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第四十三話:雷炎炸裂 ①
しおりを挟む「──【爆炎】、撃ちますっ!!」
ルニアちゃんが高らかに杖をかざし、真正面に放った火球は、僕が魔力で描いた【反響】の輪をくぐる。
放った火球が着弾した場所を中心に爆発が起こる。
ルニアちゃんの魔力を増強した。【反響】で攻撃範囲を拡大する反面、落ちてしまう攻撃力はこれでカバーできる。
……でも、正直、それじゃ足りない。僕が、魔術をちゃんと使えた頃の僕だったら、そんなことはなかったのに。
そんな、意味ない自責の念はこれからも付き纏って離れないかもしれないけれど……今だけは、そんな考えを消し飛ばしてしまいたい。
──だから最後に、もう一工夫だけ加える!
「──【雷纏】ッ!!」
ルニアちゃんが放った赤い炎が渦巻く火球は、僕の魔術を纏った瞬間に青白く色を変えさらに煌々と輝きを放ちながら、飛翔する速度すらも速めた。
「──えっ?!」
「──は、やっ?!」
【爆炎】の変化にふたりが戸惑う間もなかった。
まるで銃口から放たれた銃弾のような速さで空を切った火球が、群れを成すワイルドファングたちの中心に居た一匹の胴体に抉り込まれた瞬間。
──爆ぜた。
数多存在する魔獣とはいえ、駆け出しの探索者にとっては獰猛な捕食者であり、苦戦を強いられる敵であったワイルドファング。
その皮も肉も骨も臓器も血も、胴体の中心から爆ぜて火炎に包まれながら飛散した。
ワイルドファングの内側を喰い破るように炸裂して外側に出たものこそ爆炎だった。
荒れ狂う炎熱と轟音、押し寄せる怒涛の衝撃が、群れていたワイルドファングたちを四方八方に弾き飛ばしながら、一匹一匹の毛皮を焼いて肉をも蝕んでいく。
「──す、すげぇ……ッ!! ちゃんと……ド派手なドカーンだ……ッ!!」
フリッツくんはささやくような声と共に目を見開いて棒立ちしている。あまりの驚き具合いに反応が実に穏やかだった。
僕たちの真正面から背後へと、爆発の衝撃で発せられた風圧が怒涛の勢いで吹き抜ける。
「……こ、こんなに威力が出るなんて……それに、ルクスさん……【爆炎】が着弾する直前に使った魔術って……?」
魔術師なら自分が放つ魔術の規模がどれぐらいのものになるか、放つ前でも感覚的に分かるものだけど、ルニアちゃんが放った【爆炎】の威力は、自身の想定を上回るものだった。
──それもそのはず。
「【爆炎】にね……雷を纏わせたんだ。雷を纏った炎は爆発の威力を増して、拡がる炎と共に周囲を引き裂くような雷撃を瞬時に走らせる」
──言うなればこれは混成魔術だ。
爆炎を炸裂させるだけのはずだった魔術が雷を纏うことで、爆発の中に雷の閃光を含みながら拡散したんだ。
「かっ……かっこいい……っ!! やっぱり兄ちゃんの魔術かっけーっ!!」
「これが今の……僕たちの全力、だね」
もしも、僕たちが一緒に戦ったら。もしも、他の色んな探索者たちとパーティーを組んだなら。
ひとり、ふたりでは成しえないたくさんのことが出来るようになるんだ。
……そういうことを、先輩の探索者としてふたりに見せてあげられたと思う。
「──けど、まだだよ……っ」
初手に放った僕たちの攻撃はワイルドファングの群れに事実上の壊滅的被害を与えた。
でも、爆風が巻き上げた砂埃のその中で、蠢く影が見え隠れする。
「まだって……これでも全滅させられないのかよッ?!」
狼狽えるフリッツくんだったが、瞳は真っ直ぐ砂煙の中へと視線を注いでいた。
「何匹か生き残ったんですか?」
ルニアちゃんは視認ができないからと、すかさず【探索】を発動してみたが、苦悶の表情が滲む。
起こしたのは魔力を含んだ爆炎だ。爆発を中心に被害が出た辺り一面に魔力の残滓が漂っていて、今のルニアちゃんでは生き残ったワイルドファングの反応を掴めずにいる。
砂埃が風にさらわれて霧散すると、フリッツくんもルニアちゃんもそれぞれの武器を構えていた。
「……四匹だね、生き残りは」
四匹が生き残った。とはいえ、かなりのダメージを受けたワイルドファングは立ち上がるのもやっとの状態で、焼き払われた傷口から血を滴らせながらこっちを睨みつけている。
その眼光に、爆炎でも焼き尽くせない殺意が込められていることを、僕たち三人は理解している。
「追撃するよ、ルニアちゃん。 フリッツくんはまだその場で待機を。 無理に前に出ることはないよ」
「わかったよ、ルクス兄ちゃん」
「はい、ルクスさん! いきますっ!」
距離を取っての奇襲が成功した僕たちとワイルドファングたちとの間合いはまだ圧倒的にこっちが優勢だ。
それになにより、【爆炎】に雷を纏わせたことには大きな意味がある。
「爆発のダメージに加えて雷まで浴びたから、ワイルドファングの身体の動きはかなり封じられたはずだよ」
瀕死の状態のワイルドファングに向かって僕が手をかざしてみても、ワイルドファングはただその場でよろめくだけだった。
雷を受けた身体は思うように動かせないのか、まだ前後の足がビクビクと震えている状態であることが見て取れた。
「【雷威】」
僕が放った直線の雷撃を睨みつけるワイルドファングの瞳だけが、最期の最期まで殺意を抱いたまま。
雷撃に貫かれたワイルドファングは、その全身を消し飛ばされた。
……まずは一匹。
「私も……っ、【火球】」
ルニアちゃんが放った炎の塊は、着弾してもさっきのような爆発を招くものではないけど、満身創痍のワイルドファングにとっては致命傷になることは間違いない。
僕の補助魔術を受けているから、いつも以上の大きさで火球を放つこともできたはずだ。
でも、ルニアちゃんが放った【火球】は、普段の大きさと変わらなかった。
火球の大きさはそのまま、その分余りある魔力を威力に変えて放ったようだ。
それは、ルニアちゃんなりに相手の命の残量を量った上での魔術構築だったんだろうけど……。
「──フリッツくん、頼めるかな?」
「へ?」
不意に僕が名前を呼んだことで、振り返って僕を見たフリッツくんと【火球】がすれ違ったその先で、いよいよ火球がワイルドファングに着弾しようとした瞬間。
──ワイルドファングがわずかに身体を逸らす。
そのわずかな動きは、【火球】を回避するには至らず、でも身体を掠めただけに留まり、的確に止めの一撃の回避には成功した。
「えっ、避けられたっ?!」
そして、ワイルドファングが自分に残る命をかけて突撃してきたんだ。
【火球】が掠ったワイルドファングを筆頭に、もう一匹もそれに続いてやって来る。
全身を駆け巡っているであろう身体の痛みも痺れもお構いなしにしかけてくる決死の突撃に、ルニアちゃんでは後手に回る。
「そういうことかっ! 任されたぜふたりともっ!」
僕とルニアちゃんを背にするようにフリッツくんは足を前に踏み出した。
フリッツくんの方から襲いかかることもできたけど、そうはしなかった。
あくまで僕とルニアちゃんへと迫り来るワイルドファングの前に立ち塞がるように、フリッツくんは大剣を手に迎え撃つ構えを取っている。
近すぎず離れ過ぎず、お互いの動きはカバーし合える距離感だ。
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