失われた歌

有馬 礼

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第4部 帝都地下神殿篇

3 伝言※

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 バルクのコールリングに、珍しくヒューゴから直接連絡が入った。

「何?」

 ちょうどベッドに入ってリコを抱き寄せようとしていたところを邪魔されたバルクの返答はそっけない。

〈そこにリコもいるか?〉

「いるよ」

〈前に話した気がしなくもないけど、帝都で協力してもらってた坊主がルブラにいてさ。そいつが、お前らを紹介してほしいって言うんだよ。そんなんで、今度ルブラに来てもらえねえ?〉

「僕は特に紹介してほしくはないけど?」

〈だいじょぶだって、そいつ、俺とは真逆の男だから〉

 ヒューゴは笑いながら言う。

〈まあ、バルクの答えはわかってるからいいんだ。リコにも聞いてくれよ〉

 バルクは渋々リコの方を見た。

〈ねえ、バルク、レイフの言ってたことは、これじゃない?〉

「レイフが言ってたこと?」

〈そう。『フレイマの行くところに行け』っていうの。フレイマって、ヒューゴの火の魂のことなんだろうとは思ってたんだけど……〉

「なるほど。ヒューゴが引き合わせようとしている人物には、何かある可能性があるってことだね」

 リコはうんうんと頷きながらバルクに身体を寄せると、膝立ちになってバルクの肩に顎を置いてコールリングを覗きこむ。

「わかったよ。こっちに来るとき連絡して」

〈おう、じゃ、また連絡する。肝心の俺が最近またバタついちまってよ。この前行ったばっかだけど、もう田舎の空気吸って、リフレッシュしたいわ〉

〈田舎じゃない!〉

 リコは、伝わらないとわかっているが、思わずコールリングの方に身を乗り出す。

「リコが、田舎じゃないって怒ってる」

〈まじかよ。馬車が交通手段として普通に走ってるのに? じゃ、なんなんだ〉

〈風光明媚ないいところでしょ!〉

「風光明媚ないいところだって」

〈風光明媚って田舎の言い換えじゃねえかよ。あ、やべ、呼ばれてる。じゃな、遅い時間に悪りぃ。もう「続き」していいぜ〉

 笑いながら通話は一方的に切れた。

〈続き?〉

「完全にわかってやってるのが、彼のいちいち腹立たしいところだね」

 そもそもリコが、ヒューゴから通話が入っている、と指摘しなければ無視するつもりだった。

〈そう言えば、ヒューゴの本質は精霊使いなのかもしれないって、ジュイユが言ってた〉

「本質?」

 バルクは目だけで肩に顎を乗せているリコを見る。リコは少し顔を離して、首を傾げて視線を合わせた。

〈そう。もしくは、雑さのレベルが尋常じゃないか〉

 それを聞いてバルクは笑う。

「確かに、雑すぎて『属性交換』ができないってジュイユ師が怒ってた。属性交換ができないと、他の属性の魔術は使えないから。練習すれば大抵できるようになるんだけどな」

〈精霊使いは自分の魂の属性以外の精霊は使えないから、そういう意味では、確かにヒューゴは精霊使いなのかもしれない〉

「彼は不思議だよね。あのレベルの属性持ちでありながら、魔術師になろうとも思わずに、帝都で警官をやってるんだから」

〈……バルクは、自分が属性持ちだって、わかってた? 自分が狼の魂の持ち主だってことは、いつ知ったの?〉

「いつだろう……。属性持ちだってことは、物心ついた頃には、なんとなくわかってた気がする。自分にもう一つの姿があるってことに気づいたのは、でも、孤児院の先生に言われたのがきっかけかな」

 バルクはおとがいに手を触れる。

〈先生に?〉

 意外な言葉にリコは首を傾げる。バルクはうなずいた。

「カウンセリングルームにひとり呼ばれてね。『自分にもう一つの姿があるってこと、気づいてる?』って聞かれた。はっきり覚えてるってことは、5、6歳だったのかな。それで初めて、姿を変えて走り回るあの夢は夢じゃなかったって気づいたんだ」

