと思ったが、それはやめた。
今戻ったら、なんだか、負けた気がしたからだ。

「奇遇ですね。こんなところで、何をしているんですか?」

声をかけてしまった。

あいつは、こっちを驚いた顔で見た。

「ここで、待っていたら、あんたに会えると思ってたけど、やっぱり会えたな」

「偶然ですね」

「偶然じゃないだろ。そんな訳あるはずない」

やはり、この男はすごいなと感心してしまう。

「単刀直入に言うけどさ、あいつのこと盗撮するの、やめろよな」

言葉が出なかった。

「考えてみたんだ。
 あんた、ストーカーって訳でもないし、なんなのかよく分からないけどさ。
 あいつのこと、盗撮するのやめろ。
 気持ち悪すぎるだろ」

本当に声が出なかった。
こんなことは、今まで一度もなかった。

俺、生れて初めて、絶句している。

全く言葉が出てこない。

「あんたさ、その顔のほうが全然いいと思うぜ。
 素のあんたのほうが、俺は好きだな。
 男前が引き立つしな。
 あの嘘くさい笑い方だと、目が全然笑ってないんだよ。
 何もかも作ったような笑い方は、あんたに合ってないんだわ。
 無理してるのが、バレバレなんだよ」

「フフフフ。アハハハハ」
思わず笑ってしまった。

はぁ~。参った。参った。降参しますよと本当は言いたかった。

だが、この任務をやめるわけにはいかない。

「何をおっしゃっているのか、全然分からないと言いたいのですが。。
 何を言っても信じてもらえないでしょうね」

「あんたさ。きっと誰かに頼まれてこんなことしてんだろ。
 断れないのか?断ったら別の誰かが盗撮に来るとか?
 そいつは、あんたより、やばいやつとかか?」

「私からは、何も言えませんが、あなたに何も隠せないような気もしますし。
 あなたは、きっと頭が良いのでしょうね」

「ああ。割りとね。頭いいと思う。努力ってあんまりしなくても、何でも出来ちゃうんだよね。
 ガキの頃からさ。
 でもさ、あんたもそうだろう。
 すぐに分かったぜ。
 あんたも俺と同じだろ。
 本当は何でも分かってるって感じだ」

「そんな訳ないですよ。
 努力しても、出来ないことが多すぎる」
 
悪魔力の力の使い方が未だに出来ね~とは、言えなかった。

「違うね。あんたは違う」

「え?何を言って」

「あんたはさ、出来るんだよ。もう出来てるの。
 でもさ。出来ないと思い込んでるだけなんだよ」

「何を言っているのかさっぱり分かりませんけど」
コーラルは、本当に何を言っているのか分からず、混乱した。

「だから、自分で、自分にリミッターみたいなのをかけてんだよ。
 本当は、何もかも出来るんだよ。
 さっさと外せばいいのに。」

「あんた、何を勝手なことを言ってるんだ?
 分かったふうなことばかり言うなよ。
 簡単に出来ないから、滅茶苦茶に苦しんでいるんだよ」
コーラルは、素に戻ってしまっているのに気がついていないで話を始めた。

「違うね。子供の頃に、周りと自分があまりにも違いすぎたんだろ。
 みんなと同じにしようと無意識に思ったんじゃないか?
 リミッターを自分でつけたんだよ。
 あんたは、もう努力なんて必要ないんだろ。
 こんなところで、盗撮なんて馬鹿なことやめろよ。
 そんな仕事は、あんた向きじゃないはずだ」

「子供の頃? 俺の子供の頃。。」

「あんた、自分の居場所がなくて、困ってるだろ。
 昔も今もずっと。
 孤独で孤独で、そんな変な笑い方しか出来ないんだろ」

「そうかもしれない」
思わず素になって、つぶやいてしまっていた。

「でも、俺以外にもさ、あんたの周りにさぁ。
 とっくに気が付いてるやつがいるはずだよ。
 そいつに聞いてみろよ。
 俺の能力は、そんなにすごいのかって。」

「え?」

「あんたのその能力だよ。
 あんたの力はさ、一番上に立つための能力なんだ。
 それくらいの能力だろ。
 頭の回転も力も誰にも負けないだろ。
 あんたは、俺なんかよりも滅茶苦茶すごいはずだ」

