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エピローグ
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ふぅ、とレイフは息を吐いた。ようやく死霊やら腐った魂やら魔物やらを集めて大騒ぎしていた諸悪の根源を封印した。
あれは、あの映像は何だったのだろうと不思議に思う。ヴィラントと対峙する、光り輝く大きな青い狼。その狼にそっと寄り添う、夜そのもののような真っ黒い魂。青い狼が形を変えて、人の姿を取る。黒い魂と抱き合い、口づけを交わす。
これほど遠い時間のことを「視た」のは初めてだ。時間が離れ過ぎているせいだろう、それの意味するところはわからない。ただ、ヴィラントがそこに必要なのだ、と感じさせるだけだった。
(…それはそれとして、こいつらも片付けなきゃな)
暴れ回る魔物たちを順に封印していく。
最後に巨大な炎の猪を封印し、全てが終わった。
ヴィラントが気にかけていた墓は、ヴィラントの結界に守られて、埃ひとつかぶってはいなかった。
(後で王太子の奴に伝えよう)
魔王がこの墓を訪れてほしいと言っていたと。
レイフはひらりと戦車に飛び乗る。戦車はヴィラントを封印した真っ黒な水晶を従えて天に駆け上がった。ヴィラントが「その時」を待つ場所はここではない。
ヴィラントをあるべき場所に収め、王宮に帰ったのは陽が落ちてからだった。
王太子の部屋のバルコニーに光の戦車をつける。バルコニーといっても、戦車を余裕で停められるくらいの広さがある。戦車を降りて、バルコニーと室内を結ぶ掃き出し窓から入る。入ったところは、王太子が彼の客人と会うために使う応接間だ。そこに王太子の姿はない。代わりに彼の精霊がいた。
「おかえり」
王太子と全く同じ姿をした精霊は柔らかく微笑む。王太子の精霊は、もうひとりの彼だ。精霊と話すことは王太子自身と話すことと同義だし、精霊に触れることは王太子自身に触れることと同義だった。
「やっと終わった」
レイフはクッションの効いた豪華なソファに飛び乗るように座った。
「封印したんだな?」
「ああ。奴が未来に、誰かといるのが見えた。殺すのは今じゃないと感じたから、封印した」
「じゃあ」ぽん、と肩に手が乗せられる。振り向くと、王太子が精霊と同じ顔で笑っていた。「私の妃になる、ということで、いいな?」
「な…っ」
レイフの顔が見る間に赤くなる。
「だって、封印したじゃないか! あいつは時が来るまで動けない! 死んでるのと同じだ!」
「でも、殺してはいない」
「そ、そうだけどっ!」
王太子はレイフの隣に腰掛けた。いつの間にか精霊はいなくなっている。
「そんなに私の妃になるのは嫌か?」
少女と見紛うような美しい少年が微笑みかける。
「あ、え、えっと」
ヴィラントは、嫌なら嫌と伝えれば良い、王太子は無体は働かないだろうと言った。でもそういうことじゃない。
「私、は…っ」
なんとか言葉を絞り出す。
「便利な道具じゃ、ない。私をそばに置けば何かと都合がいいんだろうってことは、わかってる…けどっ」
握りしめた拳がぶるぶる震えている。
そんなレイフの姿を見て、王太子はこれまで何度も言ってきた言葉を繰り返した。
「いつも言うように、私がそなたを愛しているのは、そなたが守護者だからでも、ましてや光の来訪者だからでもない。レイフだからだ」
臆面もなく言い放つ王太子に、レイフは真っ赤な顔のまま、弾かれたように立ち上がった。
「お前、お前っ、ほんっと、頭おかしい…!」
「私は至ってまともだし真面目だ」
レイフの悪口を王者の威厳でさらりと流す。
「しらないっ」
レイフはバルコニーに飛び出すと、戦車に乗って荒々しく夜空を駆けていった。
