失われた歌

有馬 礼

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 狼になると、乗って、とバルクは言う。
〈でも、どうして泉に?〉
「『離脱』のポートを作るんだよ。ああ、『離脱』は知ってる?」
〈場所から場所に瞬間的に移動する魔術のこと?〉
 リコはバルクの背中に乗る。
「そのとおり」バルクは歩き始めた。「その目印を、帰ってきたい場所にあらかじめつけておくんだよ。塔にもポートを作った。けど、念には念を入れて、中間地点の泉にもポートを作っておこうと思って」
 少しずつスピードを上げて、駆け足になる。
〈一度行っただけで道を覚えてるの?〉
「自分が通ったところには必ず痕跡が残ってるからね」
〈便利だね〉
「ふふっ、まあね」

 泉につくと、バルクは人間に戻った。
「ポートは、大抵大きな石や、木に作るんだけど…」
 と言いかけたところで、言葉を区切った。
 泉の水面が揺れている。風のせいではない。何か、大きな魚のようなものが泳いでくる様子に似ている。しかし姿は見えない。強い水の要素を感じる。こちらに敵意があるようにも思えないが。何者だろう。
 水面が持ち上がる。現れたのは、水の精霊だった。髪の長い少女の姿をしている。氷の彫刻のように、向こう側が透けて見える。
「あなた、リコでしょう?」
 水の精霊が言った。
(自然の精霊だ。初めて見た)
「そうよね! 一度話してみたかったの! でも、いつもあのおっかないドラゴンが一緒だったから」
 泉からは次々に水の精霊が現れた。皆、似たような少女の姿を取っている。リコはあっという間に囲まれてしまった。
(あれはしばらく時間がかかりそうだ)
 バルクは先に仕事を片付けることにした。泉のほとりに立っている、立派な木のところへ向かう。
(君の力を借りるよ)
 バルクは木の幹にサインした。
(これでよし。これだけしっかりしたポートがあれば、死にかけて塔まで戻る力がなくなっていても、ここまでは帰れるだろう…)
 最早リコは水の精霊だけでなく、その辺にいるありとあらゆる精霊に取り囲まれていた。
 バルクは木陰に横になった。空は晴れて、僅かに風が吹いている。季節は春から夏に移り変わるところで、一年で一番いい季節だった。
(色んなことが一度にありすぎて、何年も経ったみたいだ)
 バルクは目を閉じる。視覚を塞ぐと、頭が勝手に色々なことを考え始める。今までのこと、聖域でのこと、神獣について、リコについて…。

 バルク、世界には驚くような人間がいる。

 思考が過去の一場面を勝手に再生し始める。ランプの灯りに照らされた師匠の横顔。季節は冬で、あの時の空気の匂いまでが蘇ってくる。

 歌うように、踊るように、自然に魔術を使う者がいるんだ。
 そういう者に敵として出会ったなら、絶対に戦うな。
味方として出会ったなら、決して離すな。お前が女を愛する男か男を愛する男かそのどちらでもないのかは知らないが、そんなこととは全く関係なく、その者はお前の魂を「持っていく」だろう。後悔するな。

(魂を持っていかれるの意味がわからなかったけど、今日、わかった。師匠の言うとおりだった。今にして思えば、おそらく師匠もそういう存在に出会ったことがあったんだな…)
 目を閉じたまま、取り留めなく考えごとをしていると、精霊たちから解放されたらしいリコが近づいてくるのを感じたが、うとうとしていたのもあり、バルクは目を瞑ったままでいた。

(寝てるのかな…)
 木陰に寝転んでいるバルクを見て、リコは思う。自分自身に照らして考えると、こんないい場所に寝転んで目を瞑っていたら、眠らずにいられるわけがなかった。
 リコはバルクの傍に腰を下ろす。顔を覗き込むが、やはり眠っているようだった。
(睫毛長い…)
肩にそっと触れてみる。動かない。
今度は、そっと頬に触れてみる。頬から顎、顎から首筋、襟元、肩へ手を滑らせる。

