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第1章
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しおりを挟むフィオレンティーナが、こっそりと家族にバレないように庭をいじり始めたのは、色んなことがあってからだった。子爵家の庭をそのままにしておけない気持ち
が一番大きかった。
最初は使用人を味方につけて、花の世話をしようとした。
「花の世話をなさりたいと?」
「大したことはしないわ。ただ、見るのが忍びない庭を手入れしたいだけよ」
「そんなことバレたら、あたしらが叱られます」
「私が、勝手にやろうとしているだけよ。知らなかったって、答えてくれればいいわ。あなたたちのことも告げ口したりしないわ」
フィオレンティーナは、最初の頃、そんな話をして使用人は渋々だが協力的だった。
だが、使用人がそこから図に乗っていくことになるとはフィオレンティーナは思もしなかった。段々とこれもやれ、あれもやれと使用人たちがフィオレンティーナに仕事を押し付けるようになっていったのだ。
いっぺんにではない。掃除をやらせるようになったと思えば、その範囲が広くなり、子爵家の屋敷全体までになったのだ。
そこから、数週間して今度は別の仕事までやら言われることになるとは思いもしなかった。
「掃除だけじゃなくて、洗濯と食事まで?」
(何、それ。使用人の仕事ほぼ全部じゃない)
フィオレンティーナは、使用人に話があると言われて、何を言われるのかとあれこれ考えたが、そんなことをそんなことを言われることは想定していなかった。
あまりのことに絶句していると……。
「嫌なら別にいいんですよ」
「っ、」
「そうですよ。こっちは、バレるんじゃないかってヒヤヒヤしてるんですから」
(どこが? 私が困ることになると思って、押し付けることにしたってことじゃない。)
全くヒヤヒヤしているようには見えないが、フィオレンティーナに仕事をやらせる気でいる使用人たちに呆れるしかなかった。
酷い扱いをされることになっても、前のように戻るよりは遥かにマシだと思って耐え忍ぶことを選んだ。
(ここは、我慢するしかないわ。花の世話ができるんだもの。……そう、全ては花に触れ合うためよ)
フィオレンティーナは花の世話ができるなら、構わないほどだった切実なものがあった。そんなことをしていることがバレないことを願っていたせいで、フィオレンティーナの扱われ方が使用人の使用人のような位置になってし舞うまで、大した時間はかからなかった。
だが、以前まで使用人がしていたよりも、フィオレンティーナが1人で色々とやる方が遥かに質はよくなった。フィオレンティーナの方が、給料だけを貰って何もしなくなった使用人たちがしていたより腕はよかったようだ。
使用人たちも子爵家の他の家族も、フィオレンティーナの腕の良さに気づくことはなかった。
子爵家というだけあって、それなりの庭が元々あった。何代か前の当主がガーデンパーティーをよくやっていたらしく、他の貴族の庭より立派な広さがあったが、広さだけでフィオレンティーナからしたら残念すぎる庭としか見えなかったが、今や分不相応な庭と化していた。
初めて子爵家の庭を見た時のフィオレンティーナの絶望感と言ったら、それは酷いものだった。それは、母親と妹との買い物に付き合わされるよりも酷かった。
(貴族の庭って、みんな、こうなの……? 貴族なら、専属の庭師がいそうだけど見たことないのよね。こんなに寄せ集めで見栄えばかりを重視しすぎて、人の目がある時だけ綺麗なら、それでいい庭を見るのは初めてだわ。統一感の欠片もなくて、満開に咲いてさえいれば、色合いも香りも、どうでもいい見た目は華やかそうで、ちげはぐな庭が存在することにびっくりだわ)
そんなことを思ってから、フィオレンティーナは気になって庭をよく見るようになった。見れば見るほど、残念な庭に悲しくなったが、両親はそういうものとばかりに全く気にしてはいなかった。
妹は、庭のことより、最新のファッションや流行りのものにしか興味はなかったから、どうでもよかった。
チェレスティーナの部屋のクローゼットは統一感の欠片もないもので溢れ返っていた。まぁ、それは姉妹の母親のクローゼットも似たりよったりだった。その辺まで、チェレスティーナは母に似ていたようだ。
7歳くらいまでは、フィオレンティーナは貴族らしくなさすぎると自分でも思って、ここでの普通の貴族令嬢になろうとして必死になっていた。両親のように貴族の体面を優先しようとすらしたが、それを長く保つことができなかった。
特に母親と妹と一緒にお茶会やらに出るうちに周りから色々言われているのを耳にして、貴族らしくいるのが何だか馬鹿馬鹿しく思うまで早かった。
(こんなことをし続けるのが貴族なら、私は貴族じゃなくていいわ。一生、こんな生き方するなんて、私には無理だわ。前世の私は、母さんの思う通りの娘になろうとして、らしくないことを仕事にしようとしていた。でも、あんなに早く死ぬことになった。我慢なんかしなきゃ良かった。もう、あんな後悔したくない)
フィオレンティーナは、後悔の思いが大きく膨らむことになった。前世を夢で見るたび、好きなことを仕事に選べば良かったと思って、ここでは自分らしく生きたいと強く思うようになっていった。
更には、お金になることをしろと言う前世の母とその通りだと言って娘の話を聞こうとしててくれはしなかった父。それでも大好きな祖母がいたから救われていた部分が大きかった。
でも、生まれ変わった先では、両親も、そして片割れの妹も、酷いとしか言いようがなかった。
周りもろくでもない人たちばかりで、前世の祖母のような素敵な人はフィオレンティーナの側には現れてはくれないまま、子爵家の使用人の使用人のようなポジションで頑張り続けた。
誰も彼もが、人として最低な人しか、この世界にはいないとフィオレンティーナは長らく思うことになったが、側に常にいてくれるようになった者に気づくことはなかった。
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