婚約破棄に応じる代わりにワンナイトした結果、婚約者の様子がおかしくなった

アマイ

文字の大きさ
35 / 40

暗闇の追憶

しおりを挟む
 秒で寝てしまったセシルの寝顔を見下ろし、フレデリックは呆れたように溜め息をつく。
 いつもながらとんでもない寝付きの良さだ。

(まあ、無理もないか)

 人生すら捧げた最愛の母の不貞を知り、セシルの世界は根底から覆った。
 絶対の悪だったダグラス・バートンが実は赤の他人で、今は振り上げた拳の落とし処すら見失っているはずだ。
 完全無欠だったあのセシル・バートンの誇りが、ついに地に落ちた。
 以前の自分ならざまぁみろと、実に下劣な愉悦に浸れたはずだ。
 もっと追い打ちをかけるべく、傷を抉るような罵声を浴びせ追い詰めただろう。

 だが……打ちのめされたセシルを見てもちっとも面白くなどない。
 むしろフレデリックにすら縋らずにはいられない痛々しさに、思わず抱き締めずには居られなかったほどだ。
 更には死ぬまで世間を、セシルを欺き続けた、会ったこともないタニア・バートンに対し怒りの感情が湧く。
 タニアが真実を何一つ語らないまま亡くなったのも、セシルのためというより、己の保身のために思えて仕方がない。

(どいつもこいつもクズばかりだな……)

 結局セシルも自分も、大人達の私欲に振り回されるだけの哀れな人形に過ぎなかったのだ。

「くだらない……」

 これまでこの胸に抱き続けてきた憎悪も嫌悪も時間も人生も何もかも……今のフレデリックには無意味でくだらないものに思えて仕方がない。
 先日ヘニングから聞き出し、密かにロイドに裏付けを取ったこと、そして今日のゾフィーの話により、フレデリックには真実の全貌があらかたみえた。
 全てはゾフィー・チェスター……あの女の歪んだ盲愛からはじまった出来事だったのだと――



 ◇◇◇



 フレデリックの実母は売れない舞台女優だった。
 演技の才はなかったが、その類まれな美貌を見初めたロイドがパトロン愛人となり、あらゆる方面から援助をした。
 そして何の因果か、母とゾフィーは同じ時期に妊娠を果たす。
 そして先に生まれたのがフレデリックだった。しかし母は産後まもなく命を落としてしまう。

 一方ゾフィーもまた出産を控えていたのだが、折悪く最愛の兄エーリッヒが逝去し、そのショックで流産してしまった。
 しかももう子は望めないと診断を下され、どん底に突き落とされたゾフィーは死すら考えた。
 そんな彼女に絶望と希望をもたらしたのがタニアの妊娠であり、フレデリックの存在である。

 ロイドはゾフィーに全てを打ち明け、フレデリックを二人の実子として迎え入れることを了承させた。
 その見返りとしてロイドは異性関係を全て清算し、ゾフィーの手足として生きることを誓った。
 たとえ子は望めなくとも、ゾフィーは今や名門ライニガー家のたった一人の直系血族だ。ロイドとしてはどんな犠牲を払ってでも手放したくはなかった。

 そして同じ頃、エーリッヒの忘形見の存在を知ったゾフィーは、修道院へ身を隠そうとしていたタニアを屋敷に引き留めた。
 当時ゾフィーのみならず国中のレディ達は、戦争英雄であるダグラス・バートンに強い憧れを抱いていた。
 だからダグラスの婚約者だったタニアは社交界から疎外されていたのだが、エーリッヒと密かに愛し合う仲となって以後、ゾフィーは二人の仲を応援し、結ばれることを心から願っていた。

 しかしエーリッヒの突然の死によりその希望も潰えた。
 だが、幸か不幸かエーリッヒはタニアに忘形見を遺してくれていた。
 この世でたった一人の、ライニガー家直系の子を。
 ゾフィーはタニアと腹の子を全力で守るため、ダグラスと交渉に挑み、タニアとの結婚を条件とした恒久的無償援助契約を取り付けた。