「考えたことなかったかもな」
そんなこと思いつかなかった。

「あんたさ、名前なんていうんだよ。
 俺の名前は、渡辺リュウタだ。」

「リュウタ、渡辺か。 
 俺の名前は、コーラルだ。本名が、コーラルだ」

「コーラル。珊瑚の別名だな」

「珊瑚?」

「まぁ、珊瑚は、魔除けのお守りとかそういう使い方もあるけどな」

「魔除けって。あはは。なんだ、それ、うけるな」
俺、魔法使いで、悪魔なんだよねと言えないのが、歯がゆかった。

「とにかくさ、なんであいつを盗撮してんのか教えてくれないと思うけどさ」

「すまない。本当にすまない。理由を言うから、見逃してほしい」

「え?やっぱり理由があるんだ。それ教えてくれるの?言ってみるもんだな」

「あの子と同じ顔の人間がもう一人いるんだ。
 同一人物にしか見えないんだ。
 その方を守るためだ。
 盗撮してるのは、その方を隠すためなんだ」
もう、コーラルは、嘘をつくのをやめてしまっていた。
隠し通せないと判断したからだ。

驚きすぎて、声がでないのは、今度はリュウタのほうだった。

「身代わりなんだ。あの方の身代わり。
 あの方なんですって、家族に見せるためにあの子を撮影して、観せている」

「家族にそんな嘘が通用するのかよ。
 そんなバカな。
 人間どんなにそっくりでも、何かが違うだろ」

コーラルは首を振った

「あの方よりもあの子のほうが、少しだけ頬が膨らんでるが、それ以外は見分けが全くつかない。
 頬が少し膨らんでいても、遠くから撮影していたら、全く違いが分からない。
 声まで同じで、俺さえも錯覚を起こすくらい似ているんだよ」

続けて、コーラルは真剣に言った。

「どうか、あの子に言わないでほしい。
 自然な表情とかを撮影したいんだ。
 これは、あの方の命がかかっている重要な任務なんだ。
 嘘じゃない。本当のことだ」
 
コーラルは、リョウタをまっすぐに見て言った。

「あの子には、決して、危険を加えたりしないと約束するよ。
 もう少しだけ見逃してほしいんだ。
 この任務を失敗したら、俺も殺されるかもしれないし、あの方を危険にさらしてしまうことになるんだ。
 それだけは、避けないといけないんだ」

リュウタは、一瞬考えた。

「分かったよ。真実を聞かせてくれてありがとな。
 あいつに危害を加えないって必ず守れよ。
 あいつは、結構いいやつなんだよ。
 すっきりしたし、俺は、大学に行くわ。
 コーラルもこの先、仕事を頑張れよな」

そう言って、リュウタは、駅のほうへ歩いて行った。
コーラルは、姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

王都一番の魔導修理屋

あめとおと
ファンタジー
魔法と魔導具が当たり前の世界。 だが、それらを扱えるのはほとんどが貴族だけだった。 王都の片隅で暮らす平民の青年 リクト は、魔力量が少なく魔法もろくに使えない。 そのせいで魔導学院を落第し、いまは貧乏な魔導具店の雑用係。 だがリクトには、誰も気づいていない才能があった。 それは―― 「魔導具の構造が、なぜか全部わかる」 壊れた魔導具を直し、 効率を上げ、 誰も作れなかった道具を作る。 やがてその技術は、王都の貴族社会や魔導師団を巻き込み、 世界の魔導理論さえ揺るがしていく。 これは―― 魔法が使えない平民が、魔導の常識を塗り替える物語。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...