これが恋だというのなら、

池代智美

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恋だの愛だの side

恋だの愛だの side:福田

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 長窪さんからファミレスの優待券の期限が迫っているから若い子達で行っておいでと言われて、全員の予定を合わせて所定のファミレスに集合した。
 席に着いて俺と笠とで恋バナ大会の開催を知らせる。
 あろう事か智之と八重野ちゃんが帰ろうとしたため、俺は慌てて智之の袖を掴んだ。
 待てと智之を引き止めると、智之はふざけんな離せと言い返した。
 沙也香も八重野ちゃんを引き止めていたが、俺と似たような状況になっていた。
 北島は俺達といたら馬鹿が移ると暴言を吐いている。
 沙也香がすぐに北島にアホと言い返した。
 流石に騒ぎすぎたようで、八重野ちゃんから声が大きいと注意されたが、ここで引き下がる俺達ではない。
 俺は沙也香と一緒に八重野ちゃんをからかった。
しかし八重野ちゃんは自分達はあっちで食べるから、俺と沙也香はここで食べろとやんわり脅した。
 一緒に来たのに別々で食べるなんて寂しすぎる。
 俺と沙也香はすぐに謝ると、別々で食べるのは嫌だと訴えた。
 八重野ちゃんはあっさり許してくれたが、あの目は本気だった。

 メニュー表を取ってそれぞれ好きな物を注文すると、飲み物を順番に取りに行った。
 俺は久しぶりにメロンソーダを選んだ。
 皆が席に着くと、沙也香は小さくテーブルを叩いた後、恋バナをしようとキメ顔で言った。
 八重野ちゃんに先に話すよう促されると自分からと焦っていたが、北島に言い出しっぺの法則を言われると言い返せないようだった。

「そーだそーだ。沙也香から話せー」

 便乗すると冷たい視線を感じたが無視した。
 沙也香は恥ずかしがりながらも智之を好きだと宣言する。
 北島はそれが茶番に聞こえたらしく、沙也香に解散を命じた。
すぐに沙也香が集合をかけると北島に反論して、いつもの口喧嘩を始めた。
その間に俺は智之の顔を盗み見たが、智之は何とも思っていないのか、アイスコーヒーを無言で飲んでいた。
 肘で小突いてみても智之の表情は変わらない。
 沙也香は沙也香で、智之の無反応に構わず好きなところを語った。鋼のメンタルだ。
 “笑ったら可愛い”はよくわからなくて、智之に直接尋ねてみたが、無視された挙句に足を踏まれた。
 沙也香は智之の全部が好きらしい。
 この状況で直接本人に好きだと言える沙也香はしたたかで、尊敬の念すら覚える。
 智之が大好きなのはよく伝わったと言うと、次はよろしくと沙也香に話を振られた。
 予想しなかった訳ではないが、煙に巻くつもりだった俺は事実と少しの嘘を混ぜた。
 真面目な話は得意じゃないのだ。
そのせいで北島には最低だと言われて、智之にはもっと言ってやれと追撃された。
 えーんとわかりやすい泣き真似をすると、いつものように呆れた目を向けられてホッとした。
 ついでに俺は八重野ちゃんをからかった。
すると沙也香が俺の嘘を信じて、俺と付き合うのはやめた方がいいと失礼な発言をした。
 八重野ちゃんは俺の発言は冗談だからと沙也香に冷静に説明していて、動揺が一切ない。
 表情を崩せなかった事を残念に思っていると、タチの悪い嘘をつくなと智之に言われ、俺みたいな奴と八重野ちゃんが付き合う訳がないと北島に毒を吐かれた。俺の味方がいない。
 俺はメロンソーダをストローでかき混ぜると、智之はどうなんだと指を差した。
 智之はしばらく黙ると、今“は”誰とも恋愛する気はないと言った。
 わざと強調して言うと、智之は揚げ足を取るなと嫌そうな顔をする。
でも俺が前々から思っていた事を素直に言うと、智之がもっと嫌そうな顔をしたため、つい笑ってしまった。
 うるさいのはそっちだろと言う智之に、そういう事言っちゃうかと返事をする。

「そういうとこだよな~智之」
「お前だってそうだろ」
「え? 何が?」
「……女たらし」
「心外なんですけど!」

 悪口を言い合っていると、三人の視線を感じてすぐにやめた。俺も智之も大人げなかった。

「でも智之だって来るもの拒まずの時あったって——」
「うるせぇ、黙ってろ」
「いって!」

 話を掘り下げようとしたが、智之は俺を叩くと話を強制終了させて北島に話を振った。どうやら道連れらしい。
 北島はそんな智之を理不尽だと言うと、何もないと話を終わらせようとした。
 俺は健全な男子高校生なら絶対何かあるはずだと指摘する。
 智之と沙也香からツッコミが入った上、北島には拳を入れられたが、ここで懲りないのが俺だ。

「な~気になってる人くらいいんだろ~もしくは好きなタイプとかさ~」
「ウザ……」

 諦めずに恋愛の話を振ると、北島の拳が肩に軽く飛んできた。
 俺は北島の拳を握り込むと、空いた手で強引に肩を組む。
 ビックリした北島の顔が愉快だった。
そのまま教えろと駄々をこねると、北島は俺には絶対教えないと喧嘩を売ってきた。
 見かねた智之が北島に好きな奴がいるかどうかだけ教えろと言うと、北島は嫌そうな顔をしながらも好きな人がいる事を白状した。
 沙也香は北島の好きな奴が気になるようで、同じ学校の奴か同級生かと矢継ぎ早に質問する。
 北島は沙也香の質問をうるせぇと一蹴《いっしゅう》して、答えたんだから話を終わりにしろと真っ赤な顔で言った。
 照れを隠すようにわざと音を立ててコーラを飲み干す北島は、年相応でなかなか面白かった。

