31 / 40
姉妹 side
姉妹 side:まどか
しおりを挟む私はお姉ちゃんが嫌いだ。
私に相談せずに何でも決めてしまうし、肝心な時に何も言ってくれない。
穏やかそうに見える表情は、ずっと本音を隠しているようで気分が悪かった。
お父さんとお母さんが亡くなってから、それはもっと酷くなった。
最初は憧れていた。
お姉ちゃんは何でも出来るし、皆に優しいし、周りの人間から好かれていたから。
でも事ある毎に私はお姉ちゃんと比べられた。
周りの人間が私を通してお姉ちゃんを見ている事が嫌だった。
——私は“私”をちゃんと見てほしかった。
気付いた時には私は周りから孤立していた。
俗に言ういじめというものに遭ったおかげで、見て見ぬふりをする周りの人間や世間体を気にして隠蔽しようとする教師、大変だったねと善人ぶる偽善者、罰を与えない加害者に甘い社会が大嫌いになった。
あの時は目に映るもの全てが敵で、私の話を親身に聞いてくれた長窪さんだけが私の味方だった。
私を助けてくれたのは長窪さんで、小さい時いつも私を助けてくれたお姉ちゃんではなかった。
私はお姉ちゃんが助けてくれる事を心のどこかで望んでいたのだ。だけど、裏切られた。
今となってはもう戻れないところまで私達姉妹の関係は壊れている。
長窪さんは私達を心配して何度も関係を取り持とうとしてくれたけど、私は自分で解決したかったから全部断っていた。
素直じゃない私はお姉ちゃんに会う度に暴言を吐いて、お姉ちゃんを傷付けるような真似ばかりした。
お姉ちゃんは一度たりとも反論しなかった。
それがまた、ただの子供の戯言だと言われているようで余計嫌だった。
お母さんとお父さんがいなくなって、私が夜に枕を濡らしても、お姉ちゃんは私と一緒に泣く事はなかった。
お姉ちゃんは泣いている私の頭を撫でて、ずっと傍にいてくれたのだ。
小さい頃はそれで良かった。
私だけの、たった一人のお姉ちゃんだから。
でも、大きくなるにつれてお姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんではなくなった。
色んな人から頼りにされるお姉ちゃんを見て、私はお姉ちゃんに頼られたいと思うようになっていた。
私はお姉ちゃんの本音が聞きたかった。
そうしてあれこれ試行錯誤している内に、私は間違いを犯していた。
本当は自分が悪い事をしたと気付いていたし、わかっていた。
だけど私は引くに引けなくて、お姉ちゃんを罵る事で胸の内のモヤモヤを消したような気になっていた。
我ながら酷い妹だと思う。
私がお姉ちゃんだったらそんな生意気な妹、とっくに見捨てているだろう。
でもお姉ちゃんは違った。
私を見捨てる事なんか微塵も考えていなくて、私の将来を考えていたのだ。
お姉ちゃんが春に私と二人暮らしを始めようとしたのも、私が長窪さんに甘えてばかりいるから起こした行動だった。
結局私が嫌だと突っぱねてお姉ちゃんは家から出て一人暮らしを始めてしまったけど、私はお姉ちゃんに謝る気になんかなれなかった。
ずるずると歪つな関係を続けて今に至る。
——だからまあ、罰が当たったのだと思う。
模試を終えて帰宅途中、車に撥ねられた私は、気付いたら病院のベッドにいた。
看護師さんが優しい言葉をかけてくれる中、生返事をして外を眺める。
私なんか死んだ方がお姉ちゃんにとっては良かっただろうに。
長窪さんは旅行で出かけて家にはいない。
必然的にお姉ちゃんが来る事が予想出来て、私は溜息をついた。
しばらくして慌ただしい足音が聞こえてきて、ノックもなしに病室のドアが開かれた。
必死なお姉ちゃんを見るのは初めてだった。
私は嬉しかったのに、ついいつもの憎まれ口を叩いてしまった。
お姉ちゃんにしては珍しく、話が要領を得ない。
どうやら病院からの連絡はあったけど、動揺しすぎて話をよく聞いていなかったらしかった。
「これだからお姉ちゃんは……」
思ってもいない言葉が口から出る。
良かったと泣き出すお姉ちゃんに、馬鹿じゃないのとまた可愛くない事を言った。
私に死んでほしかったのかお姉ちゃんに聞くと、お姉ちゃんは生きててほしいに決まっていると即答してもっと泣いた。
本当はその答えが嬉しかったのに、私は鬱陶しいから泣くなと罵った。
駄目なお姉ちゃんでごめんとお姉ちゃんが謝る。
そんな事を言わせたい訳じゃなかったのに。
そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。
私は返事が出来なかった。馬鹿は私の方だった。
謝ろうにも言葉が上手く出ない。
「着替え、後で持ってくるね」
「っ」
お姉ちゃんは病室から出ていってしまった。
廊下で話し声がした後、足音が遠ざかる。
知らない男の人が入って来て、私は思わず眉間に皺を寄せた。
お姉ちゃんの彼氏かと聞くと、男の人は仕事仲間だと言って、お姉ちゃんが心配していた事を話した。
話の流れがわかって、あなたには関係ないと突っぱねる。
だいたいこう言えば皆引いていくのに、目の前の男の人は私の言い方は誤解を生むと説教じみた事を言った。
余計なお世話だと言い返すと、男の人はそれを知った上で言ったらしく、お大事にと言い残して病室から出ていった。
——私の方がお姉ちゃんの事わかってるのに、知ったような口聞かないでよ。
込み上げてくる感情に、私は奥歯を噛んで蓋をすると、ベッドに潜り込んだ。
今は何も見たくないし、何も聞きたくなかった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる