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「聖女に選ばれるのは、ステファニーに決まっている。だから、君との婚約は破棄することにした」
「そうですか」


アストリットのことを最初から馬鹿にしていた婚約者のグラント王子の言い分に白けた顔をして、そう答えていた。彼の横にはアストリットの妹のステファニーが、グラントの腕にひっついて勝ち誇った顔をして立っていた。


「ちょっと、お姉様ったら、王子様にそんな言い方ないんじゃない?」
「いいんだ。どうせ聖女になるのは、自分に決まっていると思いこんでいるのだろう。哀れな女だ」
「え~、それは王子様が、お優しいからですって。お姉様も、ちょっとは感謝したら、どうなの?」
「要件が済んだようなので、失礼します」


まだ、妹が何か言っていたようだがアストリットは立ち止まることなく歩いた。





彼らは誤解をしていた。既に聖女にアストリットが選ばれて、早数年が経つというのになぜか、未だにグラントたちはアストリットのことを候補のままだと思いこんでいるのだ。

アストリットがあまりの馬鹿さっぷりから、面倒くさくなって訂正しなかったのもあるが、まさか、あちらから破棄すると言い出してくれるとは思ってもみなかった。


(破棄もされたことだし、さっさとこの国から出て行こう)


成人する前に聖女になれる者は稀なことだ。成人したら、即あの婚約者と結婚するしか未来にはないのだと思っていた。

それこそ、あと数日というところで、破棄することになったことに飛び上がりたいほど、アストリットは内心で喜んでいたりする。

顔は無表情のままだが。


(どこに行こうかな?)


実家に挨拶する必要もない。もはや娘というより、道具としか思っていないようの両親とそんな二人に甘やかされ放題で育った妹が、あの調子だ。

この国に未練など、アストリットには全くなかったのだ。


(さっさとこの国から出て聖女の力を次に譲ろう)







グラントは厄介者を追い出せたとステファニーを伴って意気揚々とアストリットと婚約破棄して、隣にいるステファニーと婚約したいと国王たちに言い、鼻で笑われたのだ。冗談だと思っていたのだが、本当に破棄するとアストリットに言ったと知り、大慌てして探すように言うのを不思議そうにグラントたちは見ていた。


「馬鹿者! あの女が、この国の聖女だったのだぞ!」
「は?」
「あの女が成人して結婚さえすれば、お前が王太子となれたというのに何ということをしたのだ!?」
「っ、?!」


とんでもないチャンスを逃したことを知ったグラントは、話についていけないステファニーを引っぺがして、他の者たちと一緒にアストリットを探しに行ってしまったのだ。


「ちょっ、何よ! あの女が、聖女なわけないじゃない!!」







プンプンしながら、ステファニーは家に戻り、両親に聖女はアストリットだとかあり得ないことをみんなが言うのを王子も信じてしまったと話すと……。


「何を言っているんだ?」
「聖女は、何年も前からアストリットだったじゃない」
「え? まだ、決まってないはずでしょ? それに未成年が選ばれるなんてありえないのでしょ?」
「稀なる者として選ばれたから、こうして何かと贅沢が出来ているんじゃないか」


それを聞いて、段々とステファニーの顔色が悪くなっていった。

両親は、怪訝な顔をしてステファニーを見た。


「そんなことより、なぜ、そんな話になったんだ?」
「そ、それは……」


そこに王宮からアストリットが戻ってないかと騎士がやって来て、ステファニーがしたことが両親の耳にも入ることになり、怒鳴られることになったのは言うまでもない。

アストリットの家族も総出で探すも見つかることはなかった。


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