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第2章
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しおりを挟む「えっと、あ、図鑑」
「図鑑……?」
「えっと、皆さんの国のお花の図鑑ってありませんか?」
「花の図鑑か」
「カラーのイラスト付きなものがあると刺繍する時に使えるんですが、この学園には花の図鑑がなくて……」
「……すまない。国の図鑑は、国外に持ち出しは難しい」
(あ、そういうのに厳しいんだ。そうよね。安易なことを言ってしまったわ)
リュシアンは落ち込んでしまって、フィオレンティーナは焦ってしまって、他はすぐに思いつかなかった。
「えっと……」
「お菓子!」
「そうですね。リュシアン様の叔母上は、お菓子作りが得意では?」
「あ、あぁ、確かにそうだが……」
「お菓子! 美味しい! 国一番!」
「なら、お菓子のレシピは、大丈夫そうですか?」
「あぁ、そういう交換なら、気兼ねなく受け取ってもらえるな」
リュシアンは、嬉しそうにしていた。母親はいないという話だから、これだけ気にかける叔母なら、とても大事な方なのだろうとフィオレンティーナは思った。
「叔母様、これ! キラキラ、喜ぶ!」
「あぁ、これだな。キャトリンヌが、選んだと言えば、更に喜ぶ」
「えへへ。叔母様、元気なる。嬉しい」
「あぁ。そうなるといいな」
そんな言葉にフィオレンティーナは、すぐに渡せるようにケースを大目に持って来ていた。
(プレゼント用に前世で覚えていたケースを作って見たけど、枚数分を持って来ておいてよかったわ)
交換なのだからとあとで受け取ると言っていたが、フィオレンティーナはキャトリンヌのハンカチからケースに綺麗にいれて渡した。
「これ、素敵」
「プレゼント用に考えてみたんです。せっかくなら、刺繍の部分が出るようにしたくて」
「フィオレンティーナ。手作り?」
「そうです。お二人のもお入れしますね」
フィオレンティーナは、プレゼント用だからと丁寧にケースに入れていった。そんな風にプレゼントケースなどで拘ったものも、フォントネル国では珍しいかったので繁々と見つめていた。
「これなら、母上と姉上に渡す時に中身を確認しなくてもいいですね」
「そうですね。でも、見えないようにして、リボンの色やシールなどで、どなたにあげるかを決めておけば、中を開けて確認することもないですよ」
「なるほど。フィオレンティーナさんは、よくプレゼントなさるのですか?」
「いえ、プレゼントしたことはありません。その、庭師の奥様方に刺繍を教えているので、販売できたらいいなと思っているんですが、中々難しくて」
「これ、売れる!」
「ありがとうございます。私は、販売するより、物々交換の方が楽しいのがわかりました」
「うん! キャトリンヌ。初めて、楽しい!」
「ですよね。どうにも、自分の作った物に値段って付けにくくて」
それを聞いて、それもわからなくはなかった。
「フィオレンティーナ、これ、いれる」
「え?」
プレゼント用のケースが一つ残っていた。キャトリンヌは、自分が染めたハンカチを入れると言いたいようだ。
「キャトリンヌ」
「やる」
「……」
ジョスランは、そういうことを自らやると言うキャトリンヌに驚いていたし、リュシアンも同じく驚きながらハラハラと見ていた。
フィオレンティーナがしていたのをじっと見ていたキャトリンヌは、真剣な顔つきでハンカチを畳んで、一生懸命にケースに入れた。
それは、フィオレンティーナが簡単に入れていたが、キャトリンヌには難しいものだった。それでも誰の手助けを借りることなく入れきった。
「はい!」
「ありがとうございます」
フィオレンティーナは、それを受け取って嬉しそうに笑った。
キャトリンヌはやりきった顔をしていた。
「約束!」
キャトリンヌは大はしゃぎしてご機嫌だったし、プレゼント用のケースに入れられたそれを受け取った男性陣もそわそわしていた。
(女性たちのお土産にしようとするところが、優しいな。これだと、男性は持ちにくいものね。それにしても、本当に花が好きなのね)
フィオレンティーナが、自分も無類の花好きだが、こんなに花が好きな人たちをこの世界で見れて嬉しくなっていた。
寮生活となり、授業でも余裕でついていけるフィオレンティーナは、庭師に文字を教えたり敬語を教えたり、彼らの奥さんたちに刺繍を教えたりしているが、家にいた時より暇を持て余していた。
ここでは、水やりすらできないのだ。なのに朝早くから目が覚めてしまい、やることがなくて刺繍をしていたのが、こんな風に役に立つとは思ってもみなかった。
(あんなに喜んでくれるなら、これから色々と作っても無駄にはならなさそうね。でも、やっぱり、自分の作った物に値段が付くのは苦手かも。物々交換でも、先に渡すから気が楽なのよね)
庭師の妻たちも、フィオレンティーナの刺繍を感嘆して見ていた。自分たちも、いつかそこまでになりたいと思っていることをフィオレンティーナは知らなかった。
フィオレンティーナは難なく刺繍しているが、簡単なものではなかった。でも、今のフィオレンティーナには指を刺すこともなければ、失敗することもなかった。思い描いたままに刺繍ができていて、それを作っている間が幸せに満ちていた。
フィオレンティーナは、そのハンカチを喜ぶ留学生たちを見て、嬉しくてたまらなかった。
そしてキャトリンヌの染めたハンカチを見た。
(本当に綺麗。私も、こんな風に染められたらいいな)
そんな風にフィオレンティーナは思っていた。他にも、花に関連する物を作りたかった。
土いじりが貴族らしくないなら約束したのだから、このままやれなくともいい。
でも、前世の母のようにお金にもならないからと花に関わる仕事にならないことを選択したのを今のフィオレンティーナは後悔している。
(お金にならなくとも、気持ちよね。私から、花を取り上げたら、何もなくなってしまう)
そう思うとまたも貴族らしくないと言われるだろうが、フィオレンティーナのやることなすことを全部否定するなら、貴族でなくともいいとフィオレンティーナは思い始めていた。
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