新訳 Death-Drive

ユズキ

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第1部

第5話 神の被造物

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昼になって、デイビッド博士が待つ研究所にディエゴはノアム、ミリア、ヘイレン、そしてオズワルドを招集した。
「明日、初任務だ。」そう言った博士の隣に、ディエゴも立っている。
「俺たちの任務は、第9コロニー圏の廃都で確認された異常な反応を示した存在の…おそらく、神格タイプのイドだろうが…そいつを見つけ、収容もしくは駆除しなければならない。」ディエゴが机の上の書類を手に取りながら言った。「事前の調査は、俺がジュノーにいる第8遠征隊と組んで済ませてある。今回は、お前たち新入隊員の…新しい第6遠征隊の力が見たい。ヘイレンも同行してもらう。」
「そして第6遠征隊の隊長は俺ではなく、引き続きミリアに任せたい。」
「え…私が…?」ミリアは意を突かれ、立ち尽くした。
「…お前を見込んでのことだ。いつか、父を見つけるんだろう…?」ディエゴがミリアの肩に手を置いた。「俺はお前の指示に従って戦い、お前の力になる。お前が駒を動かせ。」
ミリアは一瞬目を逸らしたが、すぐにディエゴの顔を見つめ直し「やります」と答えた。

翌日、早朝… まだ空が深い青で、薄らと星が見える刻…
霧が発生する前に、作戦用のトラックに装備や物資を詰め込み、目的の廃都へ向かった。
第9コロニー圏は常に霧が発生していて、他の区域よりも強力なイドが闊歩していた。
トラックを廃都の端にある荒れ果てた補給所に停め、そこを起点に探索を開始する。
「車の音でイドに気が付かれたら、車ごと潰されかねん。ここからは徒歩でこの市街を調査し、目標を探すぞ。車には対イド用ライフルが積んである。弾は7つ。ヘイレン、それを使ってお前がこの場を守れ。」
「うーっす。」ヘイレンは気だるそうに敬礼をとった。
「さあ、ミリア。お前の指示を。」
「えっと…とりあえず…  高い所に行きましょう。この街を見渡せる建物に登って、目標を見つけます。」
ミリアたちは、通りを渡った先にある塔を上る。

階段を駆け上がると、複数体いるイドと遭遇した。
ノアムが鞘から剣を抜き一閃、敵を殲滅した。
「なんてことはない。偶像タイプの獣型イドだ。上り続けよう。」ノアムは剣にこびりついた黒い液体を払い、鞘に収めた。
一行は上り続けた。
やがてオズワルドが「あー閃いた!俺に任せてください!」と突然言った。オズワルドは走り、誰よりも先に塔の屋上に出た。
「声がでかいぞ。足音も…気付かれたらどうする?」ディエゴが後ろからオズワルドの首を抑えた。
「ごめんって!いい考えがあるんだよ!」
「敵の位置わかるのか?」ノアムは身を乗り出し、オズワルドの耳元でそう言った。
「いや。だがおびき出せるんすよ!」
オズワルドはEs ハイウェイマンを顕現させた。ハイウェイマンは巨大な大砲を作り出し、空に向けて放った。
放たれた弾は大きな音を立て、まばゆい光を放った。閃光弾だ。
「そんな物も使えたのか、お前のは。」
「丁度ガラスの檻の中で収容されているときに…使えるようになった。そしてそれを知覚したんだ。Esが成長した…ってことかな」オズワルドは頬を指の先で撫でた。
「とにかく、これで街に潜むイドをおびき出せるかと!」オズワルドは狙撃銃を両手で抱くように持った。
「…出てこないようだが。」オズワルドはむき出しになった鉄骨に手を置き、廃都の景観を眺めている。
「あれ?オカシイな…名案だと思ったんすが…」
「もう一発撃ってみれば?たまたま気が付かなかったってこともあると思うし…」
「おお!たしかに…ありがとうノアム!」
オズワルドはもう一度大砲を空に向けて撃った。
ミリアは怪訝な顔で「ねえそれ、実弾とか撃てない?」と尋ねた。
「攻撃用の大砲も撃てるけど、溜めがいるんだ…それに都市を壊すわけにもいかねえだろ…ここら一帯を保護して漁れば結構な資源を活用できそうだ」
「スカベージングね…できればやりたくないわ。ところで、この街を破壊するほどの威力があるなら____」
「おい見ろ!」ディエゴが指さした先で、巨大なイドが起き上がっている。
神格  ベヒモス
全長40m、人型のイドだ。体格も横に広く、右手には棍棒を持っている。
「寝ていたのか…通りで一発で反応しねえわけだぜ」オズワルドは安堵のため息をこぼした。
ディエゴは「なーに馬鹿なことを言ってんだ!アレめちゃくちゃ機嫌悪いぞ!」と言った。
実際ベヒモスは立ち上がるや否や棍棒を振り回し、周囲のビルを叩き壊してしまった。
「あー!!資源、貴重な資源がーッ!!」オズワルドは頭を抱え叫んだ。
「皆!あれ止めるよ!」ミリアが装備から黒い拳銃のようなものを取りだした。
「でもどうやって…」ノアムは引き攣った顔で尋ねた。
「役割を3つに分担するわ…私とノアムはここから降りて、持ってきたフックショットで市街を飛び回って注意を引く。ディエゴは正面から引き受けて!」
「オズワルド、大砲のチャージが終わったらこの発煙筒を焚いてください。私たちが逃げ終えて、赤い発煙筒を焚いたらあの怪物に向けて撃って!」
「お、おう!」オズワルドは発煙筒を受け取った。

