朱色の雫

弦景 真朱(つるかげ しんしゅ)

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第三章 最終決戦

背負う業は誰のもの

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 初代長との戦いで勝たなければ、輪廻させられる。それはつまるところ、私としての生の終わり。
 対峙する二人は笑ったまま構えた。

「なんじゃ、思ったよりいい顔をしてるではないか」
「はい、負けるわけにはいかないので」
「そうだな。勝ってみせろ」

 師走は、きっとまた私を試している。
 そしてなにより、信じてくれているはずだ。今なら私が勝つと。

「いい顔じゃ」

 祭様と冠様は二人とも私と同じ、炎属性優勢の全属性だ。だが先程から冠様は炎の他、氷もまとっている。彼女の氷は鋭く、掠りでもすればたちまち氷漬けだ。

 瞬きする間に二人から挟み込まれ、身を翻して避けた。
 風に雷を仕込ませ二人の攻撃を次々と叩き落とす。
 彼女らの攻撃は止まることを知らず、左右前後から絡まるように私を追って来る。
 髪に触れるほど近くまで攻め入る攻撃を、寸前で両手を広げ水鏡を作り出し反射させると、二人の技は跳ね返り空中で分解した。
 
「愉しいのう、冠よ!」
「ああ。……まだそんなもんじゃないだろう、朱己」

 私を殺すつもりであるはずの二人は純粋に楽しんでいるように見えるし、思えばどうやって師走と連携を取っているのだろう。いや、それは勝ってから聞くとして、だ。
 二人の連携技が厄介だ。挟み撃ちにされ続けている。
 背中を見せないのは不可能に近い。
 ならば。

「炎龍」

 呟いたのは初めてだ。いつも六角形を指でなぞっていた。
 轟々と音を立ててどこからともなく出てくる炎の龍は、今までの比ではないほど大きい。

「あっぱれじゃ!」

 龍を出現させてすぐ、二人との距離を詰める。
 もちろん二人とも気づいているはずだ。私が近づいていることなど。

「朱己、見え見えじゃ」

 祭様が、自身と比べ物にならないほどの大きさの炎龍の首を素手で掴む。動きを制限される炎龍が炎を吹き暴れた。

「炎龍で身を隠し、近づく予定であったのじゃろ?」

 思わず口角が上がる。そう思わせることが私の目的だ。

「祭!」

 冠様が叫ぶ。
 冠様はお気づきのようだ。私の狙いに。
 だが、ここは譲れない。

氷牙ひょうが!」

 祭様の胸を貫く一本の太い氷柱。
 口から漏れ出る血が、氷柱に散っていく。

「ほ、お?」
「炎龍で隠していたのは、氷の威力を上げるための道筋です」
「そち、自分さえも隠れ蓑にしよったのじゃな」

 祭様が氷柱を溶かし、一瞬で傷を塞ぐ。

「やるのう、そち。面白いではないか」
「祭……まさか、まだ早いだろう」

 祭様がまとう空気に、一瞬で緊張が走る。
 ひりつくような、強い殺気。隣で冠様が目を見開いていた。

「冠、もう良かろう? 解除じゃ」
「まて、本当に朱己を殺す気か?」
「なに、本気でなれけば意味がなかろう? のう、朱己」

 明らかに先程とは違う、目の前にいる悪魔のような存在。顔に浮かび上がる炎のような模様。どこからともなく噴き出る火の粉は、さながら地獄のようだ。

「その模様……!」
「なんじゃ、見たことがあるか? 我等五珠は、普段はしまっておく力、姿がある。開放すれば模様が浮かぶのじゃ。そして、妾たちにはそのさらに上がある」
「上……?」
「見ればわかる。朱色の雫ミニオスティーラとしての能力がな」

 祭様だけでなく、冠様も姿が変わる。そして、唱えたのだ。その言葉を。

解除リヴァレ

 閃光が辺り一面を貫く。
 顔を伏せても、腕で覆っても、無理矢理目蓋をこじ開けられ、見せられているかのような眩さが突き抜ける。
 やっと見えた彼女らの姿は、この世のものではないと思えるほど美しかった。

「……祭様、冠様」
「ほれ、呆けている場合ではないぞ、朱己」

 腕を一振りするだけで世界が燃え上がる。
 もう片方の手を振れば、世界が闇に染まる。
 なにも力まず、ただ軽く振っただけなのに、だ。

 彼女らの思うがまま世界を破壊できる。
 その事実を目の当たりにさせられていた。

「これが……朱色の雫ミニオスティーラ……」

 誰が見ても呆然とするだろう。絶望に包まれた世界に相応しい闇の色。ヴィオラが先般言っていた、朱色の雫ミニオスティーラは強すぎた、という発言。
 抗いようのない絶対的な力に、絶望しながら散っていった者たちも居ただろう。五珠の面々でさえ、生と死の狭間を垣間見て恐怖したのだろう。
 それを証明するかのように、闇の先に見えるおびただしい血と叫びをまとった顔。すべて、朱色の雫ミニオスティーラの背負っている業なのだとしたら。

「血塗れの朱色の雫ミニオスティーラ。朱己よ、この業を背負う覚悟はできたか?」

 心を読まれたかのような問に、肩が跳ねた。
 
「怯えていては、力は渡せぬぞ?」
「……」

 深呼吸する度に、心が恐怖に蝕まれていく。
 抗いようのない力を前にした恐怖と、自分自身の背負う業が重すぎる。

 目を瞑っても、脳裏に焼き付いて離れない血塗れの景色と、耳を塞いでも聞こえる絶望の叫び。目を開いても閉じても、逃れることのできない罪悪感は、どこまでも追ってくる。
 以前、テシィの曆の一人である弥生と戦った際にも殺されてきた者たちの姿を見たが、あれとは比べ物にならないほど多い。呼吸さえままならないほど、むせ返るような血の匂いが世界を支配している。
 まさか、朱色の雫ミニオスティーラを作るために、育てるために犠牲になった者たちなのだろうか。でなければ、こんなに怨みの念を感じることなどないだろう。
 朱色の雫ミニオスティーラとは、なんなのだ。そこまでして求められた理由はなんだ。私が背負わなければならない業とは、どれほどのものなのだ。

「はあ、は、はあっ」

 過呼吸になりかけて注意が散漫になる。
 不意に仕掛けられた攻撃を間一髪避けた。避けただけで、うまく焦点が合わせられない。どこに二人がいるのかわからない。攻撃に、触れたら確実に死ぬ。

ーーお前が私達に勝てぬなら、ここで殺し輪廻させろと師走からも言われている。

 震える握り拳を、太ももに打ち付ける。

「……おかしいでしょ……」

 馬鹿げている。よく考えてみればおかしい話だ。
 私が背負ってきたものを、私が生き抜くと決めた人生を、奪われてたまるか。

 他の誰かに、背負うものを決められてたまるか。

 例え、師走だとしても。いや、例え五珠の誰だとしても。私の前世である、先代の長たちであっても。
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