これが恋だというのなら、

池代智美

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姉妹 side

姉妹 side:まどか

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 私はお姉ちゃんが嫌いだ。
 私に相談せずに何でも決めてしまうし、肝心な時に何も言ってくれない。
 穏やかそうに見える表情は、ずっと本音を隠しているようで気分が悪かった。
 お父さんとお母さんが亡くなってから、それはもっと酷くなった。

 最初は憧れていた。
 お姉ちゃんは何でも出来るし、皆に優しいし、周りの人間から好かれていたから。
でも事あるごとに私はお姉ちゃんと比べられた。
 周りの人間が私を通してお姉ちゃんを見ている事が嫌だった。

——私は“私”をちゃんと見てほしかった。

 気付いた時には私は周りから孤立していた。
 俗に言ういじめというものに遭ったおかげで、見て見ぬふりをする周りの人間や世間体を気にして隠蔽いんぺいしようとする教師、大変だったねと善人ぶる偽善者、罰を与えない加害者に甘い社会が大嫌いになった。
 あの時は目に映るもの全てが敵で、私の話を親身に聞いてくれた長窪さんだけが私の味方だった。
 私を助けてくれたのは長窪さんで、小さい時いつも私を助けてくれたお姉ちゃんではなかった。
 私はお姉ちゃんが助けてくれる事を心のどこかで望んでいたのだ。だけど、裏切られた。

 今となってはもう戻れないところまで私達姉妹の関係は壊れている。
 長窪さんは私達を心配して何度も関係を取り持とうとしてくれたけど、私は自分で解決したかったから全部断っていた。
 素直じゃない私はお姉ちゃんに会う度に暴言を吐いて、お姉ちゃんを傷付けるような真似ばかりした。
 お姉ちゃんは一度たりとも反論しなかった。
それがまた、ただの子供の戯言ざれごとだと言われているようで余計嫌だった。
 
 お母さんとお父さんがいなくなって、私が夜に枕を濡らしても、お姉ちゃんは私と一緒に泣く事はなかった。
 お姉ちゃんは泣いている私の頭を撫でて、ずっとそばにいてくれたのだ。
 小さい頃はそれで良かった。
私だけの、たった一人のお姉ちゃんだから。
でも、大きくなるにつれてお姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんではなくなった。
 色んな人から頼りにされるお姉ちゃんを見て、私はお姉ちゃんに頼られたいと思うようになっていた。

 私はお姉ちゃんの本音が聞きたかった。
 そうしてあれこれ試行錯誤している内に、私は間違いを犯していた。
 本当は自分が悪い事をしたと気付いていたし、わかっていた。
だけど私は引くに引けなくて、お姉ちゃんをののしる事で胸の内のモヤモヤを消したような気になっていた。
 我ながら酷い妹だと思う。
私がお姉ちゃんだったらそんな生意気な妹、とっくに見捨てているだろう。
でもお姉ちゃんは違った。
 私を見捨てる事なんか微塵も考えていなくて、私の将来を考えていたのだ。
 お姉ちゃんが春に私と二人暮らしを始めようとしたのも、私が長窪さんに甘えてばかりいるから起こした行動だった。
結局私が嫌だと突っぱねてお姉ちゃんは家から出て一人暮らしを始めてしまったけど、私はお姉ちゃんに謝る気になんかなれなかった。
 ずるずるといびつな関係を続けて今に至る。

——だからまあ、罰が当たったのだと思う。

 模試を終えて帰宅途中、車にねられた私は、気付いたら病院のベッドにいた。
 看護師さんが優しい言葉をかけてくれる中、生返事をして外を眺める。
 私なんか死んだ方がお姉ちゃんにとっては良かっただろうに。
 長窪さんは旅行で出かけて家にはいない。
必然的にお姉ちゃんが来る事が予想出来て、私は溜息をついた。

 しばらくして慌ただしい足音が聞こえてきて、ノックもなしに病室のドアが開かれた。
 必死なお姉ちゃんを見るのは初めてだった。
私は嬉しかったのに、ついいつもの憎まれ口を叩いてしまった。
 お姉ちゃんにしては珍しく、話が要領を得ない。
 どうやら病院からの連絡はあったけど、動揺しすぎて話をよく聞いていなかったらしかった。

「これだからお姉ちゃんは……」
 
 思ってもいない言葉が口から出る。
 良かったと泣き出すお姉ちゃんに、馬鹿じゃないのとまた可愛くない事を言った。
 私に死んでほしかったのかお姉ちゃんに聞くと、お姉ちゃんは生きててほしいに決まっていると即答してもっと泣いた。
 本当はその答えが嬉しかったのに、私は鬱陶しいから泣くなと罵った。
 駄目なお姉ちゃんでごめんとお姉ちゃんが謝る。
 そんな事を言わせたい訳じゃなかったのに。
 そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。
 私は返事が出来なかった。馬鹿は私の方だった。
 謝ろうにも言葉が上手く出ない。

「着替え、後で持ってくるね」
「っ」

 お姉ちゃんは病室から出ていってしまった。
 廊下で話し声がした後、足音が遠ざかる。
 知らない男の人が入って来て、私は思わず眉間に皺を寄せた。
 お姉ちゃんの彼氏かと聞くと、男の人は仕事仲間だと言って、お姉ちゃんが心配していた事を話した。
 話の流れがわかって、あなたには関係ないと突っぱねる。
 だいたいこう言えば皆引いていくのに、目の前の男の人は私の言い方は誤解を生むと説教じみた事を言った。
 余計なお世話だと言い返すと、男の人はそれを知った上で言ったらしく、お大事にと言い残して病室から出ていった。

——私の方がお姉ちゃんの事わかってるのに、知ったような口聞かないでよ。

 込み上げてくる感情に、私は奥歯を噛んで蓋をすると、ベッドに潜り込んだ。
 今は何も見たくないし、何も聞きたくなかった。
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