ミリアとノアムは市街に飛び降り、ワイヤーを射出し飛び回った。ディエゴはベヒモスに向かって真っ直ぐワイヤーを伸ばしすっ飛んでいった。

「頼んだよ、オズワルド…」ノアムと並んで飛んでいるミリアは、ついにベヒモスの目と鼻の先まで辿り着いた。
「ミリア、あいつをどう引きつければいい?」
「蜂のように周囲を飛び回って。奴の体力はディエゴが削ってくれる。ディエゴが攻撃を始めたら、私たちも飛ぼう。」

エル・シドの雷撃が光った。
「行こう。」ノアムは向かいのビルにフックショットを放ち飛び上がった。
ディエゴの攻撃により、ベヒモスは雷によって痺れ叫んだ。
そして棍棒を何度も地面に叩きつけた。それによって生じた衝撃波で、市街を飛んでいたノアムは壁に叩きつけられてしまった。しかし間一髪で、切り裂きジャックの能力によって生み出した剣を壁に深く刺し落下を免れた。
「なんでやつだ…!」
(何か…忘れているような…)
「…!ミリア!」これまで冷静だったノアムは息を乱した。

ノアムは剣の柄から手を離し、ミリアが飛んでいった方向へワイヤーを射出した。
「いた…!」ひび割れたコンクリートの道で膝をついているミリアの下へ着地し、彼女を抱き抱え建物の中へ飛び込んだ。
ノアムが想定していた通り、先程までミリアがいた地点をベヒモスの巨大な足が踏み抜いていた。
(コンマ一秒でも遅れていたら危なかったな…!)
「ノアム…ごめん、想像以上に…」ミリアは片腕を抑えている。
「気にする事はない…奴は想像以上の強さだ。これから奴をどう叩くか考えなければな…まずは奴に正面から立ち向かったディエゴの安否を確認しよう。動けるか?」
「うん…!まだ行けるよ!」
2人は建物を飛び出し、ワイヤーで飛び上がった。
ディエゴはベヒモスをたった一人で引き付けているが、既に限界を迎えていた。
ノアムはミリアの背中に手を置き、励ました。
「ミリア、お前はディエゴを治癒してやってくれ。」
ミリアは頷き、遠回りになるようフックショットで飛んだ。
「早くしろ、オズワルドォーッ!!」右腕で叩きつけられ、壁にめり込んでいるディエゴは叫んだ。
ベヒモスの右腕に長く鋭い刃が突き刺さった。
「お前の相手は俺だ!」ノアムは更に刃を投げた。
ベヒモスはのろりとノアムに顔を向けると、鬼のような形相で叫び、ディエゴを抑えていた腕を離し、ノアムにめがけて拳を振り下ろした。
ノアムはベヒモスの拳を避けたが、あまりの衝撃と、ビルの倒壊に巻き込まれ膝を付いた。
「なんてやつだ、本当に…!だが」
ノアムはベヒモスの腕を伝い走った。

「オォオ!」ベヒモスは振り払おうとしたが、ノアムは蜂のように舞って回避し、飛び上がってベヒモスの頭上に上った。
「ノアム、受け取れ!!」ディエゴがノアムに向けて剣を投げた。
ノアムはベヒモスの頭頂部を蹴って空に浮かび、剣を掴んだ。
「雷を最大までチャージしてある、やれ!」
「おう!」ノアムは滞空し、ベヒモスの口の中に巨大なエネルギーの蓄積体を放った。

「オオオオオオオ!!!」ベヒモスは倒れた。
「こいつはまだ生きているぞ、動きが封じられているうちに遠くへ離れろ!」ノアムはミリアの下へ降り、ディエゴを担いで走った。
「見て、発煙筒が…!オズワルドの大砲も撃てるわ!」
「よーし…魅せてくれよ、オズワルド…」ディエゴはノアムの背に顔を埋め、笑って言った。
ミリアが発煙筒を焚いて数秒してから、オズワルドがいた場所から閃光が走った。
やがて巨大な光の束がベヒモスを包み、黒焦げになるまで焼いてしまった。


「なんとか勝てたな…収容はできなかったが…」ディエゴは仰向けになって言った。
「ノアム、ありがとう…」ミリアは頬に手を当てて言った。
「まあ…いい連携だったんじゃないか…?とにかく、どうも」

荒れ果てた市街に、女の笑い声が響き渡った。

「ミリアちゃん…それに、ディエゴ先輩…と、白喰いのノアム…ご苦労さま♡」
「その声は…」ミリアは恐る恐る振り返った。
瓦礫の山に、虚無の使徒と見られる2人が立っていた。
「レノア!」ミリアは青ざめた。
「久しぶりねぇ…ミリア…あなたのお父さんは見つかった?」
「お前が何故ここにいる…!」
「決まってるじゃない、あなた達を殺すためよ!やっておしまい、ヘンリー!」
「ウガアアアアアアアア!!!!」レノアの隣に立っていた男は叫び、ウェアウルフへと変身した。

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