これが恋だというのなら、

池代智美

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恋だの愛だの side

恋だの愛だの side:笠

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 長窪さんの優待券のおかげで、今日は香賀先輩とご飯に行ける。
 朝何度も鏡を見て髪を整えたり服を選んだりして、約束したファミレスに向かうと、既に香賀先輩達が待っていた。
 あたしは学生だから香賀先輩とは話す機会が限られている。
だからあたしはとにかく香賀先輩の恋愛について知りたかった。
 第一回恋バナ大会を開催すると、ヒロ先輩はノリノリで拍手した。
すると香賀先輩が帰ろうとしたため、ヒロ先輩がすかさず引き止めた。
あたしも嫌そうな顔をする文恵先輩を引き止めたけど、文恵先輩には無理と言われてしまった。
 夕樹はあたしとヒロ先輩と一緒にいたら馬鹿が移ると言っている。
 あたしは馬鹿は移らないと反論して、夕樹にアホと言い返した。

「お前のがアホだろ」
「なんですってぇ?」

 しばらく夕樹と言い合っていると、文恵先輩から声のボリュームを落とすように注意された。
 ヒロ先輩に便乗してそんなに恋バナがしたいのかと文恵先輩をからかう。
 一緒に座らなくてもいいし別々で食べてもいいと言われて、あたしはすぐに謝った。
ここまで来たのに香賀先輩と別々で食べるなんて絶対に嫌だった。
 文恵先輩はそれ以上あたし達に何か言う事はなくて、メニューを手に取るとページをめくった。
 あたしも自分が食べたい物を決める。
 注文が終わると、順番に飲み物を取りに行った。
 あたしは皆が席に着いたタイミングでテーブルを小さく叩くと、恋バナしましょうと口に出した。
 文恵先輩に自分から話せばと言われて焦る。
 言い出しっぺの法則だと夕樹にも言われて、ヒロ先輩にもそーだそーだと囃《はや》し立てられた。  
ただ香賀先輩だけは興味なさそうにコーヒーを飲んでいた。
あたしはなんだかそれが悔しくて、香賀先輩が好きだと半分ふざけて告白した。
 夕樹には解散だの頭が痛いだの言われたけど、調子に乗るなと言い返す。
 香賀先輩の好きなところを挙げていくと、ヒロ先輩は香賀先輩を肘でつついた。
 香賀先輩はぼんやりとあたしの話を聞いている。
 全部が好きだと香賀先輩に伝えても、香賀先輩と目が合う事はなかった。

……期待していた訳じゃないけど、やっぱりへこんだ。

 気を取り直して話をヒロ先輩に振ると、ヒロ先輩はわざとらしくおでこに手を当てて今はフリーだと話した。
 前に美紀さんという彼女がいなかったかと聞くと、タイプじゃないから三日前に別れたらしい。
 夕樹が最低だと言うと、香賀先輩がもっと言ってやれと応戦した。
 ヒロ先輩はそれに嘘泣きをすると、文恵先輩がいるからと意味深な返事をした。
 あたしはビックリして、ヒロ先輩と付き合うなら考え直した方がいいと文恵先輩の肩を掴んで揺らす。
だけど文恵先輩はめちゃくちゃ冷静にヒロ先輩の冗談だから落ち着けとあたしに言った。
 タチの悪い嘘をつくなと香賀先輩が注意すると、夕樹が同意して頷く。
 夕樹は文恵先輩とヒロ先輩が付き合う訳ないかと一人で納得していて、ヒロ先輩は自分の味方がいないと嘆いた。
それでもヒロ先輩はいつもの調子で香賀先輩に絡むと、聞きにくい事をサラッと先輩に聞いた。
 あたしはヒロ先輩の行動に感動した。
しかし香賀先輩の、今は誰とも恋愛する気はないという言葉に奈落の底まで落ち込んだ。

 亡くなった彼女さんが忘れられないのはわかっているけど、あたしに可能性が全くないと言われているようで胸が苦しかった。
 
——でも、そう簡単に諦める気はない。
      
 あんな素敵な人だから、香賀先輩には幸せになって貰いたいし、何よりあたしが幸せにしてあげたい。
 あたしは笑顔を作ると、いつも通りを意識した。 

 ヒロ先輩は香賀先輩の揚げ足を取ると、今は恋愛する気はないけどこれからはする気があるって事だよなと、香賀先輩に詰め寄った。
 ヒロ先輩はヒロ先輩香賀先輩を心配していたらしい。
その後香賀先輩とヒロ先輩は軽い口喧嘩をしていたけど、あたし達に気付くとすぐやめてしまった。
 香賀先輩は夕樹に話を振ると、道連れだと言った。
 夕樹は香賀先輩を理不尽だと嫌そうな顔をしながらヒロ先輩をかわしている。
 何もないと言う夕樹に、ヒロ先輩は健全な男子なら恋の一つや二つ、百や二百あるはずだと叫んだ。
流石に言っている事がおかしすぎて香賀先輩からツッコミが入った。
あたしもそれはヒロ先輩だけだと思う。
 夕樹はしつこいヒロ先輩を軽く殴ったけど、ヒロ先輩の方が一枚上手で二回目は押さえ込まれていた。
 教えろと言うヒロ先輩に、夕樹は抵抗してアンタには絶対教えないと返事をする。
 ヒロ先輩はちょっと怒っていたけど、香賀先輩は夕樹に好きな奴がいるかだけ教えればヒロ先輩も納得するからとやんわり言った。
 夕樹はかなり嫌そうな顔で溜息をつくと、好きな人がいるとあたし達に告げた。
あたしは夕樹に好きな人はいないとばかり思っていたから、めちゃくちゃ驚いた。
 好きな人がどんな人か気になって、同じ学校の人なのか同い年の人なのかを尋ねる。
でも夕樹はまともに取り合ってくれなくて、話をすぐ終わらせようとコーラを飲み干した。
 顔を赤くして耳を塞ぐ夕樹にヒロ先輩がどうにかして追及しようとしたけど、夕樹に蹴られて香賀先輩の方に倒れ込んだ。
 頭を叩かれるヒロ先輩を見て、やっぱりこの二人は仲がいいと思った。

