不仲な婚約者と一夜の関係で終わるはずだった

アマイ

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唯一の長所②

 フレデリックはコルセットの紐をするりと解き、胸元を寛げる。
 すると白い肌の上に無数に散らばる醜い痣が顕になった。
 明るい日差しのもとで見ると、その悲惨さはより際立ってみえる。

「はっ……いい様だな」

 フレデリックは柔らかな双丘にくっきりと刻まれた歯形に触れ、同じところに齧り付いた。
 セシルは飾るものなどない、生まれたままの姿になってもなお美しい女だった。
 だから……新雪を踏み荒らすように、真っ黒に汚したくて堪らなくなる。

 ここまで無惨に踏み荒らし穢してこそ、ようやく同列に並び立てる気がするからだ。
 高貴で美しく、一片の曇りもない完璧な貴族のセシル。
 少しはフレデリックのように無様に地べたを這い、抗えない不条理に蝕まれる苦しみを味わってみればいいのだ。

「ん……」

 考えに没頭するあまり強く吸い過ぎたか、セシルはフルッと体を震わせた。その拍子に豊満な乳房がたゆんと重たげにたわむ。
 フレデリックは乳首が硬く屹立するまで交互にしゃぶりつき、舌を絡めながらじゅるっと強く吸い上げた。
 するといまだ微睡の中にいるセシルが身をくねらせ、悩ましげに背を逸らす。
 そうしてフレデリックの頭を抱きしめ、まるで赤子をあやすよう髪を撫ではじめた。

 その瞬間ざわっと全身に悪寒のような疼きが走る。
 生まれてこのかた、誰かに頭を撫でられた記憶などない。
 不快なようにも感じるが、それ以上にザワザワと胸の奥が落ち着かない、身の置きどころがないような感覚に戸惑う。
 相手がフレデリックだと知っていれば、セシルは絶対にこんなことをするはずがない。
 理性が砕けるほど蕩かして、ようやくフレデリックにしがみついてくるほどなのだから。

「……本当に、寝てるのか?」

 流石に訝しみ、身を起こして顔を覗き込んでみるも、セシルは相変わらずすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
 ここまでしても起きないとは、もはや驚きを通り越して呆れる。
 フレデリックはセシルの下肢を割り開き、潤みはじめた陰唇から花芯にかけてを舌先でつつっとなぞった。

「は、んっ……」

 そのまま秘芽をしゃぶり、レロレロっと舌先で転がしちゅっと吸い上げると、セシルの腰がビクビクと小刻みに震えながら浮き上がった。

「んんっ……な、に……?」

 寝惚けて状況が飲み込めないセシルの腰を掴み、フレデリックは素早く蜜洞に怒張を捩じ込んだ。

「……っ!?」

 その衝撃でセシルも完全に目覚めたらしい。
 フレデリックの顔を認めるなり、キッと目を吊り上げ唇をワナワナと震わせる。

「……何、してるのよ」
「セックス」

 しれっと答えるフレデリックをギリっと睨み上げ、セシルは逃れようと足をばたつかせた。

「いやっ離して! あの日限りって言ったでしょ! あなたとは絶対別れるんだから!」

 フレデリックはその足首を掴んで持ち上げ、見せつけるようにちゅっとふくらはぎに口づけた。

「学習能力がないな、お前の望みは悉く妨害してやるって言っただろ」

 そこでセシルはハッと思い出したかのように口を噤み、抵抗をやめて大人しくなった。
 そしてゆっくりと上体を起こし、潤んだ瞳でフレデリックを見上げながら首に腕を絡める。
 なるほど、セシルもその気になったように振る舞えば、フレデリックは萎えて離れるとでも?

 だが、そんな見え透いた手を使われても本意でないことは丸分かりなのだ、逆にその誘いに乗ってやりたくなるというものだ。
 フレデリックはセシルの背を引き寄せ、誘うように色づいた乳首をパクリと食んだ。

「はっん……ちょっとフレデリック……あなた嫌いな女を相手にするほど困ってるの?」

 こんな場面で他の女の話を持ち出すとは……今度は挑発でもしてやろうという算段だろうか。
 乳首をしゃぶりながら喉元にくくっと笑いが込み上げる。
 本性を見せる前はフレデリックに必死に縋り付き、その様は息苦しいほど鬼気迫るものがあったというのに、今のセシルは別人レベルで隙だらけだ。
 どうすればフレデリックと別れられるのか――その一点にばかり気を取られ、全てが後手に回っている。
 きっと本人もそれが歯痒くて仕方ないのだろう。フレデリックの知ったところではないが。

「お前がいるのに他の女なんて必要ないだろ?」

 わざと外面用の笑顔を貼り付けると、セシルの顔がおえっと嫌そうに引き攣った。

「なによその顔……」
「お前以外の女には喜ばれるぞ?」
「やめてよ……それに一度だけって約束じゃない……お願いだから別れてよ、フレデリック」
「そう言われると死んでも別れたくなくなるんだよな」
「もう! いくらでも相手はいるんだから私である必要なんてないでしょ!」

 余裕をなくし感情が昂ってきたセシルは、眦に涙を溜めながらフレデリックを睨め付ける。
 この屈辱に打ちのめされた表情が、どれだけフレデリックを煽るかも知らずに。
 フレデリックはセシルの赤く熟れた下唇に齧り付き、下からずんっと腰を突き上げた。

