失われた歌

有馬 礼

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第2部 帝都ローグ篇

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 イダはリコと並んでベッドに腰掛けていた。
「ごめんなさいね、リコ…」イダはリコの肩を撫でる。「私は、見た目は人間の女のようだけれど、ジュイユと違って、生粋の魔物だから、あなたの助けになれなくて…」
 リコはふるふるとかぶりを振った。
 今朝の出来事にリコが衝撃を受け、傷ついていることは、イダにとっても辛いことだった。
リコはイダの、木の皮のような乾いた肌の肩に頭を乗せた。
 イダの眼球のない目が、気遣わしげに自分を見ているのを感じる。
「ねえ、イダ…。おばあちゃんの声でお話しして…」
「いいわ」
 イダは少しの間沈黙し、そして懐かしい声でリコに語りかけた。
「リコ、私の大切な孫娘。
 人があなたをどう言おうと、私はあなたが何より大切なの。
 あなたの魂、夜そのものみたいで大好きよ。
 美しくて、静かで、優しくて、澄み切っていて」
「う、ああ…ああ…」
 リコの目から大粒の涙がこぼれる。
 イダはリコの背中を撫でた。
 もう一度、イダ自身の声で言う。
「あなたの魂、夜そのものみたいで大好きよ。美しくて、静かで、優しくて、澄み切っていて」
「どうしてわたしが生まれたの…。わたしがわたしでなければ、みんな幸せだった。教えて…わたしは、わたしは…」
 そこから先は言葉にならなかった。
「ああ、リコ…。私たちはみんなあなたを愛しているけれど、そういうことじゃないのよね。人間には、人間が必要なんだわ、やはり。リコ、幸せになりなさい。幸せになってほしいわ。愛しい人が目の前に現れたら、守護者の立場なんか、捨ててしまいなさいね。私たちのことなんか振り返らずに、その人のところに駆けて行くのよ。いいわね…」
 




 「そのこと」をバルクに話すタイミングについて、リコはずっと考えていた。でも、何から話せばいいのだろう。まず、頭の中を整理するために、文字にしてみようと思い、ペンを取ったはいいが、1文字も書けずにいた。
 書庫の片隅の書斎で、ただただランプの光をぼうっと見ているばかりだった。
 リコはランプの隣に置かれた、六角形の石を手に取る。
(イダ…)
 それは、すべてのエネルギーを放出し切った、ジェムの残骸だった。もしかしたら、何百年、何千年という月日を経れば、ジェムはまた力を取り戻すのかもしれないが、わからなかった。両手でようやく収まるくらいの、大きなジェムだ。見せたことはなかったが、バルクはその持ち主がどれほどの力を持った魔物であるか、理解するに違いないと思う。
 いずれにせよ、あの時起こったことについては、話さないわけにはいかないだろう。全てはそこから始まった。しかし、簡潔に話すには、あまりにもいろいろなことが起こりすぎた。
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