魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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10.夢

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赤と黒の魔獣が戦っている。
面白いことに、魔獣の頭上にはローソク足が表示されていた。

噛みつかれた魔獣のローソクは緑色になって、下の方へ下がっていく。反対に勝っている魔獣のローソクは真っ赤になって、ぐんぐん上がっていく。
頃合いとみたのか、魔獣使いが何やら指示を出すと、負けていたはずの魔獣は急に大きく暴れて体当たりを食らわした。
するとさっきまで勝っていた魔獣は、大きくひっくり返ってしまった。

やられたふりをして力を隠してたんだと、僕は思った。

倒れた魔獣の赤かったローソク足は、あっという間に緑色に変化して急降下していく。反対に形勢逆転した魔獣のローソク足は、赤くなって急上昇していくのだ。
僕はそれを観ている。

魔獣の力というより、魔獣使いの影響が大きいな。
間違いなくあれはブラフだった。

「面白いね。結構それ本質かもね」

朝ごはんを食べながら夢の話をしてみると、パプルはそう答えた。

窓の外は今日もいい天気。風に乗ってイペーの花の香が運ばれてくる。

「今日って、選択科目の提出日だよね」

「うん」

「決心は変わらないの?」

「うん。もう清書したよ」

「覚悟を決めたんだね」

パプルが顔を洗う仕草をしながら言った。
僕はパンをかじりながら、ぼんやりと思った。
猫が顔を洗うと雨が降るんだっけ


教壇に立ったクラウジーネ先生が言った。

「今日は選択科目提出の最終日です。持ってきた人は机に出しなさい。まだの人は今日中に職員室へ持ってきなさい」

まばらに『はあい』と声が聞こえた。
気にせずに先生は『今から回収します』と言って、端から回収を始めた。
僕も『魔導トレード科』と書いたプリントを机に置いた。ニッキー先輩の名が教授の欄に代理と書いてあるのを見て、笑みがこぼれる。
しばらくして先生が僕のところにやってきた。紙を回収して次へ行きかけて足を止めた。
ふっと僕へ振り向くと小声で言った。

「昼休み、職員室に来なさい」

それだけいうと先生は、またプリントの回収を続けた。

昼のチャイムと共に、ジョエルはフラフラとやってくると、ぼくの机にパタリと倒れこんだ。
教室では、クラスメイトがそれぞれ好きな所でお昼を楽しんでいる。

「アレイシー」

見るからに憔悴しているようだった。

「ジョエル、大丈夫?」

「ぼくもうムリ…」

あの先輩が原因だろうか…お互い苦労するよなと僕は思った。

「ジョエル、僕これから職員室へ行かないといけないんだ」

むくっと頭を上げた友達は言う。

「どうしたの?」

「大したことじゃないよ」 

「へーえ!そうかなあ!」

話に割って入ってきたその声を聞いて、僕はげんなりした。ルシアノだった。
いつもにも増して厭味ったらしく大声だった。たが、今日のルシアノは顔色が良くない。

「選択科目、お前、魔導トレード科にしたんだってな!」

「ルシアノは、魔導機械科に入れたぞ」 

すかさず取り巻きが声を上げた。が、

「黙ってろ!」

ルシアノが仲間に向かって切れて叫んだ。
前と少し感じが違うな…

「知ってるか?魔導トレード科って、近々無くなるらしいな!」

薄笑いを浮かべたルシアノの目は、ゆっくり吊り上がっていった。

「お前、そんなとこに行くのかよ。はっ?お似合いだな!」

けたたましく笑うルシアノと一緒に、仲間も一斉に笑う。

「え?無くなるって本当なの?」

ジョエルが慌てたように、僕の顔を見る。

「無くならないよ」

「…なに!」

ルシアノの目には、炎が宿っているようだった。
クラウジーネ先生が待っている。
僕は立ち上がりながら言った。

「僕、職員室に呼ばれてるから」

「アレイシ…」

心配そうな顔をした友人に目で挨拶をした僕は、カバンを手に取ると教室を出た。

「うそつけ!お前の科の阿呆が、学校の大金吹っ飛ばしたんだろうが」


階段を駆け下りながら、大声で叫ぶルシアノの声を僕は背中で聞き流した。

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