バルクは可笑しくて仕方がなかった。こちらが完全に眠っているものと思っているらしいのが可愛いし、拙い触れ方は、くすぐったいし、何より焦れったくてたまらなかった。ちょっとしたいたずら心で、バルクは肩から腕をなぞって手に触れたリコの手を素早く握って引き寄せると、背筋を使って体をさっと入れ替えた。
 簡単に組み敷かれてしまったリコは息が止まらんばかりに驚いて、目をぱちくりさせている。
 バルクは額と額をくっつけて、いたずらっぽく笑いながら言った。
「こぉら、いたずら妖精。悪い狼にいたずらして食べられちゃう話を知らないのかい?」
〈…っ、ごめんなさい。寝てるのかと思って。ううん、寝てたってダメなんだけど。でも…だって…、バルクに触りたくて、つい…〉
 驚かせすぎた感があるが、真っ赤になってしどろもどろになっているリコは本当に可愛らしかった。胸の下で、リコの胸が荒く上下しているのを感じる。
「触りたければ、触ればいいんだよ。でもその触り方、ちょっと、焦れったいかな」
 唇を重ねる。舌でリコの唇を、舌をなぞる。
〈バルク…〉
 リコはバルクの指に自分の指を絡めた。心臓はありえない速さで脈打っているし、頭はぼうっとして、何も考えることができない。舌先をなぞられると、背骨の一番下、腰のあたりがむずむずする。
(くるしい。でも、くるしくって、気持ちいい…)
 やっと唇が解放されて、リコは荒く息をした。
 その表情を見てこみ上げてきた衝動を、バルクはなんとかやり過ごした。
 リコを抱き起こす。
「帰ろうか。みんなに探される前に」
〈やだ〉
 バルクの胸に顔を押し当てる。
〈もっと、こうしてたい…〉
 胸から顔を上げる。視線が絡まる。二人は再び唇を重ねた。
「今夜、きみの部屋に行くよ」
 唇を離してバルクは言う。リコは目を閉じたままうなずいた。

 塔に戻ったのは夕方だった。大騒ぎになっているかと思っていたが、予想に反して探されてはいなかった。
「つかまって」
 バルクは言うと、リコを横抱きに抱き上げた。
 リコは驚いてバルクの肩にしがみつく。バルクはさっきと同じように跳んだ。あっという間にリコの部屋の前に着く。
「もうすぐ食事の時間かな」
 額にキスをして、そっと下ろす。
 リコは名残惜しそうにバルクの手を取り、顔を見上げる。
「食事が冷めると、シェフに怒られちゃう」
 確かに、そうだった。リコも笑った。
「あっ、バルクもいたんだ」ジーが食堂から顔を出す。慌ててリコはバルクの手を離す。「食事の準備ができたよ」

 その日の夕食もとても美味しいのだろうとリコは思ったが、どぎまぎしてしまって、あまりよくわからなかった。時間を置いてさっきのやりとりを思い出すと、顔が火のように熱くなった。
 そっとバルクの顔を盗み見る。バルクはいつもどおりに見える。
(バルクは、どう感じてるんだろう…。わたしは、どきどきしてる。すごく)
 付け合わせの丸い豆が全く捕まらないので、諦める。

 食事が終わると、バルクとリコはいつものとおり別れた。別れ際、バルクの唇が「あとで」と動いた。
 リコは部屋に戻ると、バスタブに湯を張った。
(あ、そうだ)
 戸棚を開けて、可愛らしい装飾の小瓶を取り出す。前、町に出かけたお土産にと風が買ってきてくれたものだ。甘い香りのオイルで、バスタブに入れると自分がいい香りになってとても気分がいい。
(これって本来、こういうものだったのかぁ。知らないことって、いっぱいあるな…)
 バスルームの窓から、群青色に変わっていく空を見上げる。星が輝き始めていた。
(明日もいい天気)
 リコはため息をついた。自分で自分の胸に触れる。
(あの指で触れられたら、どんな感じがするんだろう…。でも…、ちょっとだけ、怖い)
 バスタブに身体を沈める。

