光の戦車が骨を断つ 〜魔王城に来たエグい女の子に惚れました

有馬 礼

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英雄たち 2

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 人間の相手は人間にさせれば良い、なんてわたくしは頭が良いのだろう、頭蓋骨の中はからっぽだけど、などと悦に入っていたのも束の間、この元英雄たちが思いもよらぬ動きをしはじめた。

「魔王様!」

 死してなお暑苦しい剣士がわたくしのすぐ目の前に膝をつく。肉のないこの身ですら暑い。距離感おかしい。あまり近寄らないでほしい。いちいち語尾にビックリマークつけないでほしい。
 あの魔術師はなかなかの力の持ち主らしく、雷の魔術を使えるようだ。雷の魔術でこんがり焼けた身体も、今や腐り落ちて骨を残すだけとなっていた。骨だけになってなお暑苦しい男。文字どおり骨の髄までアツい。ほんと近寄らないで。

「わたくしは魔王などというものになった覚えはないと申し上げたはずでございますよ。わたくしのことは放っておいてくださいませ。あなた方は、時々来る人間の相手をしてくだされば、それでよろしいのです」

 戦は元英雄との戦いの後ほどなくして休戦と相なったようで、死霊の供給は落ち着いていた。しかし、重くなった魂たちの慰撫は追いついていない。あいも変わらず、毎夜毎夜死霊たちを踊らせている。踊りの輪を回っているうち、死霊たちは恍惚となり、重い魂たちは軽くなっていった。

「他の者たちとも話し合いましたが!」

 聞いてない。完全に聞いてない。確かに耳は無くなったが、それにしたって聞いてない。この押しつけがましさはなんなのか。「自分の発言に価値のなかろうはずがない」という、無根拠な自信はどこから湧いてくるのだろう。まったくもって、羨ましい限りだ。死んだ瞬間、自分がこれまで犯してきた罪も遺してきた者のことも忘れて天に昇るタイプだ。いや、それが悪いとは言わない。言わないが。

「魔王様は城を持つべきです!」

「…ですからね?」

「人の王に見劣りせぬくらいの城をこの地に建て、魔王ここにありと宣言するとともに、あらゆる魔物を呼び集め…!」

 ああもう聞いてない。

「魔の国を建てるのです!!!!」

 ほんと、聞いてない。

「いえね? わたくしは魔王などという者ではございませんし、魔の国とやらにも興味はございません。わたくしが興味を持っておるのは死霊だけでございます。死霊を愛で、腐った魂を慰撫する。わたくしは求めているものはそれだけでございます。また、わたくしは腐った魂を天に還す法の研究に忙しいのです。どうぞ、わたくしのことは放っておいてくださいませ。魔の国ごっことやらがやりたいとおっしゃるのならば、勝手におやりなさいな」

 うんざりして言うと、剣士はがばっと立ち上がった。

「皆の者聞け!」

 後ろを振り向いて、墓地中に朗々と響き渡る声で呼びかける。無駄にいい声だなこいつ。

「魔王様がたった今魔の国建国を宣言なされた! 我々はこれより、この地を魔の国の都と定める!!!!」

「えっ、えっ、えっ???」

 そういう意味で言ったんじゃ…!!??

「「「御意!」」」

 いつの間にいたのか、魔術師・格闘家・僧侶も跪いている。

「まずは、人の王の宮城を凌ぐ『魔王城』を築くのだっっっ!!!!」

「「「はっ」」」

 えええええ~~~????

「ど、どうしてそうなるのでございます、わたくしは…!」

「魔王様! 魔の国建国、お祝い申し上げます!」

「「「お祝い申し上げます!」」」

 だーかーらーーーー!!!!

「…もうやだ」

 立ち上がりかけて、もう何もかも面倒になって椅子にへなへなと座る。
 死霊をそれ自身の遺体に縛ったのは失敗だった。人間臭すぎる。死してなお権力だの何だのに拘っている。そんなものは! もう! 関係ないの! なんたってあなた方死んだんだから!! 忘れて! そんなもののことは!! ね!? 死んだの!! あなた方!!
 しかし、聞く耳のない者たちはわたくしの言葉など聞かない。
 おお、神よ。いるなら問うが、なぜ耳に骨を入れなかったし。お陰で誰もわたくしの言葉を聞かないではないか。

 それからはあれよあれよと言う間に事が進んでいった。元英雄たちは四天王などと名乗りはじめ、魔王城の中にヒエラルキーを作り上げた。また悪いことに、全く意図しなかったことながら、四天王にも「死霊縛り」の術が承継されてしまった。これにより彼らは、人の国から差し向けられる刺客を殺しては「死霊縛り」により部下を増やしていった。もはや魔の国は、無視できない一大勢力となって人の国を脅かしていた。
 ただ一つ良かったことを挙げるとすれば、それまで人の国同士で争い、長らく戦のやむ事がなかったものが、魔の国の出現により、人の国同士が同盟を結んで立ち向かわざるを得なくなったことだろうか。
 戦がなくなるのは喜ばしい。あとは、大挙して魔の国に攻め入るなどということを考えねば良いのだが。

