お父さんがゆく異世界旅物語

はなまる

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第三章 羽休め

第六話 メンテナンスと影絵

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 旅の間俺とハルは、道具類や衣服やブーツ、スリング・ショットなど、出来る限りメンテナンスはしていた、つもりだった。だが、大岩のチート夫婦には不服だったらしい。

 ゴーグルやスリングが、爺さんによってあっという間に分解され、細かい修理とメンテナンスがほどこされる。気になっていた少しのきしみや、ゴムを引き絞った時の軽い違和感が、見事に解消されていく。

 これはしっかり見ていないと!

 俺とハルが、がぶり寄りで目を皿のようにして見つめていると『そんなに見られると、やりにくい』と爺さんが口元を少し緩めて言った。

 眉根に寄せた皺が伸び、口元がほんの少し柔らかくなる。この人の、暖かいものがつい滲み出てしまったような笑い方は、どうしてこうも魅力的なのだろう。刻まれた皺が、若造には太刀打ち出来ない渋みとなって漂う。

 いつか俺もこんな爺さんになれるだろうか。

 衣服や道具類は、さゆりさんによって隅々まできれいに洗われ、つくろわれ、縫い直されていく。もう落ちないと思っていたシミが酢やほうれん草の茹で汁、大根の汁で白さを取り戻したりする。この人なんでこんな事知ってるんだろう。

 ブーツや腰ベルト、ベルトにつける小物入れやスリングケース。このへんの細かいものは、爺さんやさゆりさんに教えてもらいながら、自分たちでメンテナンスした。

 多少の緩みが出た部分を縫い直し、革紐を新しいものと交換し、ダメになった部分を張り替える。たった一ヶ月と少しの旅の間に、我ながら、ずいぶんと使い込んだものだ。

 さゆりさんがふと、

「また旅に出るのかしら?」と聞いた。

「そうさせてもらえたら、と思っています」

「またハナちゃんが、かわいそうねぇ」

 俺はその言葉には、答える事が出来なかった。

 ▽△▽

 夜、ハルがラーザで拾った貝殻をランプの灯りに透かして遊んでいる。ラーザの貝は透き通ったものが多く、灯りにかざすと壁に色の付いた影が映る。それにハルが作った折り紙の影を重ねて、ハナに見せている。ちょうど色付きセロファンを使った、地球の影絵劇のような感じだ。

 ハナは「ハルちゃ、もっと! もっともっと!」と大喜びだ。

 こっそり聞いていると、どうやら物語であるらしく、

『そのときです。たいへん! 屋根がこわれて、おとーさんとハルくんは馬車から落ちてしまったのです』

 ドルンゾ山で狼に囲まれた時の話だな。ちょうど盛り上がりの場面らしい。

 背景がうす緑から淡い赤色へと変わる。ハルが貝がらを変えたのだ。

 背景チェンジ付きだよ! 本格的だな!

『おとーさんは大きな狼にふみつけられて、ぜったいぜつめいのピンチ!』

 狼の影が、ガウガウと吠えながら行ったり来たりする。ハルはナレーションと効果音もこなして大忙しだ。

「ダメー! とーたん、にげてー!」

 ハナが悲鳴をあげる。

『そのときです!』

 またその時か!

『大きな山ねこが、たすけに来てくれました。山ねこはへんしんしたロレンでした』

「ろれーん!」ハナが合いの手のように叫ぶ。

『ロレン山ねこはとても強くて、あっという間に悪い狼をやっつけました』

 猫の影が、狼の影を吹き飛ばす。じゃじゃーんという、ハルの効果音付きだ。

『おとーさんは顔にケガをしたけど無事でした。そしてまた、旅をつづけました。おしまい!』

 ハナがわー! パチパチと拍手する。

 大冒険活劇だ。これロレンが見たら喜ぶんだろうなー! でもお父さん、全然出番のなかったヤーモがちょっと気の毒だよ。ヤーモだって大活躍したじゃないか。

 ーーしたよな?
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