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18過去の面影①
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先日のロジーヌ邸での滞在の際、騎士団に興味を示した私に、公爵は「遊びにおいで」と気安くおっしゃった。
気安かろうと公爵は社交辞令でそんなことは言わない。後日「遊びにおいで」という候補日をきっちり書き送って下さった。
という訳で、今日私は王宮の騎士団を訪れていた。
広い鍛錬場には、上半身の筋肉美を惜しげもなく晒した騎士たちが、木刀を激しく打ち交わしていた。私はむせ返る熱気に圧倒される。
「おお!ティアきたか!」
鬼の形相で騎士たちを睨みつけていた公爵が、私に気付くなり相好を崩した。幾人かの騎士が私に気付いたようで、興味津々な視線を痛いほど感じる。
「手を止めるなっ!」
公爵の怒声に騎士達はビクリと身を縮こませ、再び打ち合う音が響き渡った。
「お……ロジーヌ団長、この様な機会を頂きありがとうございます」
「ティア……そんな他人行儀はやめてくれ。普段どおりで構わんよ」
「分かりました、おじさま」
見上げると、公爵は嬉しそうに目尻を下げた。本当に可愛らしいおじさま。釣られて微笑みながら差し入れのクッキーを手渡そうとしたその時――
「顔が緩みすぎだ親父」
「鬼の団長のそんな顔は初めて見たね」
くすくすと笑いながらルクス殿下がシグルドを伴ってこちらへ歩いてきた。
「お前達を招いた覚えはないぞ」
公爵がぶすっと二人を睨みつける。
「つれないことを言わないでくれ。たまたま鍛錬に来ただけだよ」
「ほう……私自らが相手になりましょうか殿下?」
公爵が眦を吊り上げる。視線だけで殺されそうな迫力だ。
「あ、ああ、執務で疲れたから少し休憩してからね」
殿下は目を反らしながら自らの肩をトントンと叩く。そして公爵の後ろに隠れるような形になっていた私を覗き込み、にっこりと微笑まれた。
「こんなむさ苦しい所へ可愛らしいお客様だね」
私はすっと膝を折る。
「殿下……今日は公爵様にお許しを頂いて見学に参りました」
「へえ、リーティアがこんなところに興味を持つとはね」
曖昧に笑んで顔を上げると、殿下の後ろに控えるシグルドと目が合った。私のピアスに目を留めて、にっと唇に笑みを刻む。
何だか妙に気恥ずかしくて、私は扇子で口元を隠して目を伏せた。そしてまだ手渡せていない差し入れの存在を思い出す。
「おじさま、こちらよろしければ皆様で」
「お、差し入れか?嬉しいな」
公爵は嬉しそうにバスケットを受け取った。脇からシグルドが蓋を開いて中を覗き、一つ摘むと口へ放った。
「んまい!ティアが作ったのか?」
「え、ええ」
「ああ、料理も上手いこんな美人が嫁で俺は最高に幸せだな」
殿下を横目に、シグルドがニヤリと口の端を吊り上げる。殿下のこめかみがピクリと動いた……気がした。
「お前はまだ独身だったと記憶しているが?」
「ああ、そうだったか。あまりにも一緒にい過ぎてまだ結婚していないことを忘れていたな」
「そうか、ならばその低能な脳に私手ずから刺激を与えてくれようか?」
「久々にやるか?お前明日使い物にならなくなるぜ?」
「ああああうるせええ!ちょっと黙れ!」
公爵の怒声と鬼の形相に二人が黙る。
「せっかくティアが遊びに来てくれたというのに……お前達煩せえ!邪魔だ!帰れ!」
「お、おじさま、私は大丈夫です。少し緊張していたので、顔見知りの方に会えてほっとしましたし」
「気を遣わせてすまない……本当にティアは昔から優しい子だったよなぁ」
うんうんと頷きながら、公爵は瞳を潤ませた。
「ティア、馬鹿は放っておいてあっちでお茶にしようか。騎士団見学は口実でな、ティアとゆっくり話したかったんだ」
「まあ……ふふ、喜んでおじさま」
