朱色の雫

弦景 真朱(つるかげ しんしゅ)

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第二章 朱南国

宇宙界の力関係

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ーーー

 朱南国に残った十二祭冠たちと今後についての相談を始めた。私達は今や、ナルスという大国ではなくなり、名実共に後ろ盾がない。

「同盟国は、今の所紫西しせいだけだけど、今後項品率いる青東せいとうや、銀朱率いる黒北こっぽうと対抗するためには、より強い同盟国が必要だ。宇宙界のこの地図を見てほしい」

 十人で円卓を囲み、宇宙界の地図を覗き込む。
 現在朱南国にいる元の十二祭冠は、九人。

炎属性  炎尉 私
水属性  濁尉 妲音
土木属性 静尉 百夜兄様
風属性  風尉 葉季
雷属性  雷尉 高能
五感支配 感尉 杏奈
霧雲属性 霜尉 神奈
氷雪属性 雹尉 瑪瑙
光属性  光尉 光琳

 そして、隠密属性の最高位である隠尉いんいに朱公をおいた。彼女の能力は隠密系においては群を抜いており、誰もが認めた。これで、十人になる。
 不在は、音属性の音尉ねい、闇属性の闇尉おんい
 すぐには見つからないだろうが、国の体制を整える中で適任がいれば御の字だ。
 だが、この朱南国を取り囲む情勢は楽観視していいものではない。宇宙界の各国の力関係がナルスの崩壊によって崩れたからだ。

 宇宙界は元々ナルスの他に六カ国ある。
 ナルスを含めて七カ国だったが、今はナルスが四分割されたことにより、十カ国になった。
 まず、この朱南を中心に、隣国の青東国。
 そして、向かいには黒北国。
 また、その二国の奥にはビライト。ビライトは乗っ取られていたとはいえ、こちらの味方になるとは考えにくい。
 そして、脅威はビライトよりも、この朱南のさらに南に位置する、大国ストラ。ここの長はヴィオラというなんとも癖の強い人だ。元々ナルスに引けを取らない程の大国。できれば敵には回したくない。
 そして、もう一つの驚異となる国、テシィ。
 ここ数百年でできた、比較的新しい国だ。長は師走と言って、随分と残虐非道な者だという噂を聞いたことがある。
 残りの三カ国。
 永世中立国であり、今回我々の国を分断した宇宙界筆頭、ヴィー
 元々ナルスとは不可侵条約を結んでいて、小国だが資源に恵まれた、マヌン
 日和見主義で名の通った、チュニ
 考えるだけで頭が痛いが、葉季が淡々と口を開いてくれるのが今はありがたい。

「テシィは味方になればでかい……というのは確かだが、まだ情報が少なく判断はしかねるのう」
「ええ、それからマヌンは、元々不可侵条約を締結していたから、朱南うちとしては引き続き継続していきたい」

 地図を見ながら、国を指さして話し合う。

「悩ましいですね。できることなら、マヌンとは同盟を組んでおきたい気持ちはありますが……あれだけの資源がある国ですから、マヌンが黒北、青東から狙われる可能性も。まずは敵にならないことが重要かと」
「そうだな、朱公。マヌンは小国とはいえ、ここ数年で立派な軍事国家に成長している。不可侵条約を結んでおくことに越したことはないだろう。同盟国とするかは……要検討、だな」

 朱公と杏奈の意見に頷きながら、髪の毛を束ねた。やはり、まずはマヌンからか。

「朱公。マヌンの長の側近に文を出してくれる? 近々謁見に伺うと」
「承知しました」

 朱公はすぐに部屋をあとにした。
 行動が早いのは助かる。

 口元に手を当てて、考えるのは弟、項品のこと。
 時雨伯父上に肩入れをしていた、本当の目的はなんだろうか。優しくしてくれたから、だけなのだろうか。仮にそうだとして、華音姉様までそんな訳はないだろう。
 彼らの目的を、探らなければ。

「朱己姉」

 名を呼ばれて意識が現実に帰る。

「ごめん、項品の婚約者なのに、項品を止められなかった。彼らの目的は、私に探らせて。お願い」
「神奈……」

 心を読まれたことよりも、彼女の顔がもう覚悟を決めていたことのほうが、私には衝撃的だった。

「もう、心は決まったのね」
「うん、大丈夫」

 強い。
 彼女は、とても強い。

 同じ立場だったら、こんなに早く覚悟を決められただろうか、と思うと心が揺れる。
 きっと、彼女も相当傷ついて、相当苦しんでたどり着いた答えなのだろう。
 頷いて答えれば、彼女はいつもどおり笑った。