〈狼になって走る夢?〉

「そう。自分じゃ自分の姿は見えないんだけど、姿が変わったことはわかってて、その姿になるととても早く走れるんだよ。風みたいに。それで、夜中、町を走るんだ。孤児院があったのは、そうだな、ラシルラよりもう少し大きいくらいの町で、少し走ると雑木林があるんだ。そこで一晩中楽しく走り回る夢」

〈楽しそう〉

 リコの感想にバルクは笑ったが、その笑顔は寂しげだった。

「僕は楽しかったよ。ただ、それを見てた周りの人は気が気じゃなかったんだろうね。僕は誰かを傷つけようなんて思いつきもしなかったけど、それは周りからはわからないから」

〈……悲しかった?〉

「……今にして思えば。僕はただ楽しんでるだけで、他の人を傷つけようなんて全く考えていなかったのに、どうしてわかってくれないんだろうって怒っていたけど、今から考えると、わかってもらえないことが悲しかったんだね」

 バルクは目を伏せる。長いまつ毛が影を落とした。

〈もし過去に戻れるのなら〉リコはバルクの髪を撫でた。〈「わたしにはわかってるよ」って、言ってあげられるのに〉

「伝えておくよ、僕から」

 バルクは上半身だけでリコの方を振り向くと、その背中に腕を回して抱き寄せ、くちづけた。
 バルクの骨ばった長い指が、身体のラインをなぞった。リコは力を抜いてバルクに身体を預ける。バルクの手が頬に添えられて、顔の角度を変えてくちづけが深くなる。バルクの舌に口内を探られると背骨の一番下にぞくぞくした感覚が溜まる。リコはバルクの首に両腕を回して、ねだるように身体を押しつけた。バルクの両腕がしっかりとリコを抱き寄せて、服越しにバルクの体温と、それを生み出す筋肉の張りを感じる。

〈バルク、好き……愛してるの〉

「ん……」

 その言葉に応えるのももどかしく、バルクはリコのシャツをするりと脱がせる。唇が離れる一瞬、リコの耳元に囁く。

「愛してるよ、僕の唯一無二の人」

〈触って……いっぱい〉

 リコは再びバルクの首に腕を回して身体を寄せる。

「 もちろん」

 首筋から鎖骨、胸へと唇を滑らせながら答える。胸の先端を舌でくすぐると、それはすぐさま硬く立ち上がってくる。口に含んでキャンディのように転がす。リコが息をついて顎を上げた。もう、何度こうしたかわからない。彼女の身体で触れていない場所など最早ないのに、何度触れても飽きることがない。もっと触れたい。彼女の中にある自分だけの場所に、受け入れてもらいたい。
 はっ、はっ、と荒く息をついているリコをうつ伏せにさせ、背中に唇を這わせる。腰の窪みに舌を這わせると、リコは背中を反らせて腰を上げた。脚の間に顔をうずめ、既に潤んでいる複雑で繊細な裂け目に舌を這わせる。
 リコはその刺激に息を詰めて、身体をこわばらせた。バルクの舌は、秘められた襞をなぞり、硬くなった芽を容易く見つけ出す。リコはベッドに顔を押しつけて腰を高く上げて彼の舌をねだった。その舌はリコの求めるとおり、転がし、吸いあげる。リコのきつく閉じた目の裏にもっと深い闇が訪れて身体が予感に固くなり、そして一瞬の浮遊感の後、絶頂が訪れた。
 バルクは、絶頂の余韻に浸っているリコの肩にくちづける。リコは仰向けに姿勢を変えると、顔を上げて唇を重ねた。バルクの首に腕を回して抱き寄せる。バルクがリコの襞をかき分けて、中にはいってくる。

〈きもち、い……〉

 リコは背中を反らせる。

「うん、気持ちいい……ああ、好きだ、リコ、リコ……」

 バルクは腰を押しつけるようにして奥を揺らす。苦しみにも似た快感に、リコはバルクの腕を掴んで歯を食いしばった。息ができない。

〈バルク、気持ちいい……だめ、へんになる……〉

「いいよ、リコ、イって……」

 リコの腰の下に腕を差し入れて持ち上げ耳元で囁くと、中が強く締まってリコは顎をのけぞらせて身体を震わせた。
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