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第13話 わたしが異世界で学んだことは
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わたしは、日本の大手ゲームメーカー株式会社スタートイの採用面接官であると同時に、異世界出身の者だ。
それが何を表すかというと、わたしは本来日本には存在し得ない能力を異世界から持ちこみ、社会人生活に活用している。
さらに噛み砕いて言おう。
わたしにとっての業務は、「チートスキル」で「やりたい放題」の「無双」ライフだ。
◇◇◇
本日は快晴。爽やかな青空は、まさしく冒険日和なのだが、わたしがいるのは緊張感が漂い、溢れてしまいそうな部屋──、面接室だ。
面接官はわたしを含めて三人。左から、後輩面接官、わたし、そして社長だ。ただし社長は、自らの社長という身分を隠し、一面接官のフリをしている。
「君の一次面接を、是非見せてほしくなってね。なぁに、黙って見学してるだけだから、気にしなくていいよ」
社長は気まぐれ屋であるため、突拍子もないことを言われても、わたしはもはや驚かない。しかし、やりにくいことこの上ない。
「では、あなたから自己紹介と自己PRをしてください」
面接は、わたしメインで進めていく。
まずは、一見冴えない大人しい雰囲気の青年から。
「はい。篠塚歩人《しのづかあると》と申します。僕は、異世界で竜狩人《ドラゴンスレイヤー》の天職を神様から与えられたのですが、ドラゴンを狩ることなく、共に冒険する道を選びました。他種族とも絆を育む経験を得た僕は、きっと御社に於いても、円滑な人間関係を築くことができます」
エントリーシートの「竜狩人」って、「ドラゴンスレイヤー」って読むのか。
わたしの頭に残ったのは、それくらい。他は、多分ありきたりな内容だったと思う。
異世界のドラゴンは、何故か噛ませポジションとして、あっさりと日本人に倒されたり、仲間に引き入れられたりするという、チョロい生きものだ。
だから、篠塚も大したことはないだろう。
わたしが寄り目で篠塚を見つめると、ふわっと、脳裏にムチムチナイスバディの人型竜とイチャつく彼の姿が浮かんだ。そしてその後、そのドラゴン美女に「ケモ耳娘と浮気するなんて最低!」とビンタされていた。
やっぱり、旅のパートナーは美人かつ人型限定らしい。はい、お祈りメール。
続いて、ぱっつん前髪の女子。動作がとろいのが目につく子だ。
「赤城紅羽《あかぎくれは》と申します。私は、異世界で付与術師をしていたのですが、仲間から疎まれ、パーティを追放されてしまいました。なので、私はたまたま出会った冒険者と即席パーティを組んで旅を続けたのですが、その冒険者が実は……」
「ラノベのあらすじみたいですね。話は端的にお願いします」
わたしが耐え切れず口を挟むと、赤城はたいそう真っ赤になって俯いた。
「あ~あ」と、わたしは心の中で舌打ちした。
最近は、かつて人気を博した「剣士」や「賢者」をつまらないと感じているのか、ちょっと変化球の「付与術師」や「支援術師」なる職に就く若者が急増している。
その結果、異世界に「付与しがち」、あるいは「支援しがち」な日本人が蔓延り、火力のある職業が不足するという悩ましい事態になっているらしい。
だが、わたしが舌打ちしたのは、その点ではない。
寄り目をしたわたしの脳裏に浮かんだのは、とろとろしていて仲間の足を引っ張る赤城の姿だ。
異世界トリップした日本人を追放する者たちは、だいたい低脳であるこのが多いのだが、赤城の場合はそうではなさそうだ。
「追放されたことはスルーできませんね。あなたの能力不足のせいで、うちの会社に不利益があるかもしれません」
わたしは赤城のエントリーシートを机の隅に避けながら、次の就活生に視線を移した。
「立花総司と申します。間違いで異世界に召喚されてしまった僕は、魔王城攻略は諦め、【再現】のスキルで武器商人になり、王都で商売を大成功させました。結果的に、魔王を倒せる武器を作って、魔王城を攻略しています」
