失われた歌

有馬 礼

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第2部 帝都ローグ篇

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 翌日は、どこに行くでもなく、賑やかな帝都の中心部で人の流れを見ていた。気になることがある、そうしたいと言ったのはリコだった。昨日のことがあるのでバルクは心配したが、リコがどうしてもというので渋々了承した。こまめに休憩を取るという条件付きで。
 ガイドブックに載っていた、帝都いち有名だという交差点を行き交う人々を眺める。秋の陽射しの下、人々が楽しげに、あるいは忙しそうに行き交っている。魂の氾濫に目が眩む。
(やっぱり、そうだ…)
 リコは自分の両手を見る。
 凄まじい魂の数。無防備に感覚を開いていると、混沌に呑みこまれそうになる。バルクの手をしっかり握り、光り輝くような水の魂に意識を向けるようにする。バルクの魂はこの混沌の中でも安定していて、リコを安心させる。
 最初に来た時は、圧倒的な人の数や街の様子に気圧されていて見逃していたが、大勢の人々が往来する場所では、要素が乱されている。ここでは魔術や精霊など、属性を発動させることは難しいだろう。それは人間だけではない。魔物もだ。多くの魂が渦巻き、ぶつかり合い、うねっている。さながら点描画だ。あるいは、色とりどりのビーズ。離れた場所から見ると色が混ざって見えるが、近くに寄ると1つひとつ違う色をしている。魂が作り出す混沌のせいで、要素を取り出すことが難しい。闇とも少し違う。混沌、としか言いようがない。
(これでいいんだ。こうやって寄り集まることで、人間は魔物から自分たちを守ってきたんだ。それがわかった)
 ここには魔物はいない。いても、ごく弱い力しか持たないだろう。
〈バルク〉
 呼びかけるが、バルクは気づいていない。ここは混沌の中だ。小さな「声」はかき消されてしまう。
 握った手を引く。
「疲れた?」
 うなずく。
「大丈夫?」
〈ちょっと疲れちゃった。帰りたい。いい?〉
「もちろん」
 やはり彼女には情報量が多すぎたようだ。近くの階段から地下に降りる。帝都は地下すらも構造物で埋め尽くされている。建物だけでなく、メトロと呼ばれる乗り物が地下の蟻のように走り回っている。
 地下に入ると地上よりは要素の乱れは少なくなるものの、ここはここで闇の気配がして、胸がざわつく。地上で生まれた混沌が、地下に降りてくると闇に変わるのだろうか。地上に混沌、地下に闇。光はどこにある? どこにいる? 姿を見せて。
 轟音を響かせ水蒸気を纏わせながら、真っ黒な四角い鋼鉄の乗り物が走ってくる。人々がその腹から吐き出され、代わりに別の人々が腹に潜り込んでいく。魂が渦巻き、ここでも混沌が生まれる。闇の気配。光の不在。
(だめ。だめ。出てこないで)
 身体の奥で蠢く闇の精霊を必死に宥める。バルクの魂に意識を向ける。光り輝く水の魂。狼の魂。助けて。バルクにしがみつくと、しっかりと背中に腕を回して引き寄せられる。
 どろりと重い水の中を歩くようにメトロに乗りこむ。扉が閉まるとさっきの混沌から隔絶され、少し楽になって息をつく。
 メトロは凄まじい速度で暗闇を駆ける。リコはぐったりとバルクに身体を預けた。
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