断罪された悪女に聖女になれとか正気かしら?

ちくわ食べます

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62 皆の思い

「――陛下ッ!!!」
 
 突如ディラン・ヴァルムレーテ公爵が、地を揺るがすような声で叫んだ。

 セレナの父君が……ヴァルムレーテ公爵が娘を守るために心を決めてくれたのだ!
 
「リュシオン殿下が行ったという、我が娘への非道の数々! まさか、陛下がご指示なされたのではありますまいな!? もしそうであるならば、我がヴァルムレーテ家の総力を以て、王家に仇なす覚悟でございますぞッ!!」

 その言葉は、最強の公爵家による王家への宣戦布告だった。
 
「ま、待てディランよ! 落ち着け! おいリュシオン!! 経緯を説明しろぉッ! なぜ余に詳細を報告せずに、このような事態を招いたのだ!」

「お、お待ちください父上! 今、ご説明いたしますので!」
 
 慌てふためく二人をよそに、ヴァルムレーテ公爵は、ゆっくりとセレナの元へと歩み寄った。
 
「……セレナティア。今まで、すまなかった」
 
 セレナに優しく語りかける彼の声は、後悔に震えていた。

 だが、セレナはまったく反応を示さない。それでもヴァルムレーテ公爵はセレナに話しかけ続けた。
 
「お前を見ると、どうしても亡き妻『クラウディア』を思い出してしまったのだ。お前は、本当にクラウディアに瓜二つでな……。自分勝手な言い分だと分かっている。私は、自分の弱い心を守るため、お前を遠ざけてしまっていたのだ。そして、女の幸せは結婚だと思い込み、殿下との縁談を勝手に決めてしまった。だが、それは大きな間違いだった。そのせいで、お前をこんな目に……。悔やんでも、悔やみきれん。このダメな父親を、私を許してくれ……すまなかった……セレナティア……」

 それは愛する娘に対する、心からの謝罪だった。

 すると、嗚咽の様な声が聞こえてくる。声の出どころを見ると、マティア殿が号泣するクラリッサさんの肩を抱いて支えていた。彼らもこの式に来ていたのだ。

 おそらくはヴァルムレーテ家の使用人全員が来ているのだろう。

 セレナ……。聞こえているか?
 ここにいる民が、騎士団が、友が、父が。
 皆が君を思っているんだ。

 「セレナ……」
 
 お願いだ……。セレナ、返事をしてくれ。
 記憶を取り戻さなくたっていい。せめて人間らしくいてくれれば、それでいいんだ。


 ん? 今、僅かだが、セレナの口元が動いたか?
 
「セレナ!」
 
 セレナ……もしかして。
 セレナは口を動かそうとしているのか?
 
 俺にはわかる!
 無表情さは変わらないが、セレナが何かを俺たちに伝えようとしてるんだ!
 
 だが、セレナが言葉を発する前に、リュシオン殿下が叫んだ。

「私は知らなかったのです! 聖女になる際に、記憶を失うなどとは! 本当です、父上!」

「嘘です! 私宛に送られた、殿下からの手紙がその証拠です!」

 ミレイナ嬢が、懐から手紙を取り出して叫ぶ。

「そんなもの、いくらでも捏造できるだろう!」

 リュシオン殿下が、見苦しい言い訳を重ねる。
 まだ、そのような言い訳をいうとは、なんて見下げ果てた男なのだ!

「――じゃあ……証人がいれば、よろしいのですのね?」

 鈴を転がしたような凛とした、澄み渡る声。
 うそ……だろう? その声は――!

 誰もが、声の主へと視線を向ける。
 そこに立っていたのは、先ほどまで虚ろな瞳をしていたはずの、純白のドレスを着た花嫁。

 やけに光輝くネックレスをつけた、強く気高い光を瞳に宿した最愛の女性。
 
 セレナが……不敵な笑みを浮かべて立っていだ!

 ◆
 
 ゆっくりと覚醒する意識。
 凛とした、澄み渡る声。
 
 それは――紛れもなく、私の声。

 そうね。思い出したわ……全て。
 
 この私を……ただの駒として弄んでくれたクソッタレな男、リュシオンのことも。
 私のために命を懸けてくれた、愛しい人たちのことも。

「お姉様……、もしかして……?」

 目の前ではミレイナが大粒の涙を浮かべていた。
 私は思わず、彼女を抱きしめる。

 
「ミレイナ、よくがんばってくれたわね。ありがとう。こんなに出来た妹を持って、私は本当に幸せだわ」
 
「お、お姉様ぁぁぁ! ご記憶が…! 私、私っ……! よ、よかった……本当によかったですぅ……!」
 
 泣きながらシャクリを上げる彼女の背中を、私は優しく撫でた。

 ――ミレイナは私のために、どれだけ立ち回ってくれたのだろう。

 厳重な警備であるはずの私の部屋まできて私を逃がそうとしてくれたこと。
 この結婚式でも、リュシオンを止めようと乱入してくれたこと。

 こんな控えめな彼女なのに、秘められているとてつもない行動力に驚かされた。

 少し不器用で、だけど……とても真っ直ぐな『妹』。

 口からでまかせのように言った「妹」という言葉。
 あの時は言ったことすら後悔していた。

 だけど今では紛れもない真実になっている。
 だってこんなにも、彼女を愛おしく思っている。
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