立花は、端正な顔立ちの青年だった。おそらく、正しく異世界に召喚された者よりもイケメンだろう。
しかし、寄り目のわたしには、立花が述べた通りの映像ではなく、闇市のような危険そうなマーケットで武器を売り捌く彼の姿が見えていた。
「君は、うちの会社で何がしたいの?」
感情を押し殺して、問いかける。
「はい。僕は、異世界での商人経験を活かして、アプリゲームのプロモーションに携わりたいです」
うわぁ。安易な発想が来たぞ。
ちょっと、いじめてやろう。
「アプリゲームの部署希望ということだけど、アプリゲームとコンシューマーゲームのプロモーションの違いって、なんだと思う?」
「……宣伝するターゲット層の違いだと思います。アプリゲームはライトユーザー。コンシューマーはどちらかというとヘビーユーザー……?」
立花は、わたしの質問に必死に食らいつく。
しかし、現実はそう甘くないのだ。
「いや、それは大前提でしょ。そのうえで、どうプロモーションに違いが出るか聞いてるの。例えば、宣伝期間。コンシューマーのは、発売前から発売後1ヶ月くらいが肝。SNSや体験会、CM、コラボイベントは、その期間に集中させて、新作の魅力をドーンッと伝える。じゃあ、アプリゲームは? こっちは配信開始して終わりじゃないよね? 常に利益をあげ続けられるように、広告を運用しないといけない。しかも、ライトユーザー相手だから、飽きられないような工夫も必要だ」
わたしが一気にしゃべると、立花はすっかり圧倒された様子だった。
ぷぷぷ。「ざまぁ」。イケメン滅びろ。
ちょっと大人気なかったかもしれないと思いつつ、チラッと隣の社長に目をやった。おそらく大丈夫。怒ってはいない。
わたしは、落ち込む立花を愉快に思いながら、次のエントリーシートに手を伸ばした──、直後だった。
わたしに逆質問が飛んで来た。
「面接官さんは、異世界トリップ者がお嫌いですか?」
誰だ。勝手に喋っている奴は。
それは、最後に残っていた就活生だった。わたしがキッと睨みつけても、平然としている。
「嫌いです。わたしのような異世界人からすると、ちょっと異世界に行ったくらいで、自分が世界の中心だと勘違いしてしまうような日本人は、とても滑稽だ。チートスキルやチート容姿がないと、何もできないくせに。何かを成し遂げたようなフリをして、平気で嘘をつく。短期滞在、いや、数年いたってロクな経験なんてできないよ」
誰だ。また勝手に喋っている奴は。
面接室にいる者たちの視線が、一気にわたしに注がれていた。そこでわたしは、ハッとした。
わたしが自らの意に反して、本音を喋っているぞ!
わたしが仰天していると、先ほどの就活生と目が合った。哀れみ、侮蔑、怒りといった感情が、静かに瞳に宿っているような気がして、わたしは震え上がった。
「きっ、君は何者だ⁈」
「わたしは──、わたしも異世界で生まれた者です」
「異世界人だと⁈」
わたしは大慌てでエントリーシートに目を落とす。そして、たしかに異世界出身者である記述を発見した。一次面接など適当に流してしまおうと、事前にエントリーシートを読み込んでいなかったことが悔やまれる。
わたしが顔を上げると、その就活生が再び口を開いた。
「失礼と承知で申し上げます。あなたの面接を見ていて、とても我慢できなかったので、スキルを発動させていただきました。しかし、もう少しお付き合いいただけますか?」
「き、君! 何を言って……」
「面接官さんは、何のスキルを使って、就活生のどのような部分を見ているのですか?」
就活生が、両手のひらを口の横に添えて話した。まるで、メガホンだ。
すると再び、わたしの口は、わたしの意に反して開いてしまう。
「わたしは【過去視】のスキルで、就活生たちが異世界で何をしたかの情報を得ている。どんな偽りを述べているのかを見て、失敗経験のある者、チート能力に頼っていた者は不合格にしている……。ああああっ! こんなこと言うつもりじゃないのにぃっ!」
なんでなんでなんで、なんでこんなことにっ!
