失われた歌

有馬 礼

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第2部 帝都ローグ篇

16*

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 バルクに抱えられるようにして部屋に戻る。
 リコは息を切らして、ひどく汗をかいている。
〈バルク、バルク〉
ベッドに横たえようとすると、必死にバルクにしがみついてくる。
〈キスして〉
 バルクが答えるより先にリコが貪るようにくちづけてくる。柔らかくて温かい小さな舌が唇を割って入ってくる。バルクの舌を捕らえようと、這いまわる。何が起こっているのか尋ねる暇も与えられず、リコがバルクの舌を、唇を必死に貪る。
〈助けて、バルク、水の魂、狼の魂、助けて〉
 リコの手がシャツの合わせ目から入ってきて、バルクの肌に触れる。ひんやりした指先。
〈あなたに触れさせて。わたしに触って〉
 目に涙を溜め、縋りつく。
 バルクは自分のジャケットとシャツを脱ぎ捨てると、リコのプルオーバーを脱がせた。
 露わになった肌を見てはっとする。浮かび上がったどす黒い痣。1度だけ見たことがある。聖域で。首に二重に紐が巻きついたような痣。紐の先を辿ると、胸の間を通って臍に繋がっている。
(なんだ、これ…)
 バルクはブラを取って、指で痣をなぞる。リコは背中を反らして悶える。
 リコが首に腕を回して唇を重ねてくる。柔らかい肌が押しつけられ、思考の継続を難しくする。
 痣をなぞり、胸をまさぐる。
〈バルク、もっと、もっと…〉
 リコのパンツを脱がせる。全体にゆったりして足首で絞っているデザインのそれは、簡単に引き下ろされる。ショーツの中に指を差し入れると、そこは既にたっぷりと濡れて口を開いている。
〈そこ、熱いの…〉
 深くくちづけ、舌を絡めあいながらショーツを脱がせる。指を潜りこませると、身体を震わせて腰を浮かせる。中は熱くうねってバルクを求めている。
 バルクは残った服を脱ぎ捨てる。
 バルクの唇を求めて喘いでいると、望みどおりのものが与えられる。バルクの舌に吸いつき、流れこんでくる唾液を飲みくだす。
〈ほしい、バルク、水の魂、あなたがほしい…!〉
 バルクが両腕を腰の下に回し、強く引き寄せながら膝の間に身体を割り込ませる。手を添えなくても、リコの熱く潤った入り口に飲みこまれるように入っていく。リコは身体を震わせる。逃すまいとするように、中がきつく締まる。リコの細い指が肩に食いこむ。そのまま、奥を揺らすように押しつける。同じ速さで、リズムで、リコのポイントを的確になぞり続ける。
 リコは苦しげに息をつき、首を振る。
〈もう、だめ、だめ…っ〉
 奥を揺らしながら、硬さを帯びた敏感な芽を親指で撫でると、リコは顎をのけ反らせて腰をガクガクと震わせて達した。
「あ、く…っ」
 歯を食いしばって搾りあげようとしてくる動きを耐えようとしたが、あっけなく飲みこまれて精を吐き出す。
 くたっ、とリコの身体から力が抜ける。痣をなぞる。
「闇の精霊…」
 リコが薄く目を開ける。
〈なんで…〉
「痣だ。前に聖域でも見た。きみの首に巻きついてる」
〈メトロの駅で、闇の気配がしたの。それで、闇の精霊が出てこようとして。必死で抑えたけど、もう精一杯だった…〉
 リコはそれだけ言って深くため息をついた。
 リコが眠りに落ちても、痣は浮かんだままだった。前は、闇の精霊がリコの体内に戻るとこの痣も消えた。
 バルクは脱ぎ捨てられた衣類を拾い上げる。とてももう1度身につけようとは思えない状態だったので、とりあえず新しい下着をつける。
リコの汗をタオルで拭ってやり、新しいショーツを履かせて夜着にしているチュニックとショートパンツを着せてやる。もちろんその合間合間に、唇に、身体に、こっそりくちづける。リコは深く眠っていて、身じろぎもしなかった。痣はリコの白い肌に禍々しくどす黒く浮かんだままだった。
洗ってしまおうと脱いだ服を抱えて顔を上げたところでぎくりとして固まる。
 ソファに女が座っていた。