 そしてタニアがダグラスの元へ嫁いだ翌年、セシルはこの世に生を受ける。
 契約通りダグラスの実子として。
 セシルが女として生まれた瞬間から、フレデリックはゾフィーにとってなくてはならない存在となった。
 チェスター家の後継者となり、セシルを得るためだけに存在する駒として。
 セシルに相応しい伴侶に仕立て上げるため、ゾフィーはフレデリックに最高の講師を与え、最上の教育を施した。

 貴族の誇りを何より尊ぶゾフィーにとって、『混ざりもの』であるフレデリックは軽侮すべき穢れ以外の何物でもなかったが、ゾフィー自身には子を望むことができない。
 悔しく、歯痒く、夫の不貞の証に他ならないフレデリックが憎くて堪らない心情も今なら理解はできるが、浴びせられた容赦ない罵倒は、幼いフレデリックの心を切り刻む刃に等しかった。

 ――セシルが女に生まれなければお前に存在価値などなかった。せいぜい男に生まれたことに感謝なさい。
 ――卑しいお前が不相応な座を得られる幸運も、全てはセシルが居たからこそよ。
 ――私の子さえ生きていたら、こんな穢らわしい混ざり物など捨て置いていられたのに……悔しい、口惜しい……

 卑しい、穢らわしい、下劣な庶子風情が、身の程を弁えろ……
 セシル、セシル、セシル――

 物心ついた時から呪詛のように刷り込まれた純血貴族への劣等感。
 そして無価値なゴミフレデリックが唯一価値を示せる完璧な女、セシル・バートン。
 フレデリックの中で会ったこともない『セシル』という元凶への嫉妬と憎悪がヘドロのように堆積してゆく。

 フレデリックにとってセシルとは、出会う前から憎むべき悪以外の何物でもなかった。
 そうして泥水を這うような日々を過ごす中、フレデリックが九歳になった年に、初めてセシル・バートンとの対面を果たす。

「はじめまして、チェスター公子様。セシル・バートンと申します。お会いできて光栄ですわ」

 セシルは八歳の女児とは思えぬ完璧なカーテシーでフレデリックを迎えた。
 辺境暮らしを感じさせないほど身なりも、身のこなしも優雅で洗練されており、そのことが無性に癇に障ったことをよく覚えている。
 そして何より、そこにいるだけで辺りが光り輝いて見えるほど、セシル・バートンは並外れて美しかった。

 そんなセシルを、ゾフィーはこれまで見たこともない、隠しきれない歓喜と恍惚の表情で見つめていた。
 まるで崇拝する神を前にした信徒の如く――
 その瞳を見た瞬間、フレデリックの中で何かが音を立てて崩れ落ち、沸々と腹の底から激しい怒りが湧き上がった。
 くだらない……なんてくだらないのだ。
 こんな女一人を得るためだけに、何故フレデリックが貶められ、屈辱に耐え、歪められた運命に従属せねばならないのか。

 まるで罪を負った咎人のように蔑まれながら。
 生まれたことが罪だというなら、その咎は両親が負うべきもの。
 自分は強いられる理不尽に怒るべきだったのだ。
 たとえ片親が平民だろうが、フレデリックの父は間違いなくロイド・チェスターだ。
 その揺るぎない血縁故、いずれ当主の座はフレデリックのものになる。
 その時までだ……その時までじっと耐えればいい。

 全てを掌握した暁には、ゾフィーのくだらない思惑もチェスター家も、悉く捻り潰してぶち壊してやる。
 誰がセシル・バートンなど娶るものか。
 むしろ向こうから逃げ出したくなるよう仕向けてやればいい。
 女など冷たく突き放せばメソメソ泣いて離れていくもの――そう、高を括っていたのだが……

 セシルという女はあまりにもしつこく手強かった。
 フレデリックに媚びろとでも厳命されているのか、無機質な目で愛を語り、どれだけ侮辱しようがベタベタまとわりついて離れない。
 婚約破棄を迫れば「捨てないで」と縋り付き、シクシクと嘘泣きまでする始末。
 少しもフレデリックのことなど好きではないくせに。

