2 / 12
2
しおりを挟む学園であった修羅場は、すぐに知れ渡ることになった。無理はない。あんなことがあった後だ。広まらない方がおかしい。
だが、あれだけのことがあった後でもフィエロは頑なに浮気相手のことを認めようとしなかった。身に覚えのないことだとして、誰に聞かれても否定することをやめることはなかった。
フィエロの浮気相手の令嬢は、カルロッタ・グラヴィーナという名前の男爵令嬢だとわかった。あまりにも否定し続けるため、フィエロの身内はそれなりにきちんと調べることにした。
カルロッタが嘘をつくためには、オーダーメイドの一点ものをもう一つ作らせなくてはならないが、コネもお金もないことは明らかだった。
それにオーダーメイドで作った人物にも確認した。そこで、一点ものをオーダーされたのではなくて同じものを2つ作ってくれと頼まれたと話したことが、決定的となった。
それを聞いたフィエロは……。
「はぁ!? そんなわけない! 私は、一点ものを頼んだんだ!」
そんなことをオーダーされたと言われても、フィエロは頑ななままだった。
「いい加減にしろ! お前が頼んだことはわかっているんだ」
「父上! そいつが、嘘をついているんです。よく調べてください!」
侯爵家の息子であるフィエロは父親にそう言ったが、父どころか。家族みんながそんな言葉を信じることはなかった。
当たり前だ。どう見ても、フィエロが苦し紛れに言っているようにしか見えないし、聞こえはしなかった。
「あぁ、お前がそう言うと思って、よく調べた。2つとも、同じデザインで同じ職人の作ったものだった。それにお前が、どちらの代金も支払い済みなのもわかっている」
「なっ、そんなの嘘だ!」
フィエロは、詳しく調べてわかったことでも否定することをやめなかった。それに家族は眉を顰めずに入られなかった。
「嘘をついているのは、お前の方よ。学園で、あんなことになって私たちまで色々言われているのよ。さっさと認めて謝罪しなさい」
「してもいないことを謝罪なんてしたありません」
姉の言葉にフィエロは、すぐさまそう言った。まだ
していないとフィエロは言うのをやめなかった。
それを聞いていたフィエロの弟は……。
「オルテンシア嬢に悪いとは思ってもいないんですね」
「だから、私は浮気なんてしていないんだ」
姉と弟どころか。両親も、フィエロの言うことなど欠片も信じていなかった。だって、調べれば調べるほどフィエロがやった証拠しか出てこなかったのだ。
こんなことでは、フィエロの言い分を信じる者が現れるわけがない。
「いい加減に認めなさい。これだけの証拠があるのよ」
「ですから」
「もういい。お前の婚約は破棄する」
「そんな父上!」
フィエロは、破棄する気はないと言い続けた。それに家族は、何とも言えない顔をした。こんなのを聞き続けていたくないとばかりに思った。
「あなた」
「仕方がない。こいつは合意しないんだ。解消はできない」
侯爵は、妻を見てそう言うしかなかった。フィエロ以外の子供たちもいたたまれない顔をしていた。
「……そうですけど」
「あんまりだわ。オルテンシアが、可哀想すぎる」
「何とかならないんですか?」
フィエロ以外は解消にしてやりたかったが、婚約を解消する気が全くないのを変える気もなければ、説得することもできなかったため、破棄することになった。破棄ならば、フィエロが納得していなくてもできる。
侯爵夫妻もフィエロの姉と弟は、それに納得しきれないものがあろうとも、フィエロと婚約し続けることになるオルテンシアがもっと可哀想だと思ってその方向で動くことにした。
そんなことがあったなんて知らないオルテンシアの家族は、侯爵家から婚約を破棄したいと言われて怒りをあらわにしていた。伯爵家のオルテンシアの両親や妹は、その知らせを聞くなり憤慨してもいた。オルテンシアの兄は、留学中で家にいなかったが、いたら大暴れしていたことだろう。
でも、いなかろうとも、伯爵夫妻も妹も暴れる寸前までになっていた。何なら侯爵家と一戦交えてもいいくらいにはなっていた。
「どうあっても、浮気を認めないつもりのようだ」
「あんな風に浮気していたのがわかったのにこの後に及んで解消ではなくて、破棄したいだなんてあんまりだわ」
「オルテンシアお姉様」
「……」
オルテンシアは、すっかり意気消沈していた。家族が憤慨して怒っているのを他人事のように見ていた。
ここのところ、あんなことがあってから部屋で塞ぎ込んでいて侯爵家からの破棄の知らせに部屋から出て来ていた。それ以外では、学園も休んでいて食事の時しか部屋から出て来なかった。
それでも食事を取ろうとしていたが、あまり食べていないが、それでも家族と取ろうとするのをやめることはなかった。
数日しか経っていなくとも、オルテンシアがやつれているのは一目瞭然だった。そんな姿を毎日見ているのだ。腹が立たないわけがなかった。
「慰謝料を多めに渡してなかったことにしようだなんて見くびられたものだ」
伯爵である父は、侯爵家のやり方に本気で怒っているのは明らかだった。温厚で喧嘩なんてわざわざするような人物ではないのにやる気満々でいた。
それこそ、やる気満々なのはオルテンシアの兄の方が得意とすることだ。ここにいたら、笑顔で殺気立っていたことだろう。
だが、いないというだけでなく、こんな風にされたのだ。息子を頼るなんて、この父はしなかった。慣れていなかろうとも、自分の娘が蔑ろにされたことをそのままにする気はなかった。
そんな父を見ていたオルテンシアが、言葉を紡いだ。
「お父様」
「なんだ?」
ずっと沈黙していたオルテンシアが、久しぶりに父を呼んだことに嬉しそうにした。何を話しかけても心ここにあらずだったのだ。どんなことでも話しかけられて嬉しくないわけがなかった。
「破棄で構いません」
「オルテンシア」
「もう、いいんです」
疲れきった顔の娘を見て妻と末の妹が、そんなオルテンシアに抱きついているのを見ることになった。
「お姉様」
「オルテンシア」
可哀想になんて、母は娘に言えなかった。ただ、もう泣く気力もなくなったオルテンシアを抱きしめてやるしかできなかった。
この家でも、婚約者に一点もののオーダーメイドのアクセサリーをもらったことをオルテンシアは家族に話していた。
それを両親は、にこにこと聞いていて、オルテンシアの妹は羨ましがった。それほどまでに大事にされて思われているのだと思っていたら、そんなことなかったのだ。
オルテンシアが、どれほど喜んでいたかもわかっていた分、フィエロがした仕打ちは酷いなんて言葉では済まされるものではなかった。
だが、オルテンシアがそうしてほしいと言う姿に納得いかずとも、その言う通りにしたのは見ていられなかったからにほかならない。伯爵は、すぐにそのようにした。
侯爵子息は未だに納得いかないようで、オルテンシアに会いたがっていたようだが、そんなことを侯爵家も伯爵家も許すことはなかった。
こうして、オルテンシアたちは婚約破棄することになった。フィエロからの直接の謝罪はないままだったが、会ったところで悪いと思っているどころか。
誤解だと言うだけだと思われていて侯爵家では、フィエロをオルテンシアに会わせないようにするのに必死になっていた。
喜んだのは、男爵令嬢のカルロッタだけだった。
「やったわ! これで、婚約できる」
男爵夫妻は、そんな娘にげんなりした顔をしていた。
それを娘のカルロッタは見ていなかった。
238
あなたにおすすめの小説
幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか
ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。
翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。
笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、ハーメルンなど他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。
しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。
そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる