たそがれのサルヴァドール

深水千世

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お茶はいかが

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 ウタカタンの者ならみんな知っている。誰もがいつかはどこかへかえるのだと。誰も知らない、どこかへ。

 その旅立ちの始まりは、この『たそがれ川』なのだ。
 ジャスパーが客のリストノートを開くと、じんわりヨナじいさんの名前が浮かんできた。

「今日はあなたの貸切だね」

 そう言うとヨナじいさんを暖炉の前の安楽椅子に案内した。

「いらっしゃい、ヨナじいさん。ここで薪が爆ぜる音を聴いていて。川守たちが送り出す支度が調うまでね」

 ヨナじいさんがにっこり頷く。

「わかっておるわい。どうしてわかっているかはわからないがの」

「ヨナじいさんはもやもやしていることはないかい?」と、ジャスパーがたずねる。

「僕は誰かのもやもやで空を飛べるんだ」

「ほう、どうやって?」

「僕の口にもやもやすることを叫べばいい。そうしたら僕がそれを噴き出してヨナじいさんを乗せて空を飛んであげる」

「それは愉快そうだ」

「胸の奥にもやもやがあるならここに置いていくといいよ。たそがれ川の向こうに持っていくには重いもの」

「あいにく、もやもやすることはないよ。悪くない生き方だったから」

「じゃあ、時がくるまでお茶はいかが。僕の友達の子猫の話をしてあげる」

「お茶もよいが、できれば酒の相手が欲しいわい」

「ぶどう酒なら喜んで」

「結構、結構、酒なら結構」

 酒好きのヨナじいさんはけらけら笑った。
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