「残念です。御社で真に貢献できる人間は、『異世界生活での失敗や気づきから、力強いリスタートをきれる者』ではないかと思っていたのですが、違ったようですね」
「『わたし』なら──」と、その就活生は、鋭い視線をわたしに向けた。わたしの背筋は凍りつく。
「『わたし』なら、そんな就活生をすくい上げることができます。もちろん【暴露】のスキルによる所も大きいですが、『わたし』は対話を怠らない。本人でも気づき得ない熱意と真意を引き出します」
それは、捨て台詞というやつだった。
その就活生は静かに面接室を立ち去っていった。
「君、待ちたまえ!」
わたしの隣に座っていた社長が、嬉々としながら、その就活生を追いかけて行く様子を、わたしは呆然としながら見守った。
***
「部長~! すみません! また社長に捕まってました!」
面接官控え室に堂々と遅れて入って来た白峰は、疲れた様子でわたしの正面の席に腰掛けた。
「社長の昔話でも聞いていたの?」
「そーなんですよ! って、部長がうちの会社の面接を受けた時の話ですよ!」
「社長、その話が好きだなぁ」
わたしが笑い飛ばすと、白峰は迷惑そうな顔をしながら肩をすくめた。
「当時、新規採用の面接官だった社長に、ぎゃふん! と一泡吹かせた伝説の就活生。社長の人生観を大きく変えた面接──。この話を知らない社員はいません」
白峰は、「だって社長が、あちこちで言いふらしてますから」と、嫌味っぽく付け加える。
「そんなたいそうな話じゃない。わたしと社長の、初めての出会いってだけだよ。今となっては自分のイキリっぷりが恥ずかしいし」
“リスタート”したかったのは、わたしの自身だったのに。
前社長が気に入ってくれたから良かったものの、よくもまぁ、当時面接官だった社長に、偉そうにつらつらと語ってしまったものだ。
果たして、かつての若いわたしは、今のわたしを見て、自分の“リスタート”をどう評価するだろう。わたしが日本で学んだことを、どう捉えるだろう?
わたしは、少しの間だけ懐かしさに浸り──、「さぁ!」と立ち上がった。
どんな逆境にも挫けずに立ち向かう、そんな想いを持った就活生に出会えますように。
異世界で自分を見つめ直し、日本でわたしたちと共に戦う意志を得た、そんな若者に出会えますように。
わたしはそんな想いを込めて、面接室の扉に手を掛ける。
「さぁ、新しい社員《なかま》を捜しにいこう!」
それが何を表すかというと、わたしは本来日本には存在し得ない能力を異世界から持ちこみ、社会人生活に活用している。
さらに噛み砕いて言おう。
わたしにとっての業務は、「チートスキル」で「やりたい放題」の「無双」ライフだ。
◇◇◇
本日は快晴。爽やかな青空は、まさしく冒険日和なのだが、わたしがいるのは緊張感が漂い、溢れてしまいそうな部屋──、面接室だ。
面接官はわたしを含めて三人。左から、後輩面接官、わたし、そして社長だ。ただし社長は、自らの社長という身分を隠し、一面接官のフリをしている。
「君の一次面接を、是非見せてほしくなってね。なぁに、黙って見学してるだけだから、気にしなくていいよ」
社長は気まぐれ屋であるため、突拍子もないことを言われても、わたしはもはや驚かない。しかし、やりにくいことこの上ない。
「では、あなたから自己紹介と自己PRをしてください」
面接は、わたしメインで進めていく。
まずは、一見冴えない大人しい雰囲気の青年から。
「はい。篠塚歩人《しのづかあると》と申します。僕は、異世界で竜狩人《ドラゴンスレイヤー》の天職を神様から与えられたのですが、ドラゴンを狩ることなく、共に冒険する道を選びました。他種族とも絆を育む経験を得た僕は、きっと御社に於いても、円滑な人間関係を築くことができます」
エントリーシートの「竜狩人」って、「ドラゴンスレイヤー」って読むのか。
わたしの頭に残ったのは、それくらい。他は、多分ありきたりな内容だったと思う。
異世界のドラゴンは、何故か噛ませポジションとして、あっさりと日本人に倒されたり、仲間に引き入れられたりするという、チョロい生きものだ。
だから、篠塚も大したことはないだろう。
わたしが寄り目で篠塚を見つめると、ふわっと、脳裏にムチムチナイスバディの人型竜とイチャつく彼の姿が浮かんだ。そしてその後、そのドラゴン美女に「ケモ耳娘と浮気するなんて最低!」とビンタされていた。