 横顔は完全にリコに見えるが、白いレースのアイマスクをつけていて目元は隠れている。白いドレスはところどころ擦り切れ、焼け焦げている。戦闘の後のようだ。
(闇の精霊…)
 ジュイユの話によると、この姿はリコの母親だということだった。闇の精霊はソファの肘掛けにもたれ、座面に両脚を上げてゆったりくつろいでいる。こちらに働きかけてくるつもりはないようだった。
 バルクは服を着るとリビングに降りて、ソファの正面にあるダイニングテーブルの椅子に座った。闇の精霊は小さな声で歌っていた。
「世の中に 満ち満ちたれば
 恵みこそ めでたかりけれ」
 それは収穫祭の歌姫の歌だ。
 闇の精霊はまるでバルクのことなどいないかのようにリラックスして歌っていた。
 奇妙な時間だった。闇の精霊は小さな声でいろいろな歌を歌っていた。子守歌のように、低く小さな声で。バルクはみじろぎもせずにそれを見ていた。
 ふと歌が止み、闇の精霊が立ち上がる。バルクも思わず立ち上がり、玄関のドアを開けようとした闇の精霊の肩に手をかける。
 靴を履いていないせいか、リコよりも少し背は低い。触れた肩は陶器のようにひんやりしていて、それが人ならざる彼女の正体を物語っている。
「勝手に触るな」
 闇の精霊は振り向きざまにバルクの手を強く払いのける。
「どこへ?」
 バルクも強い調子で言う。
「食事」
「きみは誰なんだ」
「あたし? 闇の精霊。見ればわかるでしょ」
「聖域で見た時とは違ってる」
 あの時は、こんなにはっきりした意思はなかった。
「あたしは闇の精霊であり、腐った魂でもある。今あなたの目の前にいるのは、本来の闇の精霊であるあたし。リコの他の精霊たちと同じ」
 もういいでしょ、と闇の精霊は出ていこうとする。
「待て」
 バルクは闇の二の腕を掴む。
「しつこいな!」
 闇は声を荒げる。リコには出せなそうな、ドスの効いた声だ。リコが目を覚ます気配はない。力ずくで止める、という選択肢はなさそうだとバルクは肚をくくる。
「僕も行く。でもリコに声をかけてから出かけたい」
「ああ、それなら大丈夫。あたしが戻るまで、リコは目を覚まさない」
 聖域でも、闇の精霊が活動している間はリコは心ここにあらずという感じだった。
「あたしとリコはコインの裏と表よ。両方を1度に見ることはできない。いや、できなくはないけど、そうしないように取り決めてる。無理にリコを起こすと、あたしの意識と混ざり合っちゃうかも。それでもいいなら、どうぞ?」
「…わかった。諦める。けど、その格好で出かけるのはやめてくれるかな」
 これで街を歩かれたら、目立って仕方ない。
「はあ!? もう、うるさいな」
 しかし案外素直に従う。さっきまでリコが着ていたのと同じ服装になる。ベルスリーブのプルオーバー、裾を絞ったデザインの、ゆったりしたヒップハンガーのパンツ。ただし、プルオーバーの裾は乱暴に引き裂かれたように破れて糸がほつれ、白い平らな腹部と綺麗な臍がのぞいているし、パンツは太腿には大きな裂け目がある。
(服がボロボロになるのは仕様なのか?)
 しかしもう何も言うまい、と思ったが。
「あ、靴履いて」
「もう!」
 闇は地団駄を踏む。
「これでいいんでしょ!」
 靴を履き、アイマスクを色の濃いサングラスに変えて、完了。まあ、こういうファッションなのだと思えば。
(…今日のリコが布面積多めでよかった。夏みたいな、タンクトップにショートパンツだったら、どうなってたことやら)
 余計なことを考える。
「それで? どこに行くつもりなの?」
「さっき通ったところ」
 ざっくりした答えが返ってくる。この認識で一体どこに行こうとしているんだ。精霊が迷子になったらどうなるんだろう。シャレにならない。保護者が引率しなければ、危ない。
「何があった? あるいは、何がいた?」
「鉄の塊と水。魂の群れ。光の不在」
 そうだ。リコも言っていた。駅だ。
「わかった。案内する。でも絶対に、人間には手を出さないで。約束できる?」
「はあい」
 闇の精霊はかったるそうに答えた。
「よろしい」
(精霊って、1人ぶんの料金いるのかな。まあ、実体化してるし、いるか…)
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