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しおりを挟むとある国の学園の一角。晴れ渡る空の下で、修羅場が繰り広げられていた。
それを見ていた令嬢たちは、こんなことを言っていた。
「やっぱり、浮気していたのね」
「最悪すぎるわ」
「私、お似合いだと思っていたのよね」
「理想に思っている人多かったものね」
「オルテンシア様が、お可哀想だわ」
「本当ね」
オルテンシア・アロイージという令嬢は、悔しいと喚き散らすでもなく、泣くまいとしていたが、堪えきれずに静かに泣いていた。
その姿を見て令嬢たちはいたたまれないかのように話して心を痛めていた。
それは、令嬢たちだけではなかった。子息たちは、オルテンシアの婚約者の子息のことを親の敵のように睨んでいる者も少なくなかった。
オルテンシアのことを狙っている子息は、それなりにいた。それを押しのけてオルテンシアと婚約した子息が、オルテンシアのことを泣かせているのだ。腹が立たないわけがない。自分なら、こんな風に泣かせていなかったと思う者も多かった。
「心が痛いな」
「あぁ、あんなに幸せそうにしていたから余計にな」
オルテンシアの婚約者の子息のフィエロ・ヴァルブーザは、必死になって誤解しているんだとオルテンシアに言っていた。この修羅場を見ているほとんどが敵となっている状況で、オルテンシアさえ信じてくれればいいかのように必死になって泣くのを堪えきれずにいる彼女に話しかけ続けていた。
今の彼女には、そんなことを言われるのも辛いことがわからないかのように必死になっていた。
「何の騒ぎだ?」
「王太子殿下」
そんな時に人だかりができているところに現れたのは、この国の王太子だった。
どんなに怒り狂っていようとも、同情していようとも、泣くのを我慢していようとも、令嬢たちは一斉にカーテシーをして、子息はお辞儀をして王太子に挨拶をした。
いや、一斉にと言ったが中には呆然とし過ぎて間抜けな姿を晒している者もまじっていたが、そんな者などどうでもいいかのように王太子は、オルテンシアだけを見ていた。
それはそうだ。いつも幸せそうにしていたオルテンシアが、どう見ても泣いているのだ。気にならないわけがない。
他の者たちは、どうしていいかがわからずにいたが、王太子は違っていた。
「オルテンシア嬢。どうした? 怪我でもしたのか?」
「……いえ、怪我はしておりません」
流石に相手は王太子だ。答えないわけにはいかない。嘘もつけない。オルテンシアは、泣いているのを見られたくないとばかりにカーテシーをしたまま俯いていた。
するとスッとハンカチを差し出して、何でもないかのようにこう言った。
「なら、具合が悪いのだな。可哀想にあなたが泣くほどだ。よほどのことだろう。医務室まで、付き添おう。歩けるか?」
「っ、」
この場に置いておけないと思って王太子が、そう言ってくれたのがわかったオルテンシアは、そのハンカチを見て、心から心配している王太子にお礼を言って受け取ることにした。
それにフィエロは、婚約者は自分だからと言い出した。
「殿下。オルテンシアは、私の婚約者です。医務室までは私が……」
「ちょっと! 婚約してくれるって言ったじゃない! 別れる女に付き添うことないわ!」
「だから、お前のことなど知らないと言ってるだろ!」
カーテシーもまともにできていなかった令嬢が、婚約してくれると言ったのにとフィエロに言って2人は再び口論を始めた。
王太子は、それを無表情で見ていた。王太子がいるというのにそんなのどうでもいいかのようにしている令嬢も酷いが、そんな女を知らないと言うフィエロに眉を顰めずにはいられなかった。
「そんな、酷いわ! どうして、そんなこと言うのよ。こんな素敵なものを贈ってくれたのにあんまりだわ!」
「贈ったのも私ではない。いい加減にしてくれ!」
そう、オルテンシアのところに婚約破棄をさっさとしろとこの礼儀どころか。マナーも全く備わっていない令嬢が、そんなことを言いに来たことが始まりだった。
そんな令嬢の言葉にショックを受けているオルテンシアのところにフィエロが現れて、嘘をつくなとか。誤解だと言い続けていた。
破棄しろとやって来た令嬢は、名乗りもしていなかった。
ただ、フィエロが言うように知らない相手とは思えないほど、フィエロの好みをよく知っていた。知らない相手とは思えないほど、それは詳しく知り尽くしていた。
周りも、それを聞いていて、眉を顰めずにはいられなかった。どう聞いてもただならぬ関係にしか聞こえないのだ。
フィエロが来る前に一緒にいたオルテンシアの友達たちも、それを話すのを聞いて、浮気相手だと思ってしまうほど決定的なものは、もらったというプレゼントを見せた時だった。
「こんな素敵なものを贈ってくれたのよ。あなたより、私のことを想ってくれているのは明らかだわ」
「っ、」
名乗りもしない令嬢は、それをオルテンシアに見せつけた。
それはフィエロがオルテンシアにくれたものとそっくり同じものにしか見えなかった。
周りはオルテンシアがそれをとても大事にしていたのを知っていた。側にいた友達の令嬢たちは、特にそれがオルテンシアにとってどれほど嬉しかったかと聞いていて、貰ってから肌身離さずつけていることも知っていた。
その後、フィエロが現れて、贈り物をした令嬢のことを知らない奴と言うのを聞いても、凄い顔をしてフィエロを睨みつけずにはいられないほどだった。
オルテンシアが、それをもらったと嬉しそうに話して肌身離さず付けているのを知っていたからこそ、酷い裏切り行為を目の当たりにしたことに腹を立てていた。
オーダーメイドでわざわざ作ったとフィエロは自慢していたのを聞いていた子息たちも、一点もののはずのものが、もう一つあるのに眉を顰めずにはいられなかった。
「信じられねぇな」
「何が一点ものだよ。浮気相手にも同じデザインのもの贈るって、相当だよな」
特別なもので、かなりお金がかかったが、婚約者へのプレゼントにこのくらいは当然とばかりにフィエロはしていた。
何が当然なのかと自慢している時から、苛ついていた子息たちは半眼で見ていた。
そんなことを言い回っていたのにそれと同じものがあれば、フィエロがコネを使って頼むまでが大変だったと語っていたのもあって、疑いは濃くなる一方となったのは無理はなかった。
そう、コネがなければもう一つ同じものなんて作れはしないのだとフィエロが言っていたのもあり、すぐにそこにいきついた。婚約者のためならいくらでも出すと言うくらいだ。婚約者でなく、お気に入りの浮気相手にも同じ扱いをしても、らしいとしか思えなかったのだ。
それは、オルテンシアも同じだった。婚約者がどんな子息かわかっていた。それでも、一点ものをわざわざくれたのだと思っていたのに違っていたのだ。
よりにもよって浮気相手とお揃いのものを贈られたことに悔しいやら、悲しいやら。わけのわからない感情が渦巻いたようにしたオルテンシアは、怒鳴りつけることをしなかった。
婚約者のことも、いきなり現れて婚約破棄しろと言う名乗りもしない令嬢のことも怒鳴りはしなかった。
ただ、そんな人を信じて喜んでいたオルテンシアは、泣くのを堪えきれずに泣いていた。色んな思いに圧し潰されそうになって泣いていたというのにフィエロは誤解としか言わず、浮気相手にしか見えない令嬢に嘘をつくなと怒鳴りつけているだけなのだ。酷いなんて言葉では済まされない状況になっていた。
そこに王太子がやって来ても、なおも浮気なんてしていないかのようにするフィエロとこの後に及んで言い逃れようとするフィエロに苛つく浮気相手がいた。
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