Talking Rain~4月の雨と君の魔法~

雪村穂高

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6時間目・国語(保健室) 【24/45分】

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「どうにも体がだるくて、熱を測らせてください」 

 保健室のドアを開けた私は、デスクで書類作業をしていた40歳くらいの女性の先生に声をかけた。あまり見たことはないが、白衣を着て保健室のデスクに座っているからには彼女がこの学校の保健室の先生なのだろう。 

 保健室にはその先生を除けば誰もいなかった。川の字で並ぶ3床のベッドにそれぞれ取り付けられたカーテンは全てが開け放たれ、それらが誰にも使用されていないことを示していた。 

「じゃあそこの椅子に座って測ってね」 

 先生はデスクの前の丸椅子に私を座らせると、スティックタイプの体温計を私に手渡した。私はそれのスイッチを押し、左脇に挟む。 

「2年生?」 

 体温計が健康な私の体温を測り始めたところで、先生が声をかけてきた。好都合だ。 

「はい。2年1組です。前の時間にも、うちのクラスの生徒が先生のお世話になったらしいですね」 

「ええ、ジャージ姿のあの子ね。柔道の授業で手首を捻挫しちゃったらしいわね。毎年武道の授業ではけが人が何人か必ず出るの。あなたもお気をつけなさいね」 

 手首を捻挫した生徒とは阿部のことだろう。しかし5時間目に保健室に来たうちのクラスの生徒は彼女だけではないはずだ。先生が敢えて大津のことに言及していないことが気になった。 

「あの、もうひとり、男子も来ませんでしたか?」 

 すると先生は少し怪訝そうな顔になった。 

「いいえ。5時間目に保健室にきた生徒は女子生徒だけでしたよ。そのジャージの2年生の子と、もうひとり3年生の女子生徒。その3年生の子もあなたみたいに頭痛を訴えていて、5時間目中ずっとベッドに横になってたわ。さっき……5分前くらいにあなたと入れ替わるように出て行ったけど」 

 先生が「変な事聞くのね」と付け足して会話を締めくくった後でも、私はその返答の意味を飲み込むことができなかった。 

 大津は保健室には来なかった? 

 私の脇で体温計のアラームが鳴る。脇からそれを取り出し、計測結果を確認せずに先生の手に渡す。 

 先生はそれを一瞥すると、無表情で電源を切った。 

「熱はないようね」 

 正直、嘘をついているのだとしたら阿部の方だと思っていた。しかし嘘をついていたのは大津だった。一体何のために、彼は保健室に行ったと嘘をついたのだろうか。ただのサボりなのか? それとも、まさか彼が犯人なのか? それはない。なぜなら彼には動機がない。 

「その手首を捻挫した女子は何時頃保健室に来ましたか?」 

 少しでも多くの情報が欲しい。私は早口になるのを抑えきれずに質問を投げた。保健室の先生は貴重な情報源だ。 

「ほとんど5時間目が終わるころね。テーピングだけして帰したわ。時間は……」 

 先生は5時間目の授業の終わる10分前の時刻を言った。 

 阿部が怪我で体育の授業を抜け出したのは、授業の終わる20分前くらいだった。武道場と保健室とは渡り廊下を使うものの、ずっと校舎の一階部分で繋がっているため、まっすぐ歩いていけば5分もかからないだろう。阿部がその時刻に保健室に着いたというのは、武道場からまっすぐ歩いて来たにしては遅すぎる。それに彼女はベッドを使っていないらしい。大津だけではなく阿部も嘘をついていたのか。 

 必死になって5時間目の彼らの行動を整理している私を見かねたように、先生がため息をつきそうな顔で言う。 

「少しそこのベッドで横になりなさい」 

 先生の提案を私は即座に断った。 

「いえ、熱はありませんでしたし、体調が悪かったのも気のせいのようです」 

 6時間目が終わるまであと15分。残された時間は少ない。 

 次は職員室前の忘れ物置き場を見てみるか、それとも犯行現場となった武道場の玄関を見に行くか。「お手数をおかけしました」と言いながら私は腰を浮かせた。少なくともここにはもう用はない。 

 私が立ち上がると、息もかかりそうなほど近い距離に先生の顔があった。先生は私の目を覗き込むように見つめながら、不吉な運命を告げる占い師のように口を開いた。 

「でもあなた、顔が真っ青よ」
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