王太子はバルコニーに出て、光の尾を曳きながら去っていく戦車を見送る。月や星は、こんなに明るかっただろうか。
あれは、あの映像は何だったのだろうと不思議に思う。ヴィラントと対峙する、光り輝く大きな青い狼。その狼にそっと寄り添う、夜そのもののような真っ黒い魂。青い狼が形を変えて、人の姿を取る。黒い魂と抱き合い、口づけを交わす。
これほど遠い時間のことを「視た」のは初めてだ。時間が離れ過ぎているせいだろう、それの意味するところはわからない。ただ、ヴィラントがそこに必要なのだ、と感じさせるだけだった。
(…それはそれとして、こいつらも片付けなきゃな)
暴れ回る魔物たちを順に封印していく。
最後に巨大な炎の猪を封印し、全てが終わった。
ヴィラントが気にかけていた墓は、ヴィラントの結界に守られて、埃ひとつかぶってはいなかった。
(後で王太子の奴に伝えよう)
魔王がこの墓を訪れてほしいと言っていたと。
レイフはひらりと戦車に飛び乗る。戦車はヴィラントを封印した真っ黒な水晶を従えて天に駆け上がった。ヴィラントが「その時」を待つ場所はここではない。
ヴィラントをあるべき場所に収め、王宮に帰ったのは陽が落ちてからだった。
王太子の部屋のバルコニーに光の戦車をつける。バルコニーといっても、戦車を余裕で停められるくらいの広さがある。戦車を降りて、バルコニーと室内を結ぶ掃き出し窓から入る。入ったところは、王太子が彼の客人と会うために使う応接間だ。そこに王太子の姿はない。代わりに彼の精霊がいた。
「おかえり」
王太子と全く同じ姿をした精霊は柔らかく微笑む。王太子の精霊は、もうひとりの彼だ。精霊と話すことは王太子自身と話すことと同義だし、精霊に触れることは王太子自身に触れることと同義だった。
「やっと終わった」
レイフはクッションの効いた豪華なソファに飛び乗るように座った。
「封印したんだな?」
「ああ。奴が未来に、誰かといるのが見えた。殺すのは今じゃないと感じたから、封印した」
「じゃあ」ぽん、と肩に手が乗せられる。振り向くと、王太子が精霊と同じ顔で笑っていた。「私の妃になる、ということで、いいな?」
「な…っ」
レイフの顔が見る間に赤くなる。
「だって、封印したじゃないか! あいつは時が来るまで動けない! 死んでるのと同じだ!」
「でも、殺してはいない」
「そ、そうだけどっ!」
王太子はレイフの隣に腰掛けた。いつの間にか精霊はいなくなっている。
「そんなに私の妃になるのは嫌か?」
少女と見紛うような美しい少年が微笑みかける。
「あ、え、えっと」
ヴィラントは、嫌なら嫌と伝えれば良い、王太子は無体は働かないだろうと言った。でもそういうことじゃない。
「私、は…っ」
なんとか言葉を絞り出す。
「便利な道具じゃ、ない。私をそばに置けば何かと都合がいいんだろうってことは、わかってる…けどっ」
握りしめた拳がぶるぶる震えている。
そんなレイフの姿を見て、王太子はこれまで何度も言ってきた言葉を繰り返した。
「いつも言うように、私がそなたを愛しているのは、そなたが守護者だからでも、ましてや光の来訪者だからでもない。レイフだからだ」
臆面もなく言い放つ王太子に、レイフは真っ赤な顔のまま、弾かれたように立ち上がった。
「お前、お前っ、ほんっと、頭おかしい…!」
「私は至ってまともだし真面目だ」
レイフの悪口を王者の威厳でさらりと流す。
「しらないっ」
レイフはバルコニーに飛び出すと、戦車に乗って荒々しく夜空を駆けていった。
王太子はバルコニーに出て、光の尾を曳きながら去っていく戦車を見送る。月や星は、こんなに明るかっただろうか。
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