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僕らの運命--8--
しおりを挟む「ただいま」
言いながらスイッチを押す。ぱっと明るくなった玄関は清潔感のある白で統一されている。靴を脱ぎながら顔を上げた先に、必ず視界に入ってくるそれ。綺麗な壁に似つかわしくない複数のでこぼこ。俺は何気なくへこみに指を這わせた。目にするたび、あれだけの憎悪と悲しみが湧き上がっていたのに。今では懐かしいとすら思える。
広々としたリビング、学生二人が住むには贅沢すぎるマンションの一室。卒業前に連れてこられた時の俺には、牢獄に見えた。
『ここで一緒に暮らすんだよ』
そう言われた時の絶望感。両親を説得するのは簡単だっただろう。一人暮らしが心配だからとルームシェアを提案すれば、優次に絶大な信頼がある二人が頷くのは目に見えた。そして、どう言ったか知らないが自分の親をたぶらかして金を出させ、こんな一室を手に入れたんだ。イカれてる。
周りの目が無くなった事で、俺の溜まりに溜まった負の感情は爆発した。
日々、俺はひたすら優次に反抗した。汚い言葉を散々吐き捨て、暴れて、死んでしまえと物を投げる。そんな中でも優次は変わらず俺を運命の番として扱った。愛してると口にしながら、無理やり俺を抑え込んで犯す。泣きわめく俺が疲れ果てるまで毎日のように繰り返される。たとえ投げた物が当たって顔から血を流しても、全身ひっかき傷だらけでも、優次はやめなかった。
そんな異常な日々に俺は体調を崩し、高熱で寝込んだ。病院には行かなかった。俺が拒んだ。噛み跡だらけのうなじを見せるくらいなら死んでやる!それくらい言った気がする。
市販薬では中々下がらず、朦朧としている中で、優次は甲斐甲斐しく俺の世話をする。そんな事が一週間。
熱の引いた朝。ベッドにもたれるように寝ている優次の真っ青な隈が浮かんだ、やつれた顔を眺めていると、ふっと憑き物が落ちたような心地になった。
それから俺は、少しずつ抵抗するのをやめた。
ぽつぽつと言葉を交わすようになったし、セックスも拒まなかった。綺麗に畳まれた洗濯物を見て、ありがとうと言葉をこぼす俺に、優次は泣いて喜んだ。
上質な家具、美味しい食事。受け入れてしまえば、快適な環境。
出来合いのものばかりで飽きた俺のために、少し前から優次は料理を始めた。それで俺は思い出した。ボール遊びが得意じゃなかったように、優次が最初から何でも出来るわけじゃないことを。
焦げた焼き魚を前にうなだれる姿に自然と笑えるくらい、俺達の関係は穏やかになっていた。
風呂に入ってから部屋着に着替え、俺は冷蔵庫の中を覗き込む。目当ての物はあったが、そろそろ買い出しに行かないと。
「よし」
一通り食材を取り出してから、俺は服の袖をまくった。
「ただいま」
玄関から物音がして数分後、ソファーでくつろぐ俺の首周りに長い腕が巻き付いた。
「おかえり」
振り返る間もなく、頬に柔らかい感触。間近で見る優次の顔に疲労がにじみ出てる。
「メシ作ったけど」
俺の言葉を聞いた途端、優次の目が輝いた。
「ホント!? なに?」
「残り物ぶっこみチャーハンとスープ」
「亮くんのチャーハン大好き!」
「あっためるから着替えてこいよ」
「うん」
実家に居た時の方がよっぽど良いもん食ってたろうに、優次は俺の作った料理を美味そうに頬張る。
味付けは毎回適当。優次につられて俺も料理をするようになったが、これだけ毎回喜ばれたら悪い気はしない。
そう、悪くない。過去のこと。今の生活。悪くない。ずっと言い聞かせている。
「亮くん……」
「っん、おい今日は疲れてんだろ」
食べ終わったのを見届けてから、先に寝ようと腰を上げたらこれだ。背後から抱きしめてきた優次の手がゆっくり俺の腹をなぞる。それだけで体の奥がぞくぞくと熱を帯びてしまう。
「明日は休みだから一回だけ……ね?」
耳元で囁いてくる優次の甘ったるい声。絶対に一回じゃ終わらない。分かってて俺は頷いてしまった。
珍しく、優次よりも先に目が覚めた。
あちこち痛む体を気遣いながら体を起こす。優次はぐっすり眠りこけてる。思ってた以上に疲れてたのか、後処理が終わったらあっという間に寝入ってたな。
本人には絶対言わないけど、優次の寝顔を見るのは密かな楽しみになっている。起こさないように軽く髪に触れた。柔らかなミルクティーのような髪色は俺が似合っていると言ったから。高い鼻筋。厚みのある唇。あれだけ妬んでた顔をこんな風にじっくり眺める日が来るとは思わなかった。今はむしろ自慢したくなる。なんたって、優次は俺の番だから。
「ゆうじ……」
最近、よく考える。
優次の前に、本物の番が現れたら。俺のことなんか、どうでもよくなったら。
チリチリと首の後ろに痛みが走る。強請って噛んでもらったうなじの傷。
俺は優次の首筋にそっと指を這わす。
「殺しちゃうかもな」
くすぐったそうに身をよじる優次の寝顔は、幸せそうだった。
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