 元英雄たちの暴走はその後も続いた。
 近くの町から若くて美しい娘を攫ってきては、「死霊縛り」で側女にしはじめた。腐れば若くて美しかろうが何だろうが関係ないのでは?などと思っていると、魔術師が腐敗抵抗の魔術を編み出し、娘たちは、ちょっと顔色は悪いものの、死んだ時の姿を留めたまま、彷徨える屍体となった。血色不良ガールズだ。もう、どうすればいいのこれ。彼女らのご両親に何と申し開きをすれば良いのやら。最低限の面積の、ピラッピラの布切れだけを身につけさせられた娘たちを見て途方に暮れる。
 彼らの身体を腐らせたのは正解だった。ナニがどうとは言わないが、風紀の乱れが甚だしくなりすぎるところだった。色を好みすぎるだろう、この元英雄たち。死んだの、あなた方。もう繁殖できないの。まったくもう。ガールズの尊厳に配慮せよと毎日毎日鉄板の上で焼かれる如く嫌になりながら、口を酸っぱくして言っているが、聞きやしない。おい神よ、耳に骨を入れなかったのは完全に失敗だったぞ、どうしてくれる。あ、人間のイチモツに骨を入れなかったのは、褒めてやっても良い。ああもう。なんでわたくしが本来の業務以外でこんなに頭を悩ませなきゃならないのか。本末転倒だ。1回リセットした方が良いのかしらん。ああでも、そうすると人間の相手を全部わたくしが自分でやらなきゃならないのか。悩む。

「剣士どの。ちょっと、来てくださいますか」

 見るに見かねて、暑苦しい剣士を呼びつける。
 だだっ広い魔王の間には誰もいないが、わたくしが「その気」で声を発すれば城中に聞こえるようになっている。

「お呼びでしょうか!」

 剣士が現れる。広い魔王の間の温度が急に上がった気がする。苦手だが、元英雄たちに何かを命じたい時は、この男を通すのが一番早くて確実だ。

「最近、あなた方の乱暴狼藉は目に余ります。今後、町から娘を拐かすのは禁止といたします」

 なったつもりのない魔王だが、使える権力は使うことにする。

「人の国に必要以上に関わってはなりませぬ。城の周りに毒の沼やら人喰い植物の魔物やらを配するのを許可したのは、人の国との接触を避けるためとあなた方がおっしゃったからでございますよ? なのになぜ、あなた方の方から夜な夜な人の国に出没し、うら若い娘を拐かしておるのでございます。あの姿を彼女らのご両親がご覧になったら、どれほど嘆き悲しまれるでしょうか。わたくしは合わせる顔がございませんよ、骸骨でございますけれども」

「しっ、しかし、士気高揚のためには…!」

 スケベ剣士が言い募る。口答えするとは珍しい。娘を攫ってこようなどと言い出したのは、さてはお前か。

「お黙りなさい。娘は褒美の品でも何でもございません。1つの魂として、同じ1つの魂に敬意を払わぬ者は、わたくしは嫌いでございます。だいたい、士気とは何なのでございます。何のためにやる気を出す必要があるのでございますか」

「最近、人の国の我が国に対する干渉はますます激しさを増しております! そのため」

「あれだけの乱暴狼藉を働いておれば当然でございましょうが!!」

 剣士の言葉を遮って声を張り上げる。

「それがわからぬほど愚かなのでございますか、あなた方は!!」

「は、ははっ! 御意に!」

 剣士は頭を下げ、まろびながら去っていった。なぜ叱られたのか全く分かってないな、あれは。追いかけて激詰めしようと腰を浮かせかけたその時。

「ままま魔王様!」

 入れ違いに頭蓋骨のみ永久に真左を向いている魔術師と、頭蓋骨の右半分が吹っ飛んでいる格闘家が、まろびながら入ってきた。

「どうしたのでございますか、そんなに慌てて」

「人の国が大挙して我が国に侵攻してまいりました!」

 ついに来てしまった。恐れていた時が。

「城門を閉ざすのです。こちらから人の国の軍に攻撃を仕掛けることはまかりなりません」

「ですが…」

「魔王の言葉に異論でも?」

 なったつもりのない魔王だが、使える権力は使うことにする。本日2度目。

「ございません! 直ちに全軍に伝達いたします」

 格闘家がまろびながら出て行く。
 全軍? 知らない間にどれだけ増えたんだ? 魔王軍とやらは全部で何人いるんだ? ああ、頭蓋骨がミシミシする。こめかみのあたりを指で押さえる。

「人の国を率いているのはどなたでございますか?」

「こちらを」魔術師が長衣の懐から鏡を取り出す。「斥候の魔鳥の視覚を繋いでおります」

 鏡を覗くと、こちらに進軍してくる人の国の軍勢が見える。視野の中央がそこだけ拡大されていて、ひときわ立派な鎧を着た青年が見える。

「これは。人の国の第一王子、今は王太子殿下でございますね。智に優れ、徳と武勇をも備えた無二の王子とか」

「王太子には我が軍も何度も煮湯を飲まされてきましたが、今度こそ」

 えっ、今までも王太子と戦ったことあったの? いつの間に? と思うが、今はそれをウンヌンしている場合ではない。

「愚か者!!」声を張り上げる。本日2度目。「王太子殿下に指一本触れてはなりませぬ!」

 今、王太子を失えば人の国の政情は不安定となり、また戦が起こりかねない。そこに、この狼藉者どもがつけ入るようなことになれば、地上に死霊と腐った魂が溢れかえることになるだろう。生者が死者の名を、死者が生者の名を呼び合いながら、それぞれに彷徨い歩く世界は見たくない。

「わたくしが自ら参りましょう。全軍に伝えなさい。わたくしが戻るまで、その場から一歩も動いてはならぬと」

「ま、魔王様が!? それには及びません! 我々四天王が…!」

「結構でございます。わたくし1人で十分でございますよ」

 王太子は優れた武人であるだけでなく、素晴らしい土の精霊の使い手だ。まかり間違ってもこの者どもに負けるようなお方ではない。しかしそんなことを言えばこの者どもは却ってやる気を出してしまう。万一のことがあってはならない。

 やいのやいの言う屍体どもを本日3度目の強権発動で黙らせ、城門の外に出た。
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