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しおりを挟むそんなことが続いていたことを知りもせず、第1王子が弟に尋ねた。ずっと気になっていたことだった。
「レオンス。最近、ベルティーユが元気ないように見えるが、何か知っているか?」
最近と聞いて、レオンスは眉を顰めそうになった。ベルティーユとは、あまり会えていないのだが、兄にそれを悟られたくなかった。
それにこの言い方だと自分より兄の方がベルティーユに会っているように聞こえて、複雑なものがこみあげそうになったが、それを押し殺した。
「いえ、ただ、カーテシーが上手くできないと頑張り過ぎて転んでばかりいるので、マナーの実践を中断して座学を中心にするとは聞いていますが、ベルティーユはできるまでやる令嬢ですから。不満なのかもしれません」
レオンスは婚約者であるはずのベルティーユに頼られることなく、1人で頑張っていることに不満なところもあったが、その辺も上手く隠して兄にそんなことを言った。ベルティーユだけが忙しいわけではない。たまたまタイミングがあわないだけだ。
そもそも、第1王子のところに毎日のようにレオンスが来ているのは執務から逃げたくて、やっているだけなのだ。
だが、この兄弟はこれが日課のようになってしまっていて、兄は弟が仕事をきちんとこなして来ているものと思っていた。第1王子も、できることをしているが、弟ほどたくさんの執務に追われてはいない。その量が倍近く違うことも知らなかった。
それこそ、王太子が第2王子になるのも、間近だろうと兄ですら思っているのだが、父である国王はまだ決めかねているようだ。
その辺のこともレオンスは内心で、イライラしていた。車椅子での生活が決まった時にレオンスは自分が王太子になると思っていたのだが、そこからしばらく経っても王太子が決められることはなかった。
だから、同じ病気のベルティーユと婚約までしたのだが、その辺のことをレオンスは誰にも知られないように隠していた。
全ては、ベルティーユが兄と同じ病気で、努力を怠らないところを支えるところをアピールしたら、王太子に選ばれるのも、早まるかと思っていたが、そうならなかったのだ。
「カーテシーか。ベルティーユの足では、深くするなんて身体を支えきれないだろうな。……私は、2本の足と杖だけで歩けるベルティーユの並々ならぬ努力に敬服しているというのに」
「……」
第1王子は、途中で車椅子生活を受け入れてしまった。
レオンスは、それを聞いてベルティーユは諦めるとか、受け入れるなんてことをしないだろうなと思って、ため息をつきたくなるのを堪えた。全然、頼って来ないせいで、レオンスの計画は狂いっぱなしだ。
お妃教育に忙しくしていて、こうして兄弟で話している時に最初だけベルティーユもいたが、今は来なくなってしまった。それにレオンスは何とも言えない顔をしていたが、第1王子が気づくことはなかった。
そもそも、ベルティーユの病気も遺伝的なものだとして、父親の血筋を調べたようだ。それは、第1王子の病気がわかってから、王族もみんな調べた。今、この国に多く疾患を持つ者が増えている。
何が原因かは判明したが、治療をして完治するものが見つかっていないだけだ。
ベルティーユの父親の家系からは病気になる遺伝子は見つけられなかったから、母方だとわかったようだが、ベルティーユのように親戚の中にも、子供の時に発症した者がこれまでいなかったから、わからなかったようだ。
そのことを元妻や元義両親にベルティーユの父親が知らせたが、言いがかりもいいところだと憤慨され、アレクサンドラはきちんと検査を受けたことがないらしいが、今のところ発症は見受けられないようだ。
それがわかったら、あちらの誰かしらがこちらに乗り込んで来ているのは間違いない。
王族では、第1王子と王女は、母親が一緒で遺伝していて、発症する可能性があるからと定期的な検査をするように言われていたが、エルヴィールもどこも何ともないからと最近では受けずにはぐらかしているようだ。
そんなところは、アレクサンドラにそっくりと言えた。ベルティーユは、片割れに会わなくとも、ベルティーユと同じ病気になんてなるわけないとあの母と一緒になって、ベルティーユを未だに馬鹿にしているのもわかっていた。
それこそ、母方の祖父母も同じようにベルティーユのことを病気のせいではなくて、ドジなだけだと未だに思っているようだ。
レオンスは、ほんの少ししか会わなかったが、どちらも吐き気がするほど嫌いだった。
何年も、そうやってベルティーユは扱われてきたのだ。そんな人たちの思考はよくわかった。このエルヴィールは、アレクサンドラと似ながらも、兄たちを取られたくないのもあったのだろうことは、容易にわかるところだが、この兄弟はその辺が鈍かった。
レオンスの中身は打算的だったのだが、妹の使い道など大してないと思っていて、気にもかけていなかった。そのせいで、こんなことになっているという自覚も彼にはなかった。
ただ、自分の思い通りにならないことでしかない。余計なことを必死にしているとしか思っていなかった。
でも、嫌味な中にも、兄を思う気持ちが多くあるから、ベルティーユはそれを第1王子やレオンスに告げる気にはならなかっただけなのだが、ベルティーユの元気がないのも相まって勘違いされることになるとは、誰も思わなかった。
エルヴィールのやることなすことで、ベルティーユは落ち込んでなどいなかったのだ。彼女の言うのは、嫌味というより、アドバイスのようにベルティーユは捉えていた。
アレクサンドラと似ているところもあるが、よくよく考えるとやっても無駄だとエルヴィールは言ったことがないのだ。
這いつくばっているのがお似合いのようなことまで言っていたアレクサンドラにそっくりではないのだ。その辺のこともあり、ベルティーユはエルヴィールに会いたくないと逃げ隠れすることはなかった。
まぁ、わざわざ会いたいかというと微妙なところはあったが、それでもわざわざ会わないようにする努力をすることはなかった。
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