やっぱり、旅のパートナーは美人かつ人型限定らしい。はい、お祈りメール。
続いて、ぱっつん前髪の女子。動作がとろいのが目につく子だ。
「赤城紅羽《あかぎくれは》と申します。私は、異世界で付与術師をしていたのですが、仲間から疎まれ、パーティを追放されてしまいました。なので、私はたまたま出会った冒険者と即席パーティを組んで旅を続けたのですが、その冒険者が実は……」
「ラノベのあらすじみたいですね。話は端的にお願いします」
わたしが耐え切れず口を挟むと、赤城はたいそう真っ赤になって俯いた。
「あ~あ」と、わたしは心の中で舌打ちした。
最近は、かつて人気を博した「剣士」や「賢者」をつまらないと感じているのか、ちょっと変化球の「付与術師」や「支援術師」なる職に就く若者が急増している。
その結果、異世界に「付与しがち」、あるいは「支援しがち」な日本人が蔓延り、火力のある職業が不足するという悩ましい事態になっているらしい。
だが、わたしが舌打ちしたのは、その点ではない。
寄り目をしたわたしの脳裏に浮かんだのは、とろとろしていて仲間の足を引っ張る赤城の姿だ。
異世界トリップした日本人を追放する者たちは、だいたい低脳であるこのが多いのだが、赤城の場合はそうではなさそうだ。
「追放されたことはスルーできませんね。あなたの能力不足のせいで、うちの会社に不利益があるかもしれません」
わたしは赤城のエントリーシートを机の隅に避けながら、次の就活生に視線を移した。
「立花総司と申します。間違いで異世界に召喚されてしまった僕は、魔王城攻略は諦め、【再現】のスキルで武器商人になり、王都で商売を大成功させました。結果的に、魔王を倒せる武器を作って、魔王城を攻略しています」
立花は、端正な顔立ちの青年だった。おそらく、正しく異世界に召喚された者よりもイケメンだろう。
しかし、寄り目のわたしには、立花が述べた通りの映像ではなく、闇市のような危険そうなマーケットで武器を売り捌く彼の姿が見えていた。
「君は、うちの会社で何がしたいの?」
感情を押し殺して、問いかける。
「はい。僕は、異世界での商人経験を活かして、アプリゲームのプロモーションに携わりたいです」
うわぁ。安易な発想が来たぞ。
ちょっと、いじめてやろう。
「アプリゲームの部署希望ということだけど、アプリゲームとコンシューマーゲームのプロモーションの違いって、なんだと思う?」
「……宣伝するターゲット層の違いだと思います。アプリゲームはライトユーザー。コンシューマーはどちらかというとヘビーユーザー……?」
立花は、わたしの質問に必死に食らいつく。
しかし、現実はそう甘くないのだ。
「いや、それは大前提でしょ。そのうえで、どうプロモーションに違いが出るか聞いてるの。例えば、宣伝期間。コンシューマーのは、発売前から発売後1ヶ月くらいが肝。SNSや体験会、CM、コラボイベントは、その期間に集中させて、新作の魅力をドーンッと伝える。じゃあ、アプリゲームは? こっちは配信開始して終わりじゃないよね? 常に利益をあげ続けられるように、広告を運用しないといけない。しかも、ライトユーザー相手だから、飽きられないような工夫も必要だ」
わたしが一気にしゃべると、立花はすっかり圧倒された様子だった。
ぷぷぷ。「ざまぁ」。イケメン滅びろ。
ちょっと大人気なかったかもしれないと思いつつ、チラッと隣の社長に目をやった。おそらく大丈夫。怒ってはいない。
わたしは、落ち込む立花を愉快に思いながら、次のエントリーシートに手を伸ばした──、直後だった。
わたしに逆質問が飛んで来た。
「面接官さんは、異世界トリップ者がお嫌いですか?」
誰だ。勝手に喋っている奴は。
それは、最後に残っていた就活生だった。わたしがキッと睨みつけても、平然としている。
「嫌いです。わたしのような異世界人からすると、ちょっと異世界に行ったくらいで、自分が世界の中心だと勘違いしてしまうような日本人は、とても滑稽だ。チートスキルやチート容姿がないと、何もできないくせに。何かを成し遂げたようなフリをして、平気で嘘をつく。短期滞在、いや、数年いたってロクな経験なんてできないよ」
誰だ。また勝手に喋っている奴は。
面接室にいる者たちの視線が、一気にわたしに注がれていた。そこでわたしは、ハッとした。
わたしが自らの意に反して、本音を喋っているぞ!