 髪を乾かして夜風に当たっていると、扉の向こうに人の気配がした。
 静かに扉がノックされる。緊張が高まる。手の先と足の先が冷たくなる。リコはゆっくりと扉を開けた。
「こんばんは」
 バルクはいつものように、柔らかく笑った。緊張がほぐれてゆく。
「ねえ、リコ」
 バルクは部屋の中に足を踏み入れずに言う。
「確認したいんだけど…今も、気持ちは変わらない?」
 胸がぎゅっとなる。ここで、やっぱり怖い、やめたい、と言えば、バルクはそのまま戻るつもりなのだろう。そして明日からも、変わらず接してくれるに違いない。それだけで、不安を消し去るには十分だった。
〈…うん〉
 リコはバルクの手を取って招き入れる。書庫の隣の扉を開けると、中はまた廊下になっていた。短い廊下が左に折れた先に、もう一つ扉がある。そこが寝室だった。
 寝室は広かったが、調度類は必要最低限しかなかった。床にランプがいくつか置かれていて、オレンジ色の明かりが灯っていた。
 バルクが後ろ手に扉を閉めた瞬間、二人は固く抱き合った。
 バルクの手の熱が、チュニックの薄い布越しに直に伝わる。立ったまま、長いキスをする。
 唇を離すと、バルクはリコを抱き上げて、ベッドに横たえた。
「嫌なことや痛いことは、必ず教えて。我慢しないって、約束できる?」
〈約束する…〉
 リコは子どものように素直に答えた。
「約束だよ」
 再び、ゆっくり唇を重ねる。
 舌先をなぞられて、リコは背中をそらせ、太腿をぴったりくっつける。バルクの舌の動きに合わせて、身体が勝手に動いてしまう。自分の身体なのに、制御できない。
 バルクの唇が、首筋に移る。肺の中の空気を一度に搾り出したように、鋭い吐息が漏れた。頬の産毛が逆立つ。耳を舌でなぞられると、じっとしていられない。酸素が薄くなったようだ。リコは口を開けて、荒く息をする。その口が、バルクの口で塞がれ、舌を優しく吸われる。頭の中心がとろけて、何も考えられない。
 バルクの大きな手が、脇腹のラインをなぞって登ってきて、リコの小さな胸を包むように、優しく触れる。心臓を掴まれたような、切ない気持ちになって、リコは目を開いた。目が合う。優しい目。
〈バルクの手、好き…。もっと、触って…〉
 リコは舌を絡めたまま、「言う」。バルクは目を閉じて、眉間に皺を寄せた。リコは胸に触れるバルクの手に、自分の手を重ねる。
 バルクの指が、小さな生き物を慈しむように、何度もリコの胸を撫でる。
〈バルク…初めて見た時から、あなたのこと、好きだったの…。聖域にあなたたちが入っていったこと、知ってた。それはよくあることで、それで大抵、すぐに出てくるか、二度と出てこないかのどちらかだから、特に何もしなかった…。その中に、少し変わった魂の人がいて、惜しいけれど、どうしようもないと思った…。でもその人だけが、聖域から逃れてきた…そして…そして…〉
 リコはもう一度目を開いた。
〈あの光景、忘れられない。魂そのものみたいな、青く光る大きな狼が、森を駆けてた。だけど、酷く傷ついてて。こっちに来て、わたしのところに来て、って叫んだけど、届かなかった。そうするうちに村の精霊使いたちが追ってきて…〉
 バルクは唇を離した。リコと違って、話したい時はキスをやめなければならないのがもどかしい。
「あの時、声が聞こえた。はっきりと。そうだ。きみの『声』だ」
〈わたしの「声」、届いてた…〉
「届いたよ」
 バルクはチュニックの裾に指をかけると、するりと脱がせた。
 浮き出た鎖骨にくちづける。
〈わたしが、お願い、殺さないで、って言ったから、風と火があなたを助けに行ってくれたの。決まりを破って〉
「そうだったんだ」
 バルクは、キスを徐々に下の方へ移していく。胸の先にキスされると、身体がビクンと跳ね上がる。柔らかく口に含まれると、甘く痺れる。リコはバルクの眉を指でなぞる。そのままこめかみを撫で、髪をまさぐる。
 バルクは顔を上げて、間近にリコを見つめた。
「リコ、きみは素敵だ」
〈バルク…〉
 バルクはリコの唇に軽くキスすると、服をすべて脱いだ。肌を重ね、唇を重ねる。リコが拙い動きで一生懸命応えようとしているのが愛しい。
(わたしと、全然違う身体…大きくて、熱い…)
 太腿に、独特の熱と硬さを持ったものが押しつけられているのを感じる。
 バルクはするりと下に移動した。リコの下腹部にキスしてショーツを脱がせる。リコは少しだけ身体を固くする。バルクは足の甲に軽くキスすると、今度はキスの位置を少しずつ上にずらしてゆく。そしてとうとう、リコの一番敏感なところに至る。
 リコは声にならない声を上げて、身体をよじる。
 経験したことのない快感に、眉根を寄せ、ぎゅっと目を閉じる。
 バルクの舌はあくまで優しく、柔らかく、リコの敏感な芽を慈しむ。リコはバルクの手を強く握った。無意識に舌の動きに呼応して、腰をくねらせる。
 リコの入り口が、花が開くようにふっくらと開いてくる。バルクは顔を上げると、クッションを取って、リコの腰の下に入れた。快感の波間を漂っていたリコは、薄く目を開けてバルクを見た。
 バルクは、ゆっくりとリコの中に入ろうとする。
 リコが息を飲んだのがわかった。それまでうっとりととろけていた身体に、緊張が走る。体の中を引き裂かれる痛みに、リコは顔を歪める。こんな痛みは、経験したことがない。息ができない。
「痛い? 痛いね」
 バルクが身体を引こうとするのを、腕を掴んで止める。
〈大丈夫。大丈夫だから…〉
 バルクが、少しずつ、少しずつ、身体を引き裂きながら入ってくる。指先が氷のように冷たくなる。
「リコ…」
 バルクが苦しそうな声でリコを呼ぶ。何かに抗うように、眉間に皺を寄せている。
〈バルク、キス、して…〉
 キスされると、身体の緊張が少しずつ解けてくる。
 バルクはしばらく動かなかった。リコの中がまた十分に潤って緊張が解けるのを待って、少しずつ動く。欲望のままに動いてしまいそうな身体を押しとどめながら、ゆっくり、ゆっくり。
〈バルク、好き…〉
「リコ、好きだ。愛してる」
 バルクは少しずつ動きを速めながら答える。
 リコは、快感に少しずつ追い詰められていくバルクの顔を見ている。動きが一段速くなって、バルクが小さな低い声で呻き、身体を震わせた。
 力が抜けてベッドに倒れ込んだバルクの頬にそっとくちづける。
 ランプの灯が静かに揺れた。