 そんなセシルに会うたび、怒りと嫌悪と憎悪が果てしなく膨れ上がってゆく。
 理想の花嫁? そんな白々しい称号などフレデリックにとってはクソ喰らえだ。
 ただひたすら捨てたい、逃れたい……こんな鬱陶しい女から一日も早く――
 ゾフィーの思惑に抗いたいだけではなく、いつしかそれはフレデリック自身の願望となっていった。

 だが――
 そんなセシルがある日突然、婚約破棄同意書を持って現れたのだ。
 これまでとは打って変わって、フレデリックを拒絶する明確な意志と共に。
 フレデリックはこの時、ずっとこんなセシルが見たかったのだと気付かされた。
 完璧とは程遠い醜い感情を曝け出し、卑しいフレデリックと同じ場所まで堕ちてくる無様な姿を。
 初めて向けられた嫌悪の眼差しは実に心地よかった。

 だから捨てたくて堪らなかった女とのワンナイト情事に応じる気になったのかもしれない。
 その結果良過ぎた相性からズブズブに嵌り、抜け出せなくなるとは大誤算だったが。
 こんなはずではなかった。
 薄っぺらな十年より、セシルと過ごした濃密なこの一月はあまりに多くのことを変えてしまった。

 だからだろうか……セシルの言動に苛立つあまり、自らの出自まで打ち明けてしまったのは。
 だが……セシルは予想に反し軽侮するどころか、それがどうしたと心底不思議がる始末だ。
 血筋などで人の価値は計れない――そう言われた気がした。
 あまりにも当然のことのように、フレデリックが最も求めていた言葉を。
 ああ……本当に愚かだった……

 ゾフィーから刷り込まれた忌まわしい呪いに雁字搦めに囚われ、卑屈な劣等感を拗らせた挙げ句、セシルを嫌悪し憎悪することでしか自我を保てなかったこれまでの自分。
 もはや出自など関係ない、セシルとフレデリックとではそもそもの器が違ったのだ。
 フレデリックがセシルを捨てる?
 いや、セシルは自身で築き上げた一切に未練がない。
 むしろ捨てられる側は、はじめからフレデリックのほうだったのだ――

「セシル……」

 認めたくなどない、だが薄々勘付いてはいた。
 溺れたのはその身体だけではなかったという事実に。
 フレデリックはセシルの顎を掬い上げ、親指の腹で赤い唇をなぞる。
 この唇がどれだけ柔らかく甘いか、フレデリックは既に嫌というほど知っている。
 瑞々しい果実に齧り付くようその唇を喰むと、甘すぎる陶酔がジンと脳を痺れさせた。
 離さない、離せるわけがない。
 今更友達になろう? 
 馬鹿を言うな、冗談ではない。
 フレデリックがセシルに抱く感情は、そんな単純で生易しいものではないのだ。

「お前なんて、嫌いだ……」

 首筋に口付け痕がつくほど強く吸い上げると、セシルが小さく呻きながらフレデリックの首根にしがみついてきた。

「嫌いだって言ってんだろ……勝手に甘えてくんな……」

 言葉とは裏腹に、フレデリックの腕はセシルの背に回り、華奢な身体を強く抱き締める。
 セシルを手放す選択肢だけはとうの昔に潰えた。
 三月後、名実ともにフレデリックのものとなるセシル。
 長年胸に抱き続けた恨み憎しみは、生涯消えない傷痕となってフレデリックを苛むだろう。

 だが、構わない。
 フレデリックは狭量だが、一度懐に入れたものは決して手放さない。
 たとえ逃げ出そうと地の果てまでも追いかけてやる。
 そもそも先にフレデリックの領域へ踏み込んできたのはセシルのほうなのだから。

「帝国一の淑女なら、最後まで責任は果たさないとな?」

 ククッと喉を鳴らしながらフレデリックは眠るセシルの肌を甘く齧る。
 寝込みを襲い欲を吐き出しても、もはやフレデリックは本当の意味で満たされない。
 だから早く起きろと焦れながら、滾りはじめた下肢を擦り付ける。
 心ごと繋がったような、あの充足に満ちた深い交わりに思いを馳せながら――


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...