「銀朱率いる黒北と、項品率いる青東が同盟を組む前提で我々も動いたほうがいい。実質、ナルスが二分された形になる」

 薬乃の夫であり、母の弟である陸真りくま殿、そして陸真殿の双子の弟である空真くうま殿が、治めることとなった紫西と同盟を組む我々。
 実質二分されたナルス。
 ナルスを分断することになった原因は私にある。
 民にこれ以上の犠牲を出さないためにも、国力を上げ、戦火を回避しなければならない。そして、強力な後ろ盾は戦火を回避するための傘となる。国を分断されたとはいえ、ナルスの民は自分の民も同然なのだから。ナルス内での戦は、できるだけ避けたい。
 守れなかった国。守れなかった民。
 自分ができることを、せめて今生きている民に。

「杏奈、陸真殿と空真殿に会いにいく。一緒に来て頂戴。今日はこれで解散。各自、民が移動で困っているところがあれば助けてあげて」
「ああ」
「相分かった」 

 すぐに私は杏奈と紫西へ向かった。

ーーー

「よお、朱己! よく来たな」
「相変わらず元気そうで安心したわ、朱己。杏奈も」
「陸真。壮透殿の視線が痛い。あまり朱己に軽々しく触るな」

 紫色の髪を前髪ごと後ろで束ねている、行動と性格に裏表のない陸真殿。右耳の下で横に流すように軽く褐色の髪を流している空真殿は、陸真殿とは違い、思慮深いのが行動にも出る方だ。
 空真殿が心底懸念を口にするのは、陸真殿との性格の違いからくる行動の差故だろう。

「陸真殿、空真殿。薬乃も、相変わらず元気そうで何よりです。父様も母様も、ご無沙汰しております」
「ええ、朱己も元気そうで。杏奈も、よく来ましたね。そちらも大変でしょう」
「法華様。お気遣い痛み入ります」

 国が分かれてからというもの、お互いに忙しく、中々来れずに一月以上経ってしまった。
 世間話を少しした頃、それまで黙していた父が口を開いた。

「朱己。本題を話せ。明るいうちに帰れなくなるぞ」
「はい、父様。陸真殿、空真殿。……紫西は、宇宙界の国々と同盟を組むのか伺いたく」
「その話だと思ってたぜ。壮透殿とも話してたが、マヌンは押さえておきたいところだな」
「やはり。我々も、まずはマヌンと話しておりました」

 考えることは同じか。
 父と目を合わせて頷いた。
 となれば、残る二国ーー黒北と青東も、まずはマヌンを狙う可能性が高くなったと考えていい。

「チュニは日和見主義。放っておけばいい。ストラとテシィは敵に回さないのは必須。ビライトは出方を見るとして……」
「そうなれば、やはり残るはマヌンだな。ヴィーはどことも同盟は組まないだろうしな。永世中立国だ」

 空真殿に被せるように陸真殿が言う。

「やはり、そうなりますよね」

 方針を照らし合わせて、互いの出方を話していたとき、夏能殿が走って中へ入ってきた。

「壮透! 大変だ、……おい、朱己じゃねえか、なんてときに! 青東が、マヌンと同盟を組んだぜ!」

「なっ!」

 一時騒然とする会議室。つまり。

「うちらとの同盟の線は、これでなくなったってことだな」
「早速か。なんとなく想像してたけどな」

 苦笑する陸真殿たちを見ながら、杏奈と頷く。

「陸真殿、空真殿。こうなった以上、我々はまずストラを狙います」
「おい、本気か!?」

 目を見開く二人に、黙って頷いて返す。
 そして父を見れば、父は目を伏せていた。

「テシィとストラ。どちらかをまずは、と。そうなった場合、まずはストラの方が立地的にも、と思っています」

 テシィはナルスから見て少し離れた北西にある国。我々朱南からは遠く、少し行きづらい。
 対して、ストラは朱南国からさらに南に下ったところにある。
 先に味方につけるなら、ストラだ。

「朱己、ストラのヴィオラは曲者だ。十分心して行け」
「はい、父様。朱公、すまない。マヌンは無しだ。ストラへ書簡を」

『かしこまりました』

 ここからでも、声に出せばどれだけ離れていようと朱公に届く。これは、朱公が意識的に隠していた五感の力が開放されたからだろう。

「朱己、気をつけてね。またいつでも来なさい」
「ありがとう、薬乃」

 そう言って、紫西をあとにした。

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