 準備が全て整ったことを知らされたのは、翌日の昼だった。昼食が済むタイミングを見計らって、ジュイユが食堂にやってきた。
「決行はいつにする」
 ジュイユが言う。
〈明日〉
「わかった。しかし、明日はお前さんの誕生日じゃなかったのかね? 魔物どもはパーティーの準備をしているぞ」
〈大丈夫。必ず帰るから〉
 リコはキッパリと言い切った。
「良かろう。これは私からだ」
 ジュイユはローブのポケットから、いくつかの小さな正八面体を取り出し、テーブルに置いた。
「これは?」
 バルクはその一つをつまみあげる。
「治癒法を結晶化したものだ。使う時は対象のそばで地面に叩きつけて割れ。死ぬ前に使えよ。死者を生き返らせるほどの威力はない。言い換えれば、即死するなってことだ。死にかけでも、死んでなきゃなんとかなる」
「すごい…。治癒法を結晶化するなんて」
「魔物は暇なのさ。だから色々なことをして遊ぶんだが、たまにはそれが役に立つ。原理はコールリングと同じだ」
 コールリングとは、ジェムハンター達が使う道具だ。離脱法を応用し、街の公共ポート同士を行き来したり、遠征先から街への帰還に使ったりする。本来バルクはコールリングを必要としないわけだが、公共ポートに飛びたい時は、事故防止のためにコールリングを使うことが義務付けられている。
「では、決行は明日。出発は夜明けの1時間後としよう。ポートは作っているな?」
「僕が聖域破りをやった時のポートがまだ生きてることは確認した」
 バルクが答える。
「よろしい。パーティーは、リコ及びその精霊と、バルクだ。魔物たちは全員塔の守備とする。装備は魔物たち特製の耐衝撃コート。また、多少の属性攻撃は相殺するよう、小細工がしてある。リコは護身用に短剣を持つ。負傷時のため、治癒法の結晶をそれぞれ5つずつ。ほとんど死んでても回復できるが、使えば使うほど寿命は縮まる。できるだけ怪我をするな」
 バルクとリコは頷く。
「この天気なら、夜明けの1時間後にはだいぶ明るいだろう。少しでも有利な条件で戦うに越したことはないからな。まあ…洞窟の奥に入ってしまえば関係ないが」
 ジュイユは窓の外を見た。今日も空は綺麗に晴れていた。
「今日はゆっくり休んで、明日に備えろ。いいな」

