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第一章 ナルス
望まぬ結末(上)
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銀朱によって胸に突き刺された剣を、静かに握った。
ーー生きなさい!
思い出した、あの瞬間を。
枝乃の最期の言葉と顔を。
口の中は鉄の味で満たされていた。
視界もひどく歪んでいる。
目の前の銀朱の姿さえ、捉えきれていない。
「まだ動けたのね? 朱己」
突き刺さる剣に力が籠もった。
「……思い出した」
ゆっくり、握る手に力を籠める。
「寝てたのね? バカみたい! こんなところで!?」
高らかな笑いが耳につく。
それさえも、今は私の心を揺らさない。
「私は勘違いしていた、銀朱」
剣を握る手に血が滲む。
不思議と痛みは感じない。痛覚を失ったように。
「あなたにはあなたの守るべきものがあるように、私も、私の守るべきものがある。私のことを助けて散っていった者たちのためにも、私自身のためにも、私は生きる」
目の前の銀朱をまっすぐ見て、剣を思い切り引き抜いた。胸に空いた穴は、音もなく塞がった。思えば、肩から真っ向切り開かれた傷も塞がっている。
銀朱が目を見開いた。まるで信じられないものを見るかのように。
「なんで……傷が……!? もうセンナにそんな余力は」
たじろぐ銀朱を静かに見据えて、立ち上がった。
「私は私の想いのために戦う」
いつの間にか、左手に握られていた御守。
ずっと忘れていた。
自分の服の胸の内側に縫い付けていたもの。
先程銀朱に穿かれたとき、発動したのだろう。
今痛みを感じないのも、一時的に力が増幅しているのも、出力が安定しているのも、この御守のおかげらしい。
枝乃に渡して、投げつけられた御守。
こうやって今も守られることになるとは。
「……ありがとう、枝乃」
自分にしか聞こえない声で呟いた。
自分の裾には、香卦良からもらった玉もある。
まだ、負けるわけにはいかない。
「生きる」
剣を持ち、一緒に御守を握り込む。
呼吸を整えて、目の前の彼女を見据えた。
少しだけたじろぐ彼女の隙を見逃さない。
彼女の後ろへ回り込む。
防御のための炎を操る彼女に、同じ炎をぶつけて相殺する。
そのまま腕をつかめば、彼女の顔が引きつった。
確実に胸へ突き刺す。
血飛沫が私の頬を掠めた。
世界がゆっくり動いているように見える。
すべての動作が遅くなっているようだ。
傷口から見える彼女のセンナに手を伸ばした瞬間だった。
「そこまでです。ナルス、朱己」
「っ!」
声の方を見上げれば、見覚えのない服に、見覚えのない顔。いきなり現れた二人組。
「宇宙界、永世中立国である我々ヴィーが仲介します。両者、止まりなさい。止まらぬ場合は、ナルス及びビライトの長を処刑、また国を我々ヴィーの支配下に置き、今後監視対象として統治します」
「ヴィー……?」
外交でも、あまり会うことのないヴィー。
だが父から聞いたことがある。宇宙界全土の記録を担い、戦争や一方的な武力行使の仲介、要注意国への監視を行う宇宙界筆頭国だ。
逆らえば、宇宙界から名実共に消される。
全ては、宇宙界の安寧のため。ヴィーが一方的な武力介入をすることはないが、戦争が起きたりした際、宇宙界の各国へ影響が出かねない場合には容赦なく介入する。必ず従わざるを得ない喧嘩両成敗、とでもいうのだろうか。
そのヴィーが来たということは。
この戦いが、宇宙界全土を巻き込みかねない、各国へ影響を与えかねないと判断されたということ。
そして従わない場合、両国の長ーー父、そして伯父上が、捕らえられるということ。
仮に従ったとしても、戦争責任として長は捕らえられ、幽閉されることが多いと聞く。
目の前に時雨伯父上がいて、これが最終決戦になるはずなのに、こんなところで。
「お待ち下さい!」
思わず声を上げれば、冷たい目を向けられ、思わず息を呑んだ。
「黙りなさい、ナルス朱己。あなた方に拒否権はありません」
「ここにいるビライトの長はナルスの者。ナルスでの処刑対象者です。私達の監視下にあるべきです」
黙りなさいと言われて黙れるほど、今の私の心は穏やかではない。ムキになって言い返せば、氷のように冷たい目はさらに鋭さを増した。
「黙りなさいと言っています。経緯は把握しています。そして今、時雨がビライトの長である事実は変わりません。我々の監視下に置きます」
こんなことがあるか。
こんな、こんなことが。
思わず手を握りしめれば、血が滴った。
こんなところで。こんな終わり方を。
本当に、そんなことがあるか?
「永世中立国ヴィーの長自らお出ましとは、ご足労いただき恐縮です、蕾殿。先代長、白蓮です。お久しぶりでございます」
いつの間にか白蓮伯父上が隣まで来ていて、私の肩を叩いた。
視線で落ち着きなさいと言ってくる。
「これは、白蓮殿。お久しぶりでございます。随分と派手にやられましたな」
「ははは、面目もございません。家族喧嘩が戦争に発展してしまい、不徳の致すところです」
笑い事じゃない。
目の前の白蓮伯父上を見上げれば、目は今にも射殺しそうな鋭さをたたえていた。
それもそのはずだ。
もっと早くヴィーが動いていれば、法葉様を手に掛けることはなかったかもしれない。いや、手にかけた今となってはどんな仮定も意味をなさないのだが。
国がこんなに甚大な被害を受けたのは、ひとえに私達の力不足だ。時雨伯父上をもっと早く、仕留めることができたなら。今となっては、腸が煮えくり返るほどの怒りを伴っても、足を動かすことさえできない。歯がゆいなどという生易しい感情ではなく、この事実が、本当に純粋に許せなかった。
自分の力量不足だ。覚悟が足りなかったのだ。
唇を噛み締めれば、目の前のヴィーの長は時雨伯父上の方を見て、口を開いた。
「して、ビライトの長。ナルスへの宣戦布告は、我々ヴィーを通さなかったな。よって、宇宙界法に則り禁固刑とする。ともに来てもらおう」
「禁固刑……!?」
思わず目を見開けば、少し離れたところで銀朱が叫んだ。
「ちょっとどういうつもりなのよね!? 父様をどうするつもりなのよね!」
静かに銀朱の方を見た蕾殿は、まるで虫けらを見るかのような目をしていた。見られていないこちらでさえも、思わずぞくりと背筋が寒くなるのを感じた。
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