 すると蜜洞は歓喜するよう大きくうねりながらフレデリックに絡みついてくる。
 なおもジタバタと暴れようとするセシルを抱きすくめ、フレデリックは容赦ない速度で隘路を穿った。
 突き上げられ全身を激しく揺さぶられるセシルは、堪らずにフレデリックの首根にしがみついてくる。
 嫌い合うもの同士がこれ以上ないほど密に体を重ね合わせているという皮肉。
 倒錯的な気分がフレデリックを煽り、気狂いしそうなほどの獣欲のままセシルの首筋に思い切り歯を立てた。

「あっう……んぁっ……!」

 痛みと快楽とに喘ぎながらセシルは全身を強張らせ、高みへと達した。
 ぎゅっぎゅと痛いほど食い締めてくる蜜洞に、フレデリックは思いのまま欲を放つ。

「はっ、く……」

 目も眩むような刹那が麻薬のようにフレデリックを恍惚へと誘う。
 やがて訪れた静寂の中、室内には二人の荒い息遣いだけが響き渡っていた。
 セシルはぐったりと脱力し、もはや抗う気力も体力もないようで、くたりとフレデリックに体を預ける。

「……セシル」
「……なによ」
「お前、俺が嫌いでもコレは好きだろ?」

 そう耳元で囁きながら結合部を揺すると、セシルは甘く喘ぎながら言葉を詰まらせた。
 どうやら図星らしい。

「……それと破婚は……別の話よ……」
「同じ話にすればいい」

 セシルはフレデリックの肩に額を乗せたまま「違う」と首を振り続け、やがてそのまま動かなくなった。
 どうやらまた寝てしまったらしい。
 フレデリックはセシルを抱いたままゴロリと寝転がる。
 そうしてセシルの寝顔を眺めながら、今更あれだけ頑なに拒んでいた破婚に応じた訳を考察する。

 タイミング的に、一月前に亡くなったバートン夫人が関係していることは確かだろう。
 夫人は長いこと患い領地で療養していたため、フレデリックは一度も会ったことがない。
 ゾフィーと共に葬儀に参列はしたが、棺は固く閉ざされたままだったので対面を果たすことは叶わなかった。
 あの時、セシルはどこにいてどんな様子だっただろう。そもそも顔を合わせた記憶がない。

 おそらくはいつもの白々しい演技をする余裕もなかったから、敢えてフレデリックを避けたのかもしれない。
 フレデリックは赤く上気したセシルの頬に触れた。
 先に婚約破棄を突きつけたのはフレデリックだが、何故『完璧な貴族』であるセシルは自ら全てを捨て去ろうとしているのだろう。

 チェスター公爵夫人となれば皇后に次ぐ高貴な女となれる上、富も名声も恣にできるというのに。
 生まれながらに全てを手にしているものは、その価値の尊さを知らずに生きている。
 だからゴミのように簡単に捨て去ることができるのだ。
 それがどれだけ愚かで傲慢な行為であるかにも気付かずに。

「……お前は……本当にいけ好かない女だな」

 湧き上がる怒りと苛立ちのまま、フレデリックは眠るセシルの体に齧り付いた。
 こうして永遠に汚されながら手足をもがれ、失うものの真価と己の罪深さを知るといい。そして嫌いな男に縛られ続ける地獄に喘いで苦しめ。

「はっん……」

 耳元に吐き出されたセシルの悩ましげな吐息に、不覚にもゾワッと背筋が粟立つ。

「ちっ……」

 煽られた自身に殺意が湧き、八つ当たり気味にセシルの体をうつ伏せに返す。
 そうして尻を高く持ち上げ、背後から一息に泥濘を貫いた。

「んんっ……」

 くぐもった声を漏らすセシルの頭を掴み、くしゃりと握った柔らかな銀髪を見てふと気づく。
 そういえば、どれだけ誘われようと銀髪の女だけは決して相手にしなかった。
 改めてその事実に直面し、沸々と湧き上がる惨めさと敗北感がフレデリックを打ちのめす。
 無意識だったとはいえ、いったい自分はどれだけセシルに囚われていたというのか――

「やっ……ふれ、でりっ、く……待っ……!」

 目覚めたセシルが這って逃れようとするので、戒めるよう奥深くまで楔を打ち込んだ。
 その衝撃で、つんのめるように枕に埋められたセシルの顔は、きっと快楽と嫌悪で歪んでいるに違いない。
 堪らない。
 胸奥から湧き上がる昏い愉悦に興奮が抑えきれず、身体中がドス黒い歓喜に沸き立つ。

「セシル……」

 背後から羽交締めにするよう抱きしめ、肩口に齧り付く。
 セシルの体は消える間もなく刻まれるフレデリックの痕跡に満ちている。
 この美しくも醜い体に愛着すら覚えたフレデリックは、たった今つけた歯形をペロリと舐った。

「お前なんて嫌いだ……」

 だが、嫌悪と屈辱に打ちのめされるその表情だけは最高だ。
 この悍ましいほどの欲が抑えられないほどそそられる。
 フレデリックは手に余るほどの乳房を揉みしだきながら、本能のまま腰を振りたくった。
 そうしてセシルが気を遣り意識を失っても、フレデリックはまるで何かに取り憑かれたかのように滾る欲をぶつけ続けた。
 やがて日が傾き、西日が部屋に差し込みはじめた頃、フレデリックの意識はセシルを胸に抱いたまま、深い深い眠りの底へ落ちていった。


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