母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

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オデットのメンタルをえぐっているのは、エルマンガルドのことだけではなかった。頭の痛い問題は、他にもあった。


「オデット」
「……お母様。どうしたの?」
「留学のことよ。やっぱり、留学を取りやめにならない?」
「……」


エティエンヌ公爵家の自室で、オデットは顔色のよくない母にそんなことを言われた。顔色は悪く、頬がこけて具合があまり良くなさそうだが、大病を患っているわけではない。

この人は、年に1、2回、大好物の生モノを食して当たるのだ。懲りない人だと思うが、その中でも今回は大当たりを引いたようだ。やめておけと言って止めたのは、オデットだけではない。公爵家の殆どが、そう言った。言わなかったのは……。


「母上の好物なんだから、好きにさせればいい」
「……」
「当たって苦しむのも、母上なんだ。本人が、そこまで食べたいのなら、食べさせればいい」
「……」


兄だけが、そんなことを言った。だが、このあまりにも無責任な言い方は、母には都合のいいように変換して聞こえたようだ。


「流石ね。お前だけが、私のことをよくわかってくれているわ」


苦しむうんねんのところは、母の耳に入らなかったようだ。それこそ、少しの腹痛程度で好物を食べないなんて、選択肢がそもそもないのかもしれない。オデットからしたら、懲りない人だと思うところだが、確かに兄の言う通りだ。

だが、それでこれまで以上の酷い腹痛を引き寄せることになり、熱も出して、食べることもままならず、寝込んだのだ。その際、母は……。


「オデットたちが、もっとちゃんと止めてくれたら、こんな目にあわなかったのに」
「……」


父とオデットと使用人は、そんな恨み節をどれほど聞いたことか。

聞かなかったのは、兄のキルデリクだ。……いや、聞こえてもスルーしていたのかもしれない。そんなところが、そっくりな親子だ。

そうなるとオデットは、父に似てよかったとしか思えなかった。こんな母と兄に似てしまえば、色々終わってしまう。でも、当の本人にはその自覚がない。これは、いいことなのか。悪いことなのか。人様に迷惑かけるなら、悪いことな気もするが、家族だけでとどまるなら許容範囲なような気もしてきて、オデットはちょっと毒されている気がしていた。

今なら、家族であろうとも、迷惑かけるのは問題だと言い切れるが、前までは兄のように他人事なところもあったようだ。誰しも気の進まないことはある。それをやることになった途端、もっと強く言えばよかったと後悔しても遅い。それだけは、よくわかった。

だが、このことがあって、母の代わりにオデットがあることをしなければならなくなったのだ。それが、最悪すぎた。

オデットが、あの何もできなさ過ぎる兄の世話を家の中で母の代わりにやる羽目になったのだ。正直、こんなことまで母がやっていたのかと思うことまで、やることになった。

いつの間にやら、兄は勉強以外では何もできない人間になっていたのを知ってしまったのだ。それは、兄が婚約する前のことだ。

いや、前から母が兄に色々と世話をしているのは、何度か見てはいた。


「それなら、これがいいわ。あとは……」


兄の部屋で、母があーでもないこーでもないと言っているのを聞いたことがあった。実際に、兄の部屋でなにをしていたかまでは見てはいなかったが、その声が聞こえて使用人が、眉を顰めているのを見たりしたが、オデットに気づくと何でもない顔をして頭を下げられた。


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