前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第3章

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「せめて、蕾がつけば」


妖精の血を引く者たちは、ほとんどの者がフィオレンティーナのために日々祈っていた。……まぁ、中には例外もいたようだが、大概が祈りながら日々を過ごしていた。

彼女の婚約者となったリュシアンは、フィオレンティーナのもとに通いつめていた。

もう一人、婚約者をと思っていたが、めぼしい者たちが婚約者になれなかったのだ。

そのことで、色々言われていた。


「リュシアン以外の王族は全滅になるとは……」
「あいつが、独り占めしたがってるせいでは?」


それを聞いて、ため息交じりにその部屋で一番着飾った者が、こう返した。


「……そんな考えのせいではないか? 花の守り手は、お優しい方だ。そんな考えでは、複数の婚約者と仲良くなんてできまい」
「っ、そんなことは……」
「とにかく、リュシアンだけでは心もとない。リュシアンに花の守り手の好みそうな相手が誰か心当たりないか、あれに聞いてみてくれ」


あれと言われた者にその連絡が来て、リュシアンと話すためにフィオレンティーナのところに彼は来ていた。そんな心当たりは出尽くしていたが、連絡が来たからには話すしかない。


「やれやれ、それがわかったら、さっさと会わせているとは思わないようだな」
「……」
「あの人は、昔からそうだ。自分より、周りの方が一歩遅れているかのようにするんだ。大概は、あちらがかなり遅いから気を遣って仕方がないというのに」
「……」


理事長であり王の弟であるオギュストは、そんなこととっくに試していると言いたげにして愚痴っていた。それを耳にしてリュシアンは苦笑するしかなかった。

リュシアンは王族だが、母親を早くに亡くしていて、身分も低いため、王子とは名ばかりとなっていた。オギュストとは叔父と甥の関係だが、身分を気にしてリュシアンは叔父と呼んだことは一度もない。母親にそう呼ぶなと言われたわけでもない。ただ、そうしなければ迷惑をかけると思って、そう呼ばないだけだ。

リュシアンは、キャトリンヌとは従兄妹同士だ。国王の末の妹の娘が、彼女なのだ。

オギュストにとっては、可愛い姪っ子だ。女の子は、彼女だけで、他はリュシアン以外は、子憎ったらしい甥しかいない。本当にどうしようもない甥たちだ。

キャトリンヌは、他の従兄弟たちや実の弟よりもリュシアンのことを実の兄のように物心ついた頃から慕っていた。

だが、お従兄様と呼ぶと面倒なことに他も呼ばなくてはならなくなるため、名前を呼び捨てにしていた。それも、誰がそうしろと言ったわけではない。ただ、リュシアンが困ったげにするのを見て、そうしたのだ。

リュシアンは、それで十分だった。従妹の両親も、キャトリンヌの婚約者も、その両親も理解があるため、そのおかげで色々と助けられていた。オギュストの妻であるクラリスは、第2の母のように世話になりっぱなしだ。

まぁ、キャトリンヌの弟やキャトリンヌの婚約者の姉は、リュシアンのことを気に入っていないようだが、それが本来は、リュシアンにとっての普通だった。


「クラリス様は?」
「……祈り続けている」
「大丈夫なのですか?」
「あぁ、やるべきことをしている」
「……」


オギュストが、そう言うのを聞いて以来、リュシアンが何か聞くことはなかった。病気が酷くならないかと心配したが、悪化することはなかったようだ。

ハンカチの刺繍によって、キャトリンヌの火傷も癒えた。その話も、既に国中が知っていた。

ここに来ると迷惑になると思って、起き上がれるようになってから四六時中、キャトリンヌは祈っていると聞いていた。

そんな従妹がリュシアンは心配でならなかったが、唯一の花の守り手の婚約者ということもあって、フィオレンティーナの側にいられるが、それ以外にできることがリュシアンにはわからなかった。

そんな歯がゆい思いをリュシアンは、ずっとしてきた。それ以上に歯がゆい思いをすることになるとは思いもしなかった。


「どうしたら、蕾はつくんだ」


オギュストは、時折、様子を見に来ていた。フィオレンティーナのみならず、リュシアンのことを気にしてだ。使用人たちも、この部屋まで気軽に入って来れないため、オギュストがリュシアンに食事を運んでいた。

リュシアンは、何を食べても味気なかった。それは、母を亡くした頃のようだった。そんな味の何もしない世界が当たり前になったリュシアンを連れ出したのは、クラリスとオギュストだった。

この屋敷にいる時は、楽しい思い出ばかりだったが、今はそれでも足りない。すっかり色褪せてしまっていた。

寝ても覚めても、リュシアンはフィオレンティーナのことを考えていた。妖精たちも、フィオレンティーナが眠り続けているせいか。皆、しょんぼりしていたが、リュシアンのことも心配して、小鳥が木の実を届けに来たりした。


「……そうか。彼女にも、こうしていたんだな」


閉じ込められて、食事をろくに与えていなかった時に妖精たちは、フィオレンティーナを想っていたのだ。それは妖精たちに話を聞いて知っていたが、実際にされると……。


「よく、死ななかったな」


それは、リュシアンの率直な感想だった。

少し前までは、キャトリンヌの火傷が治ったことに喜んでいたが、ずっと喜んでいる妖精はいなかった。

この国、始まって以来のことが起こっていた。

花の守り手でありながら、妖精が見えない前代未聞の妖精の血を宿さずして、選ばれた人間の娘。

それが何を意味しているかを誰も知らないまま、フォントネル国では妖精たちの無邪気な笑い声もなく、静かなものとなっていた。


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