「もうすぐ誕生日だって言ってたけど、明日だったんだね」
 リコは頷く。
「そうか…。じゃあ明日、帰ってきたら何かお祝いするよ。魔物たちのパーティーには間に合わないかもしれないけど」
 リコは席を立ってバルクのそばに行く。
〈ありがとう〉
 バルクに抱きつく。
〈でも本当は、バルクがいてくれるだけで、わたしには十分なの…〉
「そんなふうに言ってもらえて、僕も嬉しいよ」
 長いキスの後、バルクはやっとの思いで唇を離すと、リコの肩に頭をもたせかけた。長いため息をつく。
〈どうしたの?〉
 リコは急に元気をなくしてしまったように見えるバルクの頭を撫でた。
「きみとこういう風にしてると、もう…」リコの耳元に唇を寄せる。「きみが欲しい」
 リコははっとした表情でバルクの顔を見た。見る間に顔が真っ赤に染まる。
〈いいよ…〉
 バルクはリコを膝に座らせる。二人はまた唇を重ねた。
 バルクはそのまま余裕なく首筋に、鎖骨に唇をつけていく。リコは顎をのけぞらせて喘いだ。口を半開きにしたまま上気した頬で、とろけた視線を向けられると、ゾクゾクしてどうしようもない。リコを横抱きにして立ち上がると、短距離の「離脱」を繰り返してドアを開けることなくリコの寝室に入る。倒れ込むようにベッドに横たえると、貪るようにキスする。
「本当は」リコの服をもどかしく脱がせながらバルクは言う。「もっと歳上の余裕を見せなくちゃいけないのに。ごめん」
 下着を取って心臓の上にキスする。強く吸うと、白い肌にくっきりと赤い痕が残った。
〈そんなこと…。わたしはただ、バルクが好きなの。わたしの気持ちを受け入れてくれたこと、夢みたいに嬉しい〉
「リコ…」
 最早何度目か分からないキスをする。
 リコは細い指をそっとバルクの首筋に這わせた。そのまま、器用に片手でシャツのボタンを外していく。細身のバルクだが、直接触れるとしっかり筋肉がついていて、リコにはない力を秘めていることが感じられる。
 リコのショートパンツとショーツを脱がせると、バルクは自分でも服を脱いだ。リコをしっかり抱き寄せる。甘い匂い。リコの肌は柔らかくてさらさらしていて少し冷たい。火照った身体に、水のように心地いい。そうしてぴったりと抱き合っていると、肌の境界がとろけてなくなってくる感じがする。
 バルクはリコをうつ伏せにさせると、華奢なうなじに舌を這わせる。リコの息が荒くなる。そのまま、背中に指を滑らせる。ピクッとリコは背中を反らせる。背骨の上を唇でなぞりながら、指でリコの敏感なところに触れる。
 バルクの指が簡単に潜り込んでしまったのを感じて、リコは自分がどれだけ濡れているかを知る。敏感なところを優しく、転がすように撫でられて、頭が真っ白になる。中に入ってきたバルクの指を、無意識に締めつける。中指でリコの中をなぞりながら、親指を使って敏感な芽を転がす。中と外を同時に触れられて、何も考えられない。意識がそこに集中する。
〈バルク、これ、なに…? なにか、なにか…、くる…〉
 そう言うと腰がビクンと跳ね上がり、動かす隙間もなくなるくらい中が何度もきつく締まる。とろりと熱い蜜が溢れてくる。息を詰めて、身体を何度も震わせる。
 リコの身体から力が抜けて、思い出したように荒い息をする。全身にうっすら汗をかいていた。
 荒く息をしているリコを、仰向けにする。額に髪が一筋貼りついている。薄く開かれた唇、夢を見ているような、潤んだ目。今まさに、大人の女に脱皮しようとしている美しい少女。
「リコ、愛してる」
 バルクは額にかかっている髪を払ってやった。
 唇を重ねながら、腰の下に腕を入れて持ち上げる。そうして、ゆっくりとリコの中に身を沈めていく。最初は拒むように緩く押し返してくるが、狭い入り口を通り抜けると、温かく、柔らかく包み込まれる。
 思わず声が漏れる。
〈バルク…〉
 リコが背中に腕を回して、しがみついてくる。
 キスしようとして、唇がわなないていることに気づく。バルクはハッとして言う。
「どうしたの?」
 リコは静かに泣いていた。瞑った目から、涙がひと筋、またひと筋と流れる。
「どうしたの?」
 リコは目を瞑ったまま首を横に振る。
「ねえ、教えて。お願いだよ。どうして泣いているの?」
 リコは目を開いた。
〈怖いの…〉
「怖い? 何が、怖い?」
〈バルク、どこにも行かないで。ずっと一緒にいて〉
 泣きながら、縋るように見つめてくる。
(そういうことか…)
 胸がズキッと痛む。
「大丈夫。どこにも行かない」
 バルクはリコの目を見て言う。
〈お願い、お願い…〉

 リコは遠ざけられ、隠された娘だ。 

 土の言葉が思い出される。
 バルクはリコの隣に横になると、リコを抱き寄せる。
「きみがそんなふうにお願いする必要なんて、少しもないんだよ。大丈夫。僕はここにいる」
〈ありがとう…〉
 バルクはリコの顔を覗き込む。
「ねえ、リコ。きみは僕に何もお願いする必要もなければ、僕に感謝する必要もないんだよ。僕は僕自身の意思で、きみと一緒に生きるって決めた。だからもうお願いは、なしだよ。いいね?」
 リコは泣きながら何度も頷いた。
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