「ねー夕樹! 年上? タメ? 年下?」
「そうだよお前この際だから全部答えろ!」

 俺と沙也香は色々話を聞いたが、北島は耳を塞いで俺達の声を聞こうとしなかった。
それどころか北島は俺の足を蹴ってきて、俺は智之の膝に倒れ込んだ。

「うぶっ」
「……」
「何!? なんで今叩かれたの俺!」
「邪魔だったから」

 少しは受け止めてくれたっていいと思う。
 恨みがましい目を智之に向けると、北島が八重野ちゃんはどうなんだと意外な話の振り方をした。
 八重野ちゃんの恋愛観は俺もちょっと気になるところではある。
 沙也香がさっきから全然喋っていないと指摘すると、八重野ちゃんはそうだっけと首を傾げた。
 話し始める気配のない八重野ちゃんに、沙也香は話をするよう催促した。
するとちょうどいいタイミングで注文した料理が運ばれてきて、八重野ちゃんは静かにドリンクバーの方へ行ってしまった。

——八重野ちゃんも何やら、話したくない“何か”があるらしい。

 俺は智之のコーヒーを頼まれると、北島と一緒にドリンクバーに向かった。
 きっと沙也香は智之と話したいから残ったのだろう。
文句を言いながらも沙也香の分の飲み物を入れる北島は優しいなと思った。
 ボタンを押して飲み物を入れていると、八重野ちゃんに砂糖とミルクを持っていくと気を遣われた。
 御礼を言うと、北島は八重野ちゃんの後ろ姿を見つめていた。

「? どした?」
「いや……なんでもないです」
「ふうん?」

 なんでもなくはなさそうだったが、優しい俺はこの場は追及せずに黙って智之の分のアイスコーヒーを作った。
 先に戻ればいいのに、北島は律儀に俺が飲み物を入れ終わるのを待っていた。    

「お待たせ」

 語尾にハートマークが付きそうな勢いで言ってやると、北島は心底嫌そうに顔を歪めた。

「キモ……」
「キモイ言うな傷付くだろ!」

 言い返すと北島は同じ言葉を返した。なんて奴だ。
 席に戻ると、沙也香だけいなかった。どうもトイレに行ったらしい。
 最後に戻ってきた沙也香に北島は文句を言っていたが、八重野ちゃんが冷める前に食べようと言うとすぐに静かになった。
 手を合わせた後、それぞれ頼んだ料理を食べていると、沙也香が食べながら八重野ちゃんの恋ばなを聞こうと言い出した。
俺も八重野ちゃんの恋愛は興味があるため、沙也香に便乗した。すると珍しく北島もそれに乗っかる形で、八重野ちゃんに話を促した。
 八重野ちゃんの恋愛は想像がつかないと口にすると、沙也香が同意を示す。
 沙也香は理想が高そうと若干失礼な事を言っていたが、八重野ちゃんは気にせずドリアを口に運んでいた。
 北島が八重野ちゃんに好きなタイプを尋ねると、八重野ちゃんは年上で長窪さんみたいになってくれる人がいいと答えた。
 理想の人が近くにいれば自ずと好きなタイプもそうなるだろうと納得の声を上げる。
 沙也香が彼氏はいたのかと追及すると、八重野ちゃんは彼氏だったのかなと気になる発言をした。
それとなく聞いてみると、八重野ちゃんはそいつと曖昧な関係だったらしかった。
 話題を変えようか迷ったが、沙也香が話を掘り下げたため、俺は自分の好奇心に素直になった。
 付き合ってと言わなかったのかと尋ねると、離れていきそうな人だったから言えなかったと八重野ちゃんは話した。
 過去を思い出しながら途切れ途切れに話す八重野ちゃんは何処か遠くを見ていて、それがまた寂しそうで、いつかの智之と重なった。
 俺は八重野ちゃんは恋愛でもしっかりしていると勝手に思っていたが、実際の八重野ちゃんは恋愛に臆病だった。

 かける言葉を慎重に選んでいると、北島は完全に男が悪いと言い切った。
智之も沙也香も、北島の発言に同意を示すように言葉を吐き出す。
沙也香の怒りは尤もだが、俺は八重野ちゃんの心情の方が気になった。
 いくら好きになった男が悪いとはいえ、自分が好きだった人を他人がとやかく言うのはあまり気分が良くないだろう。
その辺を配慮して男の方に事情があったのかもと言うと、北島と沙也香にクズだの最低だの言われた。
仕方ないから八重野ちゃんの気持ちも考えろと、遠回しに言ってやった。
 八重野ちゃんは苦笑いを浮かべている。
 自分にも悪いところがあったからこうなったのだと沙也香の頭を撫でて言う八重野ちゃんは、やっぱり寂しそうだった。
 智之と同じで恋愛は当分する気はないらしい。それに対して俺達は何も言えなかった。
 唯一、沙也香だけが次はもっといい人を見つけましょうと八重野ちゃんに言っていた。
 話題を変えると、さっきの重い空気が嘘のように霧散した。
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