 意外にも夕樹は、文恵先輩はどうなんだと話を振った。
あたしもそれに乗っかって、文恵先輩が全然喋っていない事を指摘する。
文恵先輩はそうだっけとちょっととぼけた返事をしたため、あたしは次は文恵先輩の番だと話を急かした。
すると文恵先輩は料理が来たタイミングでふらりと飲み物を取りに行ってしまった。
 香賀先輩がヒロ先輩にコーヒーを頼む。
 あたしは香賀先輩と二人きりになりたくて、夕樹になんでもいいから持ってきてと空のグラスを強引に渡した。
 夕樹は文句を言いながらも、ヒロ先輩と一緒に飲み物を取りに行った。
 俯く香賀先輩の雰囲気が怖くて、何か話さなきゃ思ったけど話題が見つからなかった。
 あたしは香賀先輩に好きな事は本気だと言うと、お手洗いに行ってくると逃げるように席を立った。

——失敗した~~!!!!

 他にも言いたい事とか、聞きたい事とかたくさんあったはずなのに、香賀先輩を目の前にしたら全部吹っ飛んでしまった。
 あたしは馬鹿だ。とびきりの馬鹿。
 泣きたくなったけど、泣いたら化粧が崩れるからぐっと堪えて手を洗った。
 うるつやリップを塗って気合いを入れる。
 席に戻ると、皆既に戻ってきていてあたしが一番最後だった。

「夕樹飲み物ありがとう」
「……おお」

 一瞬驚いた顔をされたけど、あたしは何も反応を返さなかった。
 いただきますを唱えて、和風パスタを一口食べる。
本当はミートソースが良かったけど、口に赤いトマトソースが付くのは今日は嫌だった。 
 あたしは文恵先輩に恋バナを話すよう促した。
 文恵先輩が話し出すのを待っていると、ヒロ先輩が文恵先輩の恋愛は想像つかないと言った。
あたしもそれは同じだった。
理想が高そうだと言うと、文恵先輩が返事をするより先に、夕樹が好きなタイプがあるのかと文恵先輩に聞いた。
 文恵先輩は年上で、将来的に長窪さんみたいになってくれる人がタイプらしい。
 皆納得していたけど、あたしは文恵先輩の元カレの存在が気になった。
 軽い気持ちで彼氏はと聞くと、不穏な言葉が文恵先輩の口からこぼれた。
すかさずヒロ先輩が追及すると、文恵先輩は曖昧な関係だったと言う。
 どっちつかずの曖昧な関係をそのままにする奴はろくでなしが多いと友達から聞いていたから、あたしはなんとも言えない気持ちになった。
それと同時に、こんな綺麗な人でも恋愛に失敗するんだなと親近感を覚えた。
 付き合ってと彼には言われなかったか聞くと、文恵先輩は曖昧に頷く。
 ヒロ先輩が逆に文恵先輩から言わなかった聞くと、それを言ったら離れていきそうな人だったから言わなかったと文恵先輩は答えた。
 詳しく話を聞くと関係をずるずる続けた後に街で知らない女と仲良さそうに歩いているのを見て、結局は疎遠になったらしかった。
あたしだったらその場で突撃して男にビンタでもかましてやるのに、文恵先輩は優しくて臆病だ。
 夕樹はあたしと同じで、男が完全に悪いと言った。
 香賀先輩も夕樹の発言に全面的に同意している。
 あたしはその男が有り得ないしおかしいと、フォークにパスタを巻きながら暴れ出しそうな感情を抑えた。
 ヒロ先輩はあたし達を手招きすると、男の方に何か事情があったのかもとクズの味方をした。最低だ。
 夕樹と一緒にクズだ最低だと言うと、ヒロ先輩は文恵先輩の好きだった人を悪く言うのは文恵先輩が嫌だろうと、まともな事を言い出したからビックリした。
 ヒロ先輩はクズでもライトなクズだったのだ。
 文恵先輩はあたしの頭を撫でると、少し寂しそうに自分にも悪いところがあったからこういう結果になったのだと言った。
 文恵先輩の恋をしない理由は香賀先輩とある意味似ていた。
 あたしは文恵先輩に次はもっといい人見つけましょうと励ますと、すぐに話題を変えた。
 正直、文恵先輩の恋愛する気はないという言葉を聞いた時ホッとした。
だって文恵先輩まで香賀先輩の事を好きになったら困る。
 あたしは香賀先輩が好きだから、香賀先輩にあたしの事を好きになってほしいのだ。
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