わたしが仰天していると、先ほどの就活生と目が合った。哀れみ、侮蔑、怒りといった感情が、静かに瞳に宿っているような気がして、わたしは震え上がった。
「きっ、君は何者だ⁈」
「わたしは──、わたしも異世界で生まれた者です」
「異世界人だと⁈」
わたしは大慌てでエントリーシートに目を落とす。そして、たしかに異世界出身者である記述を発見した。一次面接など適当に流してしまおうと、事前にエントリーシートを読み込んでいなかったことが悔やまれる。
わたしが顔を上げると、その就活生が再び口を開いた。
「失礼と承知で申し上げます。あなたの面接を見ていて、とても我慢できなかったので、スキルを発動させていただきました。しかし、もう少しお付き合いいただけますか?」
「き、君! 何を言って……」
「面接官さんは、何のスキルを使って、就活生のどのような部分を見ているのですか?」
就活生が、両手のひらを口の横に添えて話した。まるで、メガホンだ。
すると再び、わたしの口は、わたしの意に反して開いてしまう。
「わたしは【過去視】のスキルで、就活生たちが異世界で何をしたかの情報を得ている。どんな偽りを述べているのかを見て、失敗経験のある者、チート能力に頼っていた者は不合格にしている……。ああああっ! こんなこと言うつもりじゃないのにぃっ!」
なんでなんでなんで、なんでこんなことにっ!
「残念です。御社で真に貢献できる人間は、『異世界生活での失敗や気づきから、力強いリスタートをきれる者』ではないかと思っていたのですが、違ったようですね」
「『わたし』なら──」と、その就活生は、鋭い視線をわたしに向けた。わたしの背筋は凍りつく。
「『わたし』なら、そんな就活生をすくい上げることができます。もちろん【暴露】のスキルによる所も大きいですが、『わたし』は対話を怠らない。本人でも気づき得ない熱意と真意を引き出します」
それは、捨て台詞というやつだった。
その就活生は静かに面接室を立ち去っていった。
「君、待ちたまえ!」
わたしの隣に座っていた社長が、嬉々としながら、その就活生を追いかけて行く様子を、わたしは呆然としながら見守った。
***
「部長~! すみません! また社長に捕まってました!」
面接官控え室に堂々と遅れて入って来た白峰は、疲れた様子でわたしの正面の席に腰掛けた。
「社長の昔話でも聞いていたの?」
「そーなんですよ! って、部長がうちの会社の面接を受けた時の話ですよ!」
「社長、その話が好きだなぁ」
わたしが笑い飛ばすと、白峰は迷惑そうな顔をしながら肩をすくめた。
「当時、新規採用の面接官だった社長に、ぎゃふん! と一泡吹かせた伝説の就活生。社長の人生観を大きく変えた面接──。この話を知らない社員はいません」
白峰は、「だって社長が、あちこちで言いふらしてますから」と、嫌味っぽく付け加える。
「そんなたいそうな話じゃない。わたしと社長の、初めての出会いってだけだよ。今となっては自分のイキリっぷりが恥ずかしいし」
“リスタート”したかったのは、わたしの自身だったのに。
前社長が気に入ってくれたから良かったものの、よくもまぁ、当時面接官だった社長に、偉そうにつらつらと語ってしまったものだ。
果たして、かつての若いわたしは、今のわたしを見て、自分の“リスタート”をどう評価するだろう。わたしが日本で学んだことを、どう捉えるだろう?
わたしは、少しの間だけ懐かしさに浸り──、「さぁ!」と立ち上がった。
どんな逆境にも挫けずに立ち向かう、そんな想いを持った就活生に出会えますように。
異世界で自分を見つめ直し、日本でわたしたちと共に戦う意志を得た、そんな若者に出会えますように。
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