何か言いかけた殿下に、公爵は悪役のような凄みのある笑みを浮かべた。
「ああ、お前達は鍛錬するがいい。心ゆくまでな」
差し出された手に手を重ねて、私と公爵は微笑み合いながら鍛錬場を後にした。
気安かろうと公爵は社交辞令でそんなことは言わない。後日「遊びにおいで」という候補日をきっちり書き送って下さった。
という訳で、今日私は王宮の騎士団を訪れていた。
広い鍛錬場には、上半身の筋肉美を惜しげもなく晒した騎士たちが、木刀を激しく打ち交わしていた。私はむせ返る熱気に圧倒される。
「おお!ティアきたか!」
鬼の形相で騎士たちを睨みつけていた公爵が、私に気付くなり相好を崩した。幾人かの騎士が私に気付いたようで、興味津々な視線を痛いほど感じる。
「手を止めるなっ!」
公爵の怒声に騎士達はビクリと身を縮こませ、再び打ち合う音が響き渡った。
「お……ロジーヌ団長、この様な機会を頂きありがとうございます」
「ティア……そんな他人行儀はやめてくれ。普段どおりで構わんよ」
「分かりました、おじさま」
見上げると、公爵は嬉しそうに目尻を下げた。本当に可愛らしいおじさま。釣られて微笑みながら差し入れのクッキーを手渡そうとしたその時――
「顔が緩みすぎだ親父」
「鬼の団長のそんな顔は初めて見たね」
くすくすと笑いながらルクス殿下がシグルドを伴ってこちらへ歩いてきた。
「お前達を招いた覚えはないぞ」
公爵がぶすっと二人を睨みつける。
「つれないことを言わないでくれ。たまたま鍛錬に来ただけだよ」
「ほう……私自らが相手になりましょうか殿下?」
公爵が眦を吊り上げる。視線だけで殺されそうな迫力だ。
「あ、ああ、執務で疲れたから少し休憩してからね」
殿下は目を反らしながら自らの肩をトントンと叩く。そして公爵の後ろに隠れるような形になっていた私を覗き込み、にっこりと微笑まれた。
「こんなむさ苦しい所へ可愛らしいお客様だね」
私はすっと膝を折る。
「殿下……今日は公爵様にお許しを頂いて見学に参りました」
「へえ、リーティアがこんなところに興味を持つとはね」
曖昧に笑んで顔を上げると、殿下の後ろに控えるシグルドと目が合った。私のピアスに目を留めて、にっと唇に笑みを刻む。
何だか妙に気恥ずかしくて、私は扇子で口元を隠して目を伏せた。そしてまだ手渡せていない差し入れの存在を思い出す。
「おじさま、こちらよろしければ皆様で」
「お、差し入れか?嬉しいな」
公爵は嬉しそうにバスケットを受け取った。脇からシグルドが蓋を開いて中を覗き、一つ摘むと口へ放った。
「んまい!ティアが作ったのか?」
「え、ええ」
「ああ、料理も上手いこんな美人が嫁で俺は最高に幸せだな」
殿下を横目に、シグルドがニヤリと口の端を吊り上げる。殿下のこめかみがピクリと動いた……気がした。
「お前はまだ独身だったと記憶しているが?」
「ああ、そうだったか。あまりにも一緒にい過ぎてまだ結婚していないことを忘れていたな」
「そうか、ならばその低能な脳に私手ずから刺激を与えてくれようか?」
「久々にやるか?お前明日使い物にならなくなるぜ?」
「ああああうるせええ!ちょっと黙れ!」
公爵の怒声と鬼の形相に二人が黙る。
「せっかくティアが遊びに来てくれたというのに……お前達煩せえ!邪魔だ!帰れ!」
「お、おじさま、私は大丈夫です。少し緊張していたので、顔見知りの方に会えてほっとしましたし」
「気を遣わせてすまない……本当にティアは昔から優しい子だったよなぁ」
うんうんと頷きながら、公爵は瞳を潤ませた。
「ティア、馬鹿は放っておいてあっちでお茶にしようか。騎士団見学は口実でな、ティアとゆっくり話したかったんだ」
「まあ……ふふ、喜んでおじさま」
何か言いかけた殿下に、公爵は悪役のような凄